日本語教育通信 本ばこ 『日本語誤用辞典』

本ばこ
このコーナーでは、最近出版された日本語教材や参考書の中から、「海外の先生にとって使いやすい教材」「授業や研究の役に立つ本」「知っていると便利な図書・資料」などを紹介します。

『日本語誤用辞典』

著者:浅山友貴、荒巻朋子、板井美佐、太田陽子、坂本まり子、
杉本ろここ、副島昭夫、田代ひとみ、野田景子、本郷智子
編著:市川保子
出版社:スリーエーネットワーク

日本語誤用辞典

URLhttp://www.3anet.co.jp
発行年月:2010年4月
ISBN:978-4-88319-522-0
判型・頁数:A5判、800頁

生きた誤用データを整理された形で示す

 日本語学習者は、日本語を習得する過程でさまざまな誤った文や不自然な文を作ります。本書は、学習者の実際の誤用例を文法の観点から整理し、解説を加えた誤用辞典です。取り上げられている誤用例文数は、2720文にのぼります。見出しとして挙げられている文法項目は、「だろう」「のだ」などモダリティに関係のあるもの、「てある」「ている」などテンス・アスペクトに関係のあるもの、「たら」「ば」など条件節に関係するものなど、日本語学習上問題になりやすいものばかり170項目にわたります。また、一般的な文法解説書にはあまり出てこない接続詞や副詞の項目が多いことも特徴です。

 それぞれの見出し項目には、誤用例文とその訂正文が、誤用の種類によって分類されて並べられています(図参照)。誤用の種類というのは、使用しなければならないのに使用していない「脱落」、使用してはいけないところに使用している「付加」、形の間違いである「誤形成」、他の項目と混同している「混同」などです。

学習者の誤用から何が学べるか

 たとえば「そして」では、次の例を含めた全部で16種類の誤用例文が挙げられています。

毎日天気予報を聞いたら、かさとか、レインーコトとか、ホーバとかの用意ができる。そして、仕事する時か出かける時か、何も心配しない。
毎日天気予報を聞いたら、傘とか、レインコートとか、オーバーとかの用意ができる。そうすれば、仕事する時や出かける時、何も心配しなくていい。

 学習書はなぜこのような誤用をするのでしょうか。本書の「誤用の解説」ではこれらの誤用を分析・検討し、学習者には前文と後文との意味関係をあまり考えずに「そして」を使ってしまう傾向があること、上の例では、条件・結果の関係があるので別の接続詞を使ったほうが適切だということなどが書かれています。また、「指導のポイント」として、2つの文がどのような論理関係を持つか、接続詞同士を比較しながら時間をかけて教える必要があるということなどがまとめられています。

 このように、学習者の誤用を見ていくことで、その文法項目の意味や使い方、指導上の問題点などいろいろなことが見えてきます。本書は、教え方を工夫する際の参考にもなりますし、実際に自分の学習者がおかした誤用を解釈する手がかりにもなります。また、これから文法や言語習得を研究しようとする人にとっては、ヒントを見つける資料になるだろうと思われます。

P.255
P.255

(中村雅子/日本語国際センター専任講師)

日本語国際センター図書館

「日本語教育通信」の「本ばこ」では、新しく出版された図書の紹介を行っていますが、日本語の教材や、日本語、日本語教育関連の図書についての情報がほしいときは、日本語国際センター図書館のホームページもぜひ利用してください。

日本語国際センター図書館
http://www.jpf.go.jp/j/urawa/j_library/j_lbrary.html

9月のテーマ展示「文型を学ぶ/教えるための日本語教材」
http://jli-opac.jpf.go.jp/display2/201009.html

図書館蔵書検索
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