日本語教育通信 授業のヒント
学習者の「気づき」を大切にしてみませんか
―文法を教える時の一工夫―

授業のヒント
このコーナーでは、海外の日本語教育の現場で、すぐに応用できる具体的な教え方のアイデア、ヒントを紹介します。

1.はじめに

 皆さん、授業で文法項目を取り上げるとき、どのように指導していますか。
今回ご紹介するのは、文法への気づきを促す方法です。ここでいう「気づき」とは、学習者自身が主体的に発見していく姿勢を指します。教師主体で教えていて、「説明ばかりで、授業に面白みがない」「学習項目の定着が悪い」と悩んでいる人にとって役に立つ教え方です。また既に文法への気づきを促す授業をしている人でも、「学習者主体で授業しているのに、授業が盛り上がらない」「効果が感じられない」と思っていたら、ぜひ「3.授業に取り入れる際のポイント」を読んで、自身の授業を振り返ってみてください。

2.気づきを促す活動例

 ここでは二つの活動例を紹介します。異なる内容の活動ですが、共通している部分もあります。どんな「気づきを促す工夫」をしているか、考えてみてくださいね。

活動例1:テ形の作り方を考えよう

 一つ目の例としてテ形の作り方のルールを取り上げます。テ形を教えるにはいろいろな方法がありますが、これは学習者自身がテ形のルールに気づいていく活動です。

手順

  1. 1)教師は以下の表を渡す。

    A 買います→買って  B 飛びます→飛んで  C 書きます→書いて

    D 話します→話して  E 歌います→歌って  F 遊びます→遊んで

    G 聞きます→聞いて  H 貸します→貸して  I 言います→言って

    J 呼びます→呼んで   K 働きます→働いて  L 消します→消して

  2. 2)「ます」の前の字に線を引いてもらう。 例)買ます 飛ます
  3. 3)線を引いたところに着目させ、学習者個人で動詞を四つのグループに分けてもらう。

    学習者個人でプリントを見ながら考えている様子のイラスト

  4. 4)クラスで答えあわせをする。
    「い」のグループ…買います・歌います・言います
    「び」のグループ…飛びます・遊びます・呼びます
    「き」のグループ…書きます・聞きます・働きます
    「し」のグループ…話します・貸します・消します
  5. 5)それぞれの動詞のグループは、どのようにテ形になるか、学習者個人で少し考えてもらう。
  6. 6)学習者をグループにし、テ形の作り方のルールを話しあう。
  7. 7)グループごとに発表してもらう。誤った分類の仕方の場合は、他の学習者の意見も聞きながら、修正を加えていく。

活動例2:「~させる」の意味を考えよう

 二つ目の例として、「~させる」を取り上げます。一つの文法項目にはいろいろな意味があることはわかったけれど、まだ学習者の頭の中では整理できていない、そんな知識整理をしたいときに役立つ活動例です。今回は「~させる」が持つ「強制」と「許可」の意味に気づくことが目標です。

手順

  1. 1)意味が異なる「~させる」を含んだ文や会話がいくつか書かれているプリントを渡す。
    1. A留学に行きたいという息子の意思は固かった。仕方ないので、行かせることにした。
    2. B<アルバイト先にて>
      キム:すみません、来月は学校が忙しくて、休ませていただきたいんですが…。
      店長:あー、そうですか。それじゃ、ちょっと、考えてみますね。
    3. C生徒にたくさん漢字を書かせる教師が多い。しかしそれは、生徒としては本当にいやなことだ。
    4. D<メールにて>今回はご応募いただき、誠にありがとうございます。いただいた資料を確認させていただき、後ほどご連絡いたします。
    5. Eうちの犬は、散歩が本当に嫌いらしい。仕方ないので、無理やり散歩させている。
    6. F<家にて>
      夫:どうしよう、太郎が変なもののみこんじゃった…!
      妻:ちょっと、早く、吐き出させて!
  2. 2)学習者に「~させる」のところに線を引いてもらう。
  3. 3)教師は1)の「~させる」は二つの意味に分類できることを伝える。
  4. 4)学習者個人でどう分けるか考える。
  5. 5)学習者をグループにし、お互いにどう分類したか、どんな意味の「~させる」に分類したか話しあう。
  6. 6)グループごとに発表してもらう。
  7. 7)教師はグループの発表を聞きながら、学習者が考えた分類を整理していく。
    誤った分類の仕方の場合は、他の学習者の意見も聞きながら、修正を加えていく。

