アイルランド(2020年度)
日本語教育 国・地域別情報
2018年度日本語教育機関調査結果
機関数 | 教師数 | 学習者数※ |
---|---|---|
44 | 67 | 2,803 |
教育機関の種別 | 人数 | 割合 |
---|---|---|
初等教育 | 1 | 0.0% |
中等教育 | 2,194 | 78.3% |
高等教育 | 503 | 17.9% |
学校教育以外 | 105 | 3.7% |
合計 | 2,803 | 100% |
(注) 2018年度日本語教育機関調査は、2018年5月~2019年3月に国際交流基金が実施した調査です。また、調査対象となった機関の中から、回答のあった機関の結果を取りまとめたものです。そのため、当ページの文中の数値とは異なる場合があります。
日本語教育の実施状況
全体的状況
沿革
アイルランドの高等教育機関における日本語教育の本格的な発展は、1986年Dublin City University(DCU)での講座開設に端を発する。2019年現在、日本語を専攻できるのはDCUとUniversity of Limerick(UL)の2校であり、アイルランドの高等教育における日本語教育の中心となっている。
それ以外の機関でも日本語が学べる状況であり、例えば、University College Dublin(UCD)では全学生を対象として選択科目として日本語のモジュールがあり、専攻を越えて日本語が受講できるシステムになっている。
また、2005年6月に日本語講座がいったん打ち切られ、一般向けの公開講座(夜間コース)として続いていたTrinity College Dublin(TCD)でも、2012年度よりUCD同様、日本語のモジュールが開設され、選択科目として取得できるようになった。
University College Cork(UCC)では2009年にChinese Studiesを中心にAsian Studiesという新しい大学院のコースが立ち上がり、2011年度からは日本コースが加わった。当初は一般向けのCertificateコースのみでスタートしたが、2012年から修士コース、2013年からは学部の学生も単位認定科目として受講できるようになっている。
中等教育に関しては、2000年に教育・技能省が日本語を中等教育強化対象外国語のひとつに選択し、Post-Primary Languages Initiative(PPLI)が設立されて以降、着実に発展してきた。現在は中等教育後期(Senior Cycle、日本の高校に当たる)で日本語教育が行われている。
(*注:Senior Cycleは、Transition Year(TY:高校1年次のいわゆるGap Year)とLeaving Certificateコース(LC:高校2年、3年次にあたり、中等教育修了資格試験のための2年間のコース)からなる。LCコースの日本語は中等教育修了資格試験の受験科目という位置づけであり、TYは数週間~数ヶ月の日本語・日本文化の紹介講座のような位置づけである。)
日本語を教えている中等教育機関は2007年には54校まで増加したが、その後減少し、2019年現在では約30校である。2008年以降の学校数減少の理由は、LCの日本語科目に重点をおくため、TYのみで日本語を教えている学校に対する支援が減らされたことによる。なお、中等教育前期(Junior Cycle)全体のカリキュラム改革が進み、日本語もShort Courseという枠組みの中で選択できるようになり、現在ダブリン地区の2校(正確には1校はShort Courseとは異なる枠組み)で教えられている。
また、夜間コースや民間の学校、Japan Society、Further Education、プライベートで日本語を学ぶ学習者もおり、2009年にアイルランドでの実施が始まった日本語能力試験では、社会人日本語学習者の受験も多い。日本語能力試験は年1回12月のみの実施であるが、2017年度よりDCUからUCDに会場が変更になり、受験申込がオンラインでできるようになったためか、受験者総数が増加傾向にあり、2019年度12月の応募者数は191名、昨年比45%増となった。
背景
