日本語教育ニュース 「日本につながる子どもの日本語教育関係者ミーティング」を開催しました!

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このコーナーでは、国際交流基金の行う日本語教育事業の中から、海外の日本語教育関係者から関心の高いことがらについて最新情報を紹介します。

2024年5月
国際交流基金日本語国際センター

近年、海外の研究会やシンポジウムなどで、 海外在住の「日本につながる子ども」に対する日本語教育支援が話題になっています。そんな中、国際交流基金日本語国際センター(以下、NC)では、「日本につながる子どもの日本語教育関係者ミーティング」 注1を開催しました。

ミーティング参加者の集合写真

ミーティング参加者(NCにて)

1. ミーティングの期間と参加者

ミーティングは2023年12月10日(日曜日)~12月20日(水曜日)に合宿形式で実施しました。参加者は16の国・地域から招いた18名(韓国、香港、台湾、タイ、シンガポール、オーストラリア、ニュージーランド、カナダ、メキシコ、ブラジル、イタリア、スイス、ドイツ、フランス、ハンガリー各1名、米国3名)で、現場で教える教師、学校運営や教師支援に携わっている方、研究者などです。このほかに、14名(10か国)のサポートメンバーが、参加者の資料作成支援や、会議の一部へのオンライン参加という形で関わりました。

2. なぜ今国際交流基金がこのミーティングを開催したのか

「日本につながる子どもの日本語教育」や「継承日本語教育」の重要性と課題は以前から指摘されていて、そのための研究活動や教育現場向けワークショップも行われてきましたが、その多くの知識と経験は海外のそれぞれの現場に留まり、関係者外にあまり広く知られていませんでした。しかし「日本語教育の推進に関する法律(令和元年法律第48号)」の第19条で「海外に在留する邦人の子、海外に移住した邦人の子孫等に対する日本語教育の充実を図る」ことが定められたこと、またコロナ禍においてオンラインによる情報共有の機会が増えたことなどから、近年ネットワーク構築が進み、国・地域を越えた課題の取り組みへの期待が高まりました注2

次に、国際交流基金(以下、JF)の状況を見ると、令和2(2020)年に閣議決定された「日本語教育の推進に関する施策を総合的かつ効率的に推進するための基本的な方針」に基づき、各地の状況に応じて、地域の主体的な活動を支援してきましたが注3、国をまたいだ事業や、日本国内で行う事業はほとんどありませんでした。NCの事業も、これまでは外国語としての日本語教育が中心で、「日本につながる子ども」の日本語教育に集中した事業を実施するのは初めてです。

3. ミーティングの目的と内容

今回のミーティングは、各国・地域の現状と課題、日本につながる子どもの日本語教育における共通の課題について理解を深め、今後の取り組みやJF等関係機関との連携についてともに考えること、また、対面ミーティングならではの密なやり取りを通し国・地域を越えたネットワークの構築を促進することを目的に、実施しました。

ミーティングの中心である5日間(12月11日~12月15日)の流れは次の通りです。一部は、国内外関係者とオンラインで繋ぎ、ハイブリッド形式で行いました。

ミーティングの流れを表したイラスト 内容は画像の下の本文に記載の通り 画像をクリックすると拡大表示します

ミーティングの流れ

1日目:「国・地域の継承日本語教育事情とネットワーク化」

午前に、国・地域の継承日本語教育事情について、各参加者がそれぞれの状況や課題を報告しました。この共有が、ミーティング全体の話し合いの土台となりました。午後は、ミーティングの事前作業として参加者が作成した「継承日本語教育環境マップ」をもとに、自身が所属する機関や団体を中心に他機関・団体とのネットワークや今後の協力体制について議論しました。

  • 1日目の報告会の様子の写真
    1日目の報告会の様子
  • 「タイにおける母語・継承後としての日本語教育研究会(JMHERAT)」を中心としたネットワークマップ 「継承日本語教育環境マップ」の一例(タイの研究会)のイラスト 画像をクリックすると拡大表示します
    「継承日本語教育環境マップ」の一例(タイの研究会)

2日目:「継承日本語教育のための取り組みや実践の共有」

グループメンバーを入れ替えながら行う少人数での対話を通して、参加者の実践や各地での取り組みを共有しました。他の地域での取り組みから学んだり、今後進むべき方向性を考えたりする資料となりました。

2日目の実践共有の様子の写真

2日目の実践共有の様子

3~4日目:「領域ごとの意見交換会」

各分野の専門家を交えて、トランス・ランゲージング、就学前支援、教師教育などをテーマに意見交換会を行いました。例えば就学前支援は教室で解決できることではなく、教育現場でも、JFとしても、新たな協力機関やアプローチが必要となることが確認されました。

領域ごとの意見交換会の様子の写真

領域ごとの意見交換会の様子

5日目:JF等関係機関を交えた意見交換会

1~4日目の議論を踏まえて、外務省、文化庁、公益財団法人海外子女教育振興財団(JOES)、独立行政法人国際協力機構(JICA)など関係省庁・諸機関の方、子どもの言語教育について研究している有識者を招き、JF職員や専門員も交えて、JF等関係機関との今後の協働の可能性について意見交換会を行いました。意見交換はテーマごとに小グループで行い、その後全体でも共有しました。当日のテーマは、教師研修、教材作成、カリキュラム/フレームワーク、ネットワーク構築、ウェブによる情報共有と発信、親子支援、子ども主体のイベント/コミュニティへの参加でした。

