タイ(2022年度)
日本語教育 国・地域別情報
2021年度日本語教育機関調査結果
機関数 | 教師数 | 学習者数※ |
---|---|---|
676 | 2,015 | 183,957 |
教育機関の種別 | 人数 | 割合 |
---|---|---|
初等教育 | 6,597 | 3.6% |
中等教育 | 150,240 | 81.7% |
高等教育 | 19,803 | 10.8% |
学校教育以外 | 7,317 | 4.0% |
合計 | 183,957 | 100% |
(注) 2021年度日本語教育機関調査は、2021年9月~2022年6月に国際交流基金(JF)が実施した調査です。また、調査対象となった機関の中から、回答のあった機関の結果を取りまとめたものです。そのため、当ページの文中の数値とは異なる場合があります。
日本語教育の実施状況
全体的状況
沿革
戦後の本格的な日本語教育は、1960年代中頃、タマサート大学及びチュラーロンコーン大学に日本語講座が設けられたことによって始まり、大学(特にバンコクの総合大学)を中心に行われてきた。1980年代になると、バンコクの総合大学の卒業生の中から日本語教師になる者が増え、徐々に他の総合大学へと日本語教育は広まった。
1980年代後半からは、総合大学だけではなく、各地域にあるラチャパット大学(各地の教員養成大学から発展した地域密着型大学。詳細は【教育制度】欄参照)でも日本語講座を開設するところが増えた。そして、2000年代にはタイ東北部のコンケン大学教育学部に日本語教育プログラムが開設され、日本語教育についての知識と技能を備えた卒業生を毎年輩出するようになった。
2021年度に実施されたJFの機関調査によると、タイにおける日本語学習者は約18万4千人(世界第5位)であるが、その約8割を中等教育機関での学習者が占める。これは、主に以下の理由による。
- 1.1981年に後期中等教育(高校)の第二外国語のひとつ(8つの外国語からひとつを選択)として正式に日本語が加えられたこと
2.2001年に基礎教育カリキュラムの改定によって前期中等教育でも日本語講座の開設が可能になったこと
3.2010年から中等教育機関を対象に「WORLD-CLASS STANDARD SCHOOL」(以下WCSS、詳細は【中等教育】欄参照)という新しい方針が導入され、文科系の生徒に限られていた第二外国語の履修が、理数系も含めた全てのクラスで可能になったこと
4.タイ教育省が、2013年から2018年までの5年間で、日本語教員200名を特別枠で公務員として採用するという決定を下したこと
背景
このような日本語教育の進展の背景には、親日的感情、日本とタイの経済関係の強さ、アニメや歌、コンピューターゲームといった日本のポップカルチャーの流入などが挙げられる。タイに進出している日系企業は、2020年JETRO調査によると5,856社にのぼり、進出企業の増加が認められる。さらに、2013年の一部ビザ免除を受けたタイ人訪日観光客増加も背景にあると考えられる。
また、大学を中心として発展してきた日本語教育の土台があることに加え、近年の中等教育の学習者の伸びには、2008年に発表された『仏暦2551年(西暦2008年)基礎教育カリキュラム』、「WORLD-CLASS STANDARD SCHOOL」という第二外国語重視の方針が強く影響している。2017年にカリキュラムが『仏歴2560年(西暦2017)基礎教育カリキュラム』へと改正されたが外国語教科に関して変更はなかった。
特徴
タイの日本語教育、特に高等教育段階の日本語教育は歴史が古く、日本で学位を取得した優秀な研究者もバンコクを中心とする有力大学に多く在籍している。これらの人材を中心に日本語、日本語教育に関する研究やセミナー、勉強会の実施、日本で出版された教材や参考図書の翻訳など、さまざまな取り組みがなされているが、日本語を教えている高等教育機関と学習者数は横ばい傾向が続いている。
一方、中等教育段階では、2018年の調査までは学習者の顕著な増加傾向が続いていたが、2021年度の調査ではその勢いに鈍化の傾向が見られた。中等教育段階では、学習者は決して日本語が好きだから学習している生徒ばかりでなく、教育省の方針や学校の方針により、第二外国語の学習が義務付けられている場合も多い。こういった学習者は動機付けが希薄で、学習に集中させたり、継続して学習する意欲を持たせたりするのがなかなか難しい場合も多い。
最新動向
- ・中等教育における教師研修について
- 以前は教員の英語スキル向上を目指す、タイ教育省内の機関(ERIC)が教師研修の担当をしていたが、英語のみならずデジタルリテラシーなどの21世紀型スキルも改善し磨いていかなければならないという理由から、2020年にHCEC(人材育成センター)が新たに設立され、研修事業をERICから引き継いだ。
HCECは、中等教育機関に185か所、職業学校(専門学校)にも100か所作る構想を掲げている - ・タイにおける新型コロナウィルスの影響について(2022年12月現在)
