香港(2020年度)

日本語教育 国・地域別情報

2018年度日本語教育機関調査結果

2018年度日本語教育機関調査結果に関する帯グラフ。機関数は70件、教師は575名。初等教育は927名で全体の3.8%、中等教育は2,031名で全体の8.3%、高等教育は5,694名で全体の23.2%、学校教育以外は15,906名で全体の64.8%。

(注) 2018年度日本語教育機関調査は、2018年5月~2019年3月に国際交流基金が実施した調査です。また、調査対象となった機関の中から、回答のあった機関の結果を取りまとめたものです。そのため、当ページの文中の数値とは異なる場合があります。

日本語教育の実施状況

全体的状況

沿革

 香港の日本語教育は、1930年代、東京北タクシー株式会社(記憶している人も現在では少なく、正確な名称であるかどうかは不明)によって始められて、日中戦争の勃発により中止されたと言われている。第二次世界大戦中、日本軍占領時代の軍政下で、学校、ラジオ、新聞等を使って日本語教育が行われたが、戦争終結とともに、これらの日本語教育は姿を消した。
 戦後、1950年以降、日本、香港両地の経済回復につれて、往来が活発化する中で、1950年代末から民間の日本語教育が本格化し、導正日本語学校が1959年に設立されたのを機に、1961年には遠東書院日本語コース、1962年には香港第一日文専科学校が相次いで開校し、1965年には香港大学校外進修学院にて社会人を対象とした日本語コースが開設された。その後、1968年には在香港日本総領事館に日本語講座が創設され、1973年には香港中文大学進修学院に日本語コースが設置された。その他にも、民間団体、宗教関係の学校、成人教育機関等にも日本語のコース開設、増設が見られるようになった。このようにして、香港で民間における社会人対象の日本語教育の発展の基礎ができあがった。この間、ラジオやテレビによる日本語教育も再開された。

《高等教育機関》
 1967年に香港中文大学に副専攻と選択科目を開講する「日文組」が創設され、大学における日本語教育の先駆となり、1991年には「日本語研究学科」が設立され、主専攻課程が開設された。
 香港中文大学に次いで1976年、香港理工大学の前身である香港理工学院「三種言語秘書コース」で日本語の授業が始まり、現在は「中文雙語系」にて選択科目コース及び副専攻課程、修士課程が提供されている。また、「理大香港専上學院傳意及社會科学學部)」で非専攻の学生に対する日本語の授業が行われている。
 1978年に香港大学ランゲージセンターに日本語講座が、ボランタリーコース(単位外)として開講して、1980年には2単位が取得可能なコースとなり、1985年、文學院に日本学科が設立された。1990年、文献講読や日中関係論のコースが始まって日本研究専攻学生のための中心学科となり、1993年、日本研究学科となった。
 香港城市理工学院では、1988年に「国際商業」を専攻する学生を対象に必修の日本語コースが設けられ、現在、香港城市大学「中文・翻訳及語言系」に引き継がれている。また、1998年に香港城市大學専上學院「語文學部(現:語文及傳意學部)」に、応用日本研究学科が設置された。
 2000-10年代に他の大学でも日本語科目開講が相次ぎ、
 2020-21年度現在、日本語関係の学士号が取得できる4年制学部・学科のある高等教育機関は香港中文大学、香港大学、UOW香港カレッジ(2019年に香港城市大學専上學院より改称)の3機関で、香港中文大学と香港大学には日本研究領域が博士課程まで開設されている。上記3機関の他、香港理工大学、香港科技大学、香港浸會大学、香港教育大学、香港公開大学、嶺南大学で学部学生を対象とした日本語教育が行われており、任意または必修選択外国語科目、副専攻、あるいはAD/HD(副学士号)を授与する専攻学科を開講している。なお、香港演藝學院(大学同様に学士号取得可能な機関)にも任意選択科目で日本語科目が開講されていたが、2018-19年度を最後に閉講となった。
 また、各大学付属の専業進修學院・専上學院(生涯教育機関)の中にも、AD/HDを取得できるコース・学科を開講している機関がある。専門学校の中にも、ビジネス関係などの学科に日本語科目を開講している機関がある。
 
