日本語教育ニュース 『いろどり』に「初中級(A2/B1)」が追加されました

日本語教育ニュース
このコーナーでは、国際交流基金の行う日本語教育事業の中から、海外の日本語教育関係者から関心の高いことがらについて最新情報を紹介します。

2026年6月
国際交流基金日本語国際センター

『いろどり 生活の日本語』サイトトップページのスクリーンショット

日本で生活する外国人のための日本語コースブック『いろどり 生活の日本語』(以下『いろどり』)(注1)に、新たに「初中級(A2/B1)」が加わりました。

これまでの『いろどり』は、「入門(A1)」「初級1(A2)」「初級2(A2)」の3冊で、日本で生活するために必要な基礎的な日本語コミュニケーション力を育てる教材として、多くの教育現場で活用されてきました。今回公開された「初中級(A2/B1)」は、その次の段階となる教材です。これにより『いろどり』は、日本で生活するための日本語を、A1からB1まで一貫して学べるシリーズとなりました。

『いろどり』という教材について

『いろどり 生活の日本語』は、日本で生活する外国人が、日本での日常生活や仕事の場面で必要となる日本語のコミュニケーション力を身につけることを目的に開発された教材です。「いろどり」というタイトルには、「生活を彩る(いろどる=色をつける)」という意味が込められています。日本での生活が、まわりの人との会話や交流を通じて、彩り(いろどり)豊かなものになることを願い、この名前が付けられました。

『いろどり』の最大の特徴は、生活場面の中で、日本語で「できる」ことを増やすのを目標にしていることです。扱われるトピックは、買い物、外食、職場、近所づきあい、趣味など、日本で生活する外国人が実際に経験する場面ばかりです。各課の学習目標は、「~ができる」という「Can-do」の形で示され、学習者は「この課を学んだら日常生活で何ができるようになるのか」を明確に意識しながら学習を進めることができます。このような、Can-doを目標とする構成は、CEFR(Common European Framework of Reference for Languages:ヨーロッパ言語共通参照枠)(注2)を参考に開発された「JF日本語教育スタンダード」(注3)の考えに基づいたものであり、文部科学省が示す「日本語教育の参照枠」(注4)とも共通しています。

『いろどり』は紙の出版物ではなく、ウェブサイト上で全て無料で公開されています。PDF教材、音声、付属資料などを自由にダウンロードして利用することができ、複製、配布、共有も自由に行えることから、世界中の教育機関や、国内の日本語教室、国境を越えたオンラインレッスンなど、さまざまな教育現場で広く活用されています(注5)。

新しく公開された「初中級」

『いろどり 生活の日本語』に新しく加わった「初中級(A2/B1)」の表紙の書影
「初中級」表紙

今回新しく公開された「初中級(A2/B1)」は、A2レベルまで学習を終えた学習者が、さらに日本語力を伸ばすための教材です。この教材の目標は、A2レベルのコミュニケーションを確実にできるようにしながら、より進んだB1レベルのコミュニケーション能力を育てることにあります。

B1は、CEFRでは「自立した言語使用者」の入口とされるレベルです。例えば、身近な話題についてまとまりのある話ができる、自分の経験や考えを説明できる、旅行などで起こる多くの状況に対応できる、といった能力が想定されています。つまり、「基本的で簡単なやり取りができる」段階から、「日常生活の場面なら、日本語を使って自分でだいたいのことができる」段階へと学習を進めるための教材と言えるでしょう。

これまでの『いろどり』と同様、教材は全てウェブサイトで無料公開されています。PDFは全部で635ページ、音声は合計で3時間40分の音声ファイルが、全て無料でダウンロードできます。今回公開されたのは本冊ですが、今後、「ことばリスト」「文法ワークシート」などの付属教材、および各国語版が、順次公開されていく予定です。

「初中級」の活動の特徴

「初中級」には、これまでの『いろどり』とは異なる要素も取り入れています。「初中級」のA2レベルの活動は、これまでの「初級1」「初級2」と比べると、同じA2レベルの活動ではあるものの、テキストがより長くなり、より自然な日本語に近づいています。そして、「初中級」のもっとも大きなポイントは、B1レベルの活動が新たに加わったことです。 B1レベルでは、単なる一問一答の受け答えではなく、聞いた情報を整理したうえで、構成を考えながら、自分の言いたいことを、まとまりのある話として表現する力が必要です。これを実現するために、B1の「話す」活動では、音声をインプットしながらメモを取り、そのメモを見ながら聞いた内容を自分のことばで話す「再話」の練習を取り入れています。そのあと、構成を考えながら自分の話したいことをメモにまとめ、最終的に、まとまりのある話をする活動を行います。

トピック「好きなもの好きなこと」の第2課「ドラマを見るのがいちばん好きです」のL2-5「会話を聞きましょう」のページ トピック「好きなもの好きなこと」の第2課「ドラマを見るのがいちばん好きです」のL2-10「最近見た映画/前に見たことがある映画について、感想を話しましょう。」のページ
B1の「話す」活動(上の画像をクリックすると拡大表示されます)

また、「書く」活動では、メッセージやチャットを使った「書くやり取り」の活動が多く扱われています。最近では、電話で話すよりもスマホなどのメッセージで連絡を取るのが一般的であり、日常生活で求められる「書く」コミュニケーションは、作文よりこうしたやり取りが主流です。このようなコミュニケーションの実態を踏まえて、活動に取り入れています。

トピック「旅行の楽しみ」の第16課「いい写真がたくさん撮れました」のL16-2の仲間同士でメッセージをやりとりしているページの画像
書くやり取りの例(上の画像をクリックすると拡大表示されます)

