フィリピン(2019年度)

日本語教育 国・地域別情報

2018年度日本語教育機関調査結果

機関数 教師数 学習者数※
315 1,289 51,530
※学習者数の内訳
教育機関の種別 人数 割合
初等教育 1,217 2.4%
中等教育 11,412 22.1%
高等教育 13,508 26.2%
学校教育以外 25,393 49.3%
合計 51,530 100%

(注) 2018年度日本語教育機関調査は、2018年5月~2019年3月に国際交流基金が実施した調査です。また、調査対象となった機関の中から、回答のあった機関の結果を取りまとめたものです。そのため、当ページの文中の数値とは異なる場合があります。

日本語教育の実施状況

全体的状況

沿革

 フィリピンにおける日本語教育の歴史の始まりは、1923年にフィリピン大学フィリピン言語学学科で1学期だけ行われた日本語講座であると考えられる。計画的かつ組織的に日本語教育が行われたのは、戦時中に南方諸地域へ派遣された日本語教師によるものが始まりで、フィリピンでは、約150名の教師が日本語教育に従事し、公用語としての日本語教育を軍政の一環として推進した。
 戦後、1964年にフィリピン大学東洋言語・言語学学科に日本語講座が開講されたのに続き、1968年に在フィリピン日本国大使館広報文化センター日本語普及講座(初級、中級及び会話クラス)が開設され、急増する日本語学習者に本格的に対応することとなった。しかしながら、近隣のアジア・オセアニア諸国の日本語学習者が増加するなかで、1970年代から1980年代にかけて、日本語学習者の数はそれほどの伸びを示さなかった。
 1990年代に入り、米国との基地協定の廃止や当時の政権による国語重視の方針が打ち出されると、フィリピノ語の使用が見直された。さらに、教育省による日本語、中国語等の外国語教育の必要性に対する見解にも変化が見られ、また、近年は日系企業の進出やIT関連、看護・介護などの特定職業分野での人材の需要が刺激となって選択科目として教え始める大学や送り出し機関、語学学校等などでの日本語学習者の数は増えつつある。特に、2019年4月の特定技能人材受入れの制度改正が一因となっている。
 2008年12月に教育省が外国語教育プログラム「Special Program in Foreign Language」の導入を発表し、2009年6月より選択外国語科目としてスペイン語、フランス語、日本語の3言語の教育を各言語の実験校で開始した。それに伴い、一部の私立高校のみで行われていた中等教育機関における日本語教育が公立高校にも取り入れられることとなり、このプログラムの拡大が中等教育レベルの機関数、教師数、学習者数の増加につながっている(詳細は教育段階別の状況【中等教育】の項参照)。

背景

 フィリピンでは、日本との経済格差と地理的近接から、日本語は観光業関連あるいは就労目的といった極めて限定された動機によって学ばれる場合が多かったが、近年になって、若い世代の間に日本のアニメやポップカルチャーに対する興味から、日本語を学び始める学習者が増加し、日本語教育の裾野を広げている。さらに労働人材としての日本への受け入れの動きに合わせて、広い世代で日本での就業の道を具体的に考えられるようになってきている。

特徴

 マレーシア、タイ、インドネシアなどの東南アジア諸国と比較してフィリピンの知識層の関心は概して欧米志向が強いが、日本への関心も徐々に高まりつつあり、日本語学習者も増えている。
 しかしながら、教育行政レベルでは一般的に第二外国語教育への支援や教育内容の質的向上のための具体的施策などが乏しいために、国内では初級後半以降の日本語を学べる機関が極めて限られている。高等教育機関では、選択外国語のひとつとして学ばれる場合がほとんどである。