  • ディスカッションの様子の写真
    ディスカッションの様子
  • 全体共有の様子の写真
    全体共有の様子

その他オプションプログラム

これら全員参加のプログラムに加え、オプションとして、外国につながる子どもの教育機関・団体(特定非営利活動法人日本ペルー共生協会(AJAPE)継承語教室注4学校法人つくばグローバルアカデミーつくばインターナショナルスクール)を希望者が見学しました。また、参加者同士の個別の打ち合わせや、国内関連団体の自主的な訪問、意見交換も行われました。

4. JF等関係機関を交えた意見交換会から挙がった声

JF等関係機関を交えた意見交換会(5日目)で 挙がった声をいくつかご紹介します。「教材作成」、「教師研修」、「カリキュラム」などにおいて、国・地域をまたいで共通するものがあるか話し合われましたが、一つのモデルを作って全地域に対応するには、あまりにも多様なので難しいという点で一致しました。それぞれの地域の言語教育には、そこでの言語教育政策や社会状況が反映されているため、カリキュラム、教材、教師研修などもそれに沿ったものが必要ということです。特にカリキュラムについては統一的なものを作成するのではなく、それぞれの地域や機関に合ったカリキュラムを作るときの指標になるような、カリキュラムを形作る枠組み(フレームワーク)の検討から始めるべきという意見が出ました。また、これらに関連して、現地の事情をよく知っていて、教師に必要な情報を整理してコンサルティングができる、現地在住の地域アドバイザーを設置してほしいという提案もありました。一方で地域を越えて共有可能なものとして、社会的なテーマなど広く応用可能な内容、また情報共有のツールや仕組みなどが挙げられました。

「ネットワーク構築」「ウェブによる情報共有と発信」に関連しては、教育関係者間の情報共有だけでなく、親に対する情報提供や、一般市民への周知・啓発も重要という指摘がありました。また、オンラインのネットワークも重要ですが、本ミーティングで対面によるやり取りを集中的に行ったことは、これまでに例のない経験だったという意見が多くありました。ファシリテーターを務めたJFとしても同じ意見です。規模、形式、場所を変えながら、今後も対面で話し合うことが重要だと強く感じました。

「子ども主体のイベント/コミュニティへの参加」については、子どもが主体的につながり、それを意識する機会が少ないという課題を踏まえて、コミュニティ参加型イベントの実例が紹介されました。また、このミーティングでできたネットワークなども駆使して、子どもたちが国を越えてつながる場づくりが提案されました。「親子支援」関連では、乳幼児への言葉かけや家庭内言語に関するチラシを作成して配布する活動が紹介されました。

そのほか詳細は、ミーティング報告書にまとめ、2024年7月ごろにJFサイトに掲載する予定です。

5. 今後に向けて

このミーティングは、海外の現場の教師や関連団体の声を、国内の研究者や関係省庁・諸機関に直接届ける初めての機会となりました。JFではこれからも各国・地域の現状と課題、また日本につながる子どもの日本語教育における、国・地域をまたいだ共通の課題について理解を深め、今後の取り組みや関係機関との連携について考えていきたいと思います。

注:

  1. 1.研究などで「継承日本語」「継承語としての日本語」という語がよく使われているのは、「外国語としての」「母語としての」日本語と大きく区別し、その現状を明らかにし、何が必要か考えるという目的があり、本ミーティング内でも便宜上使用しています。しかし実際には国や地域によって違う意味で使われることがあること、また未来に向けて広い視点で課題を整理したいことから、本ミーティング全体のタイトルを、「外国につながる子ども」に倣って「日本につながる子ども」としました。なお、ミーティングではある程度支援対象を明確にして議論する必要があるため、「家庭内言語の一つとして日本語を使用している家庭の子ども」「永住や長期滞在を予定している子ども」に関わる教育関係者を本ミーティングの参加対象としています。
  2. 2.近年、母語・継承語・バイリンガル教育(MHB)学会MHB学会海外継承日本語部会バイリンガル・マルチリンガル子どもネット(BMCNなどの学会・研究会の活動の中で、調査や提言がなされています。本ミーティングでも「2020年BMCNオンライン国際フォーラム」「2021年BMCN年次大会」などの内容を参考にしました。
  3. 3.JFによる近年の取り組み、各地で主催、共催した関連事業や主なJF海外事務所運営サイトについては、JFの事業内容ページ(「海外に在留する邦人の子等に対する日本語教育」)を参照してください。本ミーティングの報告書も後日掲載します。
  4. 4.継承スペイン語教室の見学の様子は、AJAPEウェブサイトの「最近の活動欄(12月15日付け)【PDF:2.15MB】」でご覧いただけます。

(根津誠・池田香菜子/日本語国際センター日本語教育専門員)

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