1990年代の急速な経済成長や、EU拡大に伴う多方面での諸外国との接触の増大によって他のヨーロッパ言語とともに日本語教育の需要も高まった。また、文化の多様性に対する関心の高まりを背景に、2000年9月にPost-Primary Languages Initiative:(PPLI)が設立され、中等教育機関でそれまで中心的に教えられていたフランス語及びドイツ語以外の外国語(スペイン語、イタリア語、日本語、ロシア語)を強化対象外国語として支援してきた。特に各学校で自主調達の難しいロシア語と日本語の教師をPPLIが雇用して高校に派遣するなど、日本語教育の底辺の拡大に大いに寄与している。
また、Junior Cycle (中等教育前期)のカリキュラム改革が行われ、その過程で通常の科目(Subjects) 以外にShort Courseの枠組みができたことで今後の中等教育へにおける日本語の拡大も期待されている。
高等教育機関に関しては、1980年代中頃に日本語講座が開設されたDublin City University (DCU)を中心に専攻科目としての日本語教育が進められてきた。University College Dublin(UCD)やTrinity College Dublin(TCD)ではモジュール型の選択科目として日本語が受講できるなど、日本語専攻以外の学生も幅広く受講できるようにもなってきている。このように、専攻科目として日本語を学ぶ、他の分野を専門にしながら日本語の継続学習を進めるなど、学習者のニーズに合わせて、選択の幅が広がっていることも高等教育段階の日本語教育が発展してきている理由の一つであろう。
特徴
高等教育に関しては前述の通り、専攻科目、モジュール型の選択科目、あるいは大学内で一般向けに公開されている講座など、学習者のニーズに合わせて選択の幅が広がっている。専攻の場合は、ビジネスや他言語などと平行して専門的に日本語を学ぶことになっており、卒業後の就職など実利的な目的の学習者が多いが、大学院に進学する者もいる。翻訳研究・言語研究の歴史があるDCUに加え、UCCでも日本研究を専攻できるコースが設立され、アカデミックなレベルでの日本語・日本研究の発展が期待される。
一方、中等教育機関では、上述のPPLIの日本語教育支援に加え、日本のポップ・カルチャーやアニメ・マンガに対する若者の関心の高まりもあり、2007年以降拡大した。Transition Year(TY)の日本語クラスでは、アイルランド中で1,000名以上の生徒が日本語や日本文化入門講座を受講している。Leaving Certificate(LC)試験に関しては、以前は日本語が母語あるいは継承語である生徒や日本滞在歴のある生徒が中心だったが、2004年に日本語のシラバスが公開されて以降、外国語科目として一般的に日本語が学ばれるようになり、LCの受験者数も急増した。2006年には55人、2007年には95人、2008年には129名が受験し、2009年は約250名に増加した。2011年以降は250-300名程度に安定している。
最新動向
基本的に小学校、中学校では日本語教育が行われてこなかったが、Junior Cycleのカリキュラム改革に伴い、現在Short Courseとして中学校での日本語コースが始まっている。(但し、主要科目が200時間であるのに対して、日本語はその半分の100時間)。Short Courseとは、地域や学習者のニーズに合わせて特色を持った学校運営ができるように設置された枠組みであり、外国語共通科目の開発は2013年に始まり、2014年秋にフェイズ1が開始、2019年秋のフェイズ5まで段階的に異なる科目が導入されている。評価方法としては、全国統一試験とポートフォリオ評価の二本立で、Junior Cycle Student Award(JCSA)と呼ばれている。当初、教育省はJunior Certificate(統一試験)を廃止し、プロセス重視の各教師によるポートフォリオによる評価方式に変更しようとしたが、教職員組合の強い反対によりこの評価方法に落ち着いたという経緯がある。2019年度現在、2つの中学校で日本語が教えられており、来年度は更に1校増える見込みである。
教育段階別の状況
初等教育
初等教育機関では基本的日本語教育は行われていない。ただし、元JETの教師が個人的に担当クラスで日本語を教えている事例をいくつか聞いている。
中等教育
