日本語専門家 派遣先情報・レポート
ベトナム日本文化交流センター

派遣先機関の情報

派遣先機関名称
国際交流基金ベトナム日本文化交流センター
The Japan Foundation Center for Cultural Exchange in Vietnam
派遣先機関の位置付け及び業務内容
関係機関と連携し、ベトナムの日本語教育発展に携わる。初等・中等教育ではカリキュラム・教科書作成、教師研修や巡回指導等を行い、日本語パートナーズ事業日本語教師育成特別強化事業も展開。一般向けには教材『まるごと』使用講座を開講し、同教材の現地出版、普及を推進。また日本での就労希望者等を主な対象に、新教材『いろどり』を用いた日本語教育基盤整備、教師に対する研修、助成等支援を実施。
ハノイではベトナム北部を中心とした巡回指導や勉強会を実施するほか、初中等教育のカリキュラム・教科書作成、日本語講座、全国規模の研修や説明会、助成等を通じ、ベトナム全土および北部の日本語教育の質の向上に取り組む。
所在地
27 Quang Trung, Hoan Kiem, Hanoi, Vietnam
国際交流基金からの派遣者数
上級専門家:1名、専門家:7名、日本語指導助手:1名、生活日本語コーディネーター1名
国際交流基金からの派遣開始年
2008年

オンラインだからこそできる支援

ベトナム日本文化交流センター
片桐準二、遠藤かおり、武田素子、足立健治、伊藤亜紀、藤井舞、久和野崇司

2021年は前年に引き続き、新型コロナウイルスの影響を強く受けた一年でした。しかし、世の中が少しずつこのような生活環境にも慣れ始め、オンラインツール等を利用することで今まで以上に活動の幅を新たに広げることのできた一年でもありました。このような状況の中、ハノイのベトナム日本文化交流センター(以下、JFVN)では、日本語上級専門家1名と日本語専門家6名が、日本語教育の質を高めるためのさまざまな課題について試行錯誤をしながら、協力して日々の業務に取り組んでいます。その中から今回は3つの事業について紹介をします。

ベトナム全国初等・中等日本語教師フォーラムの実施

初等・中等教育(1)では、教育課程において外国語教育を重視する政策「国家外国語教育プロジェクト」が進行中で、2022年2月現在、中等教育段階では10の地域(省・都市)の約120の中学校・高校で日本語教育が行われています。また、初等教育段階では、2021年7月に「第一外国語の日本語カリキュラム」(小学校3年生からから高校3年生までの10年間カリキュラム)が発表され、ハノイ市の2校の小学校において第一外国語として導入されている他、いくつかの地域でクラブ活動として実施されるなど、徐々に広がりが見られています。

このような状況の中で、日本語教師数の増加に伴い、日本語教育実施に関わる行政と現場の教師、そして教師間の連携やネットワーキングが以前にも増して重要になってきています。そのため、ベトナム全国の小学校、中学校、高校で日本語を教える教師と教育関係者等が集い、最新の日本語教育情報の共有とネットワークの構築を目的として2021年11月28日に文化言語教育学際研究所(2)と共催で「第1回ベトナム全国初等・中等日本語教師フォーラム」をオンラインで開催しました。

フォーラム当日は、ベトナム全土から総勢120名の参加者が一堂に会しました。外国語教育政策を担当している教育訓練省、日本語の教科書開発を担当している大学の先生、生徒の進路の一つである3地域の大学の先生、そして日本語教育の支援をしているJFVNから直接話を聞いたり、地域や教育段階を越えて交流する場を設けたりしました。

ベトナムで実施された日本語教師フォーラムの写真
初等・中等日本語教育関係者が大集合

参加者からは「教育の変化、方法、方針について理解できた」「さまざまな角度から日本語教育を知ることができた」「全国の各地域の教師たちとつながることができた」などの感想が聞かれ、現場の教師や教育関係者が同じ方向を向いて日本語教育を考えていくための第一歩となりました。この一歩を次の一歩につなげられるよう、縦・横のつながりを大切にしながら支援を行っていきたいと思います。

