ウクライナ(2022年度)

日本語教育 国・地域別情報

2021年度日本語教育機関調査結果

機関数 教師数 学習者数※
17 105 2,052
※学習者数の内訳
教育機関の種別 人数 割合
初等教育 187 9.1%
中等教育 247 12.0%
高等教育 1,151 56.1%
学校教育以外 467 22.8%
合計 2,052 100%

(注) 2021年度日本語教育機関調査は、2021年9月~2022年6月に国際交流基金(JF)が実施した調査です。また、調査対象となった機関の中から、回答のあった機関の結果を取りまとめたものです。そのため、当ページの文中の数値とは異なる場合があります。

日本語教育の実施状況

全体的状況

沿革

 ウクライナで日本語教育が始まったのはソ連時代の1940年代キーウ国立大学においてであるが、基盤は弱く、消滅と再開を繰り返した。しかし、1991年の独立の頃より、現在中心的役割を果たしている大学数校で本格的な日本語教育が始まり、その後約10年のうちに大学から初等・中等教育機関へと急速に広がった。1996年のNIS諸国派遣日本語教育事業が開始されて以降、教育内容も充実し、全体的な学習レベルは飛躍的に伸びた。
 2008年度よりキーウ国立大学に三菱商事株式会社からの支援が入り、いくつかの日本語講座の開講及び教具・教材の拡充が図られた。また、2007年度よりウクライナ日本センターのプロジェクトとして進められていた『みんなの日本語初級Ⅰ Ⅱ翻訳文法解説ウクライナ語版』が完成した。

背景

 ウクライナと日本の組織的な文化交流は盛んとは言えないが、日本及び日本文化に対する一般的関心は高く、日本語教育熱も高まっている。特に、2014年のマイダン革命後、日本のウクライナへの経済支援は一国としては最大(約2,000億円)になっており、経済をはじめとして、インフラ、医療などさまざまなレベルにおいて日本と関係を深めつつあり、今後の日本語教育のあり方に影響を与えると考えられる。また、2017年はウクライナにおける「日本年」として、大統領令のもとウクライナ全土で日本に関するさまざまな行事が行われている。
 2006年5月よりウクライナ日本センターが一般向けの日本語講座・日本関連のイベントを実施し、図書室を開放し、図書の貸出しを行っている。その結果、特にキーウ市内では日本関連の情報入手が容易になった。
 教育省のガイドラインの中には特に日本語コースの設置基準やカリキュラムはない。英語などの外国語のガイドラインに準じて、各学校または大学が日本語コースをデザインするようである。

特徴

 ウクライナにおける外国語教育は、英語、ドイツ語などの欧州言語に人気があり、日本語はそれほど重視されていない。東洋言語の1つとして教育が行われている。大学ではトルコ語、中国語、韓国語と同じ学科に組み込まれている場合が多い。また、理工、国際関係専攻の大学で選択科目として日本語教育が行われている大学があるのも特徴と言える。2021年度日本語教育機関調査(以下、2021年度調査)によると、学習者数は2,000人余りであるが、その半数以上は高等教育機関で学習している。
 学習動機としては、日本文化(伝統文化、アニメ、文学など)や経済への関心、「東洋語」への語学的な興味などであるが、大学では、留学や就職を目的に日本語を学んでいる学生も多い。
 学習者の数を考慮すると、日本人及び日本人日本語教師の数は極めて少ないため、学習者が日本語に触れる機会が極めて限られている。首都キーウ以外でも日本語教育実施機関が存在し、2020年の新型コロナウイルスの感染拡大以降実施できないでいるものの、日本語能力試験はキーウのほかリヴィウ、ハルキウ、ドニプロ、オデーサ、ミコライフで団体出願が行われていた。これら地方都市においては、日本人及び日本人日本語教師の数は、より一層少ない、またはいない状況である。

最新動向

 2022年現在、ウクライナで最後に行われた日本語能力試験は2019年12月試験で、521名が受験した。最大の受験者数を記録したのはウクライナ情勢が緊迫化する前の2013年12月試験で、受験者数は644名にのぼった。以後の受験者数減少には、クリミア、ルハンスクからの団体出願が行われなくなったこと、モルドバ、ベラルーシなどの国外からウクライナへの出願もなくなったことが影響していると考えられる。国内全体での学習者数に着目すると、2021年度調査では2018年度調査に比べやや減少している。
 高等教育機関で日本語を専攻する学生も、初中等教育機関や学校教育以外の機関など、家庭教師やインターネットを活用した独学など入学前に学習経験がある学生が一部存在し、学習環境の多様化が見られる。
 2017年9月にリヴィウ国立大学に東京外国語大学のグローバル・ジャパン・オフィスが開設され、今後のウクライナ西部地域における学際交流や日本語教育面での展開が期待される。

