フランス(2020年度)
日本語教育 国・地域別情報
2018年度日本語教育機関調査結果
機関数 | 教師数 | 学習者数※ |
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229 | 763 | 24,150 |
教育機関の種別 | 人数 | 割合 |
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初等教育 | 175 | 0.7% |
中等教育 | 5,634 | 23.3% |
高等教育 | 12,321 | 51.0% |
学校教育以外 | 6,020 | 24.9% |
合計 | 24,150 | 100% |
(注) 2018年度日本語教育機関調査は、2018年5月~2019年3月に国際交流基金が実施した調査です。また、調査対象となった機関の中から、回答のあった機関の結果を取りまとめたものです。そのため、当ページの文中の数値とは異なる場合があります。
日本語教育の実施状況
全体的状況
沿革
1863年にパリの帝立図書館附属帝立東洋言語専門学校で日本語の授業が始まり、5年後の1868年には正式な日本語講座が開設された。初代の主任教授はフランスにおける日本研究の先駆者といわれるレオン・ド・ロニー(Léon de Rosny)である。そして半世紀後、さらにリヨン商工会議所日本語入門講座、続いて、パリ大学文学部日本文明講座が開講された。パリ大学文学部日本文明講座は、パリ大学再編後の1970年には、パリ第7大学(現在はパリ大学)に引き継がれた。同時期に、ラシーヌ高校などパリ及びパリ近郊の高校で日本語教育が始まり、リヨン第3大学でも日本語教育が始まった。また高校卒業試験のバカロレアで日本語を第一、第二、第三外国語として選択できるようになった。1985年には、最初の日本語・日本文化中等上級教員資格を持った教員(アグレジェ)が誕生した。1988年にはパリのラ・フォンテーヌ高校で第二外国語としての、1990年には第一外国語としての日本語教育が始まった。またこの頃、初等教育段階でも日本語教育が始まった。
1994年、ヨーロッパ共同体が「複言語複文化主義」を掲げ、翌1995年「言語教育の多様化と質の改善に関する決議」を採択した。2005年3月にフランス国内の中等教育機関における日本語教育状況の改善を目指し、フランス日本語教育委員会が発足した。このフランス日本語教育委員会には、3つの下位組織(小委員会)があり、2005~2008年にかけて、「①プログラム(中等教育機関の日本語教育の指導要領)作成小委員会」、「②カペス(中等教育正規教員資格試験設置)小委員会」、「③生涯教育小委員会(教師研修)」がそれぞれに活動を進めてきた。特に、①は、日本語の学習指導要領(Palier)の作成に取り組み、2007年4月には、第1段階であるPalier1が、9月には第2段階であるPalier2が相次いで官報に掲載され、国民教育省に正式に認可された。その後、Palierに準拠した活動集も作成されたが、同委員会は2008年のシンポジウム開催、2009年の論集刊行を以て活動を終了した。
また、フランスの中等教育段階の日本語科目の正規教員ポストとしては、これまでは中等教育上級教員資格(アグレガシオン、1984年制定)、現職教師を対象とした准中等教育教員資格(カぺス・レゼルべ、1998年設置)があったが、加えて2016年に中等教育教員資格カぺス・エクステルヌの新設が発表された。2017年以降カペス・レゼルベについては毎年3名のポストが、アグレガシオンについては2010年以降ほぼ毎年2ポストが継続的に設置されており、今後の中等教育における日本語の地位向上や安定した日本語教育の発展が期待されている。(2019年10月現在)
カリキュラム・シラバスの改訂については、その後いくつかの動きがみられる。2013年からバカロレアの外国語試験がCEFRを意識した内容に大幅に改定された。その後2018年から2021年のバカロレア改訂に向けての動き、および中等教育後期(高等学校)の教育システム(プログラムや評価方法も含む)改革が本格的に進められており、外国語教育科目も大きな影響を受けることが予想される。
背景