    グループでわいわい会話しながらアイデアを出し合っている様子のイラスト

 この活動では、ABDが「許可」、CEFが「強制」の意味となっています。学習者のレベルにもよりますが、活動が難しいと感じる場合は、最初から「強制」と「許可」の例を分けてあたえ、どんな意味なのか、グループで話しあうところから始めてもいいでしょう。

3.授業に取り入れる際のポイント

 先ほどの活動例を読んで、「気づきを促す工夫」を見つけることができましたか。ここでは授業に取り入れる際に、押さえたいポイント三つを確認しましょう。

ポイント1:いろいろな例をたくさん出す

 皆さんも、授業で例文を用いているかと思います。でも一つしか例を出していない、なんてことはありませんか。ヒントがたくさんあるクイズが解きやすいのと同じで、たくさん例を出すと、ルールも発見しやすくなります。逆に例が少ないと、考えることが難しく、学習者にとって負担です。あまり活動のハードルをあげないようにするのがコツです。
また、自分が出した例について、もう一度見直してみましょう。例えばいつも「教師は学生に教科書を読ませた」というような例ばかり出している、ということはないでしょうか。コミュニケーションで使う日本語は、「ちょっとこれ、味見させて」といったように、省略だらけです。また会話の例やメールの例など、いろいろな場面から例を出してあげることで、学習者は実際の用法を学べます。
例を考える際に、「機能語用例文データベース はごろも」は参考になります。文法項目ごとにいろいろな用例が掲載されているので、どのように実際に使われているのか参考に見てみてください。
また、日頃からドラマや漫画などで、どのように文法項目が使われているかチェックしておくのもいいでしょう。

ポイント2:学習者自身にルールを発見してもらう

 学習者に考えてもらっても、学習者が考えたルールを聞かずに教師が正解を話してしまう、なんてことはありませんか。せっかく考えてもらったら、学習者が考えたことを学習者の言葉で伝えてもらいましょう。間違っていても、大丈夫です。この活動の最も大切にしたいポイントは正しい答えにたどり着くことではなく、「どういうルールなんだろう」と学習者に考えてもらうことです。
間違っていても、すぐに答えを教師が解説するのではなく、他の学習者に「どう思う?」と聞いてみましょう。それでもまったく考えが出てこなかったり、間違ったゴールに向かいそうな時は、教師が少しだけヒントを出してもいいでしょう。あくまで教師は学習者の「サポーター」となることが大切です。

ポイント3:「気づき」を急かさない

 気づきを促す際に大切なのは、気づきを急かさないことです。いくつかの文を見せて、急に「さあ、どんなことに気づきましたか」と聞いても、なかなか答えられません。上の活動のようにまずは注目してもらいたいところに線を引き、個人で考える時間をとって…と、このように「気づき」に到達するまでにスモールステップをいくつも設定することが大切です。

「気づき」へのステップイメージイラスト:階段を上る学習者、階段の一番上に「気づき」と書いてある。

 ここまで三つの授業のポイントをお伝えしましたが、大切なのは自分のクラスに合った「気づきを促す方法」を模索していくことです。たくさん例を用意したけど、うまくいかなかった…学習者を促しても、結局話してくれなかった…よくあることです。でもそこで諦めず、上記のポイントも参考に「自分のクラスの学習者には、どうしたら気づきを促せるかな?」と考えてみてください。自分の考えを人前で話すのに慣れていない学習者の場合は、考えを発表させるかわりにワークシートに書いてもらったり、教師がいくつか答えの例を出して選択は学習者にさせてみたり、いろいろ工夫できるのではないでしょうか。

