日本語教育通信 本ばこ 『日本語教師のための異文化理解とコミュニケーションスキル』
本ばこ
このコーナーでは、最近出版された日本語教材や参考書の中から、「海外の先生にとって使いやすい教材」「授業や研究の役に立つ本」「知っていると便利な図書・資料」などを紹介します。
『日本語教師のための異文化理解とコミュニケーションスキル』
著者:八代京子、世良時子
出版社:三修社
URL:http://www.sanshusha.co.jp
発行年月:2010年10月
ISBN:978-4-384-05572-6
判型・頁数:A5判、164頁
日本語を学んでいるときや教えているとき、楽しい発見だけでなく、「えぇーっ!?」という驚きや戸惑いを感じたことはありませんか。その自分の異文化体験を日本語教師として学習者にどのように伝えていますか。日本語教師に求められる異文化理解やコミュニケーションスキルとはどのようなものなのでしょうか。
この本の主な対象は、日本国内で様々な文化を背景にした学習者に日本語を教える日本人教師ですが、裏返してみれば、海外で教える非母語話者日本語教師にとっても日本語や日本文化理解の助けになるのではないかと思います。
日本語教育現場が舞台のマンガで事例を紹介
本をぱらぱらめくると、まず目につくのが楽しいマンガです。内容的には、共通する筆者による『異文化コミュニケーションワークブック』(2001)とほぼ同じですが、日本語教師の身近で起こる異文化接触事例をマンガで紹介し、自分が注意すべき点、指導するときに気をつけるべき点の両面からわかりやすく書かれています。また、上記の本と同様に、自分の傾向や理解度を確認するセルフチェックや、深く考えるためのスキルアップエクササイズがあるため、具体的な事例について考えながら理解を深めることができるでしょう。一人で答え、モデル回答で確認することもでき、教師研修のディスカッションの材料としても使えるでしょう。
異文化理解の態度、知識やスキル、そしてエクササイズ
構成は、次のようになっています。
第二章 異文化理解とは
第三章 コミュニケーション・スタイルを決めるもの
第四章 自分をふりかえる
第五章 言語コミュニケーションの違い
第六章 非言語コミュニケーションの違い
第七章 異文化コミュニケーションスキル
第一章では、「遅刻しても謝らない」という異文化接触の事例を紹介し、それに対する文化相対主義的な対応を示しながら、異文化に接したときのコミュニケーションの要点を解説しています。
第二章では、異文化理解のための態度として、「非常識」は「新しい常識」ととらえなおすこと、ステレオタイプ化しないこと、自分の文化、価値観を意識化すること、考え方、感じ方、やり方を固守しないことがあげられています。
第三章は、コンテキスト、あいづちとターン・テイキング、自己開示、パラ言語の4つを扱っています。
第四章では、自分の学習スタイルや異文化適応力などをセルフチェックで理解します。
第五章は、褒める、謝る、断る、自己紹介などの言語コミュニケーションの違い、第六章は、アイコンタクト、表情、ジェスチャー、タッチング、対人距離、時間感覚などの非言語コミュニケーションを扱っています。
最後の第七章では、異文化コミュニケーションスキルとして、D.I.E. 判断保留、アクティブ・リスニングとエポケー、開かれた質問・掘り下げの質問、要望を伝達する、の4つの方法を紹介しています。
日本語教師として体験した驚きや発見を、文化相対主義的にどう読み解くのか、どう対処すればいいのかなど、考えるきっかけとなるでしょう。
(小松知子/日本語国際センター客員講師)
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