- 2022年12月、タイにおいては、入国規制/制限、及び市内でのマスク着用義務などの規制も撤廃されており、規制の面ではコロナ前と変わらない状況となっている。したがって、2022年度は、中等教育機関においてはほぼ通常通りの対面授業が行われている。
高等教育機関においても、機関によってはオンラインで実施されている授業も依然残ってはいるものの、基本的には対面で授業が実施されている。
ほぼ2年間ずっとオンライン授業のみだったことにより、特に高等教育機関などにおいて、大学になじめない学生の増加や、ラーニングロスなどのコロナ禍の副次的問題が顕在化してきている。 - ・教育大学が4年制に
- 2019年度より、教育大学が5年制から4年制に変更となった。それまでは、教育大学を卒業した者は卒業と同時に教員免許が与えられていたが、この変更によって、教員免許を得るために学生は別途試験を受けて合格しなければならなくなった。
- ・韓国語学習者数の増加
- ここ数年の韓国語学習者数の伸びは顕著で、2022年度に初めて大学入試で韓国語を選択した生徒の数が日本語を選択した生徒の数を上回った。(韓国語4344人、日本語4125人)
韓国語は講師不足のせいか、現在はほとんどの中等教育機関で専攻コースのみの開講となっており、選択科目としての韓国語教育はほとんど行われていないが、韓国政府が派遣講師を大幅に増員したり、タイ人講師が順調に育てば、近い将来学習者数でも日本語を上回る可能性がある。
教育段階別の状況
初等教育
初等教育では、日本語教育を行っている機関はまだ少なく、外国語プログラムを持つ学校で、小学校4年生から第二外国語の選択必修科目として教えている。教育方法などを模索している段階である。
中等教育
1981年に日本語は、国立学校の後期中等教育学校(高校)の第二外国語(全部で8言語)の中の1科目に加えられた。2001年に教育省より基礎教育の新カリキュラムが発表され、2008年7月には更に改訂版が公開された。この中で日本語は、8つの学習カテゴリー(タイ語、数学、外国語など)のうちの「外国語科目」のひとつとして位置付けられている。
さらに2010年に中等教育レベルを国際化に対応できる水準にすることを目指したWCSSが導入された。具体的には、教科横断的な科目設置がなされたのだが、日本語教育においては、文科系の生徒に限られていた英語以外の第二外国語の履修が、理数系も含めたすべてのクラスで可能になり、中高における日本語教育が大幅に拡大した。教育省によると2022年現在WCSS認定校は1636校で、評価待ちの機関が428機関あるとのこと。教員は約70%がタイ人だが、日本人教師も30%ほどいる。1994年から教育省との共催で実施してきた「中等学校現職教員日本語教師新規養成講座」が2014年に休止になり、2013年度からは「タイ中等教育公務員日本語教員養成研修」が実施され、4年間で200名の公務員教師候補を育成し2018年度までにタイ国内各校に配属された。これによって、中等教育における日本語教育全体の質的な底上げがなされた。
これら後期中等教育学校(高校)での日本語学習は①週に5コマ~7コマ程度学習する専攻コース、②週に1コマ~2コマ程度の選択科目、③テストは行わないものの単位として認定される、週に1回程度学ぶ日本語クラブの3つの形態があり、前期中等教育学校(中学)では、多くが上記の②選択科目か③日本語クラブのいずれかである。
2022年現在、日本語を教える国立中等教育機関は431機関、学習者数は129,799名という教育省の報告がある。教育省は地域(北部、東北部、南部、バンコクと東部、バンコク周辺と中部)ごとに、日本語センター校(29校)を中心に、キャンプやコンテストなどの各種イベントや教師勉強会を実施するように奨励している。
コンテストについては、以前は、「地方大会→全国大会」という順序で行われていたが、教育省の「各地域と各学校の自立化を促進する」という意向のもと、全国規模のものは廃止となり、地方の教師を中心に、地方完結型で行われるようになりつつある
上述のWCSSの導入を受けて、21世紀の人材育成が教育省においても強く意識され、国際交流基金バンコク日本文化センター(以下、JFバンコク)と教育省の共催で、これからの社会を生きる世代に求められる能力の育成を目指した教育実践として、キャンプ事業が実施されている。本事業は、学習者支援・教師支援、双方の側面を持ち、「国際日本語キャンプ」(2013年、2015年、2018年実施)、タイ国内の生徒を対象とした「インテンシブキャンプ」(2014年、2016年、2017年、2019年実施)、教師を対象とした「教師キャンプ」(2015年~2019年、2021年実施)などからなっている。
キャンプ事業に続く新たな事業として、タイの教育省とJFの共催により、コンピテンシーの育成を目指した授業が実践できる教師を育て、その教師たちを中心としたPLC(Professional Learning Community)の形成を目指して、タイ全土から選ばれた14名の教師を対象に、「中等教育日本語教育リーダー教師育成研修会-コンピテンシーの育成を目指した授業の実践と共有-」という2年間のプロジェクトが現在進行中である。(2022年度と2023年度)