《初等・中等教育機関》
 課外授業の形では古くから行われており、2002年に初めて正規科目として取り入れる中学校が登場した。2013年5月、24の中等教育機関で日本語教育を実施していることが確認されている。また、2009年9月からは、新後期中等教育カリキュラム「新高中課程」の導入が始まった。初等教育機関では、2018年国際交流基金日本語教育機関調査によると、小学校7校で日本語教育が実施されている(正規科目、課外科目いずれも含む)。
 日本語の学習者数は、1997年の中国への返還を控えた1990年頃から減少したが、1997年以降は増加が続いていた。しかし2009年ごろから、再び、社会人教育機関、高等教育機関で減少傾向にあり、香港の日本語教育における課題となった。しかし、その後減少傾向は横ばいから増加の兆しがみられている。

 教育機関の枠を超えた行事としては毎年、香港小中高生日本語スピーチコンテスト「香港中小學生日語演講比賽」、大学生と社会人が参加できるスピーチコンテスト「香港日本語弁論大會」と日本事情クイズ大会「全港日本文化常識問答大賽」が開催されている。日本語アフレココンテストや詩の朗読コンテストなどを開催する大学もあり、若者を対象とした日本語及び日本文化普及の活動が活発である。

背景

 国際都市である香港は多言語都市であるが、中でも、日本語は独特な位置を占めている。陳荊和氏(元香港中文大学東アジア研究センター教授)は「香港の日本語教育とその周辺」(『香港日本文化協会 20周年特刊』1988年)の中でその理由を次の4点にまとめており、この特徴は2020年現在でもあまり変わらない。

  1. (1)日港間の経済取引関係
  2. (2)香港における観光事業と日本人観光客
  3. (3)日本文化の香港への浸透
  4. (4)日本商品の氾濫

 この4項目は香港における日本語教育推進の上で重要な役割を果たしてきたが、特に日本のポップカルチャー(映画、テレビ、アニメ、ファッション、ゲーム)、食文化の浸透、香港人の日本への旅行などの影響が大きくなっている(香港日本語教育研究会による「2010年香港日本語学習者背景調査」の結果からもその傾向は裏付けられた)。また、年少(小学校から高校まで)の学習者は、日本の大衆文化を積極的に受容した両親の影響もあり、アニメやゲームに強い関心を寄せている。さらに、2004年4月からの香港人の日本短期滞在査証の免除、2009年の日港間のワーキングホリデー協定の締結、2010年1月からの協定実施も日本語学習の動機に大きな影響を与えた。
 この他にも、2009年9月実施開始の新しい後期中等教育カリキュラムで、日本語が正式選択科目として認められたことも香港の日本語学習の背景を考える上で重要な出来事である。

特徴

 香港における日本語教育の大きな特徴は、民間の教育機関による日本語教育が盛んな点にある。日本語学習者の裾野の広さもここに起因していると言えよう。
 知識基盤経済を目指す香港政府は持続進修基金制度(CEF: Continuing Education Fund)を設けている。これは、社会人の生涯学習を推進する目的で設立されたもので、認定を受けたコースを受講して、71歳までに政府の認定した試験に合格するとその受講料の8割(上限10,000HKD、2020年10月現在 1HKD=約14円)の支給を受けることができるもので、日本語も対象となっている。政府が認定対象にしている日本語試験は、日本語能力試験とBJTビジネス日本語能力テスト(日本漢字能力検定協会)、GCE(London Examinations General Certificate of Education)がリストに掲載されている模様。政府のこのような支援策もあり、香港では生涯学習が盛んであるため、「専業進修學院」(大学の校外課程)と民間語学学校の学習者が多い。
 香港日本語教育研究会が行った「2010年香港日本語学習者背景調査」の結果によると、香港の日本語学習者の生活に日本の製品や食文化が溶け込み、日本への観光などの体験が身近なものになっており、日本に対して好感を抱いていること、さらに、2004年4月より日本への短期滞在の査証が免除となったこともあり、日本旅行のリピーターも多く、片言でも日本語を話したいという意欲が高い。2011年の東日本大震災や中日の政治的関係悪化のため一時的に日本への旅行者が少なくなった。しかし、その後、円安の影響、地方都市への航空路線の拡大などもあり、日本政府観光局(JNTO)の統計によると、香港からの訪日客数は、2017年から年間延べ220万人を超え、香港人が気軽に訪れる旅行先として、日本人気が定着していることがわかる。