最新動向

 フィリピンはかねてからIT技術者、看護師・介護士などの人材を日本の労働市場に送りこむことを希望しており、2004年以降日比経済連携協定(EPA)交渉を経て、新規の日本語学習機関が大量に参入した。特にIT関連分野で、研修施設の開設や研修プログラムの開発などが活発になった。
 ただし、2006年9月の日比経済連携協定(EPA)の合意以降、看護師・介護福祉士候補者の日本での国家試験合格という厳しいハードルをクリアさせるため、フィリピン国内での学習到達目標をゼロ初級から始めて日本語能力試験N2に合格する程度まで引き上げようとする日本語関係者も現れる一方、受入条件が緩和されなければ、日本への人材送り込みは実質不可能とする見方もあり、EPAの発効が難航したこともあって、看護師・介護福祉士候補者をめぐる日本語教育の動きは複雑であった。
 また、2006年12月に安倍首相(当時)とアロヨ大統領(当時)の共同声明「親密な両国間の包括的協力パートナーシップ」には人的交流の活発化における日本語教育強化の重要性の認識が盛り込まれ、それを受けて、2007年から在比日本大使館や産業界などで日本語教育推進に向けての議論が行われた。
 2008年12月にはEPAが発効し、2009年5月、フィリピン人看護師及び介護福祉士候補者の第一陣が日本に迎え入れられるに至り、再度日本語教育に注目が集まり始めた。国際交流基金では、EPAに基づくフィリピン人看護師・介護福祉士候補者に対する日本語予備教育事業として、2011年以降毎年、現地研修を実施している。2011年3月から7月、2012年1月から4月は約3か月間の研修であったが、その後研修期間が倍増することになり、2012年12月から2013年6月まで6か月間の研修を実施した。2019年は、11月から2020年5月まで実施予定である。
 2019年4月1日より在留資格「特定技能1号」が開始された。その資格を得るために必要な日本語能力水準を測るテストとして「国際交流基金日本語基礎テスト(以下JFT-Basic)」が活用されており、フィリピンでは他の国に先駆けて、4月よりテストが開始された。

教育段階別の状況

初等教育

 フィリピン日系人会国際学校(私立)においては同小学校、高校で共に日本語が必須科目としてカリキュラムに組み込まれている。

中等教育

 中等教育レベルでの日本語教育は、いくつかの高校(日本の中学校に相当)で行われているに過ぎなかったが、2008年には「21世紀東アジア青少年大交流計画(JENESYSプログラム)」開始に伴い、日本から派遣された若手日本語教師により、マニラ首都圏の7つの高校でも日本語が教えられるようになった。
 2009年、フィリピン教育省が日本語・スペイン語・フランス語を試験的に外国語選択科目としてフィリピンの公立高校で実施することを正式に発表し(「Special Program in Foreign Language」)、国際交流基金マニラ日本文化センター(以下、マニラ日本文化センター)に対して、フィリピン教育省から教師養成等の支援要請があった。2009年4月~5月に現役高校教師(英語科・社会科教師中心)19名を集め、初の教師養成講座が実施された。マニラ日本文化センターから日本事情・文化を中心としたカリキュラムを提案し、研修を受講した19名はJENESYSプログラムで派遣された4名の若手日本語教師と共に、マニラ首都圏の高校で日本語・日本文化の授業を開始し、11校約1,350名の高校生たちが日本語を学び始めた。公教育の中に日本語が位置づけられ、これだけ多くの学習者が学び始めたというのは画期的なことである。しかしながら、更なる発展のために日本語を含むカリキュラムを策定する必要があり、2009年10月、大学で日本語教育に従事するフィリピン人教師とマニラ日本文化センター日本語専門家で「フィリピン中等教育教材作成チーム」が立ち上がり、教材開発が進められた。
 2010年4月~5月の第2回教師養成講座には、前年度から受講している教師に新たな講師が加わり、14校29名の高校教師が拡大版第1期生として参加した。この講座では、選択外国語としての日本語のために新規に作成した教材を用いて、日本語及びその教え方を学んだ。2011年からは地方展開が開始され、日本語実施校はルソン島北部パンガシナンの高校1校、セブ島の高校2校を含む20校に増加し、第2期生の教師研修が開始された。2013年にはパンガシナンの高校1校がさらに加わるとともに、ミンダナオ島ダバオ市の高校1校でも日本語教育が開始され、公立高校における日本語教育導入校は合計25校、教師研修は第4期生が誕生した。2016年には新たにマニラ3校、セブ地域で9校増えて、日本語教育実施校は合計37校になった。2019年、5期生研修の開始に伴い、マニラ、セブ各10校ずつ、計57校、45名の教師が加わり、実施地域も大幅に拡大した。現在、公立高校で日本語教育に従事する教師は130名、2017年の教育省の発表によると学習者は3,020名である。
 フィリピンでは基礎教育段階を2年延長する政策「K to 12」が2013年5月に法制化され(Republic Act No. 10533)、公立高校においては必修科目の「Technology and Livelihood Education」科目(日本の技術家庭に相当)もしくは外国語教育プログラムを含む特別カリキュラムのいずれかを履修することが義務付けられた。2009年度の外国語教育プログラムでは週2時間で2年間のカリキュラムが導入されたが、その後、授業時間数は順次増加している。2016年6月からは「K to 12」に基づく後期中等教育(Senior High school)がフィリピン全土で一斉に開始されたが、外国語教育プログラムに関しては、教育省で検討が進められている段階である。

