エジプト(2020年度)

日本語教育 国・地域別情報

2018年度日本語教育機関調査結果

機関数 教師数 学習者数※
21 120 1,602
※学習者数の内訳
教育機関の種別 人数 割合
初等教育 0 0.0%
中等教育 148 9.2%
高等教育 972 60.7%
学校教育以外 482 30.1%
合計 1,602 100%

(注) 2018年度日本語教育機関調査は、2018年5月~2019年3月に国際交流基金が実施した調査です。また、調査対象となった機関の中から、回答のあった機関の結果を取りまとめたものです。そのため、当ページの文中の数値とは異なる場合があります。

日本語教育の実施状況

全体的状況

沿革

 1960年代後半、エジプトを訪れる日本人観光客の増加などを背景に在エジプト日本国大使館広報文化センターに日本語講座が創設された(その後、同講座はエジプト日本語教育振興会による運営を経て、現在は国際交流基金カイロ日本文化センターに継承されている)。
 1974年にはアラブ世界初の大学の日本語専攻コースとしてカイロ大学文学部に日本語日本文学科が開設された。同大学には国際交流基金による長期の日本人日本語専門家派遣や、在校生及び卒業生の国費留学採用など、長期にわたり日本側の様々な支援が行われた。
 1990年代以降は、上記の2機関以外にもいくつかの大学や観光関係の高等専門学校に日本語コースが設けられるようになり、2000年には国際交流基金の協力で外国語教育の名門とされるアイン・シャムス大学外国語学部に日本語学科が創設された。
 2013年には国立アスワン大学に、2016年には国立バンハ大学に、2018年にはアズハル大学とカイロ大学の文学部に日本語専門翻訳学科クレジットアワープログラムが新設され、現在6つの大学で主専攻としての日本語教育が実施されているほか、エジプト日本科学技術大学(E-JUST)で必修科目として日本語が取り入れられたり、複数の機関・団体で、社会人対象を対象とした一般講座が開講されたりしている。

背景

 日本とは地理的にも遠く、かつては歴史的にもそれほど深い関係がなかったことから、英語、フランス語、ドイツ語、スペイン語等の欧州言語に比べれば、日本語学習者の数はまだ多くなく、初等・中等教育段階では正課としては実施されていない。
 1980年代以降、経済大国としての日本への関心が次第に高まり、また日本語ガイドの需要増、さらにインターネット環境の整備に伴い、アニメを中心としたポップカルチャーに触れる機会が増え、そのことをきっかけに学習を始める者が増えてきている。2011年の革命以降、観光産業の低迷が続き、日本語観光ガイドの需要が低下していることから、一時期機関数も学習者数もほぼ横ばいの状態が続いていたが、近年その数を増やしている。一般にエジプト国民は親日感情が強く、日本や日本人に対して良いイメージを持っている。

特徴

 日本語観光ガイドの需要は低下しているものの、一般に日本語が話せることが、観光ガイド国家資格の取得や観光関係産業への就職などにおいて必要・有利であり、日本語学習が具体的な利益につながると考えられている。実利志向の有無に関わらず、自らの意思で日本語学習を始める学習者が多いため学習意欲は総じて高い。
 ただ、暗記重視の受身型教育に慣れているためか、教科書以上の運用力を身につけるのが困難な学習者も少なくない。近年はインターネットの普及により、独学で日本語を学ぶ者が増加していると見られ、日本語講座や日本語教師の募集に応募する例が散見されるようになってきている。これらの学習者には運用力の高いものも見られる。

最新動向

1. 革命・政変による影響
 2011年1月25日の大規模デモに端を発する革命、その後の不安定な政治状況を受け、日本語教育機関数及び日本語学習者数は一時期やや減少したが、現在は2011年をはるかに上回る学習者数や機関数となっている。
2. エジプト日本教育パートナーシップ協定(EJEP)の影響
 現シーシ政権は日本式の教育への関心が高く、2016年のエジプト日本教育パートナーシップ協定(EJEP)により、日本への留学生拡大が合意されたことを背景に、上述バンハ大学やアズハル大学で日本語教育が既に始まったほか、カフルシェイク大学やソハーグ大学でも学習者の受け入れはまだであるが、日本語学科が開設されている。その他、スエズ運河大学、ミニア大学、サガジグ大学など数か所で、日本語学科の開設の計画と準備が進められている。
3. 新型コロナウイルスの影響
 新型コロナウイルスの影響で、2020年3月下旬からカイロ大学、アイン・シャムス大学等の公的教育機関、国際交流基金カイロ日本文化センター等の日本語教育機関は対面授業をやめ、オンライン授業に移行した。2020年10月からは多くの機関で対面授業が再開したが、全面的に対面授業を行う機関(バンハー大学等)やオンラインと対面を併用する機関(カイロ大学、アイン・シャムス大学等)がある。また、国際交流基金日本語専門家、JICA海外協力隊が避難一時帰国からエジプトに戻っていない等、影響は依然大きい。