最新動向

 日本語能力試験の応募者の趨勢を見ると、香港における日本語教育の一端がうかがえる。香港・マカオの応募者の合計で、1984年に応募者1,200名で始まり、5年後には2,000名、10年目には3,000名を超え、2005年は11,551名、2009年は20,637名と、増え続けていた。しかし、2010年は14,559名と大幅に減少した。これは、新試験への躊躇と学習者減少などに起因すると考えられる。その後2011年14,589名と横ばい、2012年12,896名、2013年12,546名と減少したが、2014年より毎年増加し、2019年、15,759名となった。同年試験応募者の詳細を見ると、年齢別で多いのは20歳代で、全応募者の54.65%を占めている。また、応募者対象の調査によれば、日本語を学習する場に関する質問に「教育機関で学んでいない」と回答する人が増えており、2019年試験では、全体の約40%であった。レベルが上の受験者ほどその割合が増加しており、N1では60%以上が「機関で学んでいない」と回答している。
 2012年の大学入学希望者から統一新試験「香港中學文憑HKDSE)」が始まり、2011年11月に第1回試験が実施された。この第1回(2011年度実施分、2012年9月入学者対象)の日本語出願者数は135人、同2014年度に200人を超え202人となり、2020年度には363人が出願した。
 また、2010年11月より、『日本留学試験(EJU)』(日本学生支援機構)の実施が香港において開始された。2019年度香港会場の受験応募者数は、第1回、第2回合計1393人であった。中国本土からの受験者が全体の8割以上を占めている。
 2016年10月よりワーキング・ホリデー制度の査証発給枠は、これまでの250名から1,500名と大幅に拡大され、今後も若い世代の日港関係のさらなる発展が期待されている。

教育段階別の状況

初等教育

 初等教育では、総数はまだ少ないものの、増加傾向が見られる。ただ、受験競争の激化に伴って、学習ポートフォリオをより良くしようと日本語を勉強する小学生も増えていると言われている。かつて1980年代の日本ドラマブームで日本語のファンになった両親の子供が就学年齢になり、親に勧められて学ぶというケースも少なくない。また、日本のアニメ・マンガブーム、キャラクター人気などの影響もあると思われる。これを受けて、香港日本語教育研究会では、2005年より開催している中高生日本語スピーチコンテスト「香港中學生日語演講比賽」を、2013年から「小中高生のためのスピーチコンテスト」とし、小学生の詩の朗読部門を追加している。

中等教育

 2009年の新学期(9月)より教育制度が改革され、新後期中等教育カリキュラム「新高中課程」が施行されている。新カリキュラムにおいては、生徒中心、全人的教育、多様な進路、生涯教育(Student-Centered, Whole Person Development, Multiple Pathway, Life-Long Learning)の4つの側面が強調されている。
 「新高中課程」では外国語、例えば日本語教育を導入した場合、多様なニーズに応える教育に対する政府の支援制度「多元學習津貼」では、中学生一人あたり年間3,900HKD(2020-2023年3年間で助成される場合の金額)の「諸外国語学習助成」が学校に支給される。また、「香港考試及評核局」により、中等教育卒業統一試験「香港中學文憑HKDSE)」の選択科目に日本語を含む6か国語が含まれており、試験は2011年からケンブリッジ試験(CIE:Cambridge International Examinations)のASレベルが採用されている。
 香港中等教育での日本語科目採用段階は、正規科目と課外科目に大別されるが、2002年9月、香港新界地区の中学校で初めて正規科目として日本語が取り入れられた。2019年時点で、日本語科目実施校が26校確認されており、その内正規科目として実施している機関は10校程度と見られている。
 また、同改革により「通識教育科」(教養科目)が中学校の必修科目になったことを受けて、この範囲内において10時間程度のユニットで日本語学習と日本文化紹介を行おうという学校が登場してきた。