国民教育省は、国際交流、外国語教育、交換留学制度等に積極的な姿勢を見せている。外国語教育の開始は低年齢化しており、2008年から初等教育において初歩の外国語教育が行われている。日本語に関しては、日仏バイリンガル教育を行う日本語セクションのある国立の国際学校を除いては初等教育機関での実施はほとんどなく、中等教育、高等教育から開始される場合が多いが、異文化理解教育の一環として、日本文化紹介・日本語学習体験を目的とした授業実施の要望が増えてきている。
また、フランス社会において、一般に日本や日本文化に対する関心は高く、日本語学習者数も堅調に伸びている。
特徴
フランスでは、高等教育機関における日本語教育は歴史は古く、国内の主要都市の大学・グランゼコールで開講されており、現在もフランス国内の日本語学習者全体の学習者数の半数を占めている。大都市、中規模都市では、中等教育機関や学校教育外(語学学校や一般向け講座)で日本語教育が行われているが、学習希望の要望に十分に応えられていない。しかしながら、国立遠隔教育センター(CNED)の通信教育で日本語を学ぶことができるほか、IT技術の発展を背景に、オンライン上の動画やSNSを活用して日本語を学ぶ機会も増えている。
最新動向
2018年度に8ヶ月に渡り開催された「ジャポニスム2018」は大成功を納め、2021年に予定されている東京オリンピック(2024年はパリ・オリンピック)などフランス国内における日本、日本文化への関心が高まってきており、実際、日本語学習者数は、初等教育・中等教育・高等教育・学校教育外ともに堅調に伸びており(2018年機関調査結果速報値)、今後のさらなる発展が期待されている。
一方で、2020年春からのCOVID-19の影響で、日本との往来が以前のように自由にできない状況、日本語教育機関では遠隔授業を余儀なくされている状況が、今後どのような影響を与えていくかが懸念されている。
また、2021年のバカロレア改定を含んだ教育改革の影響がどのような形で中等教育段階の日本語科目に及ぶのかも心配されてはいるが、現時点では学習者の大幅な減少等は見られないようである。
なお、高等教育機関所属の複数の担当者の話では、高校で日本語を履修する形ではなく、Youtube動画などで独学で日本語を学んだ既習者も増えてきているとのことである。
COVID-19感染拡大状況の中で、今後オンライン化がフランスの日本語教育状況にどのような影響を与えていくのか、関心が寄せられている。
教育段階別の状況
初等教育
初等教育段階では、国際バカロレアコースを持つ機関の日本語部門で教えられている。また国際学校の日本語部門(日本語補習授業校として認定されている)で、国語としての日本語教育が行われているほか、課外活動、クラブ活動で日本語が教えられている。
中等教育
日本語は、主に第二、第三外国語として学ばれており、高校から始める第三外国語が大半を占める(第1外国語は小学校から、第二外国語は中学校(ème:日本の中学校1年生)から。中等教育機関における日本語のカリキュラム、指導要領に関しては、以前は1987年に制定された第三外国語のみであったが、2007年にCEFRにも準拠した第二外国語用の指導要領が正式に認可された。2013年にはバカロレアがCEFRを意識した内容に改定され、中等教育の教育現場の教授内容等にも影響を与えている。また、2021のバカロレア改定では、試験のみならず教育プログラムが大きく変更された。特に大きな影響は、高校3年次の6月に実施されている総括的評価から、高校2年から3年にかけて学期中に行われる継続的評価(evaluation continue)の導入、およびバカロレアの得点構成の変更であろう。それにより、選択科目である第3外国語では、これまで実施されていたバカロレアでの口頭試験が行われなくなることになるが、日本語は大多数が第3外国語科目として学ばれているため、影響が懸念されている。
高等教育
博士課程まで日本語・日本研究が主専攻として学べる高等教育機関は、フランス国立東洋言語文化大学(INALCO)、ボルドー・モンテーニュ大学、リヨン第3大学、パリ大学、ストラスブール大学ストラスブール大学、リール大学、エクス・マルセイユ大学の7機関、専攻科目として日本語を学べる大学は上記を含めた14機関あり、主に日本文学、日本文化などの人文学系の研究者の養成を目的としている。その他の大学やグランゼコール等で選択科目として日本語を学ぶ学生も多い。日本語専攻の学生は在学中に1年程度の日本留学をする者が多く、非専攻の学生も短期の研修などで訪日する機会がある。
学校教育以外
