アイルランド(2022年度)
日本語教育 国・地域別情報
2021年度日本語教育機関調査結果
機関数 | 教師数 | 学習者数※ |
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35 | 48 | 3,084 |
教育機関の種別 | 人数 | 割合 |
---|---|---|
初等教育 | 0 | 0.0% |
中等教育 | 2,644 | 85.7% |
高等教育 | 416 | 13.5% |
学校教育以外 | 24 | 0.8% |
合計 | 3,084 | 100% |
(注) 2021年度日本語教育機関調査は、2021年9月~2022年6月に国際交流基金(JF)が実施した調査です。また、調査対象となった機関の中から、回答のあった機関の結果を取りまとめたものです。そのため、当ページの文中の数値とは異なる場合があります。
日本語教育の実施状況
全体的状況
沿革
アイルランドの高等教育機関における日本語教育の本格的な発展は、1986年Dublin City University(DCU)での講座開設に端を発する。2022年現在、日本語を専攻できるのはDCUとUniversity of Limerick(UL)の2校であり、アイルランドの高等教育における日本語教育の中心となっている。
それ以外の機関でも日本語が学べる状況になっており、例えば、University College Dublin(UCD)では全学生を対象とした選択科目として日本語のモジュールがあり、専攻を越えて日本語が受講できるシステムになっている。
また、2005年6月に日本語講座がいったん打ち切られ、一般向けの公開講座(夜間コース)として続いていたTrinity College Dublin(TCD)でも、2012年度よりUCD同様、日本語のモジュールが開設され、選択科目として取得できるようになった。
University College Cork(UCC)では2009年にChinese Studiesを中心にAsian Studiesという新しい大学院のコースが立ち上がり、2011年度からは日本語がコースに加わった。当初は一般向けのCertificateコースのみでスタートしたが、2012年から修士コース、2013年からは学部の学生も単位認定科目として受講できるようになっている。
中等教育に関しては、2000年にPost-Primary Languages Initiative(PPLI)が設立され、アイルランド教育・技能省が日本語を中等教育強化対象外国語のひとつに選択し、中等教育後期(Senior Cycle、日本の高校にあたる)にて日本語教育が導入され着実に発展してきた。2018年からは中等教育前期(Junior Cycle、日本の中学にあたる)でも日本語教育が始まった。
日本語を教えている中等教育機関は2007年には54校まで増加したが、その後減少し、2022年現在では33校である。2008年以降の学校数減少の理由は、Leaving Certificateコース(LC:高校2年、3年次にあたり、中等教育修了資格試験のための2年間のコース)の日本語科目に重点をおくため、Transition Year(TY:高校1年次のいわゆるGap Year)のみで日本語を教えている学校に対する支援が減らされたことによる。
また、アイルランドでは、夜間コースや民間の学校、Japan Societyなどのグループ、プライベートで日本語を学ぶ学習者もおり、2009年にアイルランドでの実施が始まった日本語能力試験では、社会人日本語学習者の受験も多い。日本語能力試験は年1回12月のみの実施であるが、2017年度よりDCUからUCDに会場が変更され受験申込がオンラインでできるようになったため受験者数も増えてきている。2020年は新型コロナウィルス感染のため中止、2021年は厳しい感染対策の下、受験者数を制限し実施された。
背景
1990年代のアイルランドにおける急速な経済成長や、EUの拡大に伴う多方面での諸外国との接触の増大によって他のヨーロッパ言語とともに日本語教育の需要も高まった。また、文化の多様性に対する関心の高まりを背景に、2000年9月にPPLIが設立され、中等教育機関でそれまで中心的に教えられていたフランス語及びドイツ語以外の外国語(スペイン語、イタリア語、日本語、ロシア語)を強化対象外国語として支援してきた。特に各学校で自主調達の難しいロシア語と日本語の教師をPPLIが雇用して高校に派遣するなど、日本語教育の底辺の拡大に大いに寄与している。
