世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)オンラインでの事業実施

国際交流基金クアラルンプール日本文化センター
佐藤修 近藤麻衣子

新型コロナウイルス感染症の影響で、マレーシアでも日本語教師向けセミナーや日本語授業の実施形態がオンラインに変わりました。今回は、クアラルンプール日本文化センター(以下、JFKL)が2020年度に実施した日本語事業の中でも特に、オンラインで実施した事例を2つ取り上げてご紹介します。

学習者に日本語を話す機会を提供するオンライン日本語サロン

国際交流基金の2018年度の海外日本語教育機関調査ではマレーシアの日本語学習者は約39,000人で世界第10位となっていますが、教育機関に所属せずに独学で日本語を学んでいる人や、日本語を使って仕事をしている人など、数には含まれない日本語話者も多くいます。しかし、新型コロナウイルス感染症の影響により、ますます集まることが難しくなり、日本語を話す機会も減っている様子を見聞きし、JFKLでは2020年8月より、「オンライン日本語サロン」を開始しました。

「オンライン日本語サロン」では日本語のレベルを問わず、日本語を話したい人が誰でも参加することができます。月に1回のペースで2020年度は7回実施し、延べ250名以上のマレーシア人が参加しました。日本人も述べ70名弱が協力してくれており、その多くがマレーシアとつながりのある方々で、特に日本語パートナーズとしてマレーシアに派遣された方々も多く参加してくれています。

このサロンでは、レベル別の小グループでテーマに沿った自由会話を楽しみますので、初級学習者から上級話者まで、どのレベルの人も緊張することなく日本語を使うことができるよう、工夫をしています。参加者の満足度は高く、日本人母語話者と日本語を話すことだけではなく、同じ日本語を話せるマレーシア人が多いことに驚きや喜びを感じている参加者が多いようです。

最近は複数回参加している参加者も多くなってきました。また、首都近郊だけではなく、マレーシア全土から中高生や大学生、社会人が参加してくれるようになってきています。直接会うことができないオンラインの場ではありますが、オンラインだからこそマレーシア全土の日本語話者に支援を届けられるようになりました。

第6回オンライン日本語サロンの参加者の写真
第6回オンライン日本語サロンの参加者

研究発表会で動画によるポスター発表

第17回マレーシア日本語教育国際研究発表会(以下、研究発表会)は、マレーシア内外の日本語教育関係者が研究発表をしたり、教育実践を共有したりする規模の大きいイベントで、JFKL、マラヤ大学予備教育センター日本留学特別コース、マレーシア日本語教師会の3者が共同で、毎年10月に開催しています。2020年度はコロナ禍を受け、初めてのオンライン開催になりましたが、新たなチャレンジと前向きに捉えて、準備段階から多くの議論を重ねました。その結果、参加申込340名以上、基調講演および口頭発表当日は17か国からの参加で165名に上り、盛会となりました。

基調講演と口頭発表6件は、2020年10月3日にZoomを用いてリアルタイムで行いましたが、ポスター発表は、その前後2週間の指定期間に各参加者がYouTubeにアクセスする「非同期型」の形式を取りました。ここでは、この「非同期型」のポスター発表に焦点を当てたいと思います。

皆が同じ時間に作業を行う「同期型」と違って、「非同期型」というのは、それぞれが違う時間に作業します。そのため、参加者は好きな時間に動画を見ることができますし、理解が不十分だった点に関して動画を繰り返し見直すこともできます。従来の同期型の学会の多くでは、会場が複数に分かれていて、同じ時間に行われる発表を聞くことはできませんでしたが、非同期型では、すべての発表に参加できるという利点があります。このような形式は今後、物理的に集まることができるようになってからも活用できますので、研究発表会の今後の在り方にも良い影響を与えられるのではないかと感じています。

準備段階では「動画作成はハードルが高いのではないか」「発表者は集まるか」と心配したのですが、蓋を開けてみると例年以上の応募が集まりました。また、ポスター発表12件の動画再生回数は2,432回、コメント欄によるやり取りも多く見られ、活発に意見交換が行われました。発表内容も、オンライン学習についてや、Webツールの開発についてなど、時勢にあったテーマの発表が特に印象に残りました。ただ、12件中7件はマレーシア国外からの発表であったため、今後はマレーシア国内の方向けの働きかけをさらに強化していきたいと考えています。

以上、2020年度にわたしたちがオンラインで実施した日本語事業の中でも特に、学習者向けオンライン日本語サロンと、日本語教師向け研究発表会についてご紹介しました。今後も、制約がある中でも出来るだけのことをしていきたいと考えています。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation, Kuala Lumpur
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
国際交流基金の海外拠点のひとつ。マレーシアの各機関と連携し、日本語教育に関する幅広い業務を行っている。教師全般に対する支援として、各種セミナー、研修会の立案・実施、「マレーシア日本語教育セミナー」「マレーシア日本語教育研究発表会」の開催など。中等教育機関に対しては、中等教師向けの研修会の立案・実施、教師養成コースへの協力などをおこなっている。学習者支援としては、弁論大会の実施、JF日本語講座の運営などのほかに、「JFにほんごeラーニング みなと」を使ったオンライン講座や、「みなと」をはじめとする国際交流基金作成ウェブサイトの紹介ブース出展等、広報活動も実施している。
所在地 18th Floor, Northpoint, Block B, Mid-Valley City, No.1, Medan Syed Putra, 59200 Kuala Lumpur, Malaysia
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名、専門家:1名
国際交流基金からの派遣開始年 1995年
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