高等教育

 フィリピンにおける日本語教育は、高等教育機関における選択外国語科目としての履修が中心で、ほとんどの大学は3単位、多くても6単位のコースしかなく、時間数にすれば50~100時間程度、多くても200時間のコースがあるだけだが、ミンダナオ国際大学には42単位、フィリピン大学ディリマン校の言語学部には54単位、マニラ大学には24単位、デ・ラ・サール大学には21単位の日本語コースがある。また、アダムソン大学にはJICA海外協力隊員が派遣され、現地講師とのチームティーチングを行っていた。2007年11月からは計324時間の特別コースが設置されていたが2010年で終了し、2011年末までIT及びコンピューターサイエンス学部においては6単位の必修科目として、他の学部では3単位の選択科目として日本語が導入されていた。2012年3月をもって隊員の派遣は終了したが、同大学での日本語教育はフィリピン人講師により継続されている。
 フィリピン大学及びデ・ラ・サール大学に対して行われてきた国際交流基金の専門家派遣は両校とも2007年をもって終了した。日本語教育の専門課程としては1999年に設置されたトリニティ大学の日本語専攻教育学修士課程に期待が集まったが、同課程は2004年以後開講されていない。フィリピン師範大学では2012年より単位の認定がない選択科目として日本語授業が開始され、2016年からは選択必修科目(6単位)に昇格したが、2019年の段階では開講されていない。

学校教育以外

 現在の日本語教育、特に中上級者向けの教育に関しては、大学等の研究機関よりも民間の日本語教育機関の方が先んじているとは言え、中上級者向けの日本語教育は、フィリピン日本語文化学院(PIJLC)等でしか行われていない。また、民間企業の中には、従業員への集中的な日本語教育(組織内教育)を実施しているケースも増加している。
 また、日本と現地との共同プロジェクトとして、フィリピン大学とJICAによるIT技術センター(UPITTC)や、フィリピン貿易産業省投資委員会(Board of Investments)・日本語センター財団(NCFI)・JICAフィリピン事務所3者の関与する日本語能力習熟プログラム(2009年終了)、カマリネス州によるIT情報センター、労働雇用省職業訓練開発局(TESDA)のLanguage Skills Instituteなどが相次いで開設された。マニラやセブなどの民間企業、特にIT関連企業では日本語教育を定期的に実施しているところもあり、フィリピンへの日本企業の進出に伴い、今後も伸びが期待される。
 また、近年日本語能力試験の受験者が増加しており、特にN4の受験者の増加が著しい。技能実習や特定技能に学生を送り出す機関からの応募者が増えており、今後もこの傾向が続くことが予想される。

教育制度と外国語教育

教育制度

教育制度

 基礎教育はK-6-4-2制。
 大学の就学年数は専攻分野によって違うが、一般的には4年、工学部は5年、医学部と法学部は学部卒業後に入学するシステムである。
 アジアの発展途上国の中では、教育の量的な普及は進んでいるが、全体の教育水準や施設の整備、地域格差の解消等検討を要する点も多く存在する。
 初等教育は1987年憲法により義務無償教育とされ、6歳から12歳までの児童を対象としている。しかし、公立学校サービスの物的人的不足、貧困などの厳しい社会状況のために初等教育を修了できないもの、または修了しても内実の伴わないものが都市部農村部ともに多く存在しており、教育省の統計(2011-2012)によれば、純就学率は初等教育で約97%に達しているが、初等教育を6年間で修了するものは約71%であり、中等教育の就学率は約65%である。そのような状況を救済するための教育政策のひとつとして、ノンフォーマル教育の重視が挙げられる。他には非政府市民組織(NGO)の働きが活発で、より柔軟に学習者のニーズに沿った形で様々な教育プログラムを提供している。
 中等教育では、1988年度から公立中等学校の授業料が無償となった。この無償化に伴い教育機会の均等と拡大を促すこととなったが、その一方で公立学校の教室の不足や教員の質が問題になっている。
 なお、2011年から「K to 12」と呼ばれる教育制度改革がはじまり、2013年5月15日付で法制化された(Republic Act No. 10533)。同制度では、就学前教育(幼稚園、K:Kindergarten)の義務化に加え、中等教育を現行の4年間から、シニアハイスクールの2年を加えた6年間に拡充することが決定した。就学前教育の義務化は2011年6月から、中等教育の6年間カリキュラムへの移行については、2012年6月から段階的に導入が進み、2016年6月にはシニアハイスクールが開講した。

