世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)ポーランドの「新たな日常」とは

ヤギェロン大学
栗原 幸子

ポーランドの古都クラクフにあるヤギェロン大学に、2019年10月に日本語専門家(以後、専門家)として着任し、9か月が経ちました。当地での専門家の役割は主に、派遣先機関であるヤギェロン大学での日本語教育と、ポーランド国内の日本語教育の支援を行うことです。2020年の世界的な新型コロナウイルスの感染拡大により、ポーランドもさまざまな影響を受けました。今回のレポートでは、専門家としての活動の一部をご紹介し、その後、新型コロナウイルスの影響で、どのような変化があったのかを書いてみたいと思います。

ヤギェロン大学での日本語

ヤギェロン大学は1364年創立のポーランド最古の大学で、現在、学士課程から博士課程まで約100名の学生が日本学を学んでいます。専門家は、学部1年生から修士1年生までの「実用日本語」と呼ばれる日本語科目を担当しています。「実用日本語」の授業では、同僚の先生方と文法、読解、会話など分担してチームで教えていて、専門家が担当している授業では、主に学習者の日本語の運用能力を伸ばすことを中心にしています。

新型コロナウイルスの感染対策のため、ポーランドでは2020年3月中旬から教育機関の閉鎖が決まりました。ヤギェロン大学からも、大学の閉鎖に伴い、対面での授業は禁止、遠隔授業に移行するように指示があり、専門家が担当している授業も、ビデオ会議システムを使ったオンライン授業に切り替えました。突然始まったオンライン授業を進めていく中で、どのように学生たちの学習意欲を保ち、日本語力を高めていけるのか、どのような活動がこの形式に向いているのか、お互いに試行錯誤の日々でした。一方で、教室での授業に比べて、画面共有やオンラインリソースなどの利用が簡単になるなどのメリットもあり、学生たちも意欲的に活動に取り組んでいました。

ポーランドでは、一時期、公園なども閉鎖になり、通院、生活必需品の買い物などの必要最低限以外の外出は禁止といった、かなり厳しい外出制限がかかった時期もありました。対面での授業が禁止になってから、実家に帰った学生も多く、地域によってはインターネット接続に関する問題もあり、いろいろな不安や、集中力などの問題をあげていた学生もいました。この状況下でストレスを抱える学生たちもいて、学生たちの心理面にも配慮しながら、授業を続けていくように心がけてきました。

日本語サロン

歴代の専門家が開催してきた「日本語サロン」も引き続き実施しています。日本語サロンは、日本学科の学生たちと当地在住の日本人が、日本語での自由な会話を楽しむ交流活動です。初回は、「新学年のスタート」というテーマで行い、学年の最初の集まりであったことも手伝って、予想を超える50名ほどの参加者があり、大盛況の会になりました。

日本語サロンで楽しく話そうの写真
日本語サロンで楽しく話そう

大学が閉鎖になってからは、オンラインでも日本語サロンを開催してみました。少人数の参加でしたが、オンラインになったことで日本からも参加者があり、お互いに楽しい時間を過ごすことができたようです。

ポーランド南部日本語教師の会

ポーランドにはポーランド日本語教師会の他に、前任者が立ち上げたポーランド南部日本語教師の会があります。(詳細は、2018年度のレポートをご覧ください。)

ポーランド南部日本語教師の会で研修報告を行うチャスカ先生の写真
ポーランド南部日本語教師の会で研修報告を行う
チャスカ先生

第一回目は「評価」をテーマに勉強会を行いました。まず、国際交流基金日本語国際センターでの研修に参加された先生の研修報告をしていただき、その後、評価に関してセミナー、ワークショップを行いました。

前述のように、3月に国内の教育機関が閉鎖になったことから、第二回目の勉強会は、「オンライン授業」をテーマに、オンラインで開催することにしました。ポーランド南部日本語教師の会には、ボランティアとしてそれぞれの地域で孤軍奮闘されている先生も多く、遠隔授業に入ってからの各機関の現状や実践報告などを中心に話し合いました。また、日をあらためて、オンライン授業における評価についても意見交換を行いました。

現時点では、ポーランドでの日ごとの新規感染者数はあまり減少しておらず、10月に始まる新学期はどのような形になるのかはまだわかっていません。しかし、オンラインの特性を生かして、国や地域を超えた交流活動なども始まっています。ポーランドでも「新たな日常」を模索していくことになるでしょう。お互いの健康と安全を第一に、柔軟に進めていきたいと思っています。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
Jagiellonian University
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
派遣先機関の位置づけ:日本学を主専攻にもつ国立四大学の中の一機関 業務内容: 1. 派遣先機関における学部生、大学院生への日本語教育。「実用日本語」を担当。2. カリキュラムや教材に関するアドバイザー的な役割。3. ポーランド日本語教師会、ポーランド南部日本語教師の会などポーランドの日本語教育に関する支援 4. ポーランド国内の日本語関連のイベントのサポート
所在地 al. Mickiewicza 9, 31-120 Kraków, Poland
国際交流基金からの派遣者数 専門家1名
日本語講座の所属学部、
学科名称
文献学部東洋学研究所日本中国学科
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