日本語教育レポート ゆったりと静かな流れにのせてラオスで育つ日本語教育と『にほんご』づくり

日本語教育レポート
このコーナーでは、国内外の日本語教育について広く情報を交換したり、お互いの交流をはかるために、各地域の新しい試みやコース運営などについて、関係者の方々に具体的に紹介していただきます。

2026年2月
ヤンゴン日本文化センター 日本語専門家 中井 千晴

1.はじめに

ラオス(ラオス人民民主共和国)は東南アジアの内陸に位置し、タイ、ベトナム、カンボジア、ミャンマー、中国と国境を接しています。雄大なメコン川がゆったりと静かに流れ、どこか懐かしさを感じさせる田園風景が広がる自然豊かな国です。人々は伝統や習慣を大切にし、日々の暮らしの中にある幸せに感謝しながら生活しています。

日本とラオスは、2025年に外交関係樹立70周年を迎えました。両国の友好は、メコン川の流れのようにゆったりと静かに育まれ、文化・教育分野でも多様な交流が生まれています。その一つが、公立中等教育における日本語教育の導入です。

国際交流基金の2024年度教育機関調査によれば、中等教育機関で日本語を学ぶ生徒は約2,200名で、ラオス全体の日本語学習者4,431名のほぼ半数を占めています。これらの生徒の多くが公立中等教育機関に在籍していることから、日本語教育がラオスの教育制度の中に根づきつつあることがわかります。

本レポートでは、公立中等教育機関で使用する国定教科書『にほんご』の開発背景、国定化までのプロセス、『にほんご』の内容、そして授業現場に見られる変化と今後の課題について紹介します。

2.『にほんご』づくりの背景

2010年の中等教育カリキュラム改定により、第2外国語が選択科目として導入され、日本語もその一つとして採用されました。この制度改革を受け、2015年に公立中等教育機関で日本語の授業が始まりました。

しかし、日本語導入には2つの課題がありました。
1.授業で使用する教科書をどうするか。
2.誰が日本語を教えるか。

ラオスの公立初等・中等教育機関では、政府承認の国定教科書の使用が義務づけられています。これにより、日本語の教科書もラオスの学習環境や教育実情に合った独自の国定教科書として開発する必要がありました。こうした状況を受け、国際交流基金とResearch Institute of Educational Sciences(注1、以下RIES)が協力して教材開発を進めることとなり、2016年5月には国際交流基金から専門家が初めて派遣され、『にほんご』づくりが始まりました。

もう1つの課題は、日本語を教える教師の確保です。ラオスには日本語学科を持つ大学がありますが、日本語学科には教師養成課程がなく、教育学部にも日本語教育を専門とする課程はありませんでした。教師養成課程の新設も検討されましたが、指導できる人材の不足や、中等教育機関の採用枠が限られていることから、現実的ではありませんでした。

そこで、中等教育学校で他教科を担当する現職教員を日本語教師として育成する方針が採られました。多くの教員は日本語を教えた経験も学んだ経験もなかったため、研修は教え方の基礎と初級日本語の習得から始まりました。教師研修は内容を更新しながら2026年現在も継続されています。

6枚の写真が組み合わさっている。1つ目の写真は教師研修の参加者たちが主導して、授業内容について話し合っている。2つ目の写真では教師研修の参加者たちが授業のアイディアを付箋に書いている。3つ目の写真では2名の教師研修参加者がスクリーンの前で「道案内」という活動を実践している。4つ目の写真では4名の教師研修参加者が、ホワイトボードに貼られた付箋の内容を見ている。5つ目の写真では教師研修の会場の中庭で、9名の研修参加者が昼食を楽しんでいる。6つ目は教師研修の関係者21名の集合写真。
2024年夏期教師研修(8月5日~16日)

3.国定教科書になるまで

ラオスの中等教育は、前期中等4年(日本の小学校6年生~中学校3年生に相当)と後期中等3年(日本の高校1年生~3年生に相当)から成る7年制です。『にほんご』づくりは、この7学年すべてを対象に国定の教科書と指導書を各1冊ずつ作成する大規模なプロジェクトで、2016年に国際交流基金から専門家が派遣され、『にほんご1』から始まりました。