高等教育
JFが実施した2018 年度日本語教育機関調査によると、国立・私立大学を合わせて80以上の大学で日本語教育が行われている。そのうち主専攻学科を持つ大学は、国立が29校、私立が7校である。主専攻学科は文学部や人文(社会)学部に多く設置されている。東北部のコンケン大学は、教育学部に日本語教育専攻課程を設置している。
2020年度時点の情報では、38ある国立のラチャパット大学(地域総合大学)のうち、21校で日本語コースが開講されており、主専攻コースを開講するラチャパット大学は13校ある。観光学科の日本語履修コースも多く、実務日本語への指向も強い。なお、ラチャパット大学や私立大学では日本人教師の占める割合が大きい。そ2019年度からキングモンクット工科大学ラカバン校が日本の高専機構やタイの教育省とともに日本の高等専門学校のシステムをタイに導入すべく新たな課程を開設した。2020年度にはキングモンクット工科大学トンブリ校でも新たな課程が開設された。
修士課程、博士課程に関しては、上記「沿革」に記したとおりである。
日本語主専攻課程(学士号)を開講している高等教育機関は以下の通り(2020年11月時点)
- 中部タイ
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- (国立大学)
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- カセサート大学人文学部日本語学科
- カセサート大学人文学部ビジネス日本語学科(2021年開設予定)
- キングモンクット工科大学(ラーカバン校)産業教育学部日本語学科
- シーナカリンウィロート大学人文学部日本語学科
- シラパコーン大学文学部日本語学科
- スィーパトゥム大学教養学部日本語ビジネスコミュニケーション学科
- タマサート大学教養学部日本語学科(ランシット校)
- チュラーロンコーン大学文学部日本語学科
- ブラパー大学人文社会学部日本語学科
- ラチャモンコン工科大学クルンテープ教養学部外国語学科日本語専攻
- ラチャモンコン工科大学ラタナコシン教養学部外国語学科日本語専攻
- ラームカムヘーン大学タイ・東洋言語学部
- スワンスナンター・ラチャパット大学人文社会学部日本語学科
- チャンカセーム・ラチャパット大学人文社会学部ビジネス日本語学科
- テープサトリー・ラチャパット大学人文社会学部日本語学科
- バーンソムデットチャオプラヤー・ラチャパット大学人文社会学部日本語学科
- プラナコーンシーアユタヤー・ラチャパット大学人文社会学部日本語学科
- ラーチャナカリン・ラチャパット大学人文社会学部日本語学科
- (私立大学)
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- アサンプション大学文学部ビジネス日本語学科
- サイアム大学教養学部日本語コミュニケーション学科
- スィーパトゥム大学教養学部日本語ビジネスコミュニケーション学科
- タイ商工会議所大学人文学部日本語学科
- 泰日工業大学経営学部日本語・経営学(BJ)コース
- パンヤーピワット経営大学教養学部ビジネス日本語プログラム
- ランシット大学教養学部日本語学科
- 北部タイ
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- (国立大学)
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- チェンマイ大学人文学部日本語学科
- ナレースワン大学人文学部東洋言語学科日本語科(ピサヌローク校)
- パヤオ大学教養学部日本語学科
- チェンマイ・ラチャパット大学人文社会学部日本語学科
- チェンライ・ラチャパット大学人文社会学部日本語学科
- ピブーンソンクラーム・ラチャパット大学人文社会学部日本語学科
- (私立大学)
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- パヤップ大学人文学部日本語科
- 東北部タイ
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- (国立大学)
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- ウボンラーチャターニー大学教養学部日本語学科
- コンケン大学人文社会学部日本語プログラム
- コンケン大学教育学部日本語教育課程
- マハーサーラカーム大学人文社会学部日本語学科
- スィーサケート・ラチャパット大学教養理学部人文社会学科日本語プログラム
- ナコーンラーチャシーマー・ラチャパット大学人文社会学部日本語学科
- 南部タイ
-
- (国立大学)
-
- タクシン大学人文社会学部日本語科
- プリンス・オブ・ソンクラー大学(パッタニー校)人文社会学部日本語学科
日本語関連専攻の修士課程を開講している高等教育機関
- チュラーロンコーン大学外国語修士課程(日本語)(20201年に統合予定)
- タマサート大学大学院日本研究科修士課程