教育段階別の状況

初等教育

 2021年調査では、キーウ、リヴィウの学校で日本語教育が行われていることが確認されている。また、課外講座として継続的、もしくは断続的に日本語教育が行われている模様。かつてはキーウ近郊の中小都市であるイルピン、チェルカシ、またハルキウなどの地方都市でも日本語教育が行われていたことが確認されたほか、日本語教育及び日本文化の教育を行う学校やキーウ国立言語大学やキーウ国立大学とネットワークを持つ学校もあり、大学院生を非常勤講師として迎えたり、4、5年生の教育実習を受け入れたりしている。ただし、卒業後、大学日本語学科に進学する学生はあまり多くない。

中等教育

 ウクライナの教育制度では初等・中等教育がほぼ一貫教育となっているため、日本語教育を行っている機関では、中等教育段階においても初等教育機関から継続的に日本語教育が行われている。そのため、概要は上記初等教育に同じである。

高等教育

 日本語教育の中心は首都キーウのキーウ国立大学及びキーウ国立言語大学(英語とのダブルメジャー)であるが、選択科目としての日本語講座が開講されている大学もある。また、日本語主専攻を設置した大学はリヴィウ、ハルキウ、ドニプロにも存在するほか、リヴィウ、ハルキウ、ドニプロ、オデーサ、ミコライウには選択科目あるいは社会人を含めた学外から受講可能な日本語講座を開講している大学がある。
 国費留学制度、大学間の交換留学プログラム、及び私費留学などによる訪日歴のある学生が増加し、卒業時の平均到達レベルは伸びている。留学経験のある教師や日本で教師研修を受けた教師の増加も、高等教育機関での日本語教育のレベルを押し上げている。また、2010年代以降、地方都市における学習者のレベルの向上も顕著である。しかし、大学の教育システムが毎年変更されるなど流動的で、かつボローニャ・プロセスへの移行も進んでおらず、教育課程の改善が進んでいない、卒業後、習得した日本語を活かせる職に限りがあるなど、課題は残っている。

その他教育機関

 2006年10月にウクライナ日本センターの日本語講座が開講し、キーウにおける一般学習希望者のための日本語教育を実施している。2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻を受けて一時中断した同講座は、同年4月には再開、2022年度は310名が受講している。受講者の多くは教育機関で日本語を学習したことのない社会人であるが、子どもクラスも開講されている。
その他、社会人や大学入学前の学習者を対象としたコースを開講する大学、民間の語学学校がキーウ、リヴィウ、ハルキウ、オデーサ、ミコライウなどに存在する。

教育制度と外国語教育

教育制度

教育制度

 4-5-2(3)制。
 初等教育が4年間(6または7~10歳)、前期中等教育が5年間(10~15歳。ここまでの9年間が義務教育)、後期中等教育が2~3年間(15~17歳)。「シュコーラ」「ギムナジウム」と呼ばれる11年ないし12年の一貫教育校が多いが、専門性のある後期中等教育機関「リツェ」もある。高等教育は大学(5年間)と、シュコーラ9年生修了後に入学できる高等教育機関として技術・芸術系の専門を勉強する「ウチーリッシェ」(2~4年間)、職業専門学校の「テフニコム」(3~4年間)などがある。
 高等教育では、これまでロシア型の学位システムを採用していたため、日本やヨーロッパの大学と対応させることが困難であった。「ボローニャ・プロセス」と呼ばれるヨーロッパ型の単位認定システムを導入しつつあるが、教育制度はいまだ移行途中にあり、統一されていない。

教育行政

 初等、中等、高等教育機関のほとんどが教育省の管轄下にある。

言語事情

 公用語はウクライナ語であるが、ロシア語も生活言語として広く使用されており、首都キーウに住む者の多くはバイリンガルである。しかし、ウクライナ全土では地域性が見られ、大まかに見ると東部・南部はロシア語、西部はウクライナ語が優勢である。近年は「ウクライナ語」化政策が採られ、教育機関だけでなく、全ての国の機関でウクライナ語の使用が義務付けられている。

外国語教育

 ソ連時代から引き続き外国語教育が盛んである。第一外国語は英語、ドイツ語、フランス語などヨーロッパ言語が主流であるが、アラビア語、トルコ語のほか、日本語、中国語、韓国語などの極東語も人気があり、少しずつ学ばれるようになっている。
 外国語教育が必修になるのは前期中等教育(5年生)から。しかし、大都市では初等教育(1年生)から外国語教育を始める学校も多くなっている。教育機関によって、外国語教育の開始時期及び外国語の種類・数(第2、3言語を開講しているかどうか)も異なる。