高等教育

 2020年10月現在、香港の高等教育機関(公立、私立)のうち、9機関(香港大学、香港中文大学、香港理工大学、香港公開大学、香港浸会大学、香港教育大学、香港科技大学、嶺南大学、UOWカレッジ香港)で日本語教育が行われている。その内、日本研究の主専攻が開講されているのは香港大学と香港中文大学だが、2019年に、3番目の学士課程としてUOWカレッジ香港(2019年に香港城市大学専上学院から改称)に日本語・日本研究学科が開講した。2020年には香港教育大学に日本研究副専攻が開講された。その他の大学でも、学部生向け任意または必修の選択科目など様々な形で日本語教育が行われている。
 香港では、日本の短大にあたる「副学士/準学士」課程があり、香港城市大学専上学院、香港大学専業進修学院が副学士の日本研究コースを開講している。また、香港公開大学李嘉誠専業進修学院には2年制、香港中文大学専業進修学院と香港城市大学専業進修学院には3年制のHigher Diploma(HD)コースがある。
 職業訓練を目的とした専門学校の中にも日本語学科(2年制)を開講している機関があり、選択科目として開講している機関も多数ある。
 大学院レベルでは、香港中文大学、香港大学が、博士課程まで日本研究専攻を開講している。香港理工大学にも修士課程(メディアコミュニケーション専攻)があったが、2017年に学生の募集を停止した。また、香港大学専業進修学院は、修士相当の学位が取得できる日本語教育専攻コースを2012年から開講している。

学校教育以外

 学校教育以外の機関の学習者数は他のどの教育段階よりも多く、2018年の日本語教育機関調査によると香港の全機関所属学習者の65%余りを占めている。機関としては、大学の校外課程(専業進修学院)と民間の日本語教育機関があり、校外課程を設けている大学は、香港大学、香港中文大学、香港城市大学、香港浸會大学、香港理工大学、嶺南大学の6校が確認されている。民間の日本語教育機関は、20校以上あることが確認されているが、香港政府の認可を受けていない学校も相当数あると言われており、正確な数字は把握できていない。

教育制度と外国語教育

教育制度

教育制度

 香港の教育制度は、2009年に大きな教育改革が実施された。2008年までは初等教育段階(義務教育)が6年、中等教育段階が7年(義務教育期3年、中期2年、後期2年)、大学が3年だった。2009年9月から中等教育を前期3年、後期3年とし、2012年入学生より大学を4年制に改編した。同時に、後期中等教育修了時に受験する、大学に進むための統一試験「香港中學文憑HKDSE)」が導入された。学校教育では、広東語、標準中国語(香港では普通話と言う)、英語の3言語のどれを教育言語にするかは各学校が方針を決めている。主に使われている言語は広東語と英語であるが、普通話も、英語同様、小学校1年から必修になっている。

教育行政

 幼稚園から大学まで、香港特別行政区政府教育局の管轄下にある。

言語事情

 香港の公用語は中国語と英語である。日常生活では広東語が広く使用され、普通話と英語を場面に応じて使い分ける環境にある。香港政府は教育方針として、「両文三語」(英中国語の読み書きができ、会話では広東語・英語・普通話ができること)を推進している。
 また、公的機関内や中国以外の国との商取引では依然として英語が使われているが、中国経済の急成長、中国からの旅行者の増加という社会現象を反映して、商業・サービス業の分野では普通話が通じるようになってきている。
 香港政府統計調査部が2019年に発表した住民調査結果(https://www.statistics.gov.hk/pub/B11302662019XXXXB0100.pdf)によれば、6歳から65歳までの5,605,100人のうち、母語が広東語の人の割合は88.8%、標準中国語(普通話)3.9%、その他中国方言3.3%、英語1.4%、その他の言語2.6%となっている。 同統計によると、英語、普通話のどちらかが平均以上にできると回答した人の割合はそれぞれ7割近くとなっている。

外国語教育

 ほとんどの教育機関で小学校から必修科目としての英語教育と北京語(普通話)教育が行われているが、香港ではこれらは「外国語科目」のカテゴリーではない。従って、日本語などいわゆる外国語は、多くの香港の学習者にとって第4、第5の言語である可能性が高い。しかし、香港が国際的な交流の多い都市であり、受験競争の激化も伴って、これらの「外国語」を小学校あるいは幼稚園の時から学ぶ者も少なくないと、ニュースなどで報道されている。

外国語の中での日本語の人気

 英語と北京語(普通話)以外のいわゆる外国語の中では、日本語は、最も人気のある言語と言われていた。その理由は、前述のように、観光やポップカルチャー、和食、日本製品などがある。しかし、2009年ごろから、韓国のテレビドラマやKポップなどがブームとなっており、韓国語学習者も、特に社会人教育部門で急増していると言われていた。しかし、2019年現在、韓国語ブームは落ち着きを見せ、日韓両方の文化を楽しむ学習者も多い。