教育段階別の状況

初等教育

 私立のエジプトインターナショナルスクールにおいて課外授業として短期の日本語講座が開講されたりしていたが、2020年10月現在は確認されていない。

中等教育

 2018年度にSTEMという理系の高校で選択科目として日本語の授業が行われたが、2019年度以降は確認されていない。

高等教育

 2020年10月現在、国立大学5校(カイロ大学、アイン・シャムス大学、アスワン大学、バンハー大学、アズハル大学)と私立大学1校(ミスル科学技術大学)が日本語専攻科を開設しているほか、E-JUSTや観光関係の高等専門学校において選択科目や必修科目として日本語教育が実施されている。
 カイロ大学文学部日本語日本文学科は開設以来長年の歴史があり、今では同学科を卒業して日本に長期留学した生え抜きのエジプト人教師が講師陣を構成(内15名程度が博士号所持)している。同学科の教官がエジプトの他の大学等に出講して教鞭を執るほか、同学科出身者がエジプト以外のアラブ諸国で日本語を教えている例もあり、アラブ全体の日本語教育の現場に人材を供給している。
 アイン・シャムス大学は1950年に創設された国立大学で、外国語教育の名門として知られている。2000年に外国語学部内に開設された日本語学科は、2004年に初めての卒業生を出し、2020年10月現在、博士号取得者2名、修士号取得者12名が学科に在籍している。アイン・シャムス大学の日本語学科は、通訳、翻訳の専門家を育成することを目的とし、日本語以外に、文学、翻訳の授業を行っている。
 ミスル科学技術大学は2005年に、アスワン大学は2013年に、バンハー大学は2016年に日本語学科を開設、現在、カイロ大学の教官が中心となって教鞭を執っている。今後、文学部、外国語学部、言語翻訳学部の中に設けられたそれぞれの日本語専攻学科による、特色を生かした多彩な人材育成が期待される。
 アズハル大学に関しては、一般の国立大学とは管轄省庁が違うため、カイロ大学から教師を招くということが難しく、教師不足、特に学科全体をまとめてコースデザイン等ができる教師がいないということが問題となっている。

学校教育以外

 国際交流基金カイロ日本文化センターが高校生から一般成人を対象に日本語講座を開講している。レベルは初級(A1)から中級(B1) まで9レベルにわたり、2020年10月現在150名強の学習者が在籍している。使用テキストは『まるごと日本のことばと文化』で、3年間約420時間で初級全般(A1、A2)を、更に2年間約280時間で中級(B1)を修了する。また、毎年夏休みにあたる7月から約1か月半の間、8歳から15歳を対象としたキッズ・ジュニア・ジャパニーズコースも開講している。この他にエジプト北部のアレキサンドリア市でも、2007年2月から現地団体の協力を得て日本語講座初級コースを運営している。こちらも教科書は『まるごと日本のことばと文化』を使用している。
 カイロ講座の受講者は社会人が半数、大学生が半数という割合だが、アレキサンドリア講座は大学生を中心とした若い受講者が多い。

教育制度と外国語教育

教育制度

教育制度

 6-3-3制。

《初等教育》
 小学校(6年間)
《中等教育》
 中学校(3年間)及び高等学校(3年間)、または中学校卒業後職業高校(3年間)に進学。職業高校進学者にも大学入学の道は開かれている。
《高等教育》
 大学(4年間。ただし医学部は6年間。工学部は5年間)
 専門職業教育のための各種インスティチュート(2~4年間)もあり、その一部では大学に準ずる資格が取れる。

 義務教育は小学校及び中学校の9年間。ただし、農村部における就学率はまだ十分ではない。国立大学の入学は高校卒業時の全国統一の試験(サナウィーヤ・アンマ)の成績によって決まる。この試験で高得点をマークした生徒から希望の大学、学部、学科を選択できる。若年人口の増加と大学進学率の上昇のため、評価の高い学部・学科に入学するにはこの試験で高得点をとることが要求され、厳しい受験競争も存在する。
 かつて私立大学はカイロ・アメリカン大学だけであったが、1990年代半ばの法改正で私立大学設立の道が開かれ、近年カイロを中心にいくつもの私立大学が設立されている。ただし学費が高額なため、私立大学に進学できるのは富裕層の子弟に限られる。