外国語の中での日本語の人気

 人気が高いのは英語、ドイツ語、フランス語の順。次にスペイン語、アラビア語と続く。2番目、3番目に習得する外国語として、日本語をはじめ極東語と呼ばれる中国語・韓国語なども人気があるが、中でも日本文化に対して一般的に印象がいいことから、日本語への関心も高い。

大学入試での日本語の扱い

 大学入試で日本語は扱われていない。

学習環境

教材

初等教育

 ウクライナ語による教育省の認定を受けた教材も開発されたが、日本語教育が正規の科目として行われているキーウ市内の学校では使用率は高くない。多くは日本で出版された教科書をベースに教師が独自に作成した教材を利用している。

中等教育

 中等教育機関でも、上記初等教育機関同様の状況である。主に教師が独自に作成した教材を利用している。

高等教育

 ほとんどの教育機関が日本で出版された教材の寄贈を受けて、学生に貸与する形で使用しているが、キーウ、リヴィウ、ハルキウ、オデーサなどの数か所の大学では独自の日本語教材の作成も進められており、既に作成されたものに関してはその使用が見られる地域もある。また、副教材としてウクライナ日本センターで作成された『みんなの日本語Ⅰ Ⅱ翻訳文法解説ウクライナ語版』も、キーウ市内の一部の大学やリヴィウでは活用されている。

その他教育機関

 学校教育以外の機関で使用されている教材についての確実な資料はほとんどない。キーウの語学センター及び個人によるクラスなどでは、日本で出版された教科書を使用している場合が多い。ウクライナ日本センターでは2012年入門クラスより『まるごと 日本のことばと文化』国際交流基金(三修社)を使用している。

IT・視聴覚機材

 授業中DVD、コンピューター、タブレットなどを使用する教師も増えているが、学生にコンピューターを利用させる日本語の授業はほとんど行われていない。

教師

資格要件

初等教育

 原則として日本語学士号(バチェラー、大学4年修了時に取得)を持っていることが条件。ただしパートタイムとして、大学在学中の学生が教師を務めることもよくある。

中等教育

 初等・中等一貫教育のため、上記初等教育に同じ。

高等教育

 日本とは学位システムが違うが、大学常勤講師は 日本語・日本文学か文化(つまり人文科学系)に関する修士号(マギストル、大学5年を修了時に取得)を取得していること、また助教授以上は、Ph.D.相当学位である博士候補生(カンジダット・ナウーク)の資格を持っていることが条件。キーウ国立大学の例では、講師でも通常、博士候補生(カンジダット・ナウーク)の資格が必要であり、博士候補生学位非保持者に関しては、学位を一定期限年内に取得することが望まれている。日本人などの外国人講師の場合は、外国(出身国を含む、ウクライナ以外の国)で取得した学位でも認められるが、ウクライナ人の場合、ウクライナあるいはロシアなどのウクライナの学位システムと似ている国で取得した学位でないと認められないケースが多い。

学校教育以外

 特に資格要件はない。

日本語教師養成機関(プログラム)

 日本語教育を主専攻にしている大学では、外国語教育課程があり、4年、5年次に教育実習を行っている。また、キーウ国立大学には6年制(修士課程)の日本語・日本文学研究課程があり、かつ博士課程の研究が可能である。

日本語のネイティブ教師(日本人教師)の雇用状況とその役割

 現地採用教師が雇用されているケースも見受けられるが、全般的に大学及び初等・中等教育機関では日本人教師が不足している。日本人教師に期待されている役割は、会話など口頭表現、文章表現といったノンネイティブ教師が不得手な分野の指導が主なものである。また、ウクライナ日本センターで専任講師1名(JF派遣日本語専門家)、非常勤の日本人講師2名が教鞭をとっている。

教師研修

 日本語教育を主専攻にしている大学では、外国語教育課程があり、4年、5年次に教育実習を行っている。
 現職教師は、日本で行われているJFの日本語教師研修(長期・短期)に参加を希望する教師が多い。

現職教師研修プログラム(一覧)

特になし。

教師会

日本語教育関係のネットワークの状況

 高等教育機関の日本語教師を中心的な会員とする「ウクライナ日本語教師会」がある。キーウで行事開催などの必要時に会議を開催し、行事の準備などを行っている。キーウでの教師会議で話し合った行事に関わる情報は、教師会で議事録を作成し全国の会員にメールで送っている。  教師会の目的は、教師間のネットワーク構築、日本語・日本語教授能力の向上であり、具体的な活動には9月の日本語弁論大会、12月の日本語能力試験の運営がある。2013年からは日本語キャンプ(キーウ国立言語大学主催事業、教師会は共催として関与)にも協力している。