大学入試での日本語の扱い

 2012年入学予定者より採用された、中等教育修了段階の公開学力測定試験「香港中學文憑HKDSE)」に日本語を含む6か国語(フランス語、ドイツ語、ヒンディー語、スペイン語、ウルドゥー語)が任意選択科目(Category C)として導入され、試験はイギリスの「Cambridge International Examinations(CIE)」ASレベルが採用されている。

学習環境

教材

初等教育

 香港で出版されている子供向け日本語教材としては、『いっしょにあそぼう1ひらがな』、『いっしょにあそぼう2かたかな』、『いっしょにあそぼう3かいわ①』(いずれも2013年、向日葵出版)がある。週に1時間の体験学習的コースでは、特定の教科書を決めず、活動中心に、授業ごとの教材を用意する場合もある。また、正規科目を開講している機関の中には、『まるごと』(三修社)を採用し、さらにICTを中心に据えている機関もある。

中等教育

 市販教材としては『大家的日本語』(スリーエーネットワーク『みんなの日本語』の台湾版、大新書局)が多く使用されている。香港で出版されている年少者向け市販教材としては、『香港少青日語1入門』(2010年、向日葵出版)がある。DVDなどいろいろな素材の使用も奨励されている。香港の教育機関は、私立を筆頭にICT化が進んでおり、オンライン教材・リソースの活用も一般的になりつつある。

高等教育

 初級段階では『大家的日本語』(前出)、『みんなの日本語Ⅰ Ⅱ』スリーエーネットワーク(スリーエーネットワーク)、『みんなの日本語1、2 香港版』(向日葵出版)、『J. Bridge』小山悟(凡人社)、『文化初級日本語』文化外国語専門学校(文化外国語専門学校)などが用いられているほか、機関独自に開発した教材を使っているところもある。中級以上はさまざまな教材が使われている。また、新聞や動画など様々なリソース、ICTなどを活用している機関が多い。

学校教育以外

 『大家的日本語』(前出)、『みんなの日本語Ⅰ Ⅱ』(前出)、『みんなの日本語1、2』(前出)、『J. Bridge』(前出)、『文化初級日本語』(前出)などが用いられているほか、機関独自に開発した教材を使っているところもある。中級以上は、『テーマ別 中級から学ぶ日本語』松田浩志ほか(研究社)を含め、さまざまな教材が使われている。また、高等教育同様、様々なリソースを活用している機関が多い。

IT・視聴覚機材

 コンピューターの普及率は高く、ほとんどの教育機関で、教室内にコンピューターとスクリーンやテレビを設置し、ICTを活用する機関も多い。スマートフォンの普及率が高く、個人で日本のアニメやゲーム、ドラマなどを、インターネットを利用して鑑賞している学習者も多い。日本語能力試験の申込みも、2018年のインターネットによる申込み者数が97%に達している。
 マルチメディア教材としては、「日語自遊行Ⅲ(ようこそ日本へ!)」(前出)のインターネット配信『大家的日本語』、VOICE PENでテキストの一部をなぞると音声が出る仕組みが使われている他、民間日本語学校等は独自にYouTubeなどで動画を配信したり、eラーニングもよく利用されている。

教師

資格要件

初等教育

 資格要件としては特に認められない。英語またはその他の科目の教師が兼務したり、民間の日本語学校の派遣講師が非常勤で教えていたりするケースもある。

中等教育

 中学校(香港では中高一貫教育が行なわれており、共通して「中学」と呼ぶ)の正規の教師になるためには「Certificate of Education, Diploma of Education」、「Postgraduate Diploma in Education」などを高等教育機関で取得する必要がある。香港に日本語の教員資格はなく、他科目の教育課程の学位を取得することになる。日本語教育を導入している学校の中には政府の支援制度「多元學習津貼」を利用して民間の日本語学校の派遣講師を採用しているケースもある。

高等教育

 アシスタント・ランゲージ・インストラクター、並びにランゲージ・インストラクターは修士号以上が必要とされることが多いが、それほど厳密なものではない。講師以上は、博士号を持っていることと学術論文の専門誌での発表、並びに著作物が必要とされる。その他の条件としては、英語で授業ができること、日本語に関しては、ネイティブまたはネイティブに近いレベルを採用基準とする機関が多い。