教育行政

 初等教育、中等教育共に教育省管轄下の2局、すなわち初等教育局及び中等教育局が管轄する。
 高等教育は、1994年に旧・教育文化スポーツ省(DECS)より独立した高等教育委員会(CHED)が管轄する。
 また、技術教育技能開発庁(TESDA)が中等教育以後の技術職業教育を管理するほか、地域社会の成人に対する技能指導、訓練及び開発を担当している。民間の日本語講座を含む語学学校、技能研修所なども一般に同庁の管轄下にある。

言語事情

 タガログ語をベースにしたフィリピノ語と英語が公用語。
 フィリピンは、100以上もの言語集団をかかえる多言語国家である。
 フィリピノ語は、公教育とマスメディアの普及に伴い共通語としての機能を果たしつつあるが、語彙の不備等の問題から知識言語としての要件を満たさず、教育、学術界においては英語の占める役割が大きい。
 1974年以降、公教育の全段階において、英語とフィリピノ語によるバイリンガル教育が実施されてきたが、2011年より地方においては小学校3年生まではフィリピノ語ではなく地域の言語による教育機会を提供する政策「Mother-Tongue Based Multilingual Education」が導入されている。同政策は新教育制度「K to 12」にも正式に位置づけられている。2013年現在の教育言語及び言語教育については、以下の通り(DepED Order No. 31, s. 2012及びDepED Order No. 31 s. 2013)。
 初等教育の3年目までは英語及びフィリピノ語以外の科目は全て、第一言語(母語)で実施する。英語の授業は小学校1年生の第3学期から開始、フィリピノ語の授業は第一言語がフィリピノ語以外の地域においては小学校2年生の第2学期より開始する。
 小学校4年生以降は、理系の科目は英語で実施する。
 中等教育からは、引き続き理系の科目は英語で実施するほか、技術家庭に相当する「Technology and Livelihood Education」(TLE)及び音楽、美術、保健体育の授業も英語で実施する。

外国語教育

 第一外国語(公用語):英語。上述の通り、小学校1年生の3学期から開始され、小学校4年生以降は理系科目が、中等教育からは技術家庭や音楽、美術、保健体育の授業も英語で実施される。
 第二外国語:全国的には大学から開始。スペイン語、中国語、日本語等(学部専攻によって必修とされることはあるが、基本的には選択科目)。ただし、2009年より上述のとおり、高校においても選択外国語として日本語、スペイン語、フランス語の導入が始まった。2010年にはドイツ語が、2011年には中国語、2017年には韓国語が追加された。

外国語の中での日本語の人気

 日本への関心は高く、日本語学習者も増えている。
 アニメや漫画人気に伴い、一般に大学の選択外国語の中では、スペイン語、フランス語をしのぎ最も人気が高い。しかし、最近ではKポップやKドラマが圧倒的な人気を誇り、韓国語学習に対する関心が急速に高まってきている。
 アニメや漫画から日本語に興味を持つ人がいる一方で、日本への就労目的のために、日本語を学習する人が増えている。高度人材ビザを取得し、日本人の新卒学生と同じ扱いで日本で就労するケースも見られる。

大学入試での日本語の扱い

 大学入試で日本語は扱われていない。

学習環境

教材

初等教育

 特になし。

中等教育

 教育省の指針に基づき日本語教育を導入している公立高校においては、マニラ日本文化センターが開発した『enTree:Halina! Be a NIHONGOJIN!!』を使用している。