『にほんご』が国定教科書になるまで

まず『にほんご』の試行版を作成します。完成した試行版はパイロット校(注2)で1年間使用され、その授業の様子を執筆者やRIES日本語チームがモニタリングします。モニタリングで得られた改善点をもとに『にほんご』を改訂します。

改訂した『にほんご』はthe Committee for Approval of Curriculum and Instructional material Meeting(注3、以下CACIM)にかけられます。この会議には執筆者や校正者のほか、RIES、教育スポーツ省、ビエンチャン都(地方行政区分の1つ)の関係者が参加し、教科書や指導書の内容について意見を交わしたうえで、最終的に承認の可否が決定されます。承認されると、『にほんご』のシリアルナンバーとISBN取得の手続きを行い、取得後、正式に国定教科書『にほんご』になります。こうしたプロセスがすべての学年で繰り返されました。

『にほんご』が国定教科書になるまでのプロセスの図。左から「試行版の作成」「パイロット校での試行」「モニタリング」「改善と改定」「CACIMでの審議・承認判断」「シリアルナンバー・IBSNの取得→国定教科書へ」と書いてある。

  • 大きなスクリーンが2つ吊り下げられた会場正面に16名ほどの参加者が横に並んでいる。
    『にほんご1、2、3』のCACIM時の集合写真
    (ハイブリッド形式で2日間開催)

  • カーテンが引かれ、スクリーンに資料が投影されている会場の様子。
    『にほんご6』のCACIMの様子

『にほんご』の執筆

1学年分の教科書と指導書の完成には、約1年半から2年を要し、2学年分の作業を同時進行することもありました。場合によっては、3学年分を同時に作業することもありました。執筆体制は、『にほんご1』では2名でスタートし、その後ラオス人執筆者が1名増え、3名体制となりました。さらに『にほんご5』からは専門家が1名加わり、4名体制となりました。

手探りで始めた『にほんご』づくり

外国での教科書づくりには、その国独自の規則や手続き、慣例、そして考え方も関わり、思うように進まないこともありました。第2外国語科目の中で新たにゼロから教科書を作るのは日本語が初めての試みであったため、国定教科書にするまでのプロセスには混乱も少なくありませんでした。例えば、『にほんご1』『にほんご2』『にほんご3』については、あとになってCACIMを実施し直すという事態も起こりました。

それでも、両国の関係者があきらめずに協力し続けたことで、2024年、最後の『にほんご7』が国定教科書として承認されました。こうして、2016年に始まった『にほんご』づくりは、約8年の歳月をかけて完了しました。

日本語教科書「日本語1~7」の各表紙を並べてひとつにしている。
完成したラオス中等教育向け日本語教科書『にほんご1~7』
(クリックすると拡大画像が表示されます)

『にほんご』づくりの歩み

西暦 主な出来事
2015年 ・9月ビエンチャン中等教育学校1年生で日本語クラスが始まる。
2016年 ・5月JFから専門家が派遣され、『にほんご1』の執筆が始まる。
・9月ビエンチャン中等教育学校、ノンボン中等教育学校、ピアワット中等教育学校の3校で『にほんご1』(試行版)を
使用した授業が始まる。
2017年 ・『にほんご1』が完成する。
2018年 ・『にほんご2』が完成する。
・9月ポンタン中等教育学校1年生で『にほんご』を使用した授業が始まる。
2019年 ・『にほんご3』が完成する。
2020年 ・コロナの影響で執筆及びモニタリングが一時中断する。
2021年 ・『にほんご4』が完成し、2月にCACIMで国定教科書に承認される。
・コロナの影響でモニタリングが一時中断する。
・『にほんご1』を『にほんご2,3,4』に合わせて改定する。
2022年 ・1月『にほんご1』『にほんご2』『にほんご3』がCACIMで国定教科書に承認される。
2023年 ・『にほんご5』が完成し、2月にCACIMで国定教科書に承認される。
・『にほんご6』が完成し、9月にCACIMで国定教科書に承認される。
2024年 ・『にほんご7』が完成し、8月にCACIMで国定教科書に承認される。
・12月『にほんご』の完成披露式典が開催される。

4.『にほんご』の内容

4-1 『にほんご1〜4』(前期中等)の特徴

Can-do

各課の学習目標を「~ができる」という形(Can-do)で示し、課の終了時にはCan-doチェックを通して生徒自身が振り返り、自己評価を行います。簡単な話題について日本語でコミュニケーションできることを目標の1つにしています。文法項目もありますが、コミュニケーションに必要な範囲で取り上げています。

