日本語教育通信 本ばこ 「女ことば」は日本語より日本語らしい…のよ。 『翻訳がつくる日本語 ヒロインは「女ことば」を話し続ける』

本ばこ
このコーナーでは、最近出版された日本語教材や参考書の中から、「海外の先生にとって使いやすい教材」「授業や研究の役に立つ本」「知っていると便利な図書・資料」などを紹介します。

「女ことば」は日本語より日本語らしい…のよ。
『翻訳がつくる日本語 ヒロインは「女ことば」を話し続ける』

著者:中村桃子
出版社:白澤社(http://d.hatena.ne.jp/hakutakusha/)・発行
(現代書館(http://www.gendaishokan.co.jp/)・発売)

『 翻訳がつくる日本語 ヒロインは「女ことば」を話し続ける 』

書籍情報:http://d.hatena.ne.jp/hakutakusha/20130805/1375674684
発行日:2013年8月
ISBN:978-4-7684-7951-3 C0081
判型・頁数:四六判並製 208ページ

「お母さんがお父さんと結婚なすったのは十五の時あたしはもう十六だわ。」(『風と共に去りぬ』スカーレット)
「着たい服を着る。心地よいし、美しくなれる。」(ミシェル・オバマ)
「やっつけたわ 化け物!助かったのよ。」(『エイリアン』リプリー)
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 日本語がわかる人なら、上の会話がすべて女性によって話されたものであることがわかるでしょう。日本語は男性と女性で使うことばに違いがあることは、日本語を学習したことがある人はみんな知っていると思います。
 しかし、上の例のように話す女性は現実にはあまりいないといっていいでしょう。著者によれば、「あたし」、「かしら」、「だわ」、「わよ」、「のよ」などは、女性によってはもはや使われていないのが現状ということです。
 では、いったい、だれが使うのでしょうか?

外国人女性のための「女ことば」

 日本人女性が使わない「女ことば」は翻訳に使われ、日本語に影響を与えてきたということが本書で述べられています。
 映画や小説やインタビュー記事など、架空の人物でも、現実の人物でも、女性のことばは普通「女ことば」で翻訳されます。
 なぜでしょうか?
 それは役割語のようなものでもあります(役割語については日本語教育通信2013年2月号「日本語・日本語教育を研究する」でも取り上げています)。たとえば、「おじいさん」というキャラクターはいつも「わしは…じゃ」、忍者といえば「拙者は…でござる」という言葉づかいがあてられます。それと同じように西洋ヒロインといえば、いつも「女ことば」を使うというステレオタイプ(本書では「知識」という言葉を使っています)が、翻訳者にも受け取り手にもあるからです。このようにして、翻訳というものが、日本語らしさのひとつである「女ことば」を保存していると本書は主張します。もともとの「女ことば」がいつから、だれによって使われたのかは本書に書かれています。
 なお本書では、「女ことば」以外に、「男ことば」や「方言」についても対照的に考察がされています。

「やあ、ぼくはブランドンだ。ミネソタ経由さ」(『ビバリーヒルズ高校白書』)

 若い男性でも、日本人はこのようには言いません。これも翻訳の表現です。
 翻訳では女性が「女ことば」を使うのに対して、男性は標準語を使い、「男ことば」は気軽な親しさを表しているそうです。
 ある種の登場人物に対しては「方言」が翻訳に使われています。どんな登場人物に、どんな方言が使われているかということとその理由についても、興味深い考察がされています。
 日本語の教科書にはあまり出てこない、「女ことば」や口語表現に興味がある方、ジェンダーと言語の関係、役割語、ステレオタイプなどに興味のある方は一読してみてはいかがでしょうか。もちろん、翻訳に興味がある方にも。

図版1 p.13P.13 図版2 p.36-37P.36-37

(生田 守/日本語国際センター専任講師)

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