高等教育

 多くの教育機関で、『みんなの日本語』スリーエーネットワーク(スリーエーネットワーク)が採用されているが、近年『初級日本語げんき』坂野永理ほか(ジャパンタイムズ)を使用する機関も増えてきている。

学校教育以外

 多くの送り出し機関では『みんなの日本語』が使われている。
 2012年4月よりマニラ日本文化センターでは『まるごと 日本のことばと文化』国際交流基金(三修社)を使用した一般成人向け日本語科目を開講している。また同教材は日本語センター財団でも使用されている。2019年9月には『まるごと 日本のことばと文化A1 かつどう、りかい』がフィリピンのABIVA Publishing社から出版され、入手が容易となった。

IT・視聴覚機材

 財政的に恵まれたいくつかの高等教育機関や一部の私立中等教育機関では教育現場へタブレットを含む機材の導入が進んでいるが、コンピューターリテラシと日本語教授法を共に身につけた教師は少ない。
 2009年、在フィリピン日本大使館による草の根文化無償資金協力により、日本語センター財団及びミンダナオ国際大学に日本語学習用機材等が寄贈され、eラーニング・プログラムが開始された。マニラ日本文化センターでは、2013年より日本語学習啓発のために、Facebook “Nihongo for Every Juan”を展開、国際交流基金がウェブ上に提供している「みなと」のコースも開講している。
▼参考
https://www.facebook.com/NihongoforEveryJuan/

教師

資格要件

初等教育

 他教科を教えている教師が、日本語も担当しているケースがほとんどである。

中等教育

 初等教育同様、他教科を教えている教師が担当しているが、フィリピン政府の新方針に沿って日本語が導入された公立高校については、同校所属の教師でマニラ日本文化センターの研修を受講した者に限定される。私立高校においては、専属の日本語教師を雇用する学校や非常勤講師の雇用、民間日本語学校からの非常勤講師の派遣等で日本語教育専属の教員が登用されているケースが見られる。

高等教育

 大学あるいは民間の日本語学校で日本語を学んだあと、日本に留学し、その後、本格的に日本語を教え始めるケースが多い。国際交流基金の日本語教師研修に参加することも教師としてのキャリアデベロップメントへの大きな足がかりとなっている。しかしながら、特に地方では日本語教師が不足しており、元文部科学省国費留学生が専門外にも関わらず日本語を教えていることが少なくない。日本語能力試験(JLPT)N4に満たない運用力の教師が教えている場合も稀ではない。

学校教育以外

 大学あるいは民間の日本語学校で日本語を学んだあと日本語を教え始めるケースや、日本に技術研修生等として訪れ、その後日本語教師になるケースが多い。大手の民間学校や送り出し機関では、N3以上の教師が教えているが、日本語能力試験(JLPT)N4に満たない運用力の教師が教えている場合も稀ではない。

日本語教師養成機関(プログラム)

フィリピン日本語文化学院(PIJLC)及び財団法人日本語センター(NCF

 1998年より開講。このコースは従来国際交流基金派遣の日本語専門家が担当していたが、同学院への派遣が2002年8月をもって打ち切られたため、同学院の教育顧問であるフィリピン人講師と邦人講師が引き継ぐこととなった。2003年には当地在留日本人を対象とする75時間のコースが開講され、9名が修了した。2004年からは、フィリピン人を対象とするコース、日本人を対象とするコースがそれぞれ開講された。

日本語のネイティブ教師(日本人教師)の雇用状況とその役割

 主として日系企業の社員研修や民間の日本語学校において常勤あるいは非常勤枠で日本人教師が雇用されている。配偶者がフィリピン人でフィリピンに在住している人以外にも、ボランティアあるいは民間の日本語学校からの派遣など、様々な枠組みで日本人が日本語教師としてフィリピンに来ている。しかしながら雇用形態が不安定な場合も少なくない。

