世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)日越外交関係樹立45周年を迎えるベトナムより

国際交流基金ベトナム日本文化交流センター
小川京子・大塚武司・佐藤修

2018年は日越外交関係が樹立されてから45年、ベトナム日本文化交流センターがハノイに設立されてから10年と節目の年となりますが、ベトナムではますます日本語教育が盛んになってきています。

年間を通じた中等日本語教師研修

2003年に「中等プロジェクト」が立ち上げられ、当初ハノイの1校で課外授業として開始された中等日本語教育ですが、2017年10月時点では、当センターが把握している範囲において、正規科目として国定教科書を使用した日本語教育を実施する学校は中学校42校、高校28校の計70校でした(日本語教育国別情報ベトナム2017年度より)。当センターの主要業務のひとつが中等日本語教師の支援です。

教師支援の柱となるのは、新学年開始前の夏休みに行われる二泊三日の全国研修を起点に、一年を通じて行う教師研修です。2017年度は「学習者中心」を中心テーマとして、授業の計画→実施→振り返り→修正を繰り返し、自らの授業を改善していけるようになることをめざしました。

出発点となる全国研修ではベトナム全土から公募で選ばれた中堅教師15名が、これからの社会がどのように変化していくか、これからその社会を生きる若者に求められるのはどんな力か、「日本語教育」はどうしたらそのような人材を育成できるのか、そのために日本語教師はどんな取り組みをしていけばいいのかについて意見交換をしながら、グループで具体的な教案作りや模擬授業を体験しました。このように、「学習者中心」をめざした教師研修自体が「参加者主体」のものとなっています。

合宿研修の写真
ベトナム全土から集合した教師の合宿研修

全国研修参加教師は学期に1回、各地の日本語専門家から個別に助言を得ながら、全国研修で学んだことを実際の授業に生かした公開研究授業を行います。詳しくはダナンのレポートをご参照ください。

研究授業の次は中等プロジェクト校の教師全員を対象に北・中・南部3か所で行われる合同研修です。この合同研修に関してはホーチミンのレポートをご覧ください。

このように、年間を通じた教師研修のほか、日本語教育の行われているベトナム8地域を対象とした地域研修や勉強会、個別の授業見学や授業についての相談など、さまざまな側面から中等教師の支援を行っています。

2年目を迎えた初等日本語教育

2017年度の当欄にてお伝えしたとおり、2016年9月にハノイ市とホーチミン市の小学校5校で小学3年生を対象として初等日本語教育が開始されました。2018年5月現在、当時の3年生たちは4年生になり、プロジェクト試行段階の2年目をもうすぐ終えようとしています。

日本語パートナーは小学生で活躍する写真
小学校でも活躍する日本語パートナーズ

この初等日本語教育現場でも、写真のように、日本語パートナーズの皆さんが活躍してくれています。日本語パートナーズとの交流は、中学生や高校生同様、モデル校5校で日本語を学習する小学生たちにとっても、教室で習った日本語を実際に使うことができる絶好の機会となっているようです。これからも、日本語パートナーズとの笑顔の交流が、日本や日本語が好きになるきっかけになり、日本語学習の動機付けにつながることを願っています。

この試行プロジェクトで使われている教科書に関して、『国際交流基金日本語教育紀要』14号に「ベトナムの初等教育向け国定教科書の開発」というタイトルで、国定教科書開発の背景や教科書の特徴、方針、各課の構成について報告していますので、よろしければ是非ご覧ください。

『まるごと』ベトナム版出版に向けて(ハノイJF講座)

2012年にスタートしたハノイのJF講座は、『まるごと―日本のことばと文化―』(以下、『まるごと』)をメインテキストに、受講生のニーズに応えながら授業の改善を重ね、常に受講生から高い満足度を得ています。2018年度は、初級2(1クラス)、初中級(1クラス)、中級1(1クラス)でスタートし、学生や社会人、主婦など、さまざまな年代や背景を持った人が同じクラスで学んでいます。

JF講座の業務は、講座の運営だけに留まらず、JF日本語教育スタンダードや『まるごと』の対外的な普及も大事な活動となっており、その一つとして『まるごと』のベトナム版出版の準備を前年度より進めています。今春、入門編の「かつどう」「りかい」が出版される予定で、以降も、初級1、初級2、…と順次作業を進めていく予定です。

今までベトナム版がなかったため、『まるごと』の導入を躊躇する日本語教育機関が少なくなかったのですが、今回の出版を機に、対外的な普及活動に拍車をかけていきたいと思います。

以上、まだまだご報告したいことはたくさんありますが、詳しい活動内容はセンターが発行しているニューズレター『にほんご人 お~い!』をご参照ください。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation Center for Cultural Exchange in Vietnam
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
国際交流基金の海外拠点の一つで、日本語事業のほか、芸術文化、日本研究・知的交流の分野で文化交流事業を実施している。
ベトナム政府が推進する「2008-2020年期国家教育システムにおける外国語教育・学習プロジェクト」に日本政府も協力しており、当センターは初中等日本語教育のカリキュラム・教科書作成、教師研修等を行っている。
また、専門家派遣地を中心に中等日本語教師向け研修、巡回指導等を行っている。
さらに、高等教育機関や民間日本語学校に対する日本語教育支援も展開しており、セミナー開催等行っている。
ハノイ、ホーチミンで一般人対象のJFスタンダード準拠日本語講座も開講し、『まるごと』ベトナム語版出版準備も進めている。
所在地 27 Quang Trung, Hoan Kiem, Hanoi, Vietnam
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名、専門家:6名、指導助手:1名
(うちホーチミン市:専門家2名、フエ市:専門家1名、ダナン市:専門家1名派遣)
国際交流基金からの派遣開始年 2008年
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