学校形態は、語学学校よりもアソシエーション(地域で公的な届出を行って活動する団体)等の非営利の語学教室が多い。地方自治体の経営によるもの、あるいは、大学等との共同経営を行っているところもある。パリ市では市の文化施設(メディアテック等)併設の語学教室でも日本語クラスが開講されている他、民間の機関が複数ある。これらの日本語講座等は、生涯教育としての日本語教育、ビジネスパーソンの語学学校、中等・高等教育機関の生徒や日仏家庭の子弟のための日本語補習塾としての機能も満たしている。 また、機関に属さず、個人教授や独学で学ぶ学習者も少なくないといわれる。
教育制度と外国語教育
教育制度
5-4-3制。
初等教育 | 小学校(5年間) | |
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中等教育 | 前期 | 中学校(4年間) |
後期 | 高等学校(3年間)、高等専門学校(3年)、グランゼコール準備級(2年間) | |
高等教育 | 大学:学士課程(リサンス:3年)、修士課程(マスター:2年)、博士課程(ドクター:3年)グランゼコール(3年間):経済系及び理科系グランゼコールの多くがマスターを設置して、外国の大学制度と互換性のあるシステムにしている。 グランゼコール(3年間):経済系及び理科系グランゼコールの多くがマスターを設置して、外国の大学制度と互換性のあるシステムにしている。 技術短期大学(2年) 上級技術者養成課程(2年) 職業専門学校(2~3年) |
義務教育は、初等教育の5年間と前期中等教育の4年間。
飛び級、並びに落第が、あらゆる段階で行われる。通信教育により、全段階の教育を受けることが可能であり、親が学士号を有する場合は、家庭において、義務教育を施すことが認められている。
教育行政
初等、中等、高等教育機関のほとんどが教育省の管轄下にある他、高等教育にはグランゼコールと呼ばれるフランス独自の高度専門職養成機関が存在する。主なグランゼコールと管轄は下記のとおり。
国立行政学院(内閣)、国立高等鉱山学校(産業省)、国立土木工学院(公共事業省)、国立美術学校(文化省)、国立国庫・租税・関税学校(大蔵省)、理工科学学校(国防省)、国立高等電気通信学校(郵政省)、司法官学校(法務省)
言語事情
フランス語が公用語であり、国語となっている。
その他、アルザス地方はアルザス語、バスク地方はバスク語、ブルターニュ地方はブルトン語、スペイン国境のカタロニア語、コルシカ島のコルシカ語、南仏地方のオック語、タヒチ島はタヒチ語、東ブルターニュはガロ語、ロレーヌ地方はモゼール語が併用されている。なおヨーロッパ共同体の複言語複文化主義に基づく、言語遺産としての地方言語の保存と教育が、活発になっている。
外国語教育
中等教育を終える段階で全ての生徒は少なくとも2か国語でコミュニケーションを図れるようになっていなければならない。この目標を達成するために外国語教育方針は全面的に改定され、欧州共通の言語レベル尺度にそって学習することが求められている。
国民教育省が2016年現在示している外国語教育政策によれば、中等教育を終える段階で全ての生徒が少なくとも2言語でコミュニケーションを行えるようになることを目標とし、2016年9月からCP(日本の小学1年)からの第一外国語、5 ème(日本の中学1年)からの第二外国語を必修となる。これは従来の学習開始年齢を一年早めたものだが、それぞれの言語の学習時間数も大幅に増やされる予定であり、第一外国語として英語だけでなくドイツ語も履修できるように支援策がとられている。高校1年からは第三外国語を選択することができるが、中等教育では、日本語をこの段階で始める生徒がもっとも多い。
またどの教育段階でも、CEFRによるレベル提示がなされており、CEFRを意識した教育目標となっている。
外国語の中での日本語の人気
2021年のバカロレア改訂で「言語・文学・文化」の科目(LLCE:langues, littératures et cultures étrangères)として学習できる言語として、英語、スペイン語、ドイツ語、イタリア語が設定されているように、一般に近隣国のヨーロッパ言語が学ばれているが、非ヨーロッパ言語の中では日本語への関心が高い。
大学入試での日本語の扱い
中等教育では、Langue vivante(現代語:外国語・現代語)科目として、日本語が選択できる。日本語は第一、第二、第三外国語として選択可能であるが、大半が第三外国語である。