教師研修

 フィリピンでは、教師研修の機会は非常に限られており、フィリピン人の日本語教育専門家の育成、教師全体の日本語力・教授能力の底上げが大きな課題とされている。
 マニラ日本文化センターは、2005年9月より「日本語教育研究コース」を開講した。その後、2007年2月より順次、「日本語教師ブラッシュアップコース」、「日本語教育学概論講座」、「日本語教授法実習講座」を実施した。2009年からは「日本語教授法実習講座」及び「テーマ別教授法講座」を実施している。
 さらに、地方の教師支援の一環として2009年から2013までフィリピン中部のセブ市においても同講座を実施しており、2011年から2012年まで北部のバギオ市において同講座を開講した。
 また、フィリピン人教師の日本語運用能力の底上げを目的とした教師対象日本語講座「先生の日本語・初級講座」を2007年10月よりスタートした。2008年には初級に加えて「上級講座」及び「初中級講座」を開講した。2010年からは通年にわたる「中級講座」を開講している。2013年は、「上級講座」「中級講座」を開設している。また、7月から8月にかけては、2011年から2018年にかけては、JLPT説明と練習を兼ねた講義レクチャーをセブ及びマニラにおいて、N2からN5まで開催していたが、2019年よりJFT-Basicの説明会等に力点を移している。
 さらに、2012年度からはJFスタンダードに準拠した教材『まるごと 日本のことばと文化』を使用した講座を担当できるフィリピン人教師の養成を目的にした、教師養成講座をマニラや他の地域で実施するとともに、2013年度からは同教材の教え方をまとめた教師向けマニュアルの開発を進めている。
▼参考
http://jfmo.org.ph/marugoto-teaching-materials/
 2019年4月に開始された在留資格「特定技能」等で日本に滞在する外国人のために開発された「JF生活日本語Can-do」を学習目標とした日本語教材を使用し、生活日本語を教えるための教授法研修を2020年4月以降に行う予定である。
 将来的には、これらの教師を対象とした研修講座の受講生の中からフィリピンの教育機関で指導的役割を果たす人材を輩出することを目的としている。  そのほか、マニラ日本文化センターはアドバイザー事業として現職日本語教師を対象とする年次日本語教育フォーラム(年2回)や日本語教育研究交流会、日本語教育に関する情報提供、情報交換を行うと共に、教師ネットワークの形成を図っている。
 2019年11月は、マニラ日本文化センターが主催し、米国プリンストン大学の佐藤慎司氏を招聘し、日本語教育におけるコミュニティの活用について講義とワークショップを行った。また、中等教育における日本語教育の展開を新しいミッションとして、2009年から高校教師を対象とした研修を行っている。

現職教師研修プログラム(一覧)

教師会

日本語教育関係のネットワークの状況

 2000年にマニラ首都圏でフィリピン人日本語教師会(Association of Filipino Nihongo Teachers)が発足した。同会の初代会長はフィリピン日本語文化学院(通称:PIJLC比日友好財団が設立した民間日本語学校)・日本語センター財団(在比日本大使館の日本語講座が1997年にPIJLCに移管されたもので、実質的に両校はひとつの組織)双方の校長である。同会は、会員をフィリピン人に限定し、東芝財団などの支援を得て、会員の日本語能力向上のため現職教師を対象とする奨学金を設けたり、会員に同学院・財団の図書を貸し出したりするなど、地道な活動を行っている。2003年度から、会員によるプロジェクトとしての教材開発や研修会の開催といった活動が始められるようになった。2007年から、11月の日本語教師フォーラムはマニラ日本文化センターと同教師会の共催で行われている。
 セブでは、2008年にヴィサヤ日本語教師会(Association of Nihongo Teachers in the Visayas)が発足した。会員は、フィリピン人、日本人混合で、民間日本語学校で教えている教師や日系企業の従業員を対象とする日本語クラスで教えている教師が中心となっている。
 また、ミンダナオ国際大学の日本語教師が中心となって、2011年12月に、ミンダナオ日本語教師会が設立された。教師会の活動として、第1回及び第3回日本語教育カンファレンスはダバオのミンダナオ国際大学で、第2回はセブで開催され、ヴィサヤ・ミンダナオ地域在住教師の研修機会の提供と教師間ネットワークの強化を目的としている。地域の教師間ネットワークの中心的な役割を担うことが期待されている。
 また、2010年以降マニラ日本文化センターの働きかけに応じて、バギオ市を中心とする北ルソン日本語教師会(Northern Luzon Nihongo Teachers Association、2010年10月発足)、カガヤン・デ・オロ市を中心とする北部ミンダナオ日本語教師会(Nihongo Teachers Association in Northern Mindanao、2010年11月発足)、ボホール日本語教師会(Bohol Association of Nihongo Teachers、2010年12月発足)、ネグロス日本語教師会(Association of Nihongo Teachers in Negros、2011年2月)、ビコール日本語ソサイエティ(Bicol Nihongo Society、2011年1月)が発足した。会員は、いずれもフィリピン人日本語教師が中心である。ただし、発足後あまり活発な活動がなされていない教師会がほとんどある。