特に2017年にアイルランド教育・技能省(2020年よりアイルランド教育省に変更)によって発表されたLanguages Connect, Ireland's strategy for foreign languages in education 2017–2026 (Languages Connect)はアイルランドにおける初の外国語教育政策であり、アイルランドが多言語である利点を生かし、全ての教育段階における外国語教育の普及を目標としている。PPLIを含む、全ての関連機関は当政策を指針とし事業を実施している。また事業拡大に伴い2019年Post-Primary Languages Initiative の名称がPost-Primary Languages Irelandに変更された。
高等教育機関に関しては、1980年代中頃に日本語講座が開設されたDCUを中心に専攻科目としての日本語教育が進められてきたが、UCDやTCDではモジュール型の選択科目として日本語が受講できるなど、日本語専攻以外の学生も幅広く受講できるようにもなってきている。このように、専攻科目として日本語を学ぶ、他の分野を専門にしながら日本語の継続学習を進めるなど、学習者のニーズに合わせて、選択の幅が広がっていることも高等教育段階の日本語教育が発展してきている理由の一つであろう。
最近では2022年7月にミホル・マーティン・アイルランド首相が訪日、岸田首相と首脳会談を行った。その際、日・アイルランド首脳共同声明が発表され、①国際場裡における同志国としての協働、②両国の経済関係強化、③人的交流の促進が掲げられた。アイルランドでの日本語教育に関しては③人的交流の促進のもと、「文化・芸術における二国間の協力の促進(アイルランド・ハウスでの文化事業など)。日本語・英語教育の推進。」と明記されており、アイルランドにおける日本語教育への関心の高さがうかがえる。
特徴
高等教育に関しては前述の通り、専攻科目、モジュール型の選択科目、あるいは大学内で一般向けに公開されている講座など、学習者のニーズに合わせて選択の幅が広がっている。専攻の場合は、ビジネスや他言語などと平行して専門的に日本語を学ぶことになっており、卒業後の就職など実利的な目的の学習者が多いが、大学院に進学する者もいる。翻訳研究・言語研究の歴史があるDCUに加え、UCCでも日本研究を専攻できるコースが設立され、アカデミックなレベルでの日本語・日本研究の発展が期待される。
一方、中等教育機関では、上述のPPLIの日本語教育支援に加え、日本のポップ・カルチャーに対する若者の関心の高まりもあり、2007年以降拡大した。TYの日本語クラスでは、2022年現在、アイルランド中で約1,900名以上の生徒が日本語や日本文化入門講座を受講している。LC試験に関しては、以前は日本語が母語あるいは継承語である生徒や日本滞在歴のある生徒が中心だったが、2004年に日本語のシラバスが公開されて以降、外国語科目として一般的に日本語が学ばれるようになり、LCの受験者数も急増した。2006年には55名、2007年には95名、2008年には129名が受験し、2009年は約250名に増加した。2010年は一時的に170名に減少したが、2011年以降着実に増加し2022年は300名程度が受験した。
最新動向
2021年、Languages Connectの一環としてアイルランド教育省が初等教育へlanguage sampler moduleを導入した。本事業は学校やその地域で使われている多様な言語や文化への気付きを促すことで共生社会を後押しし、社会の多文化の理解を促進することを目標としている。また初等教育段階で外国語に触れた児童が中等教育にて外国語を選択する布石としている。2021年、アイルランド全国より500校以上の応募があり、1校が日本語を選択し約160名の児童が日本語を学んだ。2021年度が大成功に終わったため、2022年度はコースは8時間となり、700校以上の応募、日本語は2校で実施される予定である。
また上述の通り、2022年7月ミホル・マーティン・アイルランド首相の訪日を受け、日・アイルランド首脳共同声明が発表され、人的交流の促進の枠組みのもと日本語教育の推進が明記された。
教育段階別の状況
初等教育
前述の通り2021年、アイルランド教育省が初等教育へlanguage sampler moduleを導入した。コースの期間は6週間、週1時間合計6時間、通常の授業時間内に実施された。対象は小学校3年生から6年生で、外国語は日本語を含むフランス語、ドイツ語、スペイン語、イタリア語、ポーランド語、ルーマニア語、アラビア語、中国語、タミル語、ポルトガル語、ウクライナ語、アイルランド手話さまざま々な言語の中から学校が1つ外国語を選ぶことができる。コースの語学講師は既に学校に在籍する教師、もしくは地域の中等教育機関で教えている語学教師、児童の保護者などが担当した。学校の応募、語学講師の斡旋や研修など実務的な支援はPPLIが担当し、助成金はアイルランド教育省が交付した。
中等教育
