世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)ベトナム南部の日本語教育

国際交流基金ベトナム日本文化交流センター(ホーチミン担当)
中尾菜穂・池田亜季子

ホーチミン市教育訓練局主催の日本語コンテスト開催!

ベトナム南部の中等日本語学習は14年前にホーチミン市で始まりました。そして、2017年11月に、記念すべき第一回のホーチミン市教育訓練局主催中等日本語コンテストが行われました。これまでも有志の教師たちによって中学、高校ともに作品制作を中心としたコンテストが行われてきましたが、今回は市内のすべての学校の8年生(※注1)から12年生に広く参加がよびかけられ、スピーチやポスター制作・発表などのパフォーマンスを競う場となりました。また、今年はホーチミン日本商工会議所からも審査協力と賞品のご提供をいただくことができ、市内の日本人の方々に日本語を勉強している中学生・高校生をあらためて知ってもらう場にもなりました。決勝に参加した生徒たちと応援団は、他の学校や先輩・後輩のパフォーマンスに刺激を受け、会場は大変盛り上がりました。これまでのコンテストを支えてきた多くの人たちからのバトンを無事に教育訓練局に渡すことができた立場としては、大変感慨深く、喜びをかみしめた一日でした。このコンテストとともに、ホーチミン市の中高生の日本語学習はますますさかんになっていくことでしょう。生徒たちの次回のパフォーマンスが今からとても楽しみです。

中学生1名がスピーチする写真
中学生のスピーチも素晴らしかったです!

※注1…ベトナムの学校制度は5・4・3制で、1~5年生が小学生、6~9年生が中学生、10~12年生が高校生。8年生は日本の中学2年生、12年生は日本の高校3年生にあたる。

「学習者中心」をめざした「参加者主体」の教師研修

2017年度の中等教師支援では、「学習者中心」をテーマとした全国研修(応募制・1年に1回)と全国研修参加者による公開研究授業(1学期に1回)および合同研修(全員参加・1学期に1回)を行いました。全国研修のレポートはハノイ、参加した教師のレポートはフエ、研究授業のレポートはダナンにおまかせして、ここでは合同研修についてご紹介します。

今年の合同研修の目的は、全国研修と研究授業で得た「学習者中心」の知識と実践を、各地域で共有し、教師同士の学び合いを深めていくことです。北部(ハノイ・ハイフォン・クイニョン)、中部(ダナン・フエ)、南部(ホーチミン、ビンズオン、バリアブンタウ)共通のプログラムとして、1日半のうちの1日は専門家ではなく各地域の教師が前に立ち、訪日研修や研究授業の報告、ふだんの授業の実践報告や実演を行い、またそれに対して質問やコメントが出て、大変活発な討論が行われました。今年の参加者たちの表情は、「研修受講者」ではなく熱心な「教師」として、これまで以上に輝いていたように思います。このような「参加者主体」の研修を通して自ら成長する経験を重ね、「学習者中心」の授業の実践へつなげていけるよう、私たちも「教えない」研修の計画・実践・振り返りに挑戦しています。

JF日本語講座

ホーチミンの日本語講座では、『まるごと』の市販化に伴い、中級2(B1)の修了生が出ています。これら修了生及び『まるごと』で学習した学習者たちは、日本語講座で培った日本語力をもとに日本へ留学、就労したり、ベトナムの日系企業で働いたり、各自の仕事のステップアップに繋げて活躍しています。中級2(B1)を修了しても、もっとホーチミンのJF日本語講座で学びたいという学習者、現在、コース受講中の学習者から自分たちの苦手なジャンルを集中して学びたいという希望があり、「弱点強化コース」も誕生しました。

『まるごと』で学んだ学習者たちが意欲的になってくると、教師陣も負けてはいられません。現在、JF講座で教えている先生達のブラッシュアップからスタートし、『まるごと』を使って教えてみたいという先生達、先生の卵達のための「教師研修コース」ももうすぐ開講予定です。

『まるごと』及びJFスタンダードの普及

大学をはじめとするホーチミンの各機関で、『まるごと』やJFスタンダードに対する関心が高まりつつあります。一例として、ホーチミン市人社会科学大学外国語センターでの『まるごと』を使用したコースの立ち上げのお手伝い、教師研修、勉強会を行っています。

ベトナム語版の『まるごと』(入門A1)が今年中に発売予定のため、今後もますます『まるごと』の人気が高まりそうです。

文化体験講座

ホーチミンでは、基本的には2ヶ月に1回、文化体験講座を開催しています。本年度は、「踊りで学ぶ日本語」「空手道で学ぶ日本語」「表現で学ぶ日本語」「浴衣・盆踊りで学ぶ日本語」「お正月で学ぶ日本語」「生活文化で学ぶ日本語」を行いました。 「浴衣・盆踊りで学ぶ日本語」は、ベトナム南部の第4期“日本語パートナーズ”のみなさんの協力もあり、大盛況でした。色とりどりの浴衣を着こなすベトナム撫子、凜としたベトナム男子が一団となり、盆踊りを楽しみました。

浴衣を着ている生徒たちの写真
浴衣と盆踊りで学ぶ日本語

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation Center for Cultural Exchange in Vietnam
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
国際交流基金の海外拠点の一つで、日本語事業のほか、芸術文化、日本研究・知的交流の分野で文化交流事業を実施している。
ベトナム政府が推進する「2008-2020年期国家教育システムにおける外国語教育・学習プロジェクト」に日本政府も協力しており、当センターは初中等日本語教育のカリキュラム・教科書作成、教師研修等を行っている。
また、専門家派遣地を中心に中等日本語教師向け研修、巡回指導等を行っている。
さらに、高等教育機関や民間日本語学校に対する日本語教育支援も展開しており、セミナー開催等行っている。
ハノイ、ホーチミンで一般人対象のJFスタンダード準拠日本語講座も開講し、『まるごと』ベトナム語版出版準備も進めている。
所在地 27 Quang Trung, Hoan Kiem, Hanoi, Vietnam
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名、専門家:6名、指導助手:1名
(うちホーチミン市:専門家2名、フエ市:専門家1名、ダナン市:専門家1名派遣)
国際交流基金からの派遣開始年 2008年
What We Do事業内容を知る