「だい12か しょくせいかつ」という見出し、食卓に向かう少女のイラスト、Can-doが掲載された第12課の表紙
『にほんご2』第12課 しょくせいかつ・トピックとCan-Doのページ
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参加型学習

参加型学習を通じて、生徒が自ら考え、理解し、判断し、振り返る力を身につけられる内容と構成にしています。また、ペアやグループ活動を通して協働しながら課題を解決する力も育てます。

文化学習

各課に日本事情を設け、日本語の習得だけでなく、日本の生活や文化に興味・理解を深めるとともに、自国との違いに気づき、多様なものの見方を養う機会をつくっています。

  • ぼんぼりとお雛様(おびな、めびな)と、こいのぼりのイラスト、それぞれの説明が掲載されたページ。
    『にほんご1』第8課 ほうもん
    (ひな祭り・端午の節句)
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  • 制服の男子生徒と女子生徒のイラストと、その説明が掲載されたページ。
    『にほんご5』第3課 日本ごクラスのルール
    (制服やルール)
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指導書と副教材

日本語を専門としない教師でも安心して授業ができるよう、指導書はラオス語で作成され、単語や会話の音声教材も整備しました。さらに、絵からイメージしやすいように絵カードもそろえています。

  • フローチャートで授業の流れが書かれたページ。
    『にほんご2』第12課しょくせいかつ・指導書の一部
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  • 白飯が盛られた茶碗や、肉、魚、野菜、果物などの食材などのイラストや写真が描かれたカード。
    『にほんご2』第12課しょくせいかつ・絵カード(たべもの)
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各課のトピックと日本事情

にほんご1 にほんご2
  トピック 日本事情   トピック 日本事情
1課 あいさつ おじぎ 11課 たんじょうび 中学生が誕生日にほしいもの
2課 きょうしつ1 歌:さくらさくら 12課 しょくせいかつ 日本の生徒の昼食
3課 もじとはつおん カタカナ 13課 がっこうあんない 日本の学校の施設
4課 しょうかい1 日本のお正月 14課 じかん 日本人の時間感覚
5課 しょうかい2 歌:ゆき 15課 じかんわり 日本の中学校の時間割
6課 かず 節分 16課 わたしのいちにち 日本の中学生の放課後
7課 かぞく (1)歌:つき (2)家族の呼び方 17課 がいしゅつ 日本の交通機関
8課 ほうもん ひな祭り・端午の節句 18課 かいもの 日本のお金
9課 なんですか 日本の食べもの 19課 しゅうまつ1 中学生の週末の過ごし方
10課 しゅみ 七夕 20課 わたしのまち 日本の町で見かけるもの
にほんご3 にほんご4
  トピック 日本事情   トピック 日本事情
1課 とくいなこと 日本の中学生の紹介 11課 プレゼント 誕生日プレゼント
2課 おてつだい 中学生のお手伝い 12課 おねがい 日本のお祝い
3課 かぞく 日本の制服 13課 けんこう 健康
4課 わたしのいえ 日本の家 14課 しょうらい 将来なりたい職業
5課 わたしのへや 日本の中学生の部屋 15課 きょうしつ2 お願いの表現
6課 やくそく 日本人の待ち合わせ場所 16課 ぶんかさいのじゅんび 日本の中学校の文化祭
7課 しゅうまつ2 日本の中学生の週末 17課 にほんたいけん ラオスで行われる日本祭り
8課 きせつ 日本の四季 18課 ねんちゅうぎょうじ 日本の年中行事
9課 りょこう1 日本の観光地 19課 ちり 日本の地理
10課 りょこう2 日本の有名なおみやげ 20課 ラオスとにほん 世界と比べよう

4-2 『にほんご5~7』(後期中等)の特徴

『にほんご1~4』使用から見えてきた課題

『にほんご4』までの教科書が完成し、教師も『にほんご』を使った授業運用に慣れてきましたが、いくつかの課題も明らかになりました。

コミュニケーション力に注目した授業の難しさ

多くの教師は他教科で豊富な教授経験を持ち、それぞれ自分なりの教え方や考え方があります。そのため、新しい教授法に慣れるのは簡単ではありません。実際には、説明に時間を割く教師もいれば、リピート練習を延々と続ける教師もいます。また、多くの場合、話す活動がコミュニケーションの練習にならず、単なる音読や文の暗記で終わってしまうことも少なくありません。このように、コミュニケーション力を育てる授業スタイルを実践することは容易ではありません。