最新動向

日本語教師等派遣情報

国際交流基金からの派遣

日本語上級専門家

 国際交流基金マニラ日本文化センター 2名

日本語専門家

 国際交流基金マニラ日本文化センター 7名(うち1名はセブ島に派遣)

日本語指導助手

 国際交流基金マニラ日本文化センター 1名

生活日本語コーディネーター

 国際交流基金マニラ日本文化センター 3名

国際協力機構(JICA)からの派遣

 なし

その他からの派遣

 民間日本語学校(日本語教師養成機関)提携機関へ派遣

シラバス・ガイドライン

 フィリピン教育省が公立高校において日本語を含む外国語教育を試験的に導入することを決定したのに伴い、2009年6月にフィリピン教育省よりガイドライン(DepEDorder No. 55, s. 2009)が発表された。2016年現在、公立高校で実施されている日本語教育は、このガイドラインに準じてマニラ日本文化センターが開発した教材『enTree-Halina! Be a NIHONGOJIN!!-』を用いて授業が行われている。
 なお、2017年現在、初中等教育機関を現在の10年から12年に変更する「K to 12」と呼ばれる教育制度改革が進められており、新カリキュラムに応じた外国語教育シラバスの開発がフィリピン教育省によって進められている。

日本語教育略史

1923年 フィリピン大学フィリピン言語学学科で1学期間のみ開講
1942年 日本軍制下における日本語教育開始(~1944年頃)
1964年 フィリピン大学東洋言語・言語学学科に日本語講座開設
1966年 アテネオ・デ・マニラ大学に日本研究副専攻開設
1968年 フィリピン大学アジアセンター(修士)設置
日本大使館広報文化センター日本語普及講座開設(~1997年)
1979年 JICA、フィリピン大学にJICA海外協力隊派遣開始
1983年 デ・ラ・サール大学 日本研究二重専攻開設
1984年 トリニティ大学 日本研究副専攻開設
日本語能力試験のマニラでの実施開始
1992年 比日友好財団がフィリピン日本語文化学院(PIJLC)を設立
1996年 マニラ日本文化センター開設
1997年 大使館講座、比日友好財団へ移管。日本語センター財団となる
1998年 アテネオ・デ・マニラ大学、デ・ラ・サール大学 日本研究修士課程を開設
マニラ市、1年1校プロジェクト開始
アラウリョ校に公立中等教育機関初の日本語クラス開講
JICA海外協力隊の派遣中止
フィリピン日本語文化学院に教師養成コース開講
1999年 トリニティ大学 日本語・日本語教育専攻修士課程を開設
2000年 マニラ日本文化センターに日本語教育アドバイザー派遣開始
フィリピン人日本語教師会が発足
2002年 日本フィリピンボランティア協会の支援によりダバオにミンダナオ国際大学が開校(日本語・日本研究専攻コース設置)
2003年 JICA海外協力隊日本語教師の派遣再開(セブ・サンカルロス大学)
私立マニラ大学がマニラ首都圏初の日本語学科を開設
デ・ラ・サール大学に国際交流基金より日本語教育専門家派遣開始
2004年 貿易産業省投資委員会、マニラ・サイエンス高校にJICA海外協力隊日本語教師が新規派遣
私立マニラ大学が日本政府「草の根援助」プロジェクトによりUS$70,465相当の日本語教育機材の寄贈を受ける
日比経済協力協定交渉が契機となって、様々な民間機関のなかに、日本語教育を始めるものが増加
JICA技術協力プロジェクトとしてフィリピン大学キャンパス内に、400時間の日本語授業を含むITトレーニングセンターを設置
2005年 貿易産業省投資委員会にJICA海外協力隊日本語教師及びシニア隊員が追加派遣
マニラ日本文化センター主催教師養成講座「日本語教育研究コース」開講
フィリピンにおける日本語能力試験受験者が倍増
南カマリネス州ピリ市に日本語教育センターを併設したITセンターが発足
