世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)もっと広がる、トルコの日本語教育

土日基金文化センター
栗田恵美子

トルコというと、イスタンブールなどの観光地、ケバブやサッカーチームの名前などが思い浮かぶと思いますが、実は歴史的に親日国としても知られており、良好な関係が続いてきました。そんな遠くて近い国、トルコですが、日本語学習者数は、中東地域の過半数を占めており、日本語能力試験(JLPT)受験者数は年間800人を超えています。2018年度海外日本語教育機関調査報告書によると、日本語教育機関数・教師数は減少したものの、日本語学習者数は、約14%増加しています。

土日基金文化センターでの日本語講座

専門家が派遣されている土日基金文化センター(以下「当センター」)での日本語講座は、20年目を迎えました。現在、高校生から一般・社会人まで幅広い層の学習者約150人が、週に1回日本語を学習しています。専門家は設立当初からこの講座運営に携わってきました。

アンカラ弁論大会の写真
アンカラ弁論大会

『まるごと 日本のことばと文化』シリーズを主教材にしてから5年、最近は、受講生のコース継続率が上がり、コース修了者も増えてきました。そのため、中級レベルのシラバスが取り組むべき課題になっています。大学以外で初級終了後の学習者が日本語学習を続けられる機関はまだ少なく、こうしたレベルの授業を充実させることは、トルコの日本語教育の裾野を広げる上でも大切なことだと感じています。

また、日本語講座では、受講者に日本人との交流・文化体験の機会を持ってもらおうとビジターセッション、日本料理体験、書道教室などのイベントを行いました。当センターがあるアンカラはイスタンブールに比べ、日本人との交流機会や日本文化・料理などに触れる機会がまだ少なく、こうしたイベントは大変好評です。アニメなどのポップカルチャーがきっかけという学習者が大半を占めますが、書道や茶道などの伝統文化への興味関心も比較的高いと感じます。

さまざまな日本語事業

土日基金文化センタービジターセッション(日本料理体験)の写真
土日基金文化センタービジターセッション(日本料理体験)

専門家は、日本語弁論大会や日本語能力試験といった日本語事業の支援も行っています。トルコでは、アンカラ・イスタンブール・イズミルの3都市それぞれで弁論大会が実施されています。専門家は、アンカラ弁論大会の運営・審査基準作成・審査に関わっています。2020年は、前年以上に応募が多く、審査が困難を極めました。また、イスタンブール・イズミルの大会にも審査員として招かれました。アンカラ・イスタンブールが大学生中心であるのに対し、イズミルはアマチュア精神を大切にしようというコンセプトで開催されています。パフォーマンスあり、笑いありの、日本愛を語るユニークな大会になっています。

トルコ国内の日本語教育

2016年に教師会に代わる組織として日本語・日本文化研究・応用センター(JADKAM)が設立されて以降、毎夏、日本語・日本語教育国際シンポジウム(JADEUS)が開催されています。2020年はエーゲ海近くのディディムという町で開かれ、研究や日頃の実践など様々なテーマによる発表が行われました。高齢者向けの日本語教育や教材開発クラスにおける実践報告など、トルコの日本語教育事情を知る上で大変良い機会になりました。筆者も、日本語能力試験の受験者実態について発表し、各教育機関の先生方と情報を共有しました。

また、各地の日本語機関訪問や授業見学を通じて教師への支援やネットワーク形成の側面支援も行うのも専門家の業務です。2020年度は、市民講座などの学校外機関を中心に訪問し、先生方と日々の問題意識を共有し、解決法を話し合いました。「単位認定がない」など、こうした機関ならではの悩みが、多く聞かれました。トルコの場合、日本語教育機関の約7割を高等教育機関が占め、学校外の機関は、一般社会人だけでなく、中高生・履修できない大学生など幅広い学習者の受け皿になっています。こうした機関への側面支援を通じ、今後、トルコにおける日本語教育の裾野の広がりを支えていきたいと考えています。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Turkish-Japanese Foundation Culture Center
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
トルコにおける日本文化紹介、文化交流の中心となるよう設立された機関。土日基金文化センター内の多目的ホール、セミナーホールでは各種文化事業が行われる。図書館には1万冊以上の日本語の蔵書・視聴覚教材が揃っており、日本に関する情報収集の場としての役割も果たしている。
専門家は、派遣先機関の一般市民向け日本語講座の授業担当、コース運営の支援、文化行事への参加協力を行う。このほか、トルコ国内の日本語教育機関、日本語教育関係者、日本語学習者に対する支援・協力、日本語能力試験や弁論大会の実施協力、その他国際交流基金プログラムに関する案内等を行い、トルコ全体の日本語教育の発展に努めている。
所在地 Ferit Recai Ertugrul, Cad. No.2 Oran, 06450 Ankara
国際交流基金からの派遣者数 専門家:1名
日本語講座の所属学部、
学科名称
土日基金文化センター 日本語講座
日本語講座の概要
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