授業時間と年間の授業数のばらつき

1コマ45分の学校もあれば65分の学校もあります。日本語は週に2コマあり、多くの学校では2コマをまとめて週1回として実施しています。その結果、1回の授業が90分~110分に及び、教師の工夫がなければ授業が単調になり、生徒は飽きてしまいます。週1回のみの授業では学習項目の定着が低く、また国や学校の行事による急な休講も多いため、全校で同じカリキュラムを進めることが難しい状況です。

選択科目としての運用の難しさ

日本語は「第二外国語」の選択科目として設けられていますが、ラオスでは生徒個人ではなく学校がクラス単位で科目を決めます。例えば、1組は日本語、2組は中国語という形です。そのため、生徒の希望が反映されず、学習意欲に差のある生徒が同じクラスに入り、クラス運営が難しくなっています。

『にほんご5~7』の見直しと特徴

前述の課題を踏まえ、後期中等の教科書では大幅な見直しを行いました。

『にほんご1~4』の活用

各課の活動に必要な言葉や文法項目は、原則として『にほんご1~4』で学んだものを活用し、『にほんご1~4』も常に見返せるようにしています。教師と生徒の負担を考え、新しい言葉や文法項目の導入は最低限に抑えています。

活動に「作る」を追加

生徒が自主的に思考し日本語を口から出しやすくするために、話すきっかけにする「作る」を新たに入れて、活動を「作って話す」にしました。

  • 「かつどう」という見出しの下に、活動のやり方が書かれたページ
    『にほんご5』第3課
    日本ごクラスのルール・活動のページ
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  • 「にほんごクラスのルール」という見出しの下に、さまざまな生活や教室のルールが書かれている。
    生徒が作成したポスター
    (クリックすると拡大画像が表示されます)

グループ活動の重視

生徒同士でより学び合いができるように、また日本語に自信がない生徒でも参加できるように、「作って話す」活動のほとんどをグループで行う形式としました。

モジュール形式の採用

課の数を減らし、更にモジュール形式を採用し、どの課からでも学習を始められる柔軟な構成としました。学習時間が十分に確保できない場合は、課を丸ごと省略することも可能です。1課は8回の授業で構成されていますが、8回が確保できない場合でも活動ができるよう、課内の内容や構成も柔軟性を持たせています。

漢字の導入

新たに漢字学習を導入しました。読み書きの習得を目的とせず、まずは漢字への興味・関心を高めることを重視しています。学習活動にはゲーム性を取り入れ、楽しみながら漢字に触れられるよう工夫しています。

  • 『にほんご5』に掲載されている漢字の練習が書かれたページ
    『にほんご5』第2課 休みの日・漢字のページ
    (クリックすると拡大画像が表示されます)

  • 教室で白いシャツを着た生徒たちが漢字カードを手に掲げている。
    自分で作った漢字カードでゲームをしているところ

各課のトピックと日本事情

にほんご5
  トピック 活動 日本事情
1課 マインドマップを作って自己紹介する 通学時間と手段
2課 休みの日 ペアで休みの日にすることについて話す 休みの日にすること
3課 日本ごクラスのルール 日本語クラスのルールを作り、それをポスターにして発表する 制服やルール
4課 がっこうしょうかい 自分たちの学校をビデオで紹介する 学校・校舎
にほんご6
  トピック 活動 日本事情
5課 カフェ メニューを作り、客と店員のロールプレイをする ファストフード
6課 まち 地図を作り、インフォメーションギャップを使った練習を行う コンビニ
7課 日本 日本についてインタビューし、その結果を発表する 日本に関するクイズ
8課 ごみ ごみを減らすための会話活動を行い、その内容を啓発ポスターにまとめて校内に貼る 3R
にほんご7
  トピック 活動 日本事情
9課 ラオスの料理 ラオスの料理の作り方をビデオで紹介する 食事マナー
10課 行じ ラオスの行事についてスライドを作り、紹介する 日本の祭り
11課 かんこうち ラオスの観光地のパンフレットを作り、説明する 寺の参拝の仕方
12課 旅行のじゅんび ちらしを作り、ラオス旅行のアドバイスをする 日本に行く前の準備