アイルランドでは、中等教育は前期(Junior Cycle)と後期(Senior Cycle)からなり、Senior Cycleはさらに、高校1年次にあたるTransition Year(TY)と高校2-3年次に当たるLeaving Certificate(LC)コースに分かれている。現在日本語教育が行われているのは、Senior CycleのTYとLCである。TYは、様々な経験を通じて人間的に成長し、将来的な視野を広げて行くことが期待される1年であるので、日本語科目に関しても日本語入門・日本文化体験という位置づけが大きい。本格的に日本語を学ぶのはLCの2年間であるが、到達レベルはCEFR/JF日本語教育スタンダードのA2レベル(A2.1)程度とされている。
アイルランドの中等教育の場合、日本語を科目として採用するかどうか、時間割の中にどう組み込むかなどは各学校に委ねられている。したがって、学校の時間割の都合上、LCの日本語科目が正規の時間ではなく昼休みや放課後に設定される場合もあり、クラスが小規模になってしまったり、途中で日本語をやめてしまう生徒が出たりするなどの原因ともなっている。また、学校に日本語科目がない場合は、毎週土曜日に開講されているSaturday Class(PPLIが主催、2019年現在ダブリン、コークで開講)で学ぶこともできる。
なお、Junior Cycleでも2017年度から日本語が教えられはじめ、それに合わせて日本語の教材サンプルを作成し、各教師への情報提供と研修を実施している。
高等教育
専攻、あるいは単位認定科目として日本語受講できるのは、Dublin City University(DCU)、University of Limerick(UL)、University College Dublin(UCD)、University College Cork(UCC)、Trinity College Dublin(TCD)の5校であるが、機関ごとに様々な特色を持っている。いずれの機関も日本の大学と交換協定を結んでおり、日本との交流が盛んに進められている。特にDCUでは、原則として3年次に全員が日本に1年間提携校に留学することになっており、日本語専攻の学生が高度な日本語力を習得することが期待されている。
また、アイルランドに限らず中等教育と高等教育の繋がりが課題として挙げられるが(「高校で日本語を勉強した学習者が大学で日本語科目を履修する場合また入門からスタートしなければならない」など)、UCDやTCDでは日本語がモジュール科目として設定されているので既習者が日本語レベルに合ったコースを受講できるようになっている。
アイルランドでは日本語教師養成課程を持つ機関はないが、ULでは外国語教育学と日本語という組み合わせで専攻として日本語を受講できるので、実質的に日本語教師養成という位置づけにもなる。
また、UCCではアジア研究コース在籍者用に日本語が履修できるようになっている。
(1)Dublin City University
- 《学士課程》
-
- (ア)応用言語学翻訳学コース(人文社会学部応用言語翻訳学科)
- (イ)国際ビジネスコース(人文社会学部応用言語翻訳学科)
- 《修士課程》
-
- (ウ)応用言語学翻訳学科
- 《博士課程》
-
- (エ)応用言語学翻訳学科
(2)University of Limerick
- (ア)ビジネス学科日本専攻(商学部)
- (イ)現代言語・応用言語学研究科応用言語専攻(人文学部)
- (ウ)成人教育
(3)University College Dublin
2005年よりモジュール制を開始し、どの学部の学生も日本語を単位認定科目として受講することができるようになった。 2016年現在、次のモジュールが開講されている。Japanese1 (A1.1)、Japanese2 (A1.2)、Japanese3A (A2.1)、Japanese3B (A2.2)、Japanese4 (B1)。
(4)Trinity College Dublin
これまでの成人教育(一般向けの夜間講座)に加えて、2012年よりモジュール制を開始し、学部学生が日本語を単位認定科目として受講することができるようになった。 2019年度からの大学の学期再編により、より多くの学生が受講可能な選択科目となった。2019年現在、次のようなクラスが開講されている。
- 1.学部選択授業 A.1.1
- 2.一般向け夜間講座 Introduction(A1.1)、Post-beginner(A1.2)、Intermediate(A2)
