日本語教育通信 本ばこ 複言語の中で育つ子どものことばの学びについて知る 『日本語を学ぶ/複言語で育つ 子どものことばを考えるワークブック』

本ばこ
このコーナーでは、最近出版された日本語教材や参考書の中から、「海外の先生にとって使いやすい教材」「授業や研究の役に立つ本」「知っていると便利な図書・資料」などを紹介します。

複言語の中で育つ子どものことばの学びについて知る
『日本語を学ぶ/複言語で育つ 子どものことばを考えるワークブック』

『日本語を学ぶ/複言語で育つ子供のことばを考えるワークブック』表紙

著者:川上郁雄、尾関史、太田裕子
出版社:くろしお出版(http://www.9640.jp/

書籍情報: http://www.9640.jp/xoops/modules/bmc/detail.php?book_id=95928
発行日: 2014年10月
ISBN: 9784874246351
判型・頁数: B5判 132ページ

 現代は「移動の時代」です。仕事や勉強、結婚など様々な理由から海外で暮らす日本人も日本で暮らす外国人も大勢いて、ことばの学習は常に大きな関心事となっています。ところが、大人に連れられて複数の言語環境に身を置き、成長していく子どものことばの問題については、じゅうぶんに認識されていないのが現状ではないでしょうか。
 本書は、そのような子どものことばの学びについて日本語教育の視点から考えることをテーマに書かれたものです。大学での日本語教育の授業、小中学校の教員養成、日本語教師養成講座等での利用が想定されています。

3つのステージで現状理解・教育実践・研究方法まで

 本書は以下のような3つのステージで構成されています。

『日本語を学ぶ/複言語で育つ 子どものことばを考えるワークブック』 の目次

第1ステージ:子どもの直面する課題を考える
 複数言語環境で育つ子どもを取り巻く社会的背景と、子どもが直面する課題を学びます。子どもの立場になって日本語について考える作業や、具体的なエピソードや資料が示されているので、キーワードとその解説も参照しつつ質問への答えを探ってみるとよいでしょう。

第2ステージ:子どものことばの学びと実践を考える
 私たちは皆、母語、外国語、方言など様々な言語資源を使って生活しています。個々人の持つ言語能力が「複言語」的であることをわかりやすく理解するために、このステージは読者自身の「言語ポートレート」の作成で始まります。そして、社会的要因や心理的要因から、複数言語環境で育つ子どもの言語習得には何が影響するのかを探り、次いでその学びをどう支援できるか、教材や言語活動を通して実践的に考えていきます。

第3ステージ:子どものライフコースを考える
 ことばをめぐる個人の生活や生き方について語られたライフストーリーを3つ読んで、複数言語環境の中で成長するとはどういうことなのか考えていきます。三者三様のライフストーリーはことばの学びに関連した様々な様相を呈しており、興味深く読むことができます。ライフストーリーの聴き方や書き方などの研究方法もここで扱われています。

自分で考え、クラスでの意見交換でいっそう深まる理解

 本書が発している様々な問いかけは、正解を一つにできるような単純なものではありません。大事なことは、その答えを自分でよく考え、クラスの仲間と意見交換をしながらさらに深めていくことではないでしょうか。この1冊をきっかけに、複数言語環境で育つ子どものことばの問題を単に日本語教育の枠で収めるのではなく、人間を育てる上での重要な問題として共有することができるでしょう。

  • 『日本語を学ぶ/複言語で育つ 子どものことばを考えるワークブック』28ページ 第5回ことばとアイデンティティ
  • 『日本語を学ぶ/複言語で育つ 子どものことばを考えるワークブック』29ページ 第5回ことばとアイデンティティ

(来嶋 洋美/日本語国際センター専任講師)

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