アイルランドの中等教育では、第二外国語及び選択科目として日本語を学ぶことができる。中等教育は前期(Junior Cycle)と後期(Senior Cycle)からなり、Senior Cycleはさらに、高校1年次にあたるTYと高校2-3年次に当たるLCに分かれている。2016年まではSenior CycleのTYとLCで日本語教育が行われていたが、2019年度からはJunior Cycleでも日本語教育が始まった。 Junior Cycleでは主な外国語であるフランス語、ドイツ語、スペイン語、イタリア語は授業時間が200時間であるのに対し、日本語は基本的にShort Course(SC)と呼ばれる100時間のコースで教えられている。SCは、地域や学習者のニーズに合わせて特色を持った学校運営ができるように設置された枠組みであり、外国語共通科目の開発は2013年に始まり、段階的に選択言語を増やし、2019年に異なる全ての言語が導入された。2022年度現在、3校で日本語が教えられている。
TYは、さまざまな経験を通じて人間的に成長し、将来的な視野を広げて行くことが期待される1年であるので、日本語科目に関しても日本語入門・日本文化体験という位置づけが大きい。2022年度現在、約1,900名の学生がTYで日本語を勉強している。
本格的に日本語を学ぶのはLCの2年間であり、2004年に制定されたシラバスに沿って教えられている。到達レベルはCEFR/JF日本語教育スタンダードのA2レベル(A2.1)程度とされている。ここ数年のLC試験における日本語科目の受験者数は300名程度で安定している。
アイルランドの中等教育の場合、日本語を科目として採用するかどうか、時間割の中にどう組み込むかなどは各学校に委ねられている。したがって、学校の時間割の都合上、LCの日本語科目が正規の時間ではなく昼休みや放課後に設定される場合もあり、クラスが小規模になってしまう、途中で日本語をやめてしまう生徒が出たりするなどの原因ともなっている。また、学校に日本語科目がない場合は、毎週土曜日に開講されているSaturday Class(PPLIが主催、2022年現在ダブリン、コークで開講)で学ぶことができる。
高等教育
専攻、あるいは単位認定科目として日本語受講できるのは、DDCU、UL、UCD、UCC、TCDの5校であるが、機関ごとにさまざまな特色を持っている。いずれの機関も日本の大学と交換協定を結んでおり、日本との交流が盛んに進められている。特にDCUの日本語専攻では、原則として4年次に全員が日本に1年間提携校に留学することになっており、学生が高度な日本語力を習得することが期待されている。また2022年度から始まったFutures Programでは社会・自然科学を主専攻とする学部生がモジュール科目として日本語を選択できるようになっている。
アイルランドに限らず中等教育と高等教育の連関が課題として挙げられるが(「高校で日本語を勉強した学習者が大学で日本語科目を履修する場合また入門からスタートしなければならない」など)、UCDやTCDでは日本語がモジュール科目として設定されているので既習者が日本語レベルに合ったコースを受講できるようになっている。
アイルランドでは日本語教師養成課程を持つ機関はないが、ULでは外国語教育学と日本語という組み合わせで専攻として日本語を受講できるので、実質的に日本語教師養成という位置づけにもなる。
また、UCCではアジア研究コース在籍者用に日本語が履修できるようになっている。
(1)Dublin City University(UCD)
- 《学士課程》
-
- 1.応用言語学翻訳学コース(人文社会学部応用言語翻訳学科)
- 2.国際ビジネスコース(人文社会学部応用言語翻訳学科)
- 3.Futures Program
- 《修士課程》
-
応用言語学翻訳学科
- 《博士課程》
-
応用言語学翻訳学科
(2)University of Limerick(UL)
- 1.ビジネス学科日本専攻(商学部)
- 2.現代言語・応用言語学研究科応用言語専攻(人文学部)
- 3.法学部
- 4.成人教育
(3)University College Dublin(UCD)
2005年よりモジュール制を開始し、どの学部の学生も日本語を単位認定科目として受講することができるようになった。2022年現在、次のモジュールが開講されている。Japanese Language and Culture 1 (CEFR A1.1) 、Japanese Language and Culture 2 (CEFR A1.2)、Japanese Language & Culture 3a (CEFR A2.1)、Japanese Language & Culture 3b (CEFR A2.2Japanese Language & Culture 4 (CEFR B1.1/ B.1.2 )。