(5)University College Cork
次のようなコースで日本語を履修できる。
- 1.アジア研究プログラム(学士課程)・選択科目
- 2.アジア研究プログラム(修士課程)・選択科目
- 3.世界言語コース(学士課程)・選択科目
- 4.スプリングボード・コース アジアビジネス言語文化上級ディプロマコース(一般成人対象)・選択科目
学校教育以外
一般社会人対象の語学学校等で、日本語を教えているところがいくつかあり、学習者は社会人や、大学生等である。高校生が試験勉強のために家庭教師を雇うこともある。また、コミュニティーセンターなどで開かれている各種夜間講座の中にも、日本語コースが開かれているところがある。なお、2019年には、Further Educationにてラグビーワールドカップ向けの日本語講座が開講された。
教育制度と外国語教育
教育制度
教育制度
6(8)-3-3(2)-4制
初等教育が6年間(6~12歳)(4歳から入学可能であり、その場合には8年間)、中等教育が5~6年間(13~18歳)、高等教育が通常4年間(19~22歳)である。
なお、中等教育はJunior Cycle(中等教育前期:日本の中学にあたる)とSenior Cycle(中等教育後期:日本の高校にあたる)からなり、加えてSenior Cycleは、Transition Year(TY)の1年間とLeaving Certificate(LC)の2年間で構成されている。TYの1年間はいわゆるGap Yearで、National Council for Curriculum and Assessment(NCCA http://www.ncca.ie/en/)のガイドラインに沿って学校ごとに独自のカリキュラムが組まれており、LCと直接リンクするものではない。学校によってはJunior Cycle終了後、TYをスキップしてLCに進むことも可能である。また、高等教育機関は4年間であるが、外国語専攻学科などは、3年次はYear Abroadにあたり、海外の提携校に留学する場合も多い。
教育行政
学校の運営母体は教会や地域である。教育科学省直轄の学校もある。しかしどの学校も国のカリキュラムに沿って授業をしている。
言語事情
公用語はアイルランド語(ゲール語)であるが、大多数の国民にとって日常使用する主要言語は英語となっている。公共交通機関や公共の場では、アイルランド語と英語が併記されたり両言語で放送されたりしている。
アイルランド語・英語の学習は、ともに初等教育及び中等教育段階では原則的に義務づけられており、国内には英語で教育が行われる学校、アイルランド語で教育が行われている学校がある。しかし高等教育機関ではほとんどの場合、英語を使用して講義、研究が行われている。
また、近年とくに中東欧(ポーランド、ラトビア、エストニア、リトアニアなど)を中心に移民が増加してきたことを背景に、英語やアイルランド語を母語としない子供たちの教育や子供たちの母語の継承語教育に関する課題が話題に上るようになってきている。こうした状況を受けて、2018年からMother Tongue Conferenceが年に1回開催されるようになった。
外国語教育
公用語であるアイルランド語は、初等教育から必修科目となっている。(但し、アイルランド語は外国語教育の範疇には入らない)中等教育では、伝統的に人気のあるフランス語、ドイツ語に加えて、スペイン語、イタリア語、日本語、ロシア語等が選択肢として加わる。
近年はポーランド語、ルーマニア語、リトアニア語、ポルトガル語、アラビア語などがLearning Cert の受験生を増やしている。その他に数は少ないが、ラテン語、古代ギリシャ語、ラトビア語、チェコ語、ハンガリー語、スロバキア語、ブルガリア語、クロアチア語、オランダ語も受験することができる。Junior Cycle では、ポーランド語、中国語が科目として確立している。(中東欧からの移民の増加を背景に、ポーランド語等の中東欧言語への関心が高まっている)。
中国語は現在LCの学習科目には入っていないが、TYでの普及が目覚ましく、学習機関数、学習者数を伸ばしている。2016年コークの高校で 孔子学院によるShort Courseが開始され、高校への参入の動きを加速させている。
