日本語教育通信 本ばこ 『伝わる発音が身につく!にほんご話し方トレーニング』

本ばこ
このコーナーでは、最近出版された日本語教材や参考書の中から、「海外の先生にとって使いやすい教材」「授業や研究の役に立つ本」「知っていると便利な図書・資料」などを紹介します。

中・上級学習者のためのトップダウン型発音トレーニング教材
『伝わる発音が身につく!にほんご話し方トレーニング』

著者:
中川千恵子・木原郁子・赤木浩文・篠原亜紀
出版社:
アスク出版(http://www.ask-books.com/

『伝わる発音が身につく!にほんご話し方トレーニング』表紙

発行日: 2015年2月
ISBN: 978-4-87217-944-6
判型・頁数: B5判 103ページ

 スピーチの指導をしていた時、原稿はそのままなのに、飛躍的に上手になった学習者がいました。また、会話の授業の時に「この学習者の話し方は気持ちがこもっているな」と感じたことがありました。ふりかえってみると、イントネーションにかかわる部分が改善したのだということに気づきました。
 どんなことばを使うかも大切ですが、「発音がいい」と、よりよく伝わります。みなさんも、イントネーションが正しいと、スピーチや発表がうまく聞こえるし、会話でも気持ちがよく伝わる、という経験をしたことがあるでしょうか。
 本書が目指すのは、「聞きやすく、伝わりやすい発音」を身につけ、「話し手にとって言いやすい発音」を学ぶことによって、スピーチやプレゼンテーション、そして日常会話の印象が変わるようにすることです。

イントネーションからの練習

 本書は、イントネーション練習に中心を置いた発音教材です。まず、韻律的なイントネーションから始め、リズムやアクセントの練習を加え、最後の章に単音(母音・子音)の練習がまとめてあります。このように、細かい発音より先に、全体的なイントネーションから練習させることは、発音の全体的な印象を改善するのに効果的でしょう。例文には、以下の図版のように、「意味のまとまり」である「句切り」とアクセント核、そしてイントネーション・カーブが書かれており、そのマークを見ながら練習を行います。

『伝わる発音が身につく!にほんご話し方トレーニング』46ページと47ページ
P46-47

本書の構成

 本書は次の4つの章からなっています。

第1章 スピーチ上手になろう
第2章 会話上手になろう
第3章 チャレンジしよう
第4章 もっと発音!-ルールと練習-

 第1章は、スピーチ、プレゼンテーションなど産出型の口頭表現における発音の練習を通して、話しやすく聞き手にわかりやすい発音を身につけることを目指します。「歓迎!食べ歩きサークル」、「手作り料理を召し上がれ」等、10のトピックからなっています。
 第2章は、会話(やりとり)における発音練習で、口頭表現や男女ことばの違いについても意識させ、テンポよく話せるようになるためのリズム練習も入ってきます。「富士山に登ったことあります?」「コスプレって何?」等、前章同様10のトピックからなっています。
 第3章は、1章と2章で練習してきた発音を意識しながら、インタビュー、プレゼンテーションと質疑応答、ディベート、ディスカッション、シナリオ・プレイ等の活動にチャレンジするための練習で、5つのトピックからなっています。
 ジャンルごとに章を分けて練習をさせる点も本書の特徴ですが、本文の内容も楽しく、学習者が言ってみたいことや、ユーモアある話が盛り込まれています。

『伝わる発音が身につく!にほんご話し方トレーニング』76ページと77ページ
P76-77

 第4章は、各課の発音ポイントをまとめたもので、「句切り」、「への字」、「山と丘」等イントネーションの基本、フットとリズム、複合名詞のアクセント、動詞・形容詞・外来語のアクセント、強調、文末イントネーション、単音の問題などが20のトピックにまとめられています(第1章と第2章に出てくる「ポイント」と照応しています)。
 その他、章の最後に「番外」として、オノマトペ、あいづち、早口ことばについても練習がついています。

こんなふうに使ってみたい

 本書は、モジュール型教材をうたっています。本書の構成から考えると、最初のページから順番に最後まで進むという使い方ではなく、産出(第1章のスピーチ等)とやりとり(第2章の会話等)をバランスよく練習し、時々、活動(第3章)を交え、必要に応じて発音ルールに触れる、というやり方をしてみてはどうでしょうか。このように、章立ての順番にかかわらず、学習しているトピックと関連した項目を自由に選択できる点は、本書の魅力の一つです。また、解説が丁寧なので、付録のCDを活用し、自己学習を持続することも十分に可能な教材だと思います。

(生田 守/日本語国際センター専任講師)

日本語国際センター図書館

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