学校教育以外

 教育機関によって資格要件は異なるが、民間の日本語学校では書類審査及び面接、模擬授業が主な採用基準となっている。広東語あるいは英語で文法説明が聞ける授業を好む学習者も少なくないとのことである。

日本語教師養成機関(プログラム)

 教育学部などで初等・中等教育レベルの教員資格に関連するプログラムを提供している大学が多いが、言語に関しては、英語及び標準中国語(普通話)のみで、それ以外の外国語に特化した教師養成機関及びコースはない。従って、初等中等教育レベルの教員は、他の科目で資格を取った教員が日本語も教えているケースと、学校が民間の日本語学校などと契約して教員を派遣してもらっている場合が多く、後者は私立の学校が多い。このほか、民間の日本語学校で短期コースなどを提供している。

日本語のネイティブ教師(日本人教師)の雇用状況とその役割

 ネイティブ教師の雇用については、高等教育では修士以上の学歴、民間の日本語学校でも、日本語教育能力検定試験、日本での教授歴、日本語教育関係の学位、などを要求する機関もある。

教師研修

 香港日本語教育研究会(以下、研究会)で、経験の浅い教師及び教師を目指す人のための「日本語教育研修会」を2003年から開催している。当初は3か月のコースだったが、2004年11月から6か月のコースとなり、『みんなの日本語(香港版)』を使用した直接法による初級対象の実習研修が行われていた。2015年6月の15期生まで、通算94名が参加証書を授与された。2016年10月からは、『国際交流基金日本語教授法シリーズ』国際交流基金(ひつじ書房)を使用したした、理論編と実習編の2部からなる約8か月間の「集中日本語教師研修」を実施している。日本語教師を目指す人および現役教師を対象に知識習得とスキルアップを目的としたコースである。このほか研究会では、年1回実施される「日本語教育セミナー」、ほぼ月1回開催される勉強会の「月例会」などがある。
 民間の日本語学校では、数校で教師養成のための短期コース(1~2週間)を開講している。

教師会

日本語教育関係のネットワークの状況

  • 香港日本語教育研究会(Society of Japanese Language Education, Hong Kong):
     香港、マカオ地区における日本語教育のネットワーク。日本語教育関係者の親睦、情報交換を目的として1978年に創立され、現在では、日本語教育関係者のみならず、日本関係諸学の研究者にも門戸を開き、香港、マカオ地区の日本語教育・日本研究の発展に寄与する交流の場として、様々な活動を行っている。具体的には毎月の「月例会」(講師による講演・報告会または参加型の日本語教育ワークショップ)に不定期のセミナー、シンポジウムなどが実施されている。1994年から『国際日本語教育・日本研究シンポジウム』を開催し、2018年に第12回を迎えた。世界各国と地域の研究者と教員のための交流と発表の場となっている。また、1997年に『日本学刊』を創刊し、日本語教育、日本研究の研究者に発表の場を提供している。2004年より「香港中高生日本語スピーチコンテスト」を開催している。2007年より正式にNPO法人化され、2008年には国際交流基金のJFさくらネットワークに加入した。2009年3月より国際交流基金さくら中核事業として香港日本語教育セミナーを年1回開催している。また、年少者向けの初等、中等日本語教育が徐々に広がっており、2011年に高校及び副学士課程の日本語成績優秀者の奨学金と日本研究関係のプロジェクト賞を設立した。2004年から「日本語教育グローバルネットワーク」の一員となり、海外の日本語教育の専門家や研究者の方々との交流に努めている。2013年「平成25年度外務大臣表彰」受賞。

最新動向

 2020年10月31日~11月1日に開催予定だった「2020年日本語教育国際研究大会 香港・マカオ(ICJLE2020)」兼「第13回国際日本語教育・日本研究シンポジウム」(主催:香港日本語教育研究会、会場:マカオ大学)は、新型コロナウイルス感染問題により2022年に延期となった。「国際日本語教育・日本研究シンポジウム」は、香港でほぼ隔年開催されているシンポジウムで、香港や日本、中国をはじめとするアジアおよび世界の国や地域から参加・発表があり、香港を中心とした国際的日本語教育ネットワーク形成の場となっている。

日本語教師派遣情報

国際交流基金からの派遣(2020年10月現在)

