日本語教育通信 本ばこ 『日本語学習者のための日本研究シリーズ 1~3』

本ばこ
このコーナーでは、最近出版された日本語教材や参考書の中から、「海外の先生にとって使いやすい教材」「授業や研究の役に立つ本」「知っていると便利な図書・資料」などを紹介します。

海外学習者の知的ニーズに応えるために
『日本語学習者のための日本研究シリーズ1~3』

『日本語学習者のための日本研究シリーズ 1~3』表紙の画像

シリーズ編者:砂川有里子/砂川祐一/アンドレイ・ベケシュ
出版社:くろしお出版(http://www.9640.jp/xoops/
発行日: 第1巻・第2巻…2014年9月、第3巻…2016年9月

ISBN: 
第1巻…978-4-87424-631-3
第2巻…978-4-87424-632-0
第3巻…978-4-87424-694-8
判型:
A5版
頁数:
第1巻…107ページ、第2巻…173ページ、第3巻…184ページ

 中級テキストを読むのもすらすらとはいかないのに、興味があるものなら生の素材でもどんどん読んでいる。そんな学習者に出会ったことはありませんか?考えてみれば、私たちは読めそうだから読むのではありません。興味を持って、読みたいと思って読むのではないでしょうか。外国語学習でも同じことが言えそうです。

シリーズの構成と特徴

 このシリーズは、日本研究の専門家が書き下ろしたもので、現在まで次の3冊が発行されています。

  • 1.『日本思想におけるユートピア』(著者:高橋武智)
  • 2.『日本の映画史-10のテーマ-』(著者:平野共余子)
  • 3.『日本古典の花園を歩く』(著者:林四郎)

 海外の非漢字圏の大学で「日本語を学びはじめてわずか三年程度の学部生」を対象に行われた日本学の講義がシリーズのきっかけになりました。どれも聞く人に語りかけるような話し言葉で書かれています。また、編者によって、よりやさしい日本語に書き換えられているほか、難しい漢字にはルビがあり、専門用語の解説などもあるので、内容に興味がある学習者にはぜひ挑戦してみてもらいたいシリーズです。
 しかし、読むには専門的な背景知識が必要になりますから、興味はあっても自分一人で読むのは難しいという場合もあるでしょう。クラスで使うなら、読解ではなく、ディスカッション中心の授業をおすすめします。

使い方例①:日本学入門のためのディスカッション

 学習者にとっていちばん興味がありそうな分野から一部分(3-6ページ程度)を教師が選びます。導入部分(1ページ程度)をクラスでいっしょに読んだ後、残りの読みは宿題にします。クラスでは理解の確認(テキストに何が書いてあったか)ではなく、内容についての自分の考え(なぜ筆者はそう言うのか、それについてどう思うか、など)を問うて、ディスカッションをします。様々な読みから自分の読みを確かめるのが目的です。クラス全員が同じ部分を読むのではなく、読み手を決めてゼミ形式で行うこともできますし、クラスで読むのは1回きりにして残りは自主性に任せてもいいでしょう。

使い方例②:中上級日本語クラスでのディスカッション

 作品を見ることで背景知識が得られる映画(第2巻)は、ディスカッションのいいトピックになります。取り上げられている映画の中から、興味がありそうな1本を選び、まず1シーンをクラスで見ます。その後、そのシーンがどう解説されているか読んでみます。見たことのある映画についてなら読みたくなりますし、読んだ後に、もっと見たい、もっと知りたいという気持ちも、そして、話したいという気持ちもわいてきます。例えば、4章「アニメの人気」から始めてみてはどうでしょうか?活発な議論が展開しそうです。

第2巻「日本の映画史」10のテーマ 目次
序章
第1章
日本映画に描かれる家族 -食卓から見る人間ドラマ
第2章
Jホラーと怪談
第3章
ヤクザ映画とノワール
第4章
アニメの人気
第5章
喜劇(コメディ)映画
第6章
時代劇とチャンバラ映画
第7章
日本のヌーヴェル・ヴァーグ
第8章
日本のドキュメンタリー
第9章
日本映画に描かれる差別の問題
-在日・沖縄・アイヌ・部落・被爆者
第10章
日本映画と女性

「読書」のすすめ

 読書は著者との対話です。一度で理解できなくてもかまいません。読みながら戻っても、繰り返してもだいじょうぶ。正しい理解に到達することより、自分の理解を問い直す過程が大切です。知的好奇心を抱く学習者にとっては、このシリーズの読書は日本人専門家との、自分のペースで進められる対話なのです。その対話の機会を、学習者が読みたくなりそうな本との出会いをサポートすることもまた、日本語教師の役割なのではないでしょうか。

(矢沢 理子/関西国際センター日本語教育専門員)

日本語国際センター図書館

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