世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)広大なスマトラの日本語教師をつなぐ

ジャカルタ日本文化センター(西スマトラ州中等教育機関)
杉島 夏子

スマトラ島と聞くと、地震・津波のあった場所?小さい島?というイメージを持つ人が多いですが、実は世界で6番目に大きい島で、総面積は473,500km2。日本の国土全体の総面積を上回ります。そんな広いスマトラ島には、10州合わせて9万3千人近くの日本語学習者が日本語を勉強しています(2018年度国際交流基金日本語教育機関調査より)。私の任地はスマトラ島の西海岸のほぼ真ん中に位置する町パダンで、西スマトラ州の中等教育日本語教師の皆さんの支援を中心に業務を行っています。2020年度は、西スマトラだけではなく、スマトラ島全土にも活動の範囲を広げ、対面ワークショップ及びオンライン研修を通して、地方に点在する日本語教師のサポートを行ってきました。

遠方でのワークショップ

2017年に新カリキュラムに基づいて国際交流基金ジャカルタ日本文化センターが開発した、高校生向け日本語教科書『にほんご☆キラキラ』の各高校での使用が広がってきています。しかし、教科書を変えるだけで教え方が同じままでは、新カリキュラムの目標とする学習者中心の学習プロセスの構築や21世紀型スキルの育成は達成されません。西スマトラの教師の皆さんに関しては、普段の教師会にも参加しているので定期的に学ぶ機会を作ることができるのですが、スマトラ島の他の地域の先生方は困っていないだろうか?というのが2018年に赴任してからずっと気がかりでした。そこで、2020年度は、前年に教師支援では足を運べなかったアチェ州・北スマトラ州・ジャンビ州・リアウ州へも赴き、各地の高校教師のみなさんと、日本語教育でどうやって21世紀型スキルを伸ばせるかについて一緒に考えるワークショップを行いました。

アチェ州でのワークショップ(21世紀ってどんな社会?)の写真
アチェ州でのワークショップ(21世紀ってどんな社会?)

北スマトラ州でのワークショップ(21世紀型スキルと日本語教育)の写真
北スマトラ州でのワークショップ(21世紀型スキルと日本語教育)

地方のワークショップでは、教え方を学んだ後、みんなで教案を考え、次の日には実際の高校生を相手に先生たちが交代で授業をしてみることもあります。生徒の反応を観察することで、今までの教え方と何が変わったのかがより明確になり、授業後の振り返りディスカッションでも非常に活発な議論が交わされます。また、地方の生徒にとっては私が人生で初めて出会う外国人ということもしばしば。授業後に無邪気に「一緒に写真を撮ろう!」と話しかけてくれる生徒たちに、たくさん元気をもらうことができます。

オンラインでの支援

21世紀型スキルについて既にある程度学び、日本語学習に対するモチベーションが高い層を対象として、対面での教師研修に加え、オンラインコースも実施しました。国際交流基金の開発したウェブサイト『ひろがる』(https://hirogaru-nihongo.jp/)を使って、教師自身が学習者として文化や日本語を学んだ後、21世紀型スキルを取り入れた課題を実践してみて学びを振り返り、教案の作成をするという非常にレベルの高い7週間のコースです。振り返りでは、「教師も21世紀型スキルを高めないといけないと思った。」「Critical thinkingについて、分かったつもりでこれまで教えていたけれど、自分が生徒にさせていたのはただのThinking1だったかもしれない。」「自分にも生徒にもautonomous learning skill2がまだまだ足りない。」「日本文化と日本語を組み合わせて教えると生徒の学ぶモチベーションが高められそう。」等、参加した教師たちからたくさんの気づきが得られました。普段の教師会では会えないような遠くの地域に住む先生たちと7週間の学びを共有することで、新たな教師同士のつながりができるのも、オンラインならではのいいところだなあと感じています。

今後の支援について

2020年度末に新型コロナウィルス感染拡大の影響を受け、インドネシアでも学校が閉鎖、オンライン授業に切り替わりました。その影響で、今後も学校での対面授業再開や対面での教師研修の実施は見込めない状況が続きそうです。そんな中、これまでオンラインで学ぶ・教える経験のなかった教師の皆さんも、ウェブセミナーに参加してみたり、オンラインで教えてみた経験を教師会のメンバーにシェアしたりと、試行錯誤を重ねながら教育活動を継続すべく奮闘している様子が垣間見えます。これまでオンライン研修に参加してくださっていた先生方の中には、学習者としてオンラインで学んだ経験を生かし、スムーズにオンライン授業への切り替えができた人もいます。2020年度の1年間は、微力ながらそんな教師の皆さんの遠隔サポートを続けていくことで、また新たな教師支援の形を見出していけたらと思っています。

1 批判的思考法。物事や情報を無批判に受け入れるのではなく、多様な角度から検討し、論理的・客観的に理解すること。
2 自主的・自律的に学ぶスキルや能力

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation, Jakarta
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
ジャカルタ日本文化センターの業務方針に従い、主にスマトラ地域における中等教育の日本語教育支援のため以下の業務を行う。
  1. 1)地域教師会支援(教師会・勉強会・研修・文化祭に対する支援・サポート)
  2. 2)地域内の高校を訪問し、授業見学・教授法指導
  3. 3)現地の日本語教育に関する情報収集
  4. 4)高校校長に対する日本語プロモーション
  5. 5)教職課程のある高等教育機関での情報収集・勉強会開催
  6. 6)日本語パートナーズ支援
  7. 7)その他ジャカルタ日本文化センターが実施する日本語事業への協力
所在地 Summitmas Ⅱ Lt. 1-2, Jl. Jenderal Sudirman, Kav. 61-62 Jakarta 12190, Indonesia
国際交流基金からの派遣者数 専門家:1名
国際交流基金からの派遣開始年 2008年
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