バカロレア試験(高校卒業資格試験、取得者は大学に登録可能)でも日本語は、第一、第二外国語、または、選択科目(第三外国語~)として受験可能であったが、2021年のバカロレア改定のために、2019年9月入学の高校1年生から全教科の教育プログラムや試験制度自体が変更になり(高校2年次、高校3年次の学期中に行われる継続評価)、実質、第一外国語(LVA)、第二外国語(LVB)のみがバカロレアの対象となっている。
学習環境
教材
初等教育
日本の小学校の国語の教科書、自作教材など。
中等教育
2018年中等教育段階日本語教師研修参加者へのアンケート結果では、使用者数の順では以下のとおりであった。『まるごと 日本のことばと文化』国際交流基金(三修社)、『みんなの日本語』(スリーエーネットワーク)、『Japonais Kanji Kakitai ! Ecrire & Apprendre les Kanji Tous les Caractères au Programme』Lionel Seelenbinder-Mérand(Ellipses Marketing)、『エリンが挑戦!にほんごできます。』『Manekineko japonais : Méthode de japonais pour les collèges et lycées』Frédérique Baraze(Ellipses Marketing)、『JAPANESE FOR YOUNG PEOPLE』(AJALT)、『JAPANESE FOR YOUNG PEOPLE』(AJALT)、『できる日本語』シリーズ(アルク)、自作教材など。
高等教育
『みんなの日本語』(前出)、『初級日本語 げんき』坂野永理他(ジャパンタイムズ)、『Grammaire Japonaise』島守玲子、『Parlons japonais』東伴子、『新日本語の基礎』海外技術者研修協会(スリーエーネットワーク)、『さんぽPromenade. Méthode de japonais avec cahier d'exercices et corrigés.』鬼頭夕佳ほか、など。その他、自作教材も多い。
学校教育以外
『みんなの日本語』(前出)、『JAPANESE FOR YOUNG PEOPLE』(前出)、『できる日本語』シリーズ(アルク)、並びに自作教材など。アソシエーションと呼ばれる日仏交流協会団体等では『まるごと 日本のことばと文化』(前出)を活用しているところも多い。また、2020年3月からのCOVID—19による外出規制時に遠隔授業を余儀なくされたこともあり、オンライン上でアクセスできる、デジタル教材やサイト、ツールにも関心が高まっている。
IT・視聴覚機材
2020年3月から始まった外出制限、教育機関閉鎖を受け、オンライン上で授業を行うためのプラットフォームやデジタル教材の使用が進んでいる状況である。教室等の設備やネット環境については、各教育機関による。
教師
資格要件
初等教育
教師採用の基準に関して、フランス人は日本語学士号、日本人は同学士号あるいは日本で得た学士号(専門不問)。
中等教育
正規の教員資格には中等教育上級教員資格(アグレガシオン)、中等教育教員資格(カペス・エクステルヌ)、准中等教育教員資格(カペス・レゼルヴェ)の区別がある。中等教育上級教員資格取得者はアグレジェと呼ばれ、高等教育機関でも教えることができる。中等教育のプログラムやリソースの整備において指導的な役割が期待されるポストである。日本語の中等教育正規上級教員資格(アグレガシオン)の試験には毎年1~2名が合格している。准中等教育教員職(カペス・レゼルヴェ)は、2013年に数年ぶりに試験が実施され、3名が合格、また2020年は1名が合格している。中等教育教員資格(カペス・エクステルヌ)の試験は日本語においては2017年に初めて実施され、その後毎年3名の合格者が出ている。
修士課程に在籍し卒業見込みの者も応募できるが、アグレガシオンと同様、フランスまたはヨーロッパの国籍を持っていることが条件である。
高等教育
大学の場合、准教授職以上は博士号が条件となっている。グランゼコール及びその他の高等教育機関では、学士号が最低基準。
学校教育以外
基準はないが、学士号を条件とするところが多い。また民間日本語学校が行っている養成講座修了を条件にしているところもある。
日本語教師養成機関(プログラム)
