世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) つないでいます!

国際交流基金 北京日本文化センター
松浦 とも子・佐藤 修・柳坪 幸佳

世界第一位の日本語教師数

2009年度の海外日本語教育機関調査によると、中国の日本語……は約1万5千人。この……に入るのは学習者数ではありません。

2011年度の書き出しは、このクイズで始まりました。今年も言わせてください。そう、1万5千人というのは「教師の人数」です。それは全世界(海外)の日本語教師約5万人のうちの30%以上を占め、群を抜いて世界第一位です。

私たちは、その教師向けに、教師研修とネットワーク形成支援、及び教材作成をおこなっています。今回はその中から、教師研修と教材作成について、新しい動きをご紹介したいと思います。

まずは、教師研修から……。

北京日本文化センターの日本語教師研修

北京日本文化センター(以下、センター)に派遣されている日本語教育専門家(以下、専門家)は、今年度から1名増えて3名になりました。この増員を機に、これまでおこなってきた教師研修をさらに充実させるべく、3つの新しい取り組みを始めました。それは、広大な中国を駆ける地域巡回教師研修会(2011年度実施報告)【PDF:3.70MB】 )と、教師向けオンライン日本語講座(試行中)、そして新しいタイプの観察型教師研修会です。

これらを含んだセンターの教師研修についてはHPにまとめてあります。例えば2010年度にご紹介した全国大学日本語教師研修会や全国中等日本語教師研修会などは、内容を一層充実させながら、継続して開催しています。

さて、ここでは特に、その観察型教師研修についてもう少し詳しくご紹介します。

「高校生プロジェクトワーク」観察型教師研修

日本人ゲストに郷土料理を説明する高校生とそれを観察する先生方の写真
日本人ゲストに郷土料理を説明する高校生と
それを観察する先生方

この「高校生プロジェクトワーク」観察型教師研修は、センターで実施する教授活動の方法、プロセスを各校の日本語教師が観察し、教授法研究を行うというものです。

高校生たちは、学校の枠を越えて共同で、プロジェクトワークを遂行し交流しました。プロジェクトワークのテーマは日中の食文化。日本の食文化に関して理解を深めた後、グループで決めたテーマに関して調べたり日本人ゲストたちにインタビューしたりし、成果をポスターにまとめて発表しました。

普段日本語を使用する機会のない生徒たちが、実際に日本語を使用する楽しさを知り、今後の学習継続の動機とすることも目的としています。日本の食文化について知ることを通して、自国の食文化について振り返るきっかけにもなったようです。

JF日本語教育スタンダードの実践

教授活動としてのプロジェクトワークで一つ注目していただきたい点は、JF日本語教育スタンダードの導入です。

高校生たちには各授業の前後に評価表を使って学習目標を確認してもらい、自己評価を促しました。また、一日の終わりに、学習記録シートも記入してもらいました。そうしたポートフォリオの導入により、自律的な言語学習者に成長してもらうきっかけとなることを狙いました。

参加した教師たちは、授業の流れや学生の様子、講師を務めた専門家の行動などを非常に細かくメモを取りながら観察していました。話し合いでは、講師の行動の裏にある意図、一連の授業や活動の関連性、設計の意図について語られ、事後レポートでは「日頃の授業でも発表などはさせたことがあるが思うようにいかなかった」など、現場を振り返る意見も多く出ました。

自らも体験しながら授業実践を見学したことで、これまでの教師研修と異なる学びや気づきもがあったことが窺われます。

それでは、次に教材作成についてご紹介します。

初級日本語教室活動集の出版

中国初の教室活動集の写真
中国初の教室活動集

2012年4月に、センターが編集した『初級日本語教室活動集精選100例』が人民教育出版社から刊行されました。これは中国で初めてのアクティビティ集です。

本書籍は『教科書を作ろう』国際交流基金日本語国際センター)から100例を選定し、中国の初級日本語の授業活動向けに、翻訳・再編集をしたものです。学習者同士が自分自身の気持ちや体験を表現したり、お互いを理解したりするコミュニケーションができるようになることを目標としています。

編集は6名の中国人教師と専門家でおこないました。教室活動の選定及び翻訳等の共同作業を行った6名は日本語教育の現場で活躍する現役高校教師で、いずれも日本語国際センター研修プログラム(「日本語教育指導者養成プログラム」/修士課程及び「中国中等日本語教師訪日研修」)の修了生です。

教材作成は、その他にも『エリンが挑戦!にほんごできます。』の中国語版作成にも取り組んでいるところです。日本語版の生き生きした雰囲気を生かしつつも、中国の今の学習者に身近に感じてもらえる内容を心がけています。JF日本語教育スタンダードも反映される予定です。お楽しみに。

北京「つなぐ」ブログ

専門家の活動について、より詳しく知りたい方は北京「つなぐ」ブログをご覧ください。日々の仕事の内容を軽いタッチでご紹介しています。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation, Beijing
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
中国の日本語教育事情についての情報収集のほか、中国各地で教師研修会を実施し、カリキュラム・教材・教授法など各層の日本語教師に対する助言・支援などの活動を行っている。また、教師会など各地の教師の自主研修の奨励、教師間のネットワークの形成促進にも力を注いでいる。教師研修会には、全国大学日本語教師研修会、全国中等日本語教師研修会、訪日研修参加者フォローアップ研修会、及び地域巡回教師研修会などがある。2009年度より社会人向け入門日本語講座も開講。HP以外にMLやブログも活用し情報発信している。
所在地 #301, 3F, SK Tower Beijing, No.6 Jia Jianguomenwai Avenue, Chaoyang Beijing ,CHINA,100022
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名、専門家:2名
国際交流基金からの派遣開始年 1999年
What We Do事業内容を知る