PPLIでは「More Languages, More Options」というスローガンを掲げ、学習者のニーズや関心に合わせて、より多くの外国語の学習機会を提供することを目指している。Junior Cycle のカリキュラム作成過程においても、各外国語間で協働しながら、共通の枠組みを共有し、それを基にそれぞれの言語のシラバスを作成している。その中には、Irish Sign Languageも含まれる。
外国語の中での日本語の人気
フランス語、ドイツ語、スペイン語、イタリア語などのヨーロッパ言語が根強い人気を持ち、中等教育、高等教育での日本語の人気はそれほど高くない。2019年度のLC受験者数を見ると、フランス語、ドイツ語、スペイン語、ポーランド語、イタリア語、ロシア語に続く第7位であるポーランド語ロシア語の場合はそれぞれの言語を母語あるいは継承語とする受験者が多い。また、32年間の歴史を持ち1200人を超える参加者を有するJETプログラムの存在も、日本、日本語、日本文化を広めるのに一役買っていると思われる。
大学入試での日本語の扱い
アイルランドでは、大学入学に際し大学側が個別に入学試験は行っていない。中等教育修了資格(Leaving Certificate)試験の結果が大学入学の基準として用いられている。つまり、各試験の得点のうち上位6科目分がその生徒の「持ち点」となり、それに応じて大学や学部学科を希望し、入学するシステムになっている。なお、このLCの受験科目として日本語も選択できるようになっており、2019年度は274名が日本語科目を受験している。
学習環境
教材
初等教育
日本語教育は基本的に実施されていない。
中等教育
中等教育機関では、日本語のカリキュラム・シラバスに準拠した日本語教科書『NIHONGO KANTAN』(2007年出版)がほぼすべての日本語クラスで使用されているほか、かなの学習に関しては、同シリーズの『Hiragana Kantan』と『Katakana Kantan』を活用する機関が多い。
また、各教師が作成したプリントや宿題、試験などは、PPLIのサイト上で共有できるようになっている。
高等教育
各大学の日本語教育方針、科目の特徴や内容、シラバスに合わせて、各教師が個別に作成した教材を使用したり、市販教材を活用したりしている。機関によってカリキュラムや日本語科目の位置づけが異なるので一概には言えないが、初級レベルの場合は、『まるごと日本のことばと文化』シリーズ 独立行政法人国際交流基金(三修社)、『Genki』シリーズ 坂野永理ほか(The Japan Times)、『Japanese for Busy People』シリーズ 国際日本語普及協会(講談社USA)などが使用されているようである。
学校教育以外
各教師が個別に作成した教材を使用したり、市販教材を活用したりしている。
IT・視聴覚機材
アイルランドでは、広く一般にコンピューターが使用されており、インターネットを通じて日本語情報へのアクセスが容易に行えることから、ある程度の基礎を習得した学習者はこれらのリソースを活用して学習を進めている。インターネット上の日本語のページや日本の動画閲覧を趣味にしている学生などは、日本での流行、マンガやアニメの情報に非常に詳しい。
授業中での使用に関しては、高等教育機関、中等教育機関のほとんどの機関で各教室にプロジェクターとWiFi(またはLAN)が装備されている。学習者一人ひとりがコンピューターを使う必要がある場合は、機関内のコンピューター室やマルチメディアルームを事前に予約し、利用しているようである。また、スマートボード(Interactive Whiteboard)を使用した授業を行っている学校も増えてきている。
教師
資格要件
初等教育
日本語教育は基本的に実施されていない。
中等教育
中等教育機関で日本語教師として雇用される場合、原則としてTeaching Councilに登録することになっている。Teaching Council登録のためには、2年の教職課程(Professional Master of Education:PME)を修了することが必要であるが、加えて登録できる科目は2科目必要であり、大学での専攻と関係したものに限定される。