教育行政

 初等教育・中等教育は教育省、高等教育は高等教育省が管轄。

言語事情

 公用語はアラビア語。
 19世紀以降、欧州の文化的・政治的影響を大きく受けたため、特に中産階級以上の階層では母国語のアラビア語に加えて欧州言語が話せる人は珍しくない。街中で英語が話せる人に行き当たる確率は日本よりはるかに高い。歴史的には上流階級ではフランス語が広く使われてきたが、今日ではこうした習慣は失われつつある。

外国語教育

《第一外国語》
 中学校から英語(必修)。
《第二外国語》
 高校からフランス語、ドイツ語、イタリア語、スペイン語等より選択(必修)。フランス語が主となっている。

 公教育はアラビア語で行われる。ただし、中産階級以上の家庭は、子弟を私立の中学・高校に通わせることが多く、これら私立の学校は「ランゲージ・スクール」と呼ばれ、英語(またはフランス語、ドイツ語)教育を売り物にし、授業の一部をそれらの外国語で行う。

外国語の中での日本語の人気

 地理的・歴史的な関係から、主要欧州言語の学習者は相対的に多く、アジア言語は高等教育段階以降、第二、第三外国語として学ばれている。アジアの中でも、日本は経済大国、科学技術先進国として、また近年はアニメ、マンガなどポップカルチャーの側面から、総じて良好なイメージを持たれている。カイロ大学及びアイン・シャムス大学の日本語学科は国立大学文系学科の中でもトップクラスの人気を誇り、上述の全国統一試験において、満点に近い高得点をあげた優秀な学生が集まっている。

大学入試での日本語の扱い

 大学入試で日本語は扱われていない。

学習環境

教材

初等教育

 上述の課外授業があったときは、『Japanese for Young People』国際日本語普及協会AJALT(講談社USA)が使用されていた。

中等教育

 上述の選択科目を取り入れた学校では、『みんなの日本語』(スリーエーネットワーク)が使用されていた。

高等教育

 多くの機関で初級教科書は『みんなの日本語』が使用されている。中級以降の教材は機関によって異なり、特に定まったものはない。

学校教育以外

 国際交流基金カイロ日本文化センターでは『まるごと日本のことばと文化』が使用されている。

IT・視聴覚機材

 学習者の中にはインターネットを利用して情報収集や独習を行ったり、日本のアニメやドラマなどポップカルチャーを楽しんだりする者もいる。また、Facebookの利用が盛んで、国内の日本語学習者同士あるいは日本在住の日本人とのやりとりが、日本語学習・実践の場となっているようである。機関や学科、クラスといった単位でグループが作られているだけでなく、アニメなど共通の趣味を持つ者同士でもグループが作られ、日本・日本語コミュニティーが作られている。

教師

資格要件

初等教育

 教員免許を保持することが必要と思われるが詳細不明。

中等教育

 教員免許を保持することが必要と思われるが詳細不明。

高等教育

 エジプト人教師が正講師以上に昇任するには、博士号の所持が条件。

学校教育以外

 特に資格は問われない。

日本語教師養成機関(プログラム)

 2001年から2004年の間、国際交流基金カイロ日本文化センター(当時の名称はカイロ事務所)において日本語教師養成講座が実施されていたが、その後は長らく行われていなかった。この養成講座が2010年10月に再開。デモ等の影響による中断を挟みながら、2020年10月時点で通算65名程度の修了者を輩出し、各機関の教壇に立つ教師もいる。

日本語のネイティブ教師(日本人教師)の雇用状況とその役割

 エジプト人教師が大学等において正講師として教えるためには博士号の所持が条件となっているが、ネイティブ教師(日本人教師)についてはその限りではなく、資格より経験が重視される傾向にある。大学直接雇用の場合、滞在ビザ及び就労許可証は発給されるが、給料が安く、経済的な理由から1~2年で帰国するケースが少なくない。非常勤講師はエジプト人との婚姻による在留邦人が多い。ノンネイティブとネイティブの役割分担というものは特にない。