言語形式面では、敬語や普通体など、スタイルの違いについて、くわしく扱っているのがポイントと言えます。尊敬語や謙譲語などの敬語、また友だちと話すときの普通体は、「初級2」までは、聞いて理解できることが目標でした。しかし「初中級」では、より多様で深いコミュニケーション場面に対応できるよう、自分でも使えることを目標とし、活動の中で実際に使う練習を組み込んでいます。

トピック「日本で働く」の第18課「働かせていただけば、うれしいです」の「文法ノート:尊敬語と謙譲語」のページの画像
文法ノート:尊敬語と謙譲語

さらには、「ストラテジー」を明示的に扱っているのも特徴です。B1レベルでは、まだ限られた日本語能力の中で、生の日本語に接し、これに立ち向かっていかなければなりません。そのため、例えば言いたいことばが思い出せないときや、わからないことばがあったときに、ほかのことばで言いかえたり、前後の文脈から意味を推測したりなど、ストラテジーで補いながら課題を達成する方法も練習します。

トピック「毎日の食事」の第5課「どんなお店がいいですか?」の「ストラテジーに注目:思い出せない単語の特徴を言って質問する」のページの画像
ストラテジーを扱うセクション

地域日本語教室でも使えるB1までつながる生活日本語教材

もともと『いろどり』は、日本に来る前の外国人が、日本での生活に備えるための教材として開発されました。一方で、生活場面に即したトピック、Can-doベースのシラバス、無料で自由に利用できる点などから、海外の教育現場だけでなく、国内の地域日本語教室などでも活用しやすい教材として、注目されてきました。

近年、地域日本語教室では、学習者の到達目標としてB1レベル程度を意識したコース設計が求められるようになっています。文部科学省が示す指針(注6)においても、生活の自立や社会参加に必要な言語能力として、B1レベル相当までの到達が一つの目安として位置づけられています。しかし実際の地域の日本語教室では、カリキュラムを考えるにあたって、特に「B1をどのように設計すればいいのか」に悩むケースも少なくありません。

そのような状況の中で、今回の「初中級」の公開は大きな意味があります。『いろどり』は、これまでの3冊(入門/初級1/初級2)に「初中級」が加わったことで、「0→A1→A2→B1」と段階的に日本語力を伸ばしていく、一貫した学習の流れをカバーする教材となりました。4冊を通して学習することで、生活に必要な基礎的な日本語にとどまらず、日本で自立して生活できるB1レベルに手が届く構成になっています。また学習時間の観点からも、『いろどり』4冊を通して学習する際の想定時間は、文部科学省の示すB1までの想定学習時間(累計350~520時間程度)の範囲に概ね収まる設計となっています。

こうした意味で、『いろどり』は単なる教材にとどまらず、地域日本語教室におけるコース設計の叩き台としても活用することができます。何もないところから全て自力でコースを構築することは負担も大きく、特にB1レベルの設計には多くの試行錯誤が必要です。そのような状況を踏まえると、まずは『いろどり』をベースに全体像を組み立て、そこから地域ごとのニーズや事情に合わせて調整していくというやり方は、現実的で実践的な選択肢と言えるでしょう。

「生活」から「社会参加」へ

「初中級」のテキストの中には、外国人が地域の活動に参加したり、職場で日本人と外国人が同僚として働いたりする場面が、日常のこととして多く描かれています。お互いに雑談を交わしたり、希望や経験を話したり、悩みを相談したり、困ったときに助け合ったりといったやり取りが、さまざまな場面で提示されています。そこには、日本での生活を「家と職場と日本語教室」だけにとどめるのではなく、人や社会と関わりながら広がっていくものとして捉えてほしい、というメッセージが込められています。

トピック「人とのつきあい」第13課「ご結婚おめでとうございます」の「3.何かプレゼントしようと思うんですが」の職場での会話のイラスト トピック「出会う」第8課「隣、いいですか?」の「2.ここのお風呂には、よく来るんですか?」の温泉の共同浴場での会話のイラスト トピック「出会う」第7課「たくさんの人と友だちになれればと思っています」の「3.いろいろ誘ってもらえればうれしいです」の自己紹介の場面のイラスト トピック「どこに住む?」第3課「引っ越しの準備はどうですか?」の「3.荷物を運ぶのを手伝ってもらえたら・・・」の会社の同僚の昼休みの会話のイラスト

自分の経験や考えを伝え、相手の話を理解し、まわりの人と関係を築いていく。そうした営みを通して、社会の一員(social agent)として、社会に参加していく。「初中級」が育てようとしているのは、そのための自己表現と相互交流の力です。これは、JF日本語教育スタンダードが掲げる「相互理解のための日本語」という理念に通じるものです。

『いろどり』はシリーズ全体を通して、「生活」の中で使える日本語を出発点としながら、その先にある「社会参加」を目指す日本語へと学習を広げていきます。そしてそれが、人と人との「相互理解」へとつながっていく。『いろどり』は、そのような学びを支える教材です。今回公開された「初中級」を含め、『いろどり』がさまざまな教育現場で活用され、相互理解がより深まっていくことを期待しています。

注:

  1. 1. 『いろどり 生活の日本語』サイト
  2. 2. CEFR(Common European Framework of Reference for Languages:ヨーロッパ言語共通参照枠)
  3. 3. JF日本語教育スタンダード
  4. 4. 文部科学省:日本語教育の参照枠
  5. 5. 日本語教育ニュース 無料で使える新教材『いろどり 生活の日本語』
  6. 6. 文部科学省:「地域における日本語教育の在り方について」 (報告) のポイント【PDF:310KB】

(磯村一弘/日本語国際センター日本語教育専門員)

What We Do事業内容を知る