日本語専門家

 香港日本語教育研究会 1名

国際協力機構(JICA)からの派遣

 なし

その他からの派遣

 民間の日本語学校(日本語教師養成機関) 関連機関や提携機関へ派遣

日本語教育略史

1930年代 東京北タクシー株式会社(正確な名称であるかどうか不明)によって日本語教育実施(日中戦争の勃発により中止)
第二次世界大戦中 軍政下で、学校、ラジオ、新聞等を使って日本語教育実施
1959年 導正日本語学校設立
1961年 遠東書院日本語コース開講
1962年 香港第一日文専科学校開校
1965年 香港大学校外進修学院にて日本語コース(社会人対象)開設
1967年 香港中文大学に「日本語文組」創設
1968年 在香港日本総領事館に日本語講座創設
1973年 香港中文大学進修学院に日本語コース設置
民間団体、宗教関係の学校、成人教育機関等にも日本語コースの開設、増設が相次ぐ
1976年 香港理工学院(現、香港理工大学)に「三種言語秘書コース(Trilingual Secretarial Studies)」創設
1978年 香港大学ランゲージセンターに日本語講座が設立
1980年 香港大学ランゲージセンターにて2単位が取得可能なコース開設
1984年 日本語能力試験の実施(香港日本語教育研究会が実施機関となる)
1985年 香港大学文學院に日本学科開設。日本研究専攻が可能に
1988年 香港城市理工学院にて国際商業(International Business)専攻の学生を対象に必修の日本語コース開設
1993年 香港理工学院が大学に昇格し、3年制の「言語ビジネス学位コース」設立
香港大学日本学科が日本研究学科となる
1995年 香港科技大学にて日本語教育開始
1998年 香港城市大学専上学院語文学部に日本語学科設置
2001年 香港理工大学にて大学院レベルのディプロマコース開講
2002年 初等・中等教育機関で初めて正規科目として取り入れる中学校が登場
2003年 香港浸會大学(Hong Kong Baptist University)にて日本語教育開始
2005年 香港理工大学にて修士課程「「Master of Arts in Japanese Studies for the Professions (MAJSP))」開講
2006年 香港中文大学にて「日本語教育学修士課程」(4期で終了)、香港大学専業進修学院にて大阪外国語大学との提携による修士課程「日本語・日本文化専修プログラム」が開講(1期で終了)
香港大学文學院に外国語・文化学部(現代語言及文化学院:School of Modern Language and Culture)設立、日本研究学科の所属先となる
2007年 香港城市大学専上進修学院にて副学士コースが主専攻となる
香港城市大学「Course in Specialization of Japanese」が専門科目となる
香港日本語教育研究会がNPO法人の慈善団体として認可され、理事会が設立される
2008年 香港日本語教育研究会が国際交流基金JFにほんごネットワークメンバーに加入
2009年 7月に日本語能力試験(1級、2級)が実施され、年2回の実施となる
11月、香港・マカオ・広東日本研究大学聯合設立
2010年 11月、『日本留学試験』(日本学生支援機構)の実施開始
香港公開大学李嘉誠專業進修学院にて日本語教育開始
2011年 11月、新制大学入学の統一試験(Hong Kong Diploma of Secondary Education:HKDSE)の選択科目としての日本語の第1回目の試験が行われる
香港専業進修学校にて日本語コース開設
2012年 香港大学専業進修学院にて修士相等の学位(Postgraduate Diploma)が取得できるコース開校
大学を4年制に改編
中等教育卒業統一試験で日本語を含む6か国語が選択科目として導入
2013年 香港教育学院(The Hong Kong Institute of Education、2016年より香港教育大学)にて日本語教育開始。言語学及現代言語学部(Department of Linguistics and Modern Language Studies)による自由選択科目が開講。
2014年 香港公開大学李嘉誠專業進修学院にて日本研究高級文憑(Higher Diploma in Japanese Studies)コース開講
2015年 香港理工大学「MAJSP」を「MAJMC(Master of Arts in Japanese Media and Communication)」に改称
2016年 香港教育学院が大学に昇格し、香港教育大学に改称
2017年 香港理工大学「MAJMC」の新規学生募集停止
2019年 香港城市大学専上学院がウーロンゴン大学(University of Wollongong Australia)グループに入り、UOWカレッジ香港(UOWCHK)に改称。同校にて日本研究学科(学士課程)開講
2020年 香港教育大学に日本研究副専攻Minor in Japanese Studies設置

参考文献一覧

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