世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)コロナ渦での日本語教育の広がり

カザフスタン日本人材開発センター
瀬川 綾子

世界的なパンデミックが続く新型コロナウィルスは、カザフスタンでも2021年5月現在未だ収束を迎えていません。大学やシュコーラ(カザフスタンの学校の総称で小中高一貫)は一部対面での授業を再開しているものの、その多くはオンラインが続いています。

そんな中、カザフスタン日本人材開発センター(以下、KJC)も所属するナルホーズ大学の閉鎖が続き、1年以上オンラインでの授業を行っています。約1年前、あわただしくオンラインに変わった当初は、受講生にも教師にも多少の戸惑いがありましたが、少しずつ慣れてきて、いい面も見え始めています。

カザフスタンは世界第9位の面積を誇る広大な国です。人口の多くは報告者の派遣先であるアルマティと首都ヌルスルタンに集中していて、日本語学習機関があるのもこの2都市のみです。地方都市においても日本語を学びたいと思っている潜在的な学習者に対しての支援を行いたくとも、広大な国土ゆえなかなか届かない状況でした。しかし今回オンライン授業の募集をKJCのホームページやSNSで行ったところ、これまで参加できなかった地方都市からの応募や問い合わせが増えてきました。(2021年5月現在受講生の地方在住者は17名:全受講生の1割程度)

今後新型コロナウィルスが収束した後も、地方都市に対するオンライン授業を続けていくことは、同じように地方に住む日本語人材が教師として活躍するチャンスを作ることにもつながると考え、オンラインでの日本語教師養成セミナーを行う事としました。

第8回『まるごと』教師養成セミナー(オンライン)

今年は3月1日(月)から3月19日(金)までの毎日(土日祝日除く)2時間、8回目となる『まるごと』教師養成セミナーを初のオンライン開催で行いました。KJCで行われているJF講座(『まるごと 日本のことばと文化』(以下、『まるごと』)を使用し開講している日本語講座)では、『まるごと』を使用しコミュニケーション能力を伸ばす授業を行っています。その為、教師もその特徴を理解し教える技術が必要とされます。今回は主に教師経験の少ない方を対象に、2月中旬から募集を始め、16名が申し込みをしてくれました。全く教授経験のない方も、すでに長い教師経験のある方からの申し込みもありました。このセミナーでは教師としての役割や教案の書き方など、日本語教師としての基本的な部分から、『まるごと』の基盤となっている「JFスタンダード」「Cando」についても詳細に学び、実習も行いました。毎日2時間で3週間の長丁場でしたが、最後まで参加してくれた皆さんからは、充実した3週間であったことが伺える声がたくさん届きました。教師経験のある方からは経験に基づいた様々な工夫を聞くことができ、教師経験がない方へのいいアドバイスがたくさん飛び出しました。逆に新人教師から投げかけられる疑問から、ベテラン教師も初心に戻るいい機会が得られたと思います。

教師養成オンラインセミナーの様子の写真
『まるごと』教師養成オンラインセミナー

カザフスタン弁論大会への参加

2020年3月に第22回カザフスタン弁論大会が行われる予定でしたが、新型コロナウィルスの影響で延期されてしまいました。9月5日にオンラインでの開催が決まり、KJC(アルマティ)からも、1名参加しました。参加したヤスミナさんは、中学生の頃からKJCに通い始め、現在は市内の日本語学科のある大学に通いながら、KJCでの学習も続けています。事前に撮影したビデオによる審査という初の試みで戸惑うところも大きかったと思いますが、「日本語を学び始めたことで自分自身の進む道を自分の足で歩く勇気が生まれた」経験を、生き生きと語ってくれました。そして見事優勝。この弁論大会には過去にも出場したことがありましたが、なかなか結果が出ず悔し涙を流したこともありました。今回の優勝で「続けていくことの大切さとその意味」も学んだと、誇らしげに話す顔が印象的でした。彼女のスピーチは、その後モスクワで行われた「日本語チャレンジ」(例年行われているモスクワ学生日本語弁論大会の代替イベントでロシアとCIS圏から20名が参加)でも3位に入賞しました。

ヤスミナさんのスピーチは、こちらのリンクからご覧ください。
https://youtu.be/PkYDT7eNKDU

オンライン弁論大会出場者のスピーチの様子の写真
弁論大会「自分だけの道がある」

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
Kazakhstan-Japan Center for Human Development
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
国際協力機構(JICA)とカザフスタン政府との協定により設立された機関で、日本語コース、ビジネスコース、相互理解の事業を行っている。2011年10月から、日本語コースはJF講座となり、2012年の2月から、アルマティでJF日本語教育スタンダード準拠の日本語教育が始まる。同年9月からは首都のヌルスルタン分室でもJF講座が始まる。日本語専門家は、JF講座をはじめカザフスタンの日本語教育支援を行う。桜祭りや七夕祭りなどのイベントや、大使館、日本商工会と共催で行っている日本文化デーは、年々来場者数も増加し、日本文化の普及に大きな影響を与えている。また、茶道や書道などの文化体験コースも開講している。
所在地 55 Jandosov str. Almaty Rep. of Kazakhstan
国際交流基金からの派遣者数 専門家:1名
国際交流基金からの派遣開始年 2002年
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