- フランス国立東洋言語文化大学日本学科とパリ大学の合同大学院やボルドー・モンテーニュ大学で修士課程で日本語教育コースを履修できる。その他、パリ市内の民間日本語学校で以下の日本語教師養成講座が開講されている
日本語のネイティブ教師(日本人教師)の雇用状況とその役割
学士号が教師の最低基準となっているが、現実として高等教育機関の非常勤職などは、修士号取得者以上がほとんどである。一年契約で一回更新可能な常勤語学講師のポストが何種類かある。一方、専任の大学教員のポストを得るには、博士号またはアグレガシオン資格が必要である。博士号保持者の場合は、国籍は問われず准教授に応募でき、採用されればフランス人と同様の待遇と労働条件で働くことができる。
フランスの中等教育機関で正規教員の職に就くには、フランスまたはEU、欧州経済領域加盟国、アンドラ公国、スイス連邦、モナコ公国の国籍が必要で、学歴・資格試験合格等の一定の条件を満たさなければならない。原則として、資格を持たない場合は、期限つきの非常勤職に留まることになる。
教師研修
国際交流基金パリ日本文化会館やフランス日本語教師会が定期的に研修会や勉強会を実施している。
現職教師研修プログラム(一覧)
- 中等教育教師研修会
パリ日本文化会館が主催し、国民教育省准視学官の協力で毎年1回秋に実施している。中等教育機関で教えている教師が対象。例年40-50名の参加であったが、近年参加者数が増加傾向にある。2020年度はオンラインで実施し、フランス中等教育機関所属の現職の日本語教師のみならず、在ニューカレドニアの教師、日本語教育専攻コースの大学院生などの参加もあった。バカロレア改定と、それに伴う新プログラムがここ数年の中心テーマである。 - パリ日本文化会館主催教師研修会
パリ日本文化会館で毎月1回程度実施している - フランス日本語教師会主催勉強会
フランス日本語教師会の会員を主な対象に、年に数回実施している。 - 欧州日本語教育研修会
パリ日本文化会館主催で、欧州各地の日本語教師を対象に参加者を公募し毎年7月に少人数制による集中研修を実施している。国際交流基金の欧州各拠点の協力を得て、欧州共通の課題を考える場と位置付けている。 - パリ日本文化会館遠隔授業サポート講座、およびオンライン日本語教師研修
「遠隔授業サポート講座」は、新型コロナウィルス感染拡大の影響でフランス全土の教育機関が閉鎖になったことを受け、各教育現場で急遽始まった遠隔授業の実施を支援すべく、2020年3月中旬より12週間実施。フランスのみならず周辺国からの参加もあった。2020年9月からは、オンライン教師研修として、教授法に関する講義や現場の実践共有、遠隔授業で活用できるツール紹介等毎月継続的に実施している。
教師会
日本語教育関係のネットワークの状況
「フランス日本語教師会」(1997年設立)
国際交流基金の在外邦人研修参加者を母体とし「ヨーロッパ日本語教師会」の支部として発足したが、2002年より独立した会となった。隔年でシンポジウム、研修会を開催しているほか、論集「フランス日本語教育」の出版、また定期的に勉強会を開催、教師会便りを年2回発行するなど積極的に活動している。会員数は、個人会員は約150名、賛助会員2機関で、欧州内の教師会の中でもかなり大規模である。JFさくらネットワークの中核メンバーである。
「フランス日本研究学会」(1990年設立)
フランスの日本研究関係者の多くが在籍する学会で、会員数は250名にも上る。高等教育機関で日本語教育に従事している教師も含まれる。2年に1回開催される学会には、日本語学・日本語教育部門もある。
「フランス日本語教育委員会」(2005年設立)
主に中等教育レベルの日本語教育事情の改善を目指し、日本語教育担当准視学官を中心に2005年6月に発足。「中等教育日本語教育プログラム作成」、「中等教員資格(カペス)新設」、並びに「生涯教育(教師研修)」の3つの小委員会に分かれて活動を行った。日仏修好150周年にあたる2008年11月にこれまでの活動の集大成として大規模なシンポジウムを高等師範学校で開催し、2009年末に論集を刊行して活動を終了した。
日本語教師等派遣情報
国際交流基金からの派遣(2020年10月現在)
日本語上級専門家
国際交流基金パリ日本文化会館 1名
日本語専門家
国際交流基金パリ日本文化会館 1名
日本語指導助手
国際交流基金パリ日本文化会館 1名
国際協力機構(JICA)からの派遣
なし
その他からの派遣
民間日本語学校(日本語教師養成機関)から関係機関へ派遣
シラバス・ガイドライン