- 国立開発行政研究院(NIDA)ビジネス修士課程
- カセサート大学修士課程東洋言語専攻
- チェンマイ大学人文学部日本研究センター日本研究修士課程
日本語関連専攻の博士課程を開講している高等教育機関
- タマサート大学日本研究博士課程開設(2020年開設)
- カセサート大学東洋言語専攻博士課程(2020年開設)
- チュラーロンコーン大学外国語博士課程(日本語)(2021年に統合開設予定)
学校教育以外
民間日本語教育機関では、2021年度の教育機関調査値で2018年調査より学習者が約55%減少した。これはオンライン授業を主に実施している民間教育機関もあるように、オンラインコースや各種メディアを利用した学習の機会が増えていることが一因と考えられる。
教育制度と外国語教育
教育制度
教育制度
6-3-3制。
初等学校(6年間)、前期中等教育機関(3年間)、後期中等教育機関(3年間)。なお、前期普通中学校3年生修了後、職業専門学校(3年間)に進学することもできる。高等教育は、総合大学(4年間)、ラチャパット大学(4年間)、職業高等専門学校(2~3年、4年)などがある。ラチャパット大学とは、教員養成を目的とした師範学校が前身である。この師範学校が、1992年にRajabhat Institute(地域総合大学)となり、その後の省庁再編でRajabhat InstituteはRajabhat University(ラチャパット大学)となった。
大学における教員養成課程は5年制であったが、2019年度より4年制に戻った。義務教育は、1999年の国家教育法改正で9年間となった。
教育行政
言語教育の担当官庁は初等教育から高等教育まで教育省であったが、高等教育に関しては、2019年に新設された高等教育科学研究イノベーション省(The Higher Education, Science, Research and Innovation Ministry:MHESI)に移管された。
言語事情
公用語はタイ語。
外国語教育
第一外国語:英語(必修)。初等学校は1997年より開始。英語は小学校1年次から学習を開始する。
第二外国語:原則として前期中等教育(中学)より開始。大学入試科目は、ドイツ語、フランス語、日本語、中国語、アラビア語、パーリ語、韓国語の7科目から1科目選択。
外国語の中での日本語の人気
2020年の公立中等教育機関学習者数上位5言語は、中国語、日本語、韓国語、フランス語、マレー語、ミャンマー語で、2020年の公立中等教育機関において、第二外国語の学習者数・教師数・機関数は中国語に次いで2位。学習者数の2013年からの日本語の伸び率は2.5倍という報告がある。
大学入試での日本語の扱い
2018年度に導入された新しい大学入試システムTCAS(Thai University Central Admission)は、2023年にはTCAS2023となる予定である。このシステムに従い、受験者は次の4回の選抜チャンスのうち、自分に合った方法で受験することができる。(もし希望大学が①~④全てを実施し、条件を満たすのなら、受験者は全ての選考方法で受験することも可能。)
第1の選考方法 ポートフォリオによる選考 ※弁論大会優勝やN1合格など、かなりのレベルの実績が要求される
第2の選考方法 Quota ※大学が指定する地域に住んでいる生徒のみが出願可能で、日本の推薦入試のような選考方法
第3の選考方法 Admission ※ペーパーテストの点が重視される、もっとも一般的な選考方法で、自分の持ち点と、希望大学希望学部の合格ラインによって1次試験の合否が決まる
第4の選考方法 Direct Admission ※日本でいうと、2次募集的な意味合いを持つ選考方法で、大学独自の試験が実施される
第2回目以降の選考は、GPAX(高校3年間の全科目の平均点)、TGAT(Thai General Aptitude Test)という、English communication, Critical and Logical thinking, Future Workforce Competenciesを測るテストや、TPAT(Thai Professional Aptitude Test)という専門的知識を測るテストが利用される。この中で、日本語は、TPATの1科目に入っており、試験は「基本的な文法を使用する能力(10問)」「コミュニケーション能力(10問)」「書く能力(10問)」「読解力(20問)」を測る計50の問題で構成されている。日本語のほかには、中国語、韓国語、フランス語、ドイツ語、アラビア語、パーリ語がTPAT科目になっている。2017年度まではTPATの前身であるPATは年に2回実施されていたが、2018年度から1回の実施となった。
下表1)は外国語科目として選択できる7つの言語のうち、受験人数が多い上位4つの言語、中国語、韓国語、日本語、フランス語の受験人数を年度ごとにまとめたものである。
2020年度 | 2021年度 | 2022年度 | |
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中国語 | 11,732名 | 10,500名 | 8,725名 |