5.変化と今後の課題

『にほんご』を使った日本語授業が始まって8年が経ち(2024年時点)、学校現場では少しずつですが変化が見られています。

根づき始めた日本語教育

例えば、『にほんご』で学んだ生徒の中から、大学の日本語学科へ進学したり、交流プログラムで日本を訪れたりする例が現れています。また、7年間『にほんご』で日本語を勉強した卒業生からは、「この教科書が好きです。今もこれで勉強しています。」といった声も届いています。生徒のこうした感想は、『にほんご』が彼らの学習に役立っていることを示しており、日本語や日本への関心が、両国の将来を担う若い世代の間で広がっていることがうかがえます。

教師の変化

教師の授業にも少しずつ変化が見られるようになってきました。前期中等『にほんご1~4』には話す練習が多くありますが、教師の発話が多かったり、話す練習でも「書く→読み上げる」という学習スタイルが定着しているため、話す練習として十分に機能していないこともありました。しかし、毎年授業を繰り返す中で、教師自身が『にほんご』の内容に慣れ、まだ十分とは言えませんが、話す練習が本来の目的を果たすようになってきています。また、教師によって得意とする学年の『にほんご』が異なり、『にほんご1』の指導が得意な教師もいれば、『にほんご5』を得意とする教師もいます。それぞれが自分の得意な学年の『にほんご』を自分のものにし始めています。

生徒たちが教室前方のホワイトボードの前に並んで数字を書いている。
『にほんご1』6課 かず・電話番号を聞いて書いているところ

グループ活動への自主的な参加

生徒にも変化があります。後期中等『にほんご5~7』にグループ活動を取り入れたことで、生徒の授業への主体的な姿勢が見られるようになりました。ペア活動よりも話し合いや助け合いが自然に生まれ、さらに活動にメニューやポスター作りといった創作を加えたことで、自分たちで考え気づく機会が増えています。生徒からは「楽しい」という言葉がよく聞かれ、みんなで学習している雰囲気が生まれてきました。

また、クラス全体での発表では、口頭発表だけでは集中しづらかった生徒も、クラスメートの作品を見ながら聞く形式に変えたことで、発表を楽しみ、さらに反応する機会が増えました。

今後の課題

どんなに優れた教科書でも、授業の状況に応じて内容を調整し、工夫することが必要です。しかし、公立中等学校の日本語教師の多くは、まだその柔軟な対応が十分にできていません。また、教師が先に説明してしまい、生徒自身に気づかせる授業を行うことも、ラオスの教師にとってハードルが高いのが現状です。そこで、教師の授業改善に重点を置いた支援が必要となります。

さらに、全学年分の『にほんご』がそろった今、最大の課題は全国への普及です。『にほんご7』が完成するまでは、政府指定のパイロット校4校のみで使用されてきました。『にほんご』を全国へ広げるには、ラオスの教育制度や学校の実情に合わせた進め方が必要であり、決して容易ではありません。

しかし、『にほんご』がすべての学年で国定教科書として正式に認められていることは大きな強みです。日本とラオスが70年かけて築いてきた関係のように、関係者があきらめずに取り組み続けることで、いつか全国の中等教育機関で『にほんご』が使われる日が訪れると確信しています。

6.おわりに

ラオスでは、メコン川の流れのように、時がゆったりと静かに過ぎていきます。『にほんご』による日本語教育も同じように、これからゆっくりと全国に浸透していくことでしょう。たとえ進みが遅くても、ラオスの若い世代が途切れることなく『にほんご』で日本語を楽しみ、日本や日本人への関心を深め、両国を担う者同士の交流へとつながり、それが長く続いていくことを願っています。また、ラオスの教師と生徒が『にほんご』を名実ともに国定教科書として育てていくことも期待しています。今後のラオス中等教育における日本語教育の発展を、世界中の皆さまに温かく見守っていただければ幸いです。

注:

  1. 1.RIES:Research Institute of Educational Sciences(教育科学研究所、カリキュラムや教科書作成を担当する教育スポーツ省の機関)
  2. 2.パイロット校:新しい教科書を試験的に導入し、効果や課題を検証する学校
  3. 3.CACIM:the Committee for Approval of Curriculum and Instructional material Meeting(国定教科書承認会議)

参考資料:

What We Do事業内容を知る