アメリカ中西部の小さな町での日本語教育

トマス・ジェファーソン・ハイ・スクール
永井 宏美

アイオワ州とは

アイオワ州はアメリカの中西部に位置し、面積145,743㎢の土地に約310万の人口を抱えています。なだらかな土地に広がる大草原は、いかにもアメリカの田園風景といった佇まいを見せ、ハイウェイの両側には見渡す限りトウモロコシ畑が広がっています。土地の90%以上が農業に利用され、トウモロコシ・大豆・豚肉の生産で全米第1位を誇る農業州です。バイオエタノール生産でも全米最大で、バイオテクノロジー・農業機械・食肉加工など農業を基盤とした産業が経済の中心ですが、近年では金融・保険業でも強みを発揮しています。また、4年に1度のアメリカ大統領候補指名党員集会が最初に開かれることから、アイオワ州は政治的に重要な場所とされています。

気候は蒸し暑い夏と乾燥した寒さの厳しい冬に特徴づけられ、春から夏にかけては竜巻や雷雨が多く発生しますが、秋には美しい紅葉が見られます。 アイオワ州の人種構成は白人住民が93%に対しアジア系住民は2%弱で、町中で日本人および日系人を見かけることはほとんどありません。

全米で安全な生活を送ることができる州としても知られているアイオワ州ですが、その理由は高校の卒業率が他州に比べて非常に高く、犯罪の発生率が低いことが挙げられるようです。

シーダーラピッズの日本語教育

アイオワ州にある500の公・私立高校のうち、日本語プログラムを設置している学校は7校です。そのうち3校は私が派遣されているシーダーラピッズにあります。シーダーラピッズは州都のデモインに続き、アイオワ州で第二の町です。アメリカ中西部の小さな町ながらも、暮らしやすい町や子育てのしやすい町として全米トップ5にランクインしています。

シーダーラピッズの日本語プログラムは3校の各アメリカ人日本語教師のもと、毎年計300人前後の学生が日本語を勉強しています。しかし、都市部に比べ日本語教育の規模が非常に小さいうえ、高校の日本語プログラム以外に日本語や日本文化に接する機会はほとんどなく、この地での日本語プログラムの発展は教師個人の力に委ねられているようです。

私の派遣先であるジェファーソン高校は、学生約1600人、教員約100人が在籍する公立校です。日本語は外国語の選択科目のひとつで、昨年度は約80人の学生が日本語を履修していました。日本語を選択する学生の多くは、アニメや漫画、ゲームなど日本のポップカルチャーに強い関心を持っています。

日本語クラス内での主なアシスタント業務は、会話練習、アクティビティと教材作成、文化紹介、宿題のチェック、テストの採点、遅れがちな学生のサポートなどです。学生が授業以外で日本語を話す機会は皆無に等しいので、学生とは日本語でできるだけ多く話すことを日々心がけています。

文化紹介の出張授業

シーダーラピッズの4校の公立高校のうち3校に日本語プログラムがありますが、学生への認知度はまだまだ高くないため、日本語履修者の増加促進が私の大きな役割のひとつとなっています。昨年度は市内の中学校に出張授業に行き、6年生と7年生(日本の小学6年生と中学1年生)の社会と理科のクラスで日本文化紹介のプレゼンテーションを行いました。日本文化の理解・浸透は想像以上に低かったですが、多くの学生が興味を示し積極的に参加してくれました。今年度は出張授業に行くクラスの学習内容に関連した日本の情報を伝え、学生の学習の幅を広げるとともに、日本語プログラムの宣伝にもなるように工夫していくつもりです。より多くのクラスを訪れ、一人でも多くの学生と触れ合い、多様な日本文化を紹介できるよう地道に活動を続けていきたいです。そしてこの活動が日本への興味を持つきっかけとなり、高校の日本語が授業の選択肢のひとつとなれば嬉しく思います。また、保護者の間では日本語より他外国語を選択した方が将来につながるという考えがあるようなので、日本語履修者増加には学生以外にも日本を知ってもらう必要性を感じました。そのために地域コミュニティを巻き込んだ活動にも力をいれていきたいと思っています。

2年目に向けて

日本語教師として国外の教育現場に携わらせてもらえることは、日本文化と日本語教育について改めて向き合い、客観的な視点で新しい発見ができる貴重なチャンスだと思っています。

アメリカでの一年目は、アメリカと日本の学校システムの違い、学習環境、教師と学生の関係など、毎日が驚きの連続でした。日本語クラス内では自分の役割が見つけられるまで失敗の連続でしたが、試行錯誤のなかで色々な経験をし、新たな発見と多くのことを学ばせもらいました。しかし、新しい土地での生活と業務に慣れるのが精一杯で、自発的なチャレンジはあまりできませんでした。今年度は新しいアクティビティやアプローチの提案、定期的な日本語クラブの開催など失敗を恐れずに何事にも積極的にチャレンジし、クラス内での自分の役割を増やすことが課題です。昨年の経験をふまえ、共に楽しく学ぶことを意識し、学生の学習意欲を高められる授業づくりに取り組んでいかなければなりません。複数校でアシスタントができるメリットを最大限に活かし、刺激を受け成長できるチャンスと限られた時間を無駄にしないよう業務に励んでいくつもりです。日本人アシスタントとして何ができるのかを常に考え、クラスの中に本物の日本を取り入れ、より多くの日本の魅力を発信し続けていきたいです。

今後のシーダーラピッズの日本語プログラムの発展に少しでも貢献できるように、気持ちを新たに2年目を過ごしていきたいと思っています。

  • 派遣先での写真その1
  • 派遣先での写真その2
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