世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)コロナ禍におけるバンコク日本文化センターの取り組み

国際交流基金バンコク日本文化センター
飯尾幸司 大田祥江 小島佳子 西島阿弥子

2020年3月26日、新型コロナウイルス感染拡大防止のためにタイ全土で非常事態宣言が発令されました。それに伴い、中等教育機関では新学期開始が5月から7月に変わり、高等教育機関でも7月に対面授業が条件付きで解禁された後も、各機関の判断でオンライン授業が継続されました。このように、2020年度はタイの日本語教育現場にとっても、変化を迫られる大変な1年となりましたが、バンコク日本文化センター(以下、JFBKK)では日本語専門家がタイに留まり、日本語教育支援を続けました。以下に3つの取り組みをご紹介します。

1. JFBKK主催日本語教育オンラインセミナーの実施

年に1度、国外から講師を招いて「大学日本語教育セミナー」を対面で実施していましたが、2020年度は対面セミナーの実施が困難であったため、延期となりました。そこで、2021年2月にオンラインでセミナーを実施しました。

セミナーのテーマは、先生方の関心が高い「オンライン状況下でのアクティブ・ラーニング」とし、2部構成で行い、第一部は、アクティブ・ラーニングについての著書もある北海道大学准教授(当時)山田智久先生による基調講演で、講演は非常に分かりやすく、学びにあふれる内容でした。第二部は3名の先生による実践報告で、様々なアイディアの共有にとどまらず、現場の苦労と喜びが伝わる印象深いものでした。

このセミナーでは、発表者がアイディアや悩みを共有することで、一歩前に進んでみようという気持ちを参加者からも引き出すことに成功したのではないかと感じています。山田先生と3名の報告者はもちろん、JFBKKで一緒に働く仲間、全ての関係者のおかげだと感謝しています。

2. NP派遣校の生徒向けにオンラインで日本語コンテスト開催!

国際交流基金(以下、JF)では、2014年からアジアの中学・高校を中心に日本人ティーチングアシスタント 「日本語パートナーズ(以下、NP)」を派遣してきましたが、2020年度は派遣中止となりました。NP不在の中、JFBKKは派遣予定だった学校への支援の一つとして、派遣校の生徒向けオンライン日本語コンテスト「ストーリーテリング15×15」を2020年12月に実施しました。本コンテストは、タイの高校生に合うよう新しく作成したJFBKKオリジナル競技で、ストーリーテリングとプレゼンテーションの要素を組みあわせたものです。15校30人の生徒が出場し、過去にタイに派遣されていた元NP15名もサポーターとして日本からオンラインで生徒の指導役を務めました。

コロナ禍でタイ国内のコンテストが軒並み中止・延期措置が取られ、様々な活動が制限される中、生徒に日本語学習の成果発表の機会を提供したり、オンライン日本語コンテストの可能性を広げたりすることができたのは、スタッフ一同の「困難な状況下でも出来る限りのサポートをしたい!」という情熱と、元NPや派遣校の先生方の絶大な協力があったからこそだと思います。

▼詳細はこちらから:
日本語教育通信 日本語教育レポート 第44回 オンライン日本語コンテスト「ストーリーテリング15×15

オンライン日本語コンテスト優勝者の写真
オンライン日本語コンテスト優勝者

3. 日本で働き生活したい人のための「いろどり講座」(オンライン)実施

外国の人が日本で仕事や生活をする際に必要な、基礎的な日本語コミュニケーション力をつけるための教材『いろどり 生活の日本語』が2020年3月末にJFから無料Web公開され、JFBKKでは2020年10月に「いろどり講座」をオンラインにて実施しました。『いろどり 初級1』を全44回(90分×週2回)で学ぶ講座で、日本留学を夢見る高校生や日本で働きたい社会人、すでに日本留学中の大学院生など、計14人が学びました。

『いろどり』は具体的な日本の生活場面での日本語を学びます。薬の用法(食前、食後)を扱った際は、薬を間違って服用していたことに気づき、漢字学習の重要性を実感した日本在住の学習者がいました。また、授業で何度もシャドーイングしたため、夢で見るほどに覚えてしまった学習者もいました。そして、タイ一時帰国中に受講し、受講最終期に再来日した学習者は、「日本語が通じるようになった」と喜び、私たちも本講座の意義を実感しました。

オンラインの難しさもありますが、オンラインだからこそタイの地方や日本在住の人も受講でき、教師だけでなくクラスメイトからも日本語での生活実感が聞けるクラスになったのだと思います。

オンライン講座の様子の写真
いろどりオンライン講座の様子

終わりに

対面には対面の良さがあり、オンラインではどうしてもかなわない部分もあります。しかし、オンラインにはオンラインの良さがあると信じ、今我々にできることは何かという問いかけをこの1年間ずっと行ってきました。今後どのような状況になろうとも、決して守りの姿勢に入ることなく柔軟に対応し、様々なことにチャレンジしていきたいと考えています。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation, Bangkok
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
タイ人専任講師と共に、タイ国全土の日本語教師・学習者支援のためのさまざまな日本語事業を実施している。教師支援事業では、中等教員向け各種研修、大学教員向けセミナー、日本語パートナーズ支援、一般日本語教育向けには『まるごと』セミナーを開講している。学習者支援では、日本語キャンプの開催やJF日本語教育スタンダード講座をはじめとする一般講座を開講している。また、教材開発にも力を入れており、中等教育向け日本語教材や「JFにほんごe-ラーニング みなと」のコンテンツを開発した。その他、カンボジアやラオスなど周辺国の日本語教育支援を担っている。2019年度には特定技能チームも発足した。
所在地 T10th Fl. Serm-Mit Tower, 10F, 159 Sukhumvit 21Rd., Bangkok 10110 Thailand
Tel: 66(2)260-8560~64 Fax: 66(2)260-8565
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名、専門家:3名、指導助手:1名
国際交流基金からの派遣開始年 1994年
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