(4)Trinity College Dublin(TCD)
これまでの成人教育(一般向けの夜間講座)に加えて、2012年よりモジュール制を開始し、学部学生が日本語を単位認定科目として受講することができるようになった。 2022年現在、次のようなクラスが開講されている。
- 1.学部選択授業 A1、A2.1
- 2.一般向け夜間講座 Introduction(A1.1)、Post-beginner(A1.2)、Intermediate(A2)
(5)University College Cork(UCC)
次のようなコースで日本語を履修できる。
- 1.アジア研究プログラム(学士課程)・選択科目
- 2.アジア研究プログラム(修士課程)・選択科目
- 3.世界言語コース(学士課程)・選択科目
- 4.スプリングボード・コース アジアビジネス言語文化上級ディプロマコース(一般成人対象)・選択科目
その他教育機関
一般社会人対象の語学学校などで、日本語を教えているところがいくつかあり、学習者は社会人や、大学生などである。高校生が試験勉強のために家庭教師を雇うこともある。また、コミュニティーセンターなどで開かれている各種夜間講座の中にも、日本語コースが開かれているところがある。
教育制度と外国語教育
教育制度
教育制度
6(8)-3-3(2)-4制
初等教育が6年間(6~12歳)(4歳から入学可能であり、その場合には8年間)、中等教育が5~6年間(13~18歳)、高等教育が通常4年間(19~22歳)である。
なお、中等教育はJunior Cycle(中等教育前期:日本の中学にあたる)とSenior Cycle(中等教育後期:日本の高校にあたる)からなり、加えてSenior Cycleは、Transition Year(TY)の1年間とLeaving Certificate(LC)の2年間で構成されている。TYの1年間はいわゆるGap Yearで、National Council for Curriculum and Assessment(NCCA http://www.ncca.ie/en/)のガイドラインに沿って学校ごとに独自のカリキュラムが組まれており、LCと直接リンクするものではない。学校によってはJunior Cycle終了後、TYをスキップしてLCに進むことも可能である。また、高等教育機関は4年間であるが、外国語専攻学科などは、3年次はYear Abroadにあたり、海外の提携校に留学する場合も多い。
教育行政
学校の運営母体は教会や地域である。教育科学省直轄の学校もある。しかしどの学校も国のカリキュラムに沿って授業をしている。
言語事情
公用語はアイルランド語(ゲール語)であるが、大多数の国民にとって日常使用する主要言語は英語となっている。公共交通機関や公共の場では、アイルランド語と英語が併記されたり両言語で放送されたりしている。
アイルランド語・英語の学習は、ともに初等教育及び中等教育段階では原則的に義務づけられており、国内には英語で教育が行われる学校、アイルランド語で教育が行われている学校がある。しかし高等教育機関ではほとんどの場合、英語を使用して講義、研究が行われている。
また、近年とくに中東欧(ポーランド、ラトビア、エストニアなど)を中心に移民が増加してきたことを背景に、英語やアイルランド語を母語としない子どもたちの教育や子どもたちの母語の継承語教育に関する課題が話題に上るようになってきている。
外国語教育
公用語であるアイルランド語は、初等教育から必修科目となっている。中等教育では、伝統的に人気のあるフランス語、ドイツ語に加えて、スペイン語、イタリア語、日本語、ロシア語などが選択肢として加わる。Junior Cycle ではその他、ポーランド語、中国語が科目として確立している。(中東欧からの移民の増加を背景に、ポーランド語などの中東欧言語への関心が高まっている)。2022年、ポーランド語、中国語のLCが初めて実施された。
Post-Primary Languages Ireland(PPLI)では「More Languages, More Options」というスローガンを掲げ、学習者のニーズや関心に合わせて、より多くの外国語の学習機会を提供することを目指している。Junior Cycle のカリキュラム作成過程においても、各外国語間で協働しながら、共通の枠組みを共有し、それを基にそれぞれの言語のシラバスを作成している。その中には、Irish Sign Languageも含まれる。
外国語の中での日本語の人気