2006年 比日本語文化学院、日本語センター財団のベアトリス・モヒカ副学長兼校長が旭日小綬章を受章
日本の民間日本語教育機関がフィリピン大学アジアセンターと提携して、一般成人向け日本語学校を設置
2007年 デ・ラ・サール大学、フィリピン大学への国際交流基金からの日本語教育専門家派遣終了
フィリピン日本人商工会議所内に「ビジネス日本語推進委員会」発足
日本大使館がホスト役になる「日本語教育拡充連絡協議会」発足
労働雇用省職業訓練開発局(TESDA)が日本語を含むLanguage Skills Instituteを設置
アダムソン大学にJICA海外協力隊日本語教師が新規派遣
ヴィサヤ地域日本語教師会発足
2008年 マニラ日本文化センター及びフィリピン人日本語教師会が共催で1泊2日の合宿形式での日本語教師フォーラムを実施(以後継続)
2009年 フィリピン教育省が日本語・スペイン語・フランス語を試験的に外国語選択科目としてフィリピンの公立高校で実施することを正式に発表
現役高校教師(英語科・社会科教師中心)19名を集め、初の教師養成講座実施。11校約1,350名の高校生たちが日本語学習開始
マニラ日本文化センターがセブ市で日本語教授法講座を実施(年2回)
ヴィサヤ地域日本語教師会が定期勉強会を開始
ミンダナオ国際大学が「ダバオ日本語フォーラム」を実施
2010年 高校教師対象の第2回教師養成講座に、前年より多い14校29名の教師が参加
2011年 ネグロス、ビコールの2つの地域において、新たに教師会ないしは日本語教育・日本語教育関係者によるネットワーク組織が発足
高校教師を対象とした第3回目となる教師養成講座では、メトロマニラ首都圏以外のセブ及びパンガシナンの参加者を含む20校45名が受講
日比経済連携協定に基づき、訪日が決定したフィリピン人看護師・介護福祉士候補者131名に対する渡日前日本語予備教育を、技術教育技能開発庁(TESDA)の施設を利用して実施
2006年よりフィリピン大学アジアセンター内に設置されていた日本の民間日本語教育機関が、マニラ市内のエミリオ・アギナルド大学に移転
2012年 日比経済連携協定に基づき、訪日が決定したフィリピン人看護師・介護福祉士候補者に対する日本語予備教育事業を、技術開発訓練庁(TESDA)の施設を利用して実施
(第2期研修 実施済み、2012年1月から4月)
(第3期研修 実施済み、2012年12月から2013年6月)
ミンダナオ国際大学主催「第1回フィリピン日本語教育会議」開催
フィリピン師範大学において、選択科目としての日本語教育開始
2013年 ヴィサヤ地域日本語教師会主催「第2回フィリピン日本語教育会議」開催
公立高校教師を対象とした日本語教師養成講座の3期生研修がスタート
2014年 ヴィサヤ地域日本語教師会主催「第3回フィリピン日本語教育会議」開催
2015年 北部ミンダナオ日本語教師会
主催「第4回フィリピン日本語教育会議」開催
日本語能力試験が7月、12月の年2回実施に変更
2016年 ヴィサヤ地域日本語教師会主催「第5回フィリピン日本語教育会議」開催
公立高校教師を対象とした日本語教師養成講座の4期生研修が、マニラ及びセブでスタート(マニラ15名、セブ19名)
フィリピン師範大学の日本語科目が選択必修化される
日本語能力試験支払申込む者数が年間1万1千人を突破
2017年 日本語能力試験支払申込者数が年間1万4千人を突破
2018年 日本語能力試験支払申込者数が年間1万8千人を突破
2019年 国際交流基金日本語基礎テスト(JFT-Basic)が4月から開始
公立高校教師を対象とした日本語教師養成講座の5期生研修が、マニラ及びセブでスタート(マニラ25名、セブ20名)
日本語能力試験支払申込者数が年間2万3千人を突破。カガヤンデオロで試験を追加実施
『まるごと 日本のことばと文化 A1』現地版出版
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