日本語教育通信 本ばこ 『新「ことば」の課外授業』

本ばこ
このコーナーでは、最近出版された日本語教材や参考書の中から、「海外の先生にとって使いやすい教材」「授業や研究の役に立つ本」「知っていると便利な図書・資料」などを紹介します。

『新「ことば」の課外授業』

編著者:西江雅之
出版社:白水社

新「ことば」の課外授業

URLhttp://www.hakusuisha.co.jp/
書籍情報:http://www.hakusuisha.co.jp/detail/index.php?pro_id=08610
発行日:2012年7月
ISBN:978-4-560-08610-0
判型・頁数:四六判 220ページ

 今年の2月24日にアップされたこのコラムで、益岡隆志編著『はじめて学ぶ日本語学-ことばの世界を探る15章-』(ミネルヴァ書房)という本を紹介しましたが、その紹介の最後に、言語学の入門・再入門に相応しい本として、姉妹本の大津由紀雄編著『はじめて学ぶ言語学-ことばの世界を探る17章-』(ミネルヴァ書房)もお勧めしました。お読みになった先生はいるでしょうか。読んでみたけれど、やはりちょっと難しかったという先生にお勧めしたいのがこの一冊です。

話の面白さ

 この本の構成は以下のとおりです。

序章
第1講 見方によって言語の数は変わる
第2講 バイリンガルとはなにか
第3講 ことばの「意味」とはなにか
第4講 ことばがわかる犬はこの世に存在しない
第5講 世界の言語に共通する七つの性質
第6講 ことばで世界を切り取る
第7講 第二言語とのつきあい方
補講 言語と音声

 目次からするとやはりちょっと硬い感じがするのですが、実際に読んでみると第4講の題「ことばがわかる犬はこの世に存在しない」のように可笑しな話が随所に出てきます。「はじめに」によればこの本は、ことばに関して広い視野からの話を聞いてみたいと著者の部屋に集まってきた人々を対象に、お茶を飲みながら行われた「課外授業」で、それを後で文字化し、一冊の本にしたものです。ですから、いわゆる言語学の入門書ではなく、言語学者の名前、学説、引用など一切ありません。むしろ、「ことば」についての様々な愉快な話を聞いているうちに、知らない間に「ことば」の本質に辿り着いている、といった感じの本です。

まずは楽しむことから始めましょう

 著者の言葉を借りれば、通常の言語学の本にあまり登場しない「ことばを発する話者の姿」や「ことばとコミュニケーションの関係」についての話がこの本の一つの重要なポイントです。先に挙げた「ことばがわかる犬はこの世に存在しない」にそのような話が出てきます。「伝え合いの七つの要素」がどのように溶け合ってコミュニケーションが成立しているのか、あるいは話し言葉の背景にある話し手の声・スピード・癖(パラ・ランゲージ)や脈絡、評価といったものがコミュニケーションにおいてどのような役割を果たしているのか、などについて言及されています。ただ、ここでそれらについて書き始めると話が難しくなってしまう可能性があります。ここではそのことはひとまず置いて、この本の中に出てくる話を楽しむことから始めましょう。例えば、文法的な数で、単数形・双数形・三つの複数形・四つの複数形を持つ言語があること、人称で一人称、二人称、三人称に加え四人称ともいえるような人称を持つ言語があること、アフリカ南部の言語では「クリック」と呼ばれるキスするように発音される音声があること、などを知ることだけでも楽しくなりませんか。また、言語と文化の関係で、日本語の小説を読むとき「銀座の女」、「浅草の女」、「新宿の女」のイメージの違いが分からなければならないが、国際語となった英語にはそうした言語に付随した知識が必要でない場合もある、といった議論も楽しいと思います。まずは話の面白さ、可笑しさを体験することから始めましょう。

(白井 桂/日本語国際センター専任講師)

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