世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)ニューデリー事務所の新たな展開

国際交流基金ニューデリー日本文化センター
有馬淳一・井元麻美・金ケ江洋子・酒見志奈子

この1年の間にニューデリー日本文化センター(以下、JFND)に新たな活動が増えました。一つは、Chalo! Japan(日本へ行こう!)というプログラムで、もう一つがネパールの日本語教育に対する直接支援です。

Chalo! Japan、「できた!」「わかる!」を大切に

2019年度の記事で紹介しましたが、JFNDでは、初中等教育機関と高等教育機関のためにSwagatam JFND(ようこそJFNDへ)というJFNDへの訪問を受け入れるプログラムを実施しています。大変人気があり、デリー以外の学校からも参加希望がありますが、参加できるのはデリー近郊の学校のみだったことが課題でした。そこで、Swagatam JFNDの対となるJFNDが学校を訪問するChalo! Japanを2019年9月から始めました。

Chalo! Japanは、専門家とJFNDスタッフが学校を訪問します。訪問する学校は、3か月ごとに募集し、決めます。2019年度は、西インドで2回、北インドで1回実施しました。実施内容はJFNDの紹介、日本文化紹介、日本語を使ったゲームなどです。

活動内容は、学校の希望を聞きながら決めますが、2つのことを大切にしています。1つ目は、季節に合った活動です。理由は、日本の季節ごとの行事を知ってもらうきっかけをつくるためです。2020年1月に実施したときは、折り紙でねずみをおり、年賀状を作りました。途中、難しい部分もありましたが、生徒たちは上級生に手伝ってもらいながら、ねずみをおりました。年賀状が完成したとき、「できた!」という達成感が生徒たちの表情から伝わってきました。

2つ目は、日本語を使った活動を必ず入れています。訪問した学校の中には、まだ日本語の授業を始めて間もない学校もありました。日本語でのあいさつや数字、簡単な単語から生徒たちは学び始めます。このような生徒たちにも「授業で覚えた日本語だ!」「わかる!」ということを実感してもらうためです。

欠かせないのが「いくらですか。」というゲームです。例えば、中学1年生は1ルピー、中学2年生は2ルピーという風に生徒たちにお金になってもらいます。そして、歩き回ってもらい、言われた金額で集まり座るというゲームです。このゲームはインドの生徒たちに合ったようで、毎回必死で声をかけながら遊んでくれます。どの学校でも学年関係なく、とても盛り上がります。

生徒たちにとっては小さな「できた!」「わかる!」という経験だったかもしれません。しかし、今後の日本語学習において大切な気持ちです。この経験をたくさんの生徒たちに感じてもらえるように今後も活動を続けていきたいと思います。(執筆:井元)

「ねずみ、上手に折れたよ!」と見せてくれる生徒たちの写真
「ねずみ、上手に折れたよ!」と見せてくれる生徒たち

「特定技能」で日本語に注目が集まるネパール 

JFNDはインドを拠点として南アジア全体の日本語教育も担当しています。2019年から新教材『いろどり―生活の日本語』(以下、『いろどり』)のネパールにおける普及担当として新たに専門家が一人加わることになりました。そこで今回は、ネパールの日本語教育についてご紹介したいと思います。

2019年3月、日本とネパールは「特定技能」に関する二国間協定を結び、ネパール人は介護分野において日本で働くことが可能になりました。さらに、10月からは、在留資格「特定技能」に必要な日本語能力を証明することのできる国際交流基金日本語基礎テスト(以下、JFT-Basic)がカトマンドゥで導入されました。

このように日本語への注目が集まる中、筆者は2019年秋にネパール担当としてJFNDに配属になりました。ネパールへの支援は①2020年3月末に公開された『いろどり』の広報や使い方ワークショップの開催および②JFT-Basic普及のための広報活動が中心です。その他、茶道や書道などの日本文化紹介をしたり、学校を訪問したり、スピーチ大会の審査員をしたりしています。これまで月に1回程度の出張でカトマンドゥやポカラを訪問しています。

最初にネパールに行って驚いたのは、カトマンドゥの街を歩いていると語学学校が密集している地区があって、‛STUDY IN JAPAN’の看板があちこちに掛かっていることです。その看板を目印に雑居ビルの中に入って行くと教室が1つだけの小さな日本語学校があったりします。「2018年度海外日本語教育機関調査」によるとネパールの学習者数は5,326人となっていますが、まだ把握できていない小さな学校や正式に登録されていない学校も多数存在し、実際の日本語学習者数はもっと多いと思います。   

ネパールでは若者が働ける産業が少なく、日本で働きたい若者がたくさんいます。「特定技能」のための日本語要件が、日本語能力試験(以下、JLPT)のN4以上または、JFT-Basic合格となっていることから、これらの試験は大変な人気です。JLPTN4は申し込み開始から1日で定員オーバーとなり受付終了、JFT-Basicは受験希望者が多すぎて抽選で受験者を選ぶ方式がとられています。

今後多くのネパール人が日本で働くことになるでしょう。その時役に立つのは試験に合格するための暗記型日本語ではなく、コミュニケーションや異文化理解を大事にする日本語ではないでしょうか。『まるごと 日本のことばと文化』や『いろどり』の教科書を通して新しい日本語教育への関心を高め、日本語による豊かな生活を支援していきたいと考えています。(執筆:金ヶ江)

‘Japan’の看板が目立つカトマンドゥの学生街の写真
‘Japan’の看板が目立つカトマンドゥの学生街

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation, New Delhi
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
インドおよび周辺の南アジア諸国における日本語教育支援・普及を目的としている。具体的な業務としては、(1)インド国内外でのワークショップ、勉強会、コンサルティングなどを通じた日本語教師や日本語教育機関への支援・協力(2)初等・中等学校での日本語普及のためのプロモーション、行事への参加(3)初等・中等学校に所属する現職教師の研修および新教師養成、情報通信技術を利用した日本語教育の導入推進(4)JF日本語講座の運営、講座担当講師の育成など多岐にわたる。
所在地 5-A, Ring Road, Lajpat Nagar-Ⅳ, New Delhi, 110024, India
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名、専門家:3名
国際交流基金からの派遣開始年 1999年
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