4.気づきを促すことによる効果

 学習者の「気づき」を大切にしていくことで、いくつかの効果が得られます。

効果1:学習項目が定着しやすい

 皆さんも経験的に、ずっと話を聞いているよりも、自分で頭や体を使いながら考えたときのほうが後々まで覚えている、ということはありませんか。
例をたくさん出して気づきを促すという点で類似している学習方法としては、コーパスを用いて学習者自らが考え、ルールを発見していくというDDLData-Driven Learning; データ駆動型学習)という学習方法があります。この効果について調べたところ、教師主体の授業で教えた場合よりもDDLを取り入れた授業のほうが学習項目の定着が良いということがわかりました(西垣他2015)。今回紹介した活動例はDDLとは異なりますが、この先行研究は学習者の「気づき」を大切にすることは効果的であることを教えてくれています。

効果2:いろいろな能力が身につく

 上の二つの活動例の手順を再度見てみましょう。これらの活動では、自分だけで考えず、アイデアを持ち寄って他の学習者と一緒にルールを考える時間があります。また、教師がすぐにルールを教えないため、自分たちでルールを考えることになります。
つまりこれらの活動は、テ形のルールを学ぶためだけ、文法のルールを整理するためだけではありません。気づきを共有し、整理することを通して思考力や他者との協働、そして自律的に学ぶ力を育んでいるのです。このような学び方は、昨今いろいろな国で重視されている21世紀型能力の教育にも合っています。

効果3:自ら日本語の世界を広げる力を育てられる

 学習者の日本語レベルが上がるにつれて、バラエティー豊かな日本語に触れる機会は多くなるでしょう。丁寧な言葉や若者言葉、レポートや論文、またはSNSの記事など、どんどん広がる学習者の日本語環境を逐一サポートするのは、難しいですね。でも、言葉のルールの発見をトレーニングすることで、授業外でも自ら分析的に言葉を観察し、日本語の世界を広げられる学習者を育てられるのではないでしょうか。

 いかがでしたか。急に授業全体を変えるのではなく、いつもの授業の順番を少し入れ替えたり、問いかけをしたり、できる範囲からで構いません。学習者を信じ、初級の頃から少しずつ「気づき」を重視する姿勢を伝えていきましょう。皆さんの現場に合った、「気づきを促す方法」を見つけてみてくださいね。

参考文献:

  • 安藤節子・小川誉子美(2001)『日本語文法演習 自動詞・他動詞、使役、受身-ボイス』スリーエーネットワーク
  • 国際交流基金(2010) 日本語教授法シリーズ第4巻『文法を教える』ひつじ書房
  • 西垣千佳子・小山義徳・神谷昇・横田梓・西坂高志(2015)「データ駆動型学習とFocus on Form-中学生のための帰納的な語彙・文法学習の実践-」『KATE Journal』29, pp.113-126.
  • 西垣知佳子・小山義徳・神谷昇・尾崎さおり・西坂高志・横田梓(2015)「フォーカス・オン・フォームに取り入れるデータ駆動型学習の効果の検証」『英語授業研究学会』24, pp.49-63.
  • 西垣千佳子(2019)「「気づき」と「理解・定着」をつなぐDDL文法指導」『英語教育』67(11), pp.34-35,大修館書店
  • 堀恵子・李在鎬・長谷部陽一郎(2016)「機能語用例文データベース「はごろも」について」『計量国語学』30(5), pp.275-285.
  • 松尾知明(2015)『21世紀型スキルとは何か―コンピテンシーに基づく教育改革の国際比較』明石書店
  • 松本剛次(2021)『21世紀型能力と日本語教育-批判的日本語教師研修モデルの提案-』早稲田大学出版部
  • 横田梓(2019)「中学校におけるデータ駆動型学習の実践-デジタル版DDLで「探求する文法学習」を目指す」『英語教育』67(11), pp.36-37,大修館書店

(清水 まさ子/日本語国際センター専任講師)

ページトップへ戻る