外国語教育は、ヨーロッパ共通言語参照枠組み(CEFR)に基づいた外国語教育の枠組み作りを行っているが、日本語は、後期中等教育段階の第三外国語についてのみ、1987年9月24日付官報により、指導要綱が示されていた状態で、第一、第二外国語に関しては、そもそも基準自体がなかった。そこで2005年に結成されたフランス日本語教育委員会内において「中等教育プログラム作成小委員会」が設置され、まず第二外国語の第1段階の指導要領(Palier1)、第2段階(Palier2)の指導要領を相次いで作成した。この指導要領は教育省に提出され、2007年に官報に掲載、正式に認可された。
その後、2013年のバカロレア改定を経て、現在は2021年のバカロレア改定と呼応した新しいプログラム(カリキュラム)の施行が進められている。2013年の改定時には、CEFRのレベルで到達目標が設定されているのみであったが、2021年の改定では6つの技能(聞く、読む、話す、やりとり、書く、仲介)についてのCan-doも提示されている。
評価・試験
日本語能力試験は、パリ、リヨン、ストラスブール、ボルドーの4会場で実施されている。受験申し込み者数は、安定しており、西欧の中で最も多い。試験の結果は、留学生試験、就職試験等の参考に使われている他、日本の大学への留学の際、考慮の対象になっている。
日本語教育略史
1868年 | 帝立図書館附属帝立東洋言語専門学校に日本語講座が正式開講([INALCO] Institut National des Langues et Civilisations Orientalesの前身) |
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1918年 | リヨン商工会議所で、日本語入門講座開設 |
1920年 | パリ大学文学部日本文明講座開設 |
1967年 | ラシーヌ高校などのパリ市内、パリ近郊の高校で日本語教育開始 |
1970年 | パリ第7大学極東学部日本文明講座開設 |
1970年代半ば | リヨン第3大学で、日本語教育の試みがなされる。 通信教育が始まる。高校卒業試験のバカロレアに、日本語を、第一、第二、第三外国語として選択することが原則として認められる |
1980年代 | リヨン第3大学日本学科開設、ツールーズ大学、グルノーブル第3大学、リール第1、第3大学、レンヌ第2大学、プロヴァンス大学、及びグランゼコールなどでも日本語教育が始まる。また中等教育段階でも日本語教育が各地で始まり、第一外国語としての日本語教育開始 |
1984年 | 中等教育上級教員資格(アグレガシオン)制定 |
1985年 | 中等教育上級教員資格(アグレガシオン)第1回試験 中等教育上級教員資格試験はその後、2年に1回行われる傾向で実施されている(2005年と2007-2009年は実施されなかったが、2010年以降毎年実施されている) |
1990年 | フランス日本研究学会設立 |
1990年代 | 日本語教育が、初等教育段階でも始まる |
1997年 | フランス日本語教師会設立 |
1998年 | 中等教育段階に、准中等教育教員資格(カペス・レゼルヴェ)設置される。 (2006年以降は実施されていなかったが、2013年に久しぶりに実施された) |
2005年 | フランス日本語教育委員会発足 |
2007年 | Palier(中等教育段階指導要領)1、2が国民教育省の認可を受け、刊行される |
2008年 | フランス日本語教育委員会シンポジウム開催(2009年論集発行) |
2009年 | パリ日本文化会館が国民教育省准視学官の協力を得て、第一回全仏中等教育機関日本語教師研修会を実施 |
2013年 | バカロレア改定 |
2014年 | イナルコ (フランス国立東洋言語文化学院Institut national des langues et civilisations orientales)とパリ・ディドロ大学が日本語教育専攻の修士課程を共同開設 |
2016年 | フランス政府が中等教育教員資格(カぺス・エクステルヌ)に日本語部門を新設することを決定 |
2016年 | ボルドー・モンテーニュ大学の修士課程で日本語学・日本語教育学の専攻コースが開講 |
2017年 | 中等教育教員資格(カぺス・エクステルヌ)日本語部門の第一回試験が実施され、全仏で3名が合格 |
2018年 | 2021年のバカロレア改定に伴う新しいプログラムの施行 |