2017年1月からはTeaching Council登録の要件が変更されことが発表されている。新要件では、大学で日本語を専攻した者だけでなく、次のような要件を満たす人も、PME終了後、教師登録が可能となる。大学で何らかの言語を専攻したか、または言語学や言語教育学などの関連分野を専攻した者で、なおかつ日本語能力試験のN2合格以上の日本語能力を有する者。日本語母語話者で何らかの言語または、言語学、言語教育学などの関連分野を専攻した者。
通常の教師雇用の流れは、Teaching Councilに登録し、各学校が登録教師を採用する形式であるが、日本語に関しては各機関が独自に日本語教師を探し、雇用するということが困難なことから、現段階では日本語教師はPPLIが雇用し、日本語教育が行われている学校に派遣する形をとっている。ただ、2017年のlangauge strategy発表後は教師の資格に関して厳しくなっており、今後雇用する教師は有資格者のみになっていくと聞いている。また、今後はPPLIの雇用から学校による直接雇用への移行が奨励されており、持続可能な外国語コースのために教育省が助成金を出す方策も用意されている。なお、日本語だけでは授業数や学習者数が少ないので、日本語以外の教科を教えられると雇用される可能性が高くなっている。
また、若干名であるが、元JETプログラム参加者で中等教師機関の教師をしている者(他教科で学校に雇用されている教師)の中には、学校側から日本語科目の担当を依頼されTYの日本語を教えている者もいる。
高等教育
国として定めている日本語教師としての特別の資格要件はないが、各大学で独自の基準で選考される。
学校教育以外
それぞれの機関で独自の基準で選考される。
日本語教師養成機関(プログラム)
日本語教師養成を目的とした特別のプログラムは設置されていない。
日本語のネイティブ教師(日本人教師)の雇用状況とその役割
高等教育機関では、DCUには日本人教師が常勤勤務しており、専門的な立場からカリキュラムの作成、授業担当だけでなく、コース運営や交換留学等の実務的な業務、大学院生の指導まで幅広くこなしている。他大学では、日本人ネイティブは非常勤として日本語を教えているが、大学内での日本・日本語関係のイベントでは主要な役割を担っている。現在、大学経営の財政問題等から、受講生が増加した場合でも日本人教師の採用数を増加できない状況である。
中等教育機関に関しては、教師の約3分の1が日本人ネイティブである。PPLIが雇用している教師は、滞在許可等の関係でアイルランド定住日本人であり、教師経験のある者となっている。
教師研修
中等教育の教師を対象とした研修が年に数回実施されているほか、アイルランド日本語教師会によるセミナーや勉強会なども不定期で行われている。また、毎年ではないが、基金日本語センターの短期研修やパリ日本文化会館主催研修の他、基金や各国の日本語教師会主催のオンライン参加可能な研修や研究会にも積極的に参加している。
教師会
日本語教育関係のネットワークの状況
高等教育機関の日本語教育に従事している人たちを核として2000年にアイルランド日本語教師会(JLTI)が設立された。設立目的はアイルランドにおける日本語教育の推進である。また教育・技能省によって設立されたPPLIもJLTIと連携しながら活動を行っている。
JLTIでは、ホームページやFacebook、会員のメーリングリストを使って、様々な情報を提供しているほか、年間を通した活動として毎年3月にアイルランド日本語弁論大会を実施したり、年に数回のセミナーを行ったりしている。
JLTIの活動ではないが、毎年春にダブリン市内で「Experience Japan」という日本語・日本文化に関する大きなイベントが開催されており、日本語教育関係者だけでなく、日本語学習者や在アイルランド日本人、日本や日本文化に関心がある一般の人たちなど、日本人・日本関係者が一堂に会する機会になっている。2017年より毎年秋(10月または11月)にダブリンで「J-Con」という日本文化についてのコンベンションが開かれるようになった。http://jconireland.com
日本語教師会はExperience JapanとJ-Conに参加し、日本語の模擬レッスンを提供したり、様々な年代の参加者への日本語の学習機会の紹介、学習者の相談の受付などを行なっている。
http://experiencejapan.ie/w/?page_id=219
最新動向