フランス語、ドイツ語、スペイン語、イタリア語などのヨーロッパ言語が根強い人気を持ち、中等教育、高等教育での日本語の人気はそれほど高くない。LC受験者数では、フランス語、スペイン語、ドイツ語、ポーランド語、イタリア語、ロシア語に続く第7位であるが、その数はここ数年同水準を維持している。JETプログラムは2022年に35周年を迎え、参加者は1,400人を超えたという。彼らの存在は、日本、日本語、日本文化を広めるのに一役買っていると思われる。
大学入試での日本語の扱い
アイルランドでは、大学入学に際し大学側が個別に入学試験は行っていない。LC試験の結果が大学入学の基準として用いられている。つまり、各試験の得点のうち上位6科目分がその生徒の「持ち点」となり、それに応じて大学や学部学科を希望し、入学するシステムになっている。なお、このLCの受験科目として日本語も選択できるようになっており、現在年間300名程度が日本語科目を受験している。
学習環境
教材
初等教育
2021年9月に開始したlanguage sampler moduleを受け、日本語教育を導入する機関があるが、特定の教科書はなく、担当教師の自作教材が使われる場合が多い。PPLI作成の、Language Fold-Outを利用する機関もある。
中等教育
中等教育機関では、前述のLC試験に準拠した日本語教科書『NIHONGO KANTAN』(2007年出版)がほぼすべての日本語クラスで使用されているほか、かなの学習に関しては、同シリーズの『Hiragana Kantan』と『Katakana Kantan』を活用する機関が多い。
また、各教師が作成したプリントや宿題、試験などは、PPLIのサイト上で共有できるようになっている。
高等教育
各大学の日本語教育方針、科目の特徴や内容、シラバスに合わせて、各教師が個別に作成した教材を使用したり、市販教材を活用したりしている。機関によってカリキュラムや日本語科目の位置づけが異なるので一概には言えないが、初級レベルの場合は、『まるごと日本のことばと文化』シリーズ 独立行政法人国際交流基金(三修社)、『Genki』シリーズ 坂野永理ほか(The Japan Times)、『Japanese for Busy People』シリーズ 国際日本語普及協会(講談社USA)などが使用されているようである。
その他教育機関
各教師が個別に作成した教材を使用したり、市販教材を活用したりしている。
IT・視聴覚機材
アイルランドでは、広く一般にコンピューターが使用されており、インターネットを通じて日本語情報へのアクセスが容易に行えることから、ある程度の基礎を習得した学習者はこれらのリソースを活用して学習を進めている。インターネット上の日本語のページや日本の動画閲覧を趣味にしている学生などは、日本での流行、マンガやアニメの情報に非常に詳しい。
授業中での使用に関しては、高等教育機関、中等教育機関のほとんどの機関で各教室にプロジェクターとWiFi(またはLAN)が装備されている。学習者一人ひとりがコンピューターを使う必要がある場合は、機関内のコンピューター室やマルチメディアルームを事前に予約し、利用しているようである。また、スマートボード(Interactive Whiteboard)を使用した授業を行っている学校も増えてきている。
教師
資格要件
初等教育
下記【中等教育】を参照。
中等教育
中等教育機関で教師として雇用される場合、原則としてTeaching Councilに登録することになっている。Teaching Council登録のためには、2年の教職課程(Professional Master of Education:PME)を修了することが必要であり、中等教育機関で日本語教師として勤務する場合も同様である。
2017年1月からはTeaching Council登録の要件が変更されことが発表されている。新要件では、大学で日本語を専攻した者だけでなく、次のような要件を満たす人も、PME終了後、教師登録が可能となる。大学で何らかの言語を専攻したか、または言語学や言語教育学などの関連分野を専攻した者で、なおかつ日本語能力試験のN2合格以上の日本語能力を有する者。日本語母語話者で何らかの言語または、言語学、言語教育学などの関連分野を専攻した者。
通常の教師雇用の流れは、Teaching Councilに登録し、各学校が登録教師を採用する形式であるが、日本語に関しては各機関が独自に日本語教師を探し、雇用するということが困難なことから、現段階ではほとんどの日本語教師はPPLIが雇用し、日本語教育が行われている学校に派遣する形をとっている。そのため、Teaching Councilに未登録であっても教えている教師もいるが、将来的なことを考えるとTeaching Councilに登録し、正規雇用されるようになっていくことが望ましいと考えられている。なお、日本語だけでは授業数や学習者数が少ないので、一つの学校に雇用されるためには日本語以外の教科を教えられる必要があるのが現状である。