各日本語教育機関におけるネイティブ教師数(日本人教師)
日本語教育機関の名称 常勤 非常勤
カイロ大学文学部日本語日本文学科 2名 0名
カイロ大学文学部日本語専門翻訳学科 0名 4名
アイン・シャムス大学外国語学部日本語学科 1名
(2020年10月現在、避難一時帰国中)
0名
アスワン大学外国語学部日本語学科 1名 0名
ミスル科学技術大学言語翻訳学部日本語学科 1名 1名
バンハ大学芸術学部東洋言語学科日本語専攻 2名 1名
国際交流基金カイロ日本文化センター 1名
(2020年10月現在、未着任)
3名

※国際交流基金からの派遣ポスト、JICA海外協力隊を含む。

教師研修

 国際交流基金カイロ日本文化センターが年1回、中東・北アフリカ各国の日本語教師を対象に「中東・北アフリカ日本語教育セミナー」を開催し、現職教師のスキルアップ及びネットワーク強化を図っている。

現職教師研修プログラム(一覧)

1. 中東・北アフリカ日本語教育セミナー(中東・北アフリカ地域対象)
 国際交流基金カイロ日本文化センターが、年1回、中東各国の現職日本語教師を対象とした広域セミナーを実施している。2019年1月にはエジプト・カイロで第18回目のセミナーが開催された。本セミナーは各国の日本語教師にとっての貴重な研修機会であるとともに、中東・北アフリカ地域の日本語教師ネットワーク強化の一助となっている。

教師会

日本語教育関係のネットワークの状況

《「エジプト日本語教師会」(1999年発足)》
 エジプト国内の日本語教師の情報交流・相互協力の母体となることを目指し1999年2月に発足。当初、定期的に会合や勉強会を催していたが、2004年以降は休会している。
《「中東日本語教師連絡会」(1999年発足)》
 中東各国の日本語教師を繋ぐ広域ネットワークとして1999年9月に発足。

 2008年にメーリングリストを立ち上げ、2010年にはSNS上に「中東の日本語教育」グループが作成された。2020年10月現在、SNSグループのメンバー数は437名である。事務局は国際交流基金カイロ日本文化センター。

日本語教師派遣情報

国際交流基金からの派遣

日本語上級専門家

  • カイロ日本文化センター 1名(未着任)

日本語専門家

  • カイロ日本文化センター 1名(未着任)
  • アイン・シャムス大学 1名(避難一時帰国中)

国際協力機構(JICA)からの派遣(2020年10月現在)

JICA海外協力隊

  • アスワン大学 1名 

その他からの派遣

 なし

シラバス・ガイドライン

 統一シラバス、ガイドライン、カリキュラムはない。

評価・試験

 日本語能力試験以外に、共通の評価基準や試験はない。
 観光ガイド資格試験(観光省)においては、日本語の試験が取り入れられている。

日本語教育略史

1969年 在エジプト日本国大使館が日本語講座を開講
1974年 カイロ大学文学部日本語日本文学科開設
同大学に国際交流基金専門家派遣開始
1988年 在エジプト日本国大使館日本語講座に日本語教育専門家を派遣
1994年 カイロ大学文学部日本語日本文学学科大学院開設
1995年 国際交流基金カイロ事務所開設
1998年 国際交流基金カイロ事務所に日本語教育専門家を配置
カイロにおいて日本語能力試験実施(アフリカ大陸初)
Narita Academyが日本語講座を開講
1999年 エジプト日本語教師会発足
中東日本語教師連絡会発足
2000年 アイン・シャムス大学外国語学部日本語学科開設
2001年 エジプト日本語教育振興会発足し、在エジプト日本国大使館の日本語講座を引き継ぐ
2004年 アイン・シャムス大学外国語学部日本語学科大学院開設(2012年9月から新規募集を休止)
2005年 ミスル科学技術大学言語翻訳学部日本語学科開設
2007年 エジプト日本語教育振興会の日本語講座を国際交流基金カイロ事務所が引き継ぎ、従来講座と統合。2016年10月現在、国内の一般講座としては唯一初級から中級前期(B1)レベルまでを開講
2013年 アスワン大学言語翻訳学部日本語学科開設
2016年 バンハ大学文学部東洋言語学科日本語専攻開設
2017年 エジプト日本科学技術大学(E-JUST)にて学部生に対して必修科目としての日本語の授業開始
2018年 カイロ大学言語翻訳学部日本語学科開設
アズハル大学言語翻訳学部日本語学科開設
What We Do事業内容を知る