2017年12月に教育技能省よりireland’s Strategy for Foreign Languages in Educationが発表された。これは2017年から2026年までの外国語学習の方針を示したものである。その中に記されている4つの目標は、
1. 外国語学習環境をより魅力あるものにし、言語能力の向上を図る
2. より多様で多くの言語が学べるようにし、New Irishの言語を磨く
3. 言語学習の重要性を広く認識させ、外国語の広範な使用を奨励していく
4. 産業界の言語に対する関与を高め、異文化理解を促進する
これらを効率的に確実に進めていくために、2018年にPPLIとは別にLanguage Connectを立ち上げた。(https://languagesconnect.ie/) また、PPLI自体も人員を大幅に増やし、仕事の範囲を拡大しLanguage Strategyにある目標を達成すべく教育技能省や学校と協力しながら業務を行っている。
既にフランス語、ドイツ語、スペイン語では教育技能省雇用の言語アシスタント枠があったが2019年度から日本語にも2名の枠が与えられた。これとは別に、DCUの日本人交換留学生やワーキングホリデーで滞在している学生の要望に応え、ボランティアで各高校に日本語アシスタントを派遣している。
評価・試験日本語学習者の到達度を測るために高校3年生の時にLearving Certificationという試験が存在する。これは高校卒業試験という位置付けであり、大学入学に際してその成績を科目の一つとして提出することができる。レベルはHigher LevelとOrdinary Levelの2種類ある。Ordinary Levelの試験は相対的に易しく、満点を取ってもHigher Levelの60%にしか値しないため、通常の生徒はHigher Levelを受験する。ちなみに2019年度の受験者はHigher level 208名、Ordinary Level 66名であった。試験は6月下旬に行われ、成績はH1~H8まで分かれており、H5以上が合格となる。2019年度の日本語の平均点は70,5で、ほぼ9割の学生が合格ラインに達していた。ここ3年間の受験者数は、2017年度296名、2018年度296名、2019年度274名となっている。
日本語能力試験は2009年度から年に一回行われているが、アイルランドでは受験者数も少なく、特に日本語能力の位置づけとして使用されてはいない。
日本語教師派遣情報
国際交流基金からの派遣(2019年10月現在)
日本語上級専門家
アイルランド教育・技能省 1名
国際協力機構(JICA)からの派遣
なし
その他からの派遣
(情報なし)
シラバス・ガイドライン
2004年に高校修了資格試験を実施するにあたって、シラバスが公表された。
日本語教育略史
1986年 | Dublin City Universityにて日本語講座開設 |
---|---|
1990年 | University of Limerickにて日本語講座開設 |
1995年 | University College Dublinにて日本語講座開設 |
1999年 | Trinity College Dublinにて日本語講座開設 |
2000年 | 教育・技能省が日本語を中等教育レベル外国語強化対象言語に選択 アイルランド日本語教師会設立(第1回会合開催) |
2004年 | 中等教育資格試験の「日本語」シラバスが公開 |
2005年 | Trinity College Dublinの日本語講座閉鎖(夜間の一般講座として開設) University College Dublinにてモジュール制開始 |
2007年 | 中等教育の日本語シラバスに準拠した教科書『Nihongo Kantan』作成 |
2009年 | 日本語能力試験開始 |
2011年 | University College CorkでJapanese Studiesのコース設置 |
2012年 | Trinity College Dublinにてモジュール制開始 |
2013年 | Junior Cycle Short Course用の日本語カリキュラム作成作業開始 |
2017年 | Junior Cycle Short Course日本語カリキュラム作成修了 |
2017年 | 教育技能省より外国語教育のためのLanguage Strategy発表 |
2019年 | 教育技能省より正規の日本語アシスタント枠(2名)が付与 |