現職日本語教師教授法講座(オンライン)の実施

2018年度から始まった日本語教師育成特別強化事業は、日本語教師を目指す人や日本語を教えた経験が少ない現職教師を対象に日本語教授法の講義と実習を行う「新規日本語教師育成講座」と、現職教師の日本語教授能力向上を目的とした「現職日本語教師教授法講座」を中心に行っています。ここでは、現職日本語教師教授法講座についてご紹介します。

現在はコロナ禍ということもあり、通常は対面で行う講座の内容をオンラインで実施しています。2021年度は「聴解の教え方」「ICT活用に向けて役立つサイト紹介」「文法を教える」「教室活動紹介」「読解を教える」といったテーマを取り扱いました。講座は一日を通して行われ、前半は講義や参加者同士の話し合いにより理解を深め、後半は前半に学んだ内容を活かしてグループごとに授業案などを考え発表しました。グループでの話し合いや作業を通して、参加者は新しい視点に気づき、いろいろなアイデアを得ることができたようです。

オンライン化にあたりベトナム全土から講座への参加が可能となったため、参加者からは「自分の住んでいる地域ではこのような講座に参加するチャンスがなかったのでありがたい」「いろいろな地域の先生方と知り合い、意見交換することができてとても有意義だった」といった声がありました。

「オンラインだからこそできることは何か」をこれからも考え、よりよい講座内容を提供していきたいと思います。

特定技能関連日本語事業の実施状況

2019年4月に即戦力となる労働人材を確保することを目的とした新たな日本での在留資格「特定技能」が新設され、それに伴い、就労を目的として日本で生活をすることを目指す学習者やそれに関係する機関や教師を支援する新しい事業が開始されました。本稿執筆時点(2022年2月)では、ベトナムではいまだに本格的な特定技能制度での労働人材の派遣は始まっておらず、国際交流基金日本語基礎テスト(以下、JFT-Basic)もベトナム国内では実施されていません。そのため、ベトナムでは『いろどり 生活の日本語』(以下、『いろどり』)の普及事業、および機関助成事業を中心に進めています。

2019年度から『いろどり』の教材説明会を開始し、2021年度からは教師向けの勉強会も説明会と並行して毎月実施しています。2021年度は新型コロナウイルスの影響で対面での実施が難しくなったため、説明会、勉強会はオンラインで実施しています。対面での実施とまったく同じようにすることは難しいですが、ハノイ、ホーチミンなどの大都市以外の地方で教えていらっしゃる先生方が参加されることが増え、普段なかなかお会いできない先生方とお話しができるようになりました。

オンラインで実施された教師向けの勉強会の写真
『いろどり』オンライン勉強会

『いろどり』を使っている教育機関も徐々に増えており、ベトナム国内で確認している範囲では70機関(2022年1月調査時点)が主教材、もしくは副教材として『いろどり』を使用しています。ベトナムではまだ特定技能、JFT-Basicは始まっていませんが、いつ始まってもいいように、準備を進めていきたいと思います。

  1. (1) ベトナムの学制は、小学校5年(1~5年生)、中学校4年(6~9年生)、高校3年(10~12年生)である。
  2. (2)文化言語教育学際研究所(英名:Interdisciplinary Institute for Culture, Language and Education Fostering、略称:CLEF)は、長くベトナムの日本語教育に貢献し、ハノイ国家大学外国語大学の日本言語文化学部長、副学長を歴任したNgo Minh Thuy先生が大学を定年退官後の2020年6月に、ベトナムにおける日本語教育を中心にした教育の質の向上、日本や海外の文化紹介促進のために研究、事業を行う非営利の団体として設立した研究所。JFにほんごネットワーク」(通称「さくらネットワーク」)メンバー。
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