韓国語 | 3,685名 | 4,023名 | 4,344名 |
日本語 | 5,216名 | 4,996名 | 4,125名 |
フランス語 | 5,164名 | 4,386名 | 3,773名 |
学習環境
教材
初等教育
日本語教育を実施しているそれぞれの学校によって教材は異なる。自作教材を利用している学校や、中等教育用教科書を部分的に利用して教えている学校もある。
中等教育
日本語専攻クラスではほとんどの学校で『あきこと友だち』(JFバンコク)、『みんなの日本語』(スリーエーネットワーク)のどちらかが使用されている。その他、『まるごと』(三修社)を一部併用する学校も増えてきている。『あきこと友だち』は、Can-doで各課の学習目標を設定し、第二言語習得理論を取り入れた構成になっている。出版から10年が経過し、2017年には改訂版が発行された。それに合わせ、2018年に教師用指導書も完成し、JFバンコクサイト内「 教師用リソース」で公開されている。
また、学習時間の少ない選択科目としての日本語クラスには、「こはるシリーズ」が広く使われている。この教科書は、JFバンコクが制作し、泰日経済技術振興協会が出版している。2011年3月に、ひらがな学習用の『こはるといっしょに ひらがなわぁ~い』が、2012年3月に、場面会話と日本の文化事情を学ぶ教科書『こはるといっしょに にほんごわぁ~い1』が、そして、2013年2月には続編の『こはるといっしょに にほんごわぁ~い2』が出版された。日本の文化事情を学ぶユニット用に、副教材のCDがあり、日本を紹介する写真が数多く収められているため、専攻科目として学ぶコースでも活用されている。さらに、続けて2014年に『カタカナスースー』が出版された。
高等教育
初級では、『みんなの日本語』(前出)、『大地』(スリーエーネットワーク)、『初級日本語』(東京外国語大学留学生日本語教育センター)などが使われている。中級以上では、『ニューアプローチ』(語文研究社)、『テーマ別中級で学ぶ日本語』(研究社)、『中級を学ぼう』(スリーエーネットワーク)、『日本語中級』(泰日経済技術振興協会)、『日本語上級』(泰日経済技術振興協会)などが使用されている。また会話のクラスで、『まるごと 日本のことばと文化』(国際交流基金)を使用する学校も増えている。
学校教育以外
タイ語に翻訳された教材は、タイ語版『みんなの日本語』(前出)、タイ語版『J.Bridge』(前出)などの総合教材が広く使われている。ほかにも、漢字や文法、日本語能力試験対策などのスキル別教材の翻訳版が多く出版されている。JF制作のDVD教材『エリンが挑戦!にほんごできます』のタイ語版も泰日経済技術振興協会より出版されている。
JF制作の『まるごと 日本のことばと文化』のタイ語版は、中級1(B1)までが泰日経済技術振興協会から出版されている。
IT・視聴覚機材
視聴覚教材として絵教材や動画が使用される。コンピューターを使って教材作成をする教師は比較的多い。都市部ではインターネットが普及し、情報収集のツールとしての活用が進んでいる。その一方で、地方ではコンピューターの活用が十分にできない学校もあり、都市部と地方の学習環境の違いが存在している。
宿題や授業のフィードバックをインターネット上に掲載し、学習者の自主的な学習を促したり、タブレット型コンピューターを学生に貸し出して授業をしている大学もある。また、作文の授業や異文化交流の一環として日本在住の日本人とE-mailでやりとりをする大学・高校もある。
教師
資格要件
初等教育
2004年に制定された「教育公務員及び教育職員規律法」によって、教員の免許制度が設定されることとなった。(その後一部改訂)免許を申請するための資格は、満20歳以上、学士号またはタイ教員評議会(The Teachers’ Council of Thailand)によって認定されたそれと同等の資格、一定期間以上の教育課程に対応する教育機関における教育実習の修了、の3点である。この資格要件は、初中等教育機関に共通するものである。また、学校種別、教科別にはなっていない。
中等教育
中等教育機関の教師になるための資格要件は、上述の初等教育機関と共通。
国立の中等教育機関(タイでは多くが国立)の専任講師(公務員)になるためには、教員採用試験に合格する必要がある。公務員の人数抑制のため学校との直接契約の教師も多い。以前は、大学で日本語を専攻した日本語教師は少なく、英語やフランス語、タイ語など他教科の教師が、大学の副専攻やその後の学習を経て日本語を教えるようになった者が多かった。
2013年から「タイ中等教育公務員日本語教員養成研修」が開始され、2017年までに日本語能力試験N3レベル以上を持つ200名の日本語教員候補を輩出した。研修参加者は2018年までに公務員になった。
高等教育
大学の日本語学科の卒業生の中から高等教育機関の日本語教師になる者もいる。多くは、日本などの国外または国内の大学院を修了した者である。タイの大学のポストを得るには、修士号以上の高い学位が必要である。大学で職を得てから、博士号取得のために在職でタイの大学の博士課程で学ぶ教師、日本に留学する教師も少なくない。
