世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)大学の教壇に立つ「その日」に向けて-ダナン外国語大学-

ベトナム日本文化交流センター(ダナン)
関山聡之

ベトナムの地方都市ダナンに派遣されている日本語専門家(以下、専門家)は、拠点のベトナム日本文化交流センター(ハノイ)を中心とした地域を超えた研修や、全国規模の事業の企画・実施に関わっています。加えて、ベトナム中部(ダナン・フエ)の中等・高等教育機関に向けた巡回指導、各種研修、勉強会など、地域に根ざした事業を企画・実施するという特色があります。ここでは、その中から“ダナンの高等教育機関(大学)の今”を紹介します。

大学教師の卵たちとの出会い

国立のダナン外国語大学には、「教師の卵」たちがいます。大学を卒業したばかりの前途有望な若者が、先生たちのティーチングアシスタント(以下、TA)として働いています。日本語能力も極めて高く、今すぐにでも教壇に立たせたいと思ってしまうほどです。しかし、この大学の教師として日本語を教えることができるようになるのは、まだ先のことらしいのです。

ベトナムの国立大学で日本語科目の常勤講師になるには、国立大学で日本語専攻の単位、教職課程で“大学レベルの師範”の資格、さらに修士の取得が求められます。ことに、ダナン外国語大学で日本語科目の常勤講師になる場合は、通例、“日本の大学院”で修士を取ることとなっているそうです。

ダナン外国語大学では、この進路を目指す若者が毎年数名いるとのことです。新型コロナウイルスの状況も見ながらになりますが、彼らも近々日本に行くことになるでしょう。大学には現在9名の常勤講師がいて、6名のTAがいます。学部長の話によれば、学生数から考えると常勤講師の人数は18名くらいが理想とのことです。今TAをしている若者は、早く日本から修士を持って戻ってくることを期待されているのです。

そんな彼らとの出会いは、2020年12月の日本語能力試験の日でした。専門家には、試験の公正、円滑な運営、開始・終了の確認をする業務があるのですが、会場のダナン外国語大学で顔を見たのが始まりです。はじめは、学生さんがアルバイトをしているのかと思っていたのですが、聞いてみたら、これから教師になる人とのことでした。それくらい、“若い”という印象でした。

試験中、見回りをしている時間のほかは、大学の先生から情報収集する時間に充てました。そこで、ふと彼らの話題になりました。日本語能力はあるけれども、授業の流れや教室活動をする技術が足りない。「ひらがな・カタカナ」の教え方もわからないから、研修をしてほしいとのことでした。

専門家という仕事のやりがい

日本語教師に向けて研修を行っている様子の写真
研修の様子 みなさんパソコン持参です

日本語の最初の授業といえば、だいたい、あいさつ、教室で指示として使う言葉、ひらがなを思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。もし、彼らが何の準備もなく教壇に立ったとしたらと考えると、恐ろしくなりませんか。初回から躓いて、以降学習者に何を話しても聞いてもらえなくなるというのは想像に難くありません。

緊迫感が伝わってきたため、研修を引き受けることにしました。初回ということもあり、「ひらがな・カタカナ」の教え方をテーマにしました。彼らをはじめ、参加した先生が様々な教材や教え方を体験して、自分の発想をもとに教材を作成するという内容にしました。

「ひらがな・カタカナ」を教えると言っても、意外と奥が深いものです。いま体験している活動は、読めるようにするためなのか、書けるようにするためのものなのか。文字そのものを覚えてもらう意図なのか、言葉の中で文字を覚えてもらう意図なのかなどについて、いっしょに考えてもらいました。

あと、忘れてはいけないのが、“文字アレルギー”の学習者を作らないようにすることです。皆さんもご存じの通り、学習者を文字アレルギーにさせてしまうと、日本語学習者を失うことになりますから。遊びながら勉強したら読めるようになっていた、書けるようになっていたということを目指した“飽きさせない工夫”も必要ですよね。

パワーポイントにタイミングやアニメーションをつけたフラッシュ、クロスワードパズル、数独を参考にして作ったパネルゲームなどを実際に体験してもらいました。中でも、アニメーションをつけたフラッシュを、作ってもらいました。写真にもありますが、文字を乗せた新幹線が、右から左に「ピュッ」と走るものです。学習者が高速で移動している文字を当てるという活動です。

作り方は、まず動くものを1つ決めて、その背景も考えます。動くものと文字をグループ化して、アニメーションの軌跡を加えます。「みんな、どんなものを作るのかな」と観察していたら、それぞれが個性的なものを作り始めました。みなさんは、動くものと聞いたら何をイメージしますか。参加者が選んだ動くものは、ロケット、うさぎ、カエルなどがありました。下から上に文字が動いたり、ピョンピョンと上下に動いたりします。ただ、わたしが唯一想定していなかったのが1つありました。“竜巻”です。文字が旋回します(笑)。参加した先生や彼らの創造力と個性を垣間見たひとときでした。

こうして「ひらがな・カタカナ」の研修が終わりました。後日、大学からは「TAに大きく影響を与えたことはもちろん、ベテランの教師も新しいアプローチの仕方により効果的な授業を行うスキル等も身に付けられ、また学内において教師間交流も生まれた。また研修をやってほしい」という言葉をいただきました。微力ではありますが、喜んでいただけるということは嬉しいものです。

日本語の授業で使用するスライドの一例として、日本語の文字に興味を持ってもらうため、新幹線のイラストにひらがなを付けている画像
新幹線が右から左に“ピュッ!”

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation Center for Cultural Exchange in Vietnam
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
関係機関と連携し、ベトナムの日本語教育発展に携わる。初等・中等教育ではカリキュラム・教科書作成、教師研修や巡回指導等を行い、日本語パートナーズ事業日本語教師育成特別強化事業も展開。一般向けには教材『まるごと 日本のことばと文化(以下、「まるごと」)』使用講座を開講し、同教材の現地出版、普及を推進。また日本での就労希望者等を主な対象に、新教材『いろどり 生活の日本語』を用いた日本語教育基盤整備、教師に対する研修、助成等支援を実施。
ダナン派遣専門家は特に、ベトナム中部の中等・高等教育機関に向けた巡回指導・各種研修、勉強会に加え、地域を超えた研修や全国規模の事業も企画、実施。中部地域における日本関連イベント協力等も行う。
所在地 Phong 608-609 so nha 130 duong Dong Da, Quan Hai Chau,Da Nang, Vietnam
国際交流基金からの派遣者数 専門家:1名
国際交流基金からの派遣開始年 2016年

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