世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)国際交流基金マニラ日本文化センター

国際交流基金マニラ日本文化センター
EPA研修チーム:早川直子・江森悦子・牟田綾・竹本恭子
中等教育チーム:井手剛平・大日方春菜・松田涼子
JFT-Basicチーム:武井康次郎
にほんご人サポートチーム:古川嘉子

(1) 11年目にして新しいEPA訪日前研修「コロナ禍でもつながりつづける!」

EPA(経済連携協定)に基づく看護師・介護福祉士候補者への訪日前研修は11年目を迎え、今期は2021年3月から8月まで実施しています。これまでとの大きな違いは約300名、半年間、全日制、全寮制の大規模研修が初めてオンライン化されたことです。

オンライン化が決まってからというもの、私たちは急ピッチでカリキュラムの改編と教材作成に取りかかり、主教材は『まるごと 日本のことばと文化』(国際交流基金)に変更、授業形態はe-learningコンテンツによる予習を前提としたオンライン反転授業を採用するという挑戦に踏み切りました。その後、フィリピン政府の協力を得て、7000以上の島で成り立つ島国フィリピンの候補者一人一人にタブレットをはじめとする教材を届け、何とか開講にこぎつけることができました。

「授業にログインできない!」「オンラインテストが提出できない!」といった期初のハチの巣を突いたような騒ぎは一段落し、研修はここからが正念場です。講師と候補者が遠隔地からつながるという新しい研修が始まっています。今期の私たちのスローガンは、オンラインでも「つながりつづける」。候補者のたどる道の先は日本へつながっています。

オンライン授業の様子の写真
オンライン授業で「つながる」講師と候補者

(2) 未来のためにがんばります!

フィリピンの学校では2020年度、新型コロナウイルスの蔓延によって、すべての対面授業が中止となり、生徒たちの勉強はすべて自宅学習へと切り替わりました。18歳未満は基本的に外出が許可されていないため、自習用教材(module)をメインに自分で学習を進めています。

これは、日本語も例外ではありません。日本語は現在、フィリピンの中学、高校で選択科目の一つとして教えられています。

マニラ日本文化センターでは、学校に行けず、外出にも制限がある状況下においても、他生徒とのつながりを感じてもらい、生徒たちの日本語学習意欲を高めるために、昨年から始めた中高生ビデオコンテスト(NiViCon)の今年のテーマを「わたしの一日」としました。学校に行けない中、どう日々を過ごしているかを日本語で表現してもらうことで、生徒たちに日本語学習の成果を発揮してほしいと思ったためです。

結果、コンテスト全体でおよそ100本の作品が集まりました。その中で勝ち抜いた入賞作品は、現状の困難に力強く立ち向かい、未来への希望が感じられる素晴らしい作品です。みなさんもぜひ、下のリンクで動画をご覧ください。

(3) ゆるキャラができました

JFT-Basicを紹介するゆるキャラ、「JFTベーシッくん」の画像
JFTベーシッくん

JFT-Basicを紹介するゆるキャラとして「JFTベーシッくん」が誕生しました。このキャラは、フィリピン人スタッフが原案を考え、それをもとに、フィリピン人デザイナーが作成した、「メイドインフィリピン」のキャラクターです。

JFT-Basicは、就労のために来日する外国人が遭遇する生活場面でのコミュニケーションに必要な日本語能力と在留資格「特定技能1号」を得るために必要な日本語能力を測るテストとして活用されています。しかし、JLPTに比べ認知度が低いのと、コロナの影響でなかなかフィリピンから日本へ行くことができないため、受験者が増えていません。今後はフェイスブックやセミナーを通じて宣伝する際、この「JFTベーシッくん」を使い、よりたくさんの方にJFT-Basicを知ってもらうことを目指しています。

日本語教材『いろどり 生活の日本語 入門 A1』の表表紙の画像
『いろどり 生活の日本語 入門A1』

2020年11月に『いろどり 生活の日本語 入門A1』が公開されました。この教材を使って、「いろどりA1パイロットコース」(2021年5月開始予定)を行います。まずは、私たちがこの教材を使って、どのような教え方が良いか試し、その結果をフィリピンの各機関や先生方に公開する予定です。


(4) オンラインで学ぼう!集まろう!

コロナ禍で対面の授業に代わって、2020年7月よりオンラインまるごと講座が始まりました。「JFにほんごe-ラーニング みなと」でのe-learningZoomでのクラスセッションを組み合わせて学んでいます。クラスでは、ブレイクアウトルームの会話練習などが人気です。クラスメートと、お互いの仕事や趣味について日本語で話す機会となっています。オンラインでのA1コースは3期目になりました。5月には4期目が開始します。また、4月からA2のクラスも始まっています。マニラから遠い地域から受講できるのはオンラインならではのメリットと言えるかもしれません。

2月には恒例のNihongo Fiestaがオンラインで開催、スピーチコンテストの本選が行われました。ミンダナオ、ヴィサヤ、マニラの各予選で、学生部門、社会人部門、オープン部門の52のスピーチが披露され、その中から9名が本選に残りました。インターネットの問題もなく無事スピーチができました。最優秀賞は『新型コロナウイルスとの戦い』と題した現職のお医者さんによるスピーチでした。この状況だから聞けたスピーチと言えるでしょう。

5月にはフィリピン日本語教師フォーラムでワークショップと12名の教師による日本語教育の実践発表が行われます。発表が楽しみです。

オンラインコースのタイトルロゴの画像
基本にもどろう!PNTFでは「理解可能なインプット」について確認しました。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation, Manila
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
専門家は以下の4チームで業務を行っている。にほんご人サポートチーム:教師研修や日本語教師フォーラム、一般向け日本語講座、スピーチコンテストなど、日本語学習者・教師の支援。中等教育チーム:フィリピン教育省との連携による他教科現職教師を対象の日本語教師養成研修、巡回指導、カリキュラム準拠の教材の追加作成を担当。日本語パートナーズ事業への支援(休止中)。JFT-Basicチーム:就労目的の学習者対象のJFT-Basicや教材『いろどり 生活の日本語』の広報。EPAチーム:EPAに基づくフィリピン人看護師・介護福祉士候補者日本語予備教育事業の実施。事業広報はマニラ日本文化センターホームーページ、Facebookを通じて行っている。
所在地 The Japan Foundation, Manila 23rd Floor, Pacific Star Bldg, Sen.Gil J.Puyat Ave. cor Makati Ave. Makati City, 1226 Philippines
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:2名、専門家:5名、指導助手:1名
国際交流基金からの派遣開始年 2000年
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