学校教育以外
各教育機関が独自に雇用している。
日本語教師養成機関(プログラム)
- 1.大学の日本語教員養成プログラム
コンケン大学教育学部(2014年開設)とブラパー大学教育学部で実施していたが、ブラパー大学は2011年から新規募集を中止した。中等教育機関で教える日本語教師養成プログラムは4年制で、最終学年の4年時の後期には、中等教育機関で教育実習を行う。 - 2.「中等学校現職教員日本語教師新規養成講座」 1994―2014年度
JFバンコク、タイ教育省 共催
現職のタイ人公務員高校教師(他教科教師)で、日本語教師になる意志のあるものを対象に実施された。日本語と日本語教授法の研修で、期間は10ヶ月。修了生は270名を超える。日本語以外に自身の専門科目を教えている場合も多い。 - 3.「タイ中等教育公務員日本語教員養成研修」2013年度―2018年度※研修は17年度まで
JFバンコク、タイ教育省共催
タイ教育省は、中等教育機関の第二外国語教師の不足を補うために2013年から600名の外国語教師を養成することにし、うち日本語教師候補は200名であった。年に50名ずつ日本語教師候補が選ばれ、約2年間の研修を受けて公務員の資格を得たあと翌年中等教育機関に配属された。
日本語のネイティブ教師(日本人教師)の雇用状況とその役割
初等教育
日本語を教えている学校は少ないが、初中等一貫教育を行っている学校などで日本語教育が行われているところもある。日本人教師は学校と直接契約で雇用されている。
中等教育
日本からの各種の派遣プログラムによって派遣された教師と、各教育機関が独自に雇用した教師がいる。また、タイ在住日本人のボランティア教師(無給)もいて、タイ人教師のアシスタントとして授業に協力している。初級の日本語指導に加えて、年中行事などの伝統文化及び若者のライフスタイルなど、最新の日本事情の紹介も期待される。
2020年度は新型コロナウィルスの影響で派遣が中止となってしまったが、2014年度から2022年度までの9年間、JFの「日本語パートナーズ事業」が実施され、20歳から69歳までの人材が、タイ人日本語教師や生徒の日本語学習のパートナーとして各地の高校などに派遣されている(約10か月間の派遣)。彼らは教師ではないが、現地教師とティーム・ティーチングを行い、日本語教育を支援するとともに、派遣先校の生徒や地域の人たちに日本文化の紹介を通じた交流活動を実施している。2014年度から2022年度までに派遣された「日本語パートナーズ(長期派遣)」は計468名である。
高等教育
各教育機関が直接雇用している。ほとんどの大学では、日本語教育または関連分野での学士・修士号取得を条件としており、さらに教授経験や日本語教育能力検定試験合格が問われることもある。会話(発音指導を含む)や作文を担当することが多いが、主専攻課程がある機関では中級指導に加え、カリキュラムへの助言や日本の大学との交流事業への協力が期待されることがある。
その他、「大学連携日本語パートナーズ」の制度を利用するなどして、インターンのような形で1か月~半年程度タイの提携大学に送られる日本人日本語教師(学生)が毎年30名程度いる。
学校教育以外
各教育機関が独自に雇用する。初級から中級の指導及び日本語能力試験対策などが期待される。日系企業などの社員に対する日本語教育に関わることもある。
教師研修
現職の日本語教師を対象に実施とした研修には、JFバンコク主催のもの、泰日経済技術振興協会の年会やタイ国日本語教育研究会による月例会、年次セミナーなどがある。タイ国元留学生協会や各大学によるセミナーも活発に開催されている。また、タイ国日本語日本文化教師協会(JTAT)が国際交流基金日本語国際センターと共催で訪日研修を実施している。
現職教師研修プログラム(一覧)
1.JFバンコク,タイ教育省 共催
- タイ人中等教育日本語教師対象
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- 「日本語ブラッシュアップ集中研修」:1年に1回、学校の長期休暇に合わせて約3週間実施される。参加人数は毎回30名程度。
- 「教授法ブラッシュアップ地方研修」:ワークショップ型研修。近年はオンラインで実施することが多く、同じテーマで3回か4回実施される研修の延べ参加人数は200~300名程度。
2.JFバンコク,タイ国日本語日本文化教師協会(JTAT) 共催
- 大学日本語教員向けセミナー
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- 「日本語教育セミナー」:1年に1回、日本語教育研究者を日本から招へいし、新しい知識を得る機会とする。タイ人教員、日本人教員が約半数ずつ計80名前後が参加する。2020年度と2021年度は中止。
3.JF地方派遣専門家による研修会
- 「タイ東北地方日本語教育研修」中等教育機関だけでなく高等教育機関などでも日本語を教えている教師や実習生などを対象に、日本語の教え方などを扱う研修。『まるごと』のコンセプトを広めるセミナーを年に2~3回実施。