また、元JETプログラム参加者で中等教師機関の教師をしている者(他教科で学校に雇用されている教師含む)の中には、学校側から日本語科目の担当を依頼され日本語を教えている者もいる。
高等教育
国として定めている日本語教師としての特別の資格要件はないが、各大学で独自の基準で選考される。
学校教育以外
それぞれの機関で独自の基準で選考される。
日本語教師養成機関(プログラム)
日本語教師養成を目的とした特別のプログラムは設置されていない。
日本語のネイティブ教師(日本人教師)の雇用状況とその役割
高等教育機関では、基本的に日本人ネイティブは非常勤として日本語を教えており、大学内での日本・日本語関係のイベントでは主要な役割を担っている。現在、大学経営の財政問題などから、受講生が増加した場合でも日本人教師の採用数を増加できない状況である。
中等教育機関に関しては、教師の約半数が日本人ネイティブである。Post-Primary Languages Ireland(PPLI)が雇用している教師は、滞在許可などの関係でアイルランド定住日本人であり、教師経験のある者となっている。
教師研修
中等教育の教師を対象とした研修が年に数回実施されているほか、アイルランド日本語教師会によるセミナーや勉強会なども不定期で行われている。近年では各国で実施されるオンライン研修に個別で参加しているようである。
教師会
日本語教育関係のネットワークの状況
高等教育機関の日本語教育に従事している人たちを核として2000年にアイルランド日本語教師会(JLTI)が設立された。設立目的はアイルランドにおける日本語教育の推進である。また教育・技能省によって設立されたPost-Primary Languages Ireland(PPLI)もJLTIと連携しながら活動を行っている。
JLTIでは、ホームページやFacebook、Slackを利用し、さまざまな情報交換をしているほか、年間を通した活動として毎年3月にアイルランド日本語弁論大会又は日本語コンテストを実施したり、年に数回のセミナーを行ったりしている。
また、JLTIの活動ではないが、毎年春にダブリン市内で「Experience Japan」という日本語・日本文化に関する大きなイベントが開催されており、日本語教育関係者だけでなく、日本語学習者や在アイルランド日本人、日本や日本文化に関心がある一般の人たちなど、日本人・日本関係者が一堂に会する機会になっている。
https://experiencejapan.ie/
最新動向
新型コロナウィルスの影響で毎年実施されていたアイルランド日本語弁論大会が中止となり、2021年及び2022年、オンラインにて日本語コンテスト@アイルランドが実施された。
日本語教師派遣情報
国際交流基金からの派遣(2023年3月現在)
日本語専門家
アイルランド教育省 1名
国際協力機構(JICA)からの派遣
なし
その他からの派遣
(情報なし)
シラバス・ガイドライン
2004年に高校修了資格試験を実施するにあたって、シラバスが公表された。
評価・試験
高校修了資格試験がある
日本語教育略史
1986年 | Dublin City Universityにて日本語講座開設 |
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1990年 | University of Limerickにて日本語講座開設 |
1995年 | University College Dublinにて日本語講座開設 |
1999年 | Trinity College Dublinにて日本語講座開設 |
2000年 | 教育・技能省が日本語を中等教育レベル外国語強化対象言語に選択 アイルランド日本語教師会設立(第1回会合開催) |
2004年 | 中等教育資格試験の「日本語」シラバスが公開 |
2005年 | Trinity College Dublinの日本語講座閉鎖(夜間の一般講座として開設) University College Dublinにてモジュール制開始 |
2007年 | 中等教育の日本語シラバスに準拠した教科書『Nihongo Kantan』作成 |
2009年 | 日本語能力試験開始 |
2011年 | University College CorkでJapanese Studiesのコース設置 |
2012年 | Trinity College Dublinにてモジュール制開始 |
2013年 | Junior Cycle Short Course用の日本語カリキュラム作成作業開始 |
2017年 | Junior Cycle Short Course日本語カリキュラム作成修了 |
2017年 | 教育技能省より外国語教育のためのLanguage Strategy発表 |
2019年 | 教育技能省より正規の日本語アシスタント枠(2名)が付与 |