最新動向

 ウクライナは国土が広く、地域ごとの結束の方が強いが、毎年開催しているウクライナ日本語教師会主催の「日本語弁論大会」や「日本語教育セミナー」などの行事や、「日本語能力試験」の実施により、地域の壁を越えたウクライナ全国の教師間の協力や交流も広がっている。また、キーウでは、月に1回程度であるが、JF派遣専門家が中心となり、現地日本語教師向けの日本語教育勉強会が行われていた。しかしながら、2020年以降は、コロナウイルスの蔓延やロシアによるウクライナ侵攻の影響により各行事の中断を余儀なくされている。
 2022年、ウクライナから日本への避難者及びその支援者を言語やコミュニケーションの面からサポートするため、JFは『いろどり 生活の日本語』入門のウクライナ語版を急遽制作し、公開した。また、日本語国際センターが監修したNHKワールドJAPAN「やさしい日本語」のウクライナ語版、『まるごと 日本のことばと文化』サポート教材のウクライナ語版、近年までウクライナで日本語教育支援に従事していた派遣専門家から日本語ボランティアに向けた日本語を教えるためのヒントとメッセージといった関連情報を特設ウェブページ(日本語、ウクライナ語)にまとめて案内している。

日本語教師派遣情報

国際交流基金からの派遣(2023年3月現在)

日本語専門家

 ウクライナ日本センター 1名(政情不安により日本からオンライン支援)

国際協力機構(JICA)からの派遣

 なし

その他からの派遣

 (情報なし)

シラバス・ガイドライン

 義務教育における外国語教育全般についてのスタンダードが教育省から発行されている。英語、フランス語、ドイツ語、スペイン語では既に教育省が定めたカリキュラムがあるが、日本語にはまだなく、既存のカリキュラムに合わせて開発することが期待されている(これに関しては現在、教育省からの指示で日本語コースに関するスタンダードを一部大学教員が中心となって開発中)。
 ただし、このスタンダードは正規の授業に適用されるもので、課外授業などで日本語教育が行われている学校では各教師が独自のシラバスを作成し、授業を行っている。

評価・試験

 客観的な到達度を測る全国共通の公的試験は実施されていないが、2005年12月よりキーウで日本語能力試験が実施されており、この試験が唯一の客観的な試験である。教育機関の資格認定としての効力はないが、就職などで日本語力の判断基準として使用されている。

日本語教育略史

1940年代 キーウ国立大学で日本語教育が始まるが中断。その後も開始と中断を繰り返す
1990年 キーウ国立言語大学附属東洋語大学で日本語教育(主専攻)開始
(他地方を含む主要大学でも日本語教育開始)
1996年 キーウ国立大学で日本語が主専攻となり、NIS諸国派遣日本語教育事業として日本からの教師の派遣が開始(この時期、他大学及び初等中等教育機関にも日本語教育が広まる)
1996年 ウクライナ日本語教師会の前身であるキーウ日本語教師会が活動を開始。第1回日本語弁論大会開催
2002年 第1回ウクライナ日本語教育セミナー開催(以降、毎年開催)
2005年 キーウで第1回日本語能力試験実施(以降、毎年12月に実施)
2006年 ウクライナ日本センターが活動開始
2009年 第1回全ウクライナ国際公開学術シンポジウム開催(以降、ウクライナ日本語教育セミナーと共同で毎年開催)
2009年9月 第14回ウクライナ日本語弁論大会開催(毎年開催)
2012年9月 東洋世界大学(キーウ)が閉校、日本語科目が所属する文学部は(私立)ウクライナ大学へ編入される
2012年11月 キエフ国立大学言語学院ボンダレンコ・イヴァン教授(日本語学科長)に旭日中綬章、リヴィウ国立工科大学フェドリシン・ミロン准教授(日本語講座長)に旭日小綬章が授与される
2013年4月 第1回GUAM諸国合同日本語弁論大会開催
2013年7月 第1回ウクライナ日本語キャンプ開催(2017年をもって終了)
2013年9月 キーウ国際大学の東洋語選択科目廃止により、日本語講座が消滅
2015年8月 キーウ国立言語大学・元講師でウクライナ日本語教師会初代会長の鄭信一(てん・しんいち)氏に平成27年度外務大臣表彰が授与される
2016年 第21回ウクライナ日本語弁論大会を初めて地方(リヴィウ)にて開催。
2017年9月 リヴィウ国立大学に協定校である東京外国語大学のGlobal Japan Office(GJO)が開設され、GJOコーディネーターが派遣される。
2018年 第23回ウクライナ日本語弁論大会をドニプロで開催(地方開催としては2回目)。
2020年~2022年 2020年に発生した新型コロナウイルス感染症の世界的流行と2022年のロシアによるウクライナ侵攻により、すべての日本語教育機関はオンライン教育に転じる。
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