- 「マタヨム北部地方研修」北部の中等教育機関で日本語を教えている教師を主な対象とした日本語教育に関するワークショップや研修。年に2~3回程度。
教師会
日本語教育関係のネットワークの状況
現在タイ国内の教師会は下記の6団体。
タイ国日本語日本文化教師協会(JTAT): | タイ国内の大学、ラチャパット大学、高校のタイ人日本語教師を中心とした組織。 |
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タイ国日本語教育研究会(AJLET): | タイで日本語を教える教師の全国組織、日本人教師中心。 |
北部タイ中等教育日本語教師会: | 北部タイの中等教育機関で日本語を教えている教師により構成されている。「北部タイ高校生日本語コンテスト」などを主催。 |
南部日本語教師会: | ソンクラーを中心とした南部地域の各機関の日本語教師により組織されている。 |
北部タイ日本語日本研究大学コンソシアム: | 北部タイで日本語主専攻コース、日本研究修士課程を開講している8機関が参加して、定例会や活発な活動を実施している。 |
イサン大学日本語教育コンソシアム: | タイ東北部の大学教師によるコンソシアム。2018年に設立。 |
タイにおける母語・継承語としての日本語教育研究会(JMHERAT): | 複数の言語と文化で育つ子どものことばとアイデンティティについて考える、保護者や教師などの会。 |
各教師会の活動としては、日本語のセミナーや勉強会の主催、webサイト運営などを行っている。
日本語教師等派遣情報
国際交流基金からの派遣(2023年3月現在)
日本語上級専門家
JFバンコク日本文化センター 1名
日本語専門家
JFバンコク日本文化センター 5名
(2名はタイ中等教育機関勤務)
日本語指導助手
JFバンコク日本文化センター 1名
日本語パートナーズ
2022年度 計73名(長期48名、大学連携25名)
生活日本語コーディネーター
JFバンコク日本文化センター 1名
国際協力機構(JICA)からの派遣(2022年10月現在)
JICA海外協力隊
- ウィチットラピッタヤー中高校 1名
- ムクダウィッタヤヌクーン中高校 1名
- ラーチャシーマーウイッタヤライ中高校 1名
その他からの派遣
日本語教師をタイ国内の中等教育機関や大学に派遣するプログラムは、複数のNPO法人や国際交流団体などにより実施されているほか、民間日本語学校(日本語教師養成機関)が提携している機関に派遣している。また国際協力機構(JICA)が実施するJICA海外協力隊事業で日本語教育担当として各地の中等教育機関に数名が派遣されている。
シラバス・ガイドライン
初等教育
(下記【中等教育】を参照のこと。)
中等教育
タイでは初等教育・中等教育をあわせて基礎教育と位置付けているが、この12年間の教育の学習目標や科目の指針となる「仏暦2544年基礎教育カリキュラム」が2001年11月に発表された。そして、2008年7月にはこのカリキュラムの改訂版とも言える「仏暦2551年基礎教育カリキュラム」が発表された。2001年版との大きな違いは、各学年における到達レベルと学習時間数が具体的に書かれていることである。「ビジョン」「目標」「キー・コンピテンシー」「望ましい資質」「学習水準・指標」「各学年、各学習内容グループの基礎学習構造」「学習成果の測定・評価プロセス」について記載されている。
2017年、「仏暦2560年基礎教育カリキュラム」が公開されたが、外国語教科については2008年に発表されたカリキュラムから変更はなかった。
2023年度にはCBL(コンピテンシー・ベースト・ラーニング)の考えに基づく新たなカリキュラムが発表される予定である。
高等教育
総合大学の日本語主専攻コースでは、これまでの成果に基づきシラバスやカリキュラムは大学独自に設定され、5年ごとに更新されている。新規に主専攻課程を開講する場合は、高等教育科学研究イノベーション省の審査・認可を受ける。
学校教育以外
教育省が定めるガイドラインに沿って、シラバスやカリキュラムを作成する必要がある。認可を受けずに独自に設定している機関もある。
評価・試験
日本語学習者の到達度を測る試験としては、日本語能力試験、また、日本留学希望者のための日本留学試験が実施されている。
日本語能力試験は、毎年2回、7月にバンコクとチェンマイ(北部)で、12月は上記2都市に加えてソンクラー(南部)とコンケン(東北部)で実施していたが、それに加え、2022年度は12月にウボンラチャタニー(東北部)でも実施されることとなった。受験者は2013年度以降、毎年合計3000人程度ずつ増加し、特にバンコクでの受験者増加が目立つ。タイで最も受験者が多いレベルはN5でN4~N1へと続く。2017年度からオンラインでの申込みとなった。
JFT-Basic(国際交流基金日本語基礎テスト)は2020年11月から実施されている。
日本語教育略史
1947年 | ボピットピムック後期中等教育日本語講座開設 |
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1964年 | タイ国元日本留学生協会附属日本語学校日本語講座開設 |
1965年 | タマサート大学日本語講座開設(1982年主専攻) |
1966年 | チュラーロンコーン大学日本語講座開設(1971年主専攻) |
1969年 | 在タイ国日本国大使館広報文化センター日本語学校日本語講座開設 |
1973年 | 泰日経済技術振興協会附属日本語学校日本語講座開設 |
1974年 | 第1回日本語弁論大会開催 |
1976年 | カセサート大学日本語講座開設(1983年主専攻) |
1977年 | チェンマイ大学日本語講座開設(1987年主専攻) |
1980年 | コンケン大学人文学部日本語講座開設(2004年主専攻)、タイ商工会議所大学日本語講座開設(1986年主専攻) |
1981年 | 日本語が後期中等教育課程に正式科目として採用される |
1982年 | プリンス・オブ・ソンクラー大学パッタニー校日本語講座開設(1996年主専攻) |
1983年 | シラパコーン大学日本語講座開設(1997年主専攻) |
1984年 | 日本語能力試験開始(第1回目) ブラパー大学日本語講座開設(1996年主専攻) |
1986年 | ナレースワン大学日本語講座開設(1995年主専攻) タマサート大学日本研究センター創立 |
1987年 | キングモンクット工科大学ラカバン校日本語講座開設(1997年主専攻) |
1988年 | アサンプション大学日本語講座開設(1988年主専攻) タイ国日本語教育研究会設立 |
1989年 | ランシット大学日本語講座開設(1998年主専攻) |
1991年 | JFバンコク日本語センターがバンコク日本文化センターに併設される |
1992年 | 日本語センター、バンコク日本文化センターの「日本語部」へ改組 |
1994年 | 中等学校現職職員日本語教師新規養成講座開始(201404年まで実施から9期実施。1999、2004、2005年度は実施なし) |
1997年 | タマサート大学大学院修士課程「日本研究」研究科開設 |
1998年 | 大学入試科目に日本語が採用される |
1999年 | チュラーロンコーン大学大学院修士課程「日本文学及び日本語学研究科」開設 |
2002年 | シーナカリンウィロート大学人文学部日本語主専攻課程開設 |
2003年 | JTAT(Japanese Teachers Association in Thailand)設立 |
2004年 | 中等教育用日本語教科書『あきこと友だち』完成 コンケン大学教育学部日本語教育学科開講 |
2005年 | JF制作「日本語を話そう」テレビ放映 |
2006年 | 中等学校現職職員日本語教師新規養成講座再開(10期~) |
2007年 | チュラーロンコーン大学大学院修士課程「外国語としての日本語(日本語教師養成プログラム)」開設 泰日工業大学(Thai-Nichi Institute of Technology)開学 |
2008年 | タイ教育省『仏暦2551年(西暦2008年)基礎教育カリキュラム』を発表 日本語教育国際シンポジウム「東南アジアにおける日本語教育の展望」開催 |
2009年 | JTATが法人化され、タイ初の日本語教育関係の学会となるタイ国日本語日本文化教師協会が誕生 ナレースワン大学大学院日本研究コース開設(2013年から募集を休止) |
2011年 | 中等教育選択科目用日本語教科書『こはるといっしょに ひらがなわぁ~い』出版 |
2012年 | 同上『こはるといっしょに にほんごわぁ~い1』出版 教育省、JFバンコク共催 日本語インテンシブキャンプ開催 |
2013年 | 同上『こはるといっしょに にほんごわぁ~い2』出版 チェンマイ大学日本研究修士課程開設 |
2014年 | 同上『カタカナスースー』出版 日本語パートナーズ派遣事業開始 タイ中等教育公務員日本語教員養成研修開始 2013年度―2017年度 中等学校現職職員日本語教師新規養成講座 休止 カセサート大学修士課程東洋言語専攻開設 |
2015年 | 教育省 JFバンコク日本文化センター共催 日本語国際キャンプ開催 |
2016年 | 日本語能力試験オンライン申込み(バンコク、チェンマイで開始) チュラーロンコーン大学日本文化・日本文学博士課程設立 |
2017年 | タイ中等教育公務員日本語教員養成研修終了(2018年度までに公務員教師として各校に赴任) 中等教育用日本語教科書『日本語 あきこと友だち』改訂版出版 |
2018年 | 中等教育用日本語教科書『日本語 あきこと友だち』改訂版 教師用指導書公開 タイ日本語国際キャンプ開催 『まるごと 日本のことばと文化』中級1(B1)まで発刊 |
2020年 | タマサート大学日本研究博士課程開設 カセサート大学東洋言語専攻博士課程開設 国際交流基金日本語基礎テスト(JFT-Basic)実施 |
2021年 | チュラーロンコーン大学外国語:日本語修士課程開設(統合)予定 チュラーロンコーン大学外国語:日本語修博士課程開設(統合)予定 |
2022年 | ウボンラーチャターニー大学で日本語能力試験開始(12月) |