日本語教育通信 日本語・日本語教育を研究する 第48回

日本語・日本語教育を研究する
このコーナーでは、これから研究を目指す海外の日本語の先生方のために、日本語学・日本語教育の研究についての情報をおとどけしています。

早稲田大学 日本語教育研究センター 教授 久保田美子

日本語教育におけるビリーフ研究の今、そしてこれから

1.はじめに

 外国語の学習経験を振り返ってみてください。間違えることが嫌で、なかなか話せなかった経験はありませんか。そうした気持ちは外国語を習得するうえで、プラスに働くでしょうか、マイナスに働くでしょうか。同じクラスで、同じ時間、同じ先生から、同じようにことばを習っても、習得の様子はさまざまです。そこにはどのようなことが関係しているのでしょうか。ここでは、学習者の個人差(individual differences)の一つとして取り上げられることの多いビリーフ(beliefs)について考えます。

2.ビリーフとは何か

 ビリーフ(beliefs)という用語は、日本語では「信念」「確信」「思い込み」などと訳されます。しかしその用語や定義は様々です。Barcelos(2003)では、representations, philosophy, metacognitive knowledge, beliefs, cultureなど、それまでの第二言語習得研究におけるビリーフに関係する10種類の用語を取り上げ、その定義の違いをまとめ、一定したものではないと述べています。篠ヶ谷(2019)は、心理学の立場から、先行研究で扱われてきた学習に関する「信念」を表1のように分類しています。この表が示すように、その分類は多岐にわたりますが、学習の成立過程や動機づけなどに関係するものとして捉えられていることがわかります。

表1 学習に関する信念の分類
①知識の性質に関する信念 認識的信念(知識の起源や権威性 etc.
②学習の成立過程に関する信念 内的リソース 知能観(増大理論・固定理論)
学習観(認知主義的・非認知主義的)、テスト形式スキーマ
外的リソース 授業観(共同活動的・知識伝達的)
協同作業認識(協同効用・個人志向・互恵懸念)
RP観注1(内容記憶志向・記述訓練志向 etc.
テスト観(改善・強制・比較)
教科書観(授業の道具・家庭学習の道具)
③動機づけに関する信念 期待 自己効力感
統制観
価値 学習動機(内容関与・内容分離)
達成目標(マスタリー・パフォーマンス×接近・回避)

篠ヶ谷(2019)「表3-1 学習に関する信念の分類」(p.75)より

 もう少し具体的に見てみましょう。次の図1は、海外で日本語を教えるノンネイティブ日本語教師654名に対して行った調査結果の一部をグラフにしたものです(久保田2007)。「学習者には正確さを要求しなければならない」という項目に対して、強く賛成から強く反対まで5つのスケールのうち、どれに当たるかを選んでもらいました。あなたならば、この質問に対してどう答えますか。

「学習者には正確さを要求しなければならない」に対する回答。強く賛成/賛成の数値は、西欧:0%/84.6%、中近東・アフリカ:25.0%/50.0%、東欧・ロシア:14.3%/54.8%、東南アジア:14.6%/56.7%、南アジア:13.8%/48.3%、東アジア:13.0%/48.3%、中南米:12.5%/37.5%、大洋州:4.2%/42.3%、北米:3.6%/25.0%。
図1「学習者には正確さを要求しなければならない」に対する回答 久保田(2007)より

 この結果は10年以上前の結果です。また、地域によって母数に差があるため、参考資料にすぎませんが、世界中の教師が同じビリーフをもっているわけではないこと、そしてそのビリーフの違いには、ある程度地域による傾向があることがわかります。

3.言語学習におけるビリーフ研究の流れ

 第二言語習得研究の分野において、学習者の個人差要因の中でも、ビリーフ、態度(attitudes)、動機づけ(motivation)などの特に精神面に注目した本格的な研究は1950年代から始まりました。1970年代、従来の教師主導型から学習者を中心とする教育が考えられるようになり、学習者が何を考え、どのように行動するかという部分にも注目が集まるようになりました。やがて教師の行動や精神面にも焦点が当てられるようになり、1980年代半ばには、ビリーフ、態度、動機づけなどが、学習ストラテジーや教授ストラテジー、さらには習得や教授効果と強い関連があることが証明され始めました。
 ビリーフの研究の先駆的なものの一つにHorwitz の研究が挙げられます。Horwitz(1985、1987)では、調査票BALLIBeliefs About Language Learning Inventory)を開発し、教師や学習者の言語学習についてのビリーフを調査しました。前節図1で示した質問項目「学習者には正確さを要求しなければならない」は、この調査票の質問項目の1つです。Horwitz(1985)では、研究の目的を「教師がある特定の教授方法を選択する理由を探ること」「教師と学習者のビリーフがどのようなところで衝突するのかを見極めること」とし、調査票BALLIを教師のワークショップ、教授法クラスなどでのディスカッションの材料として利用しました。その後、Horwitz(1987)では、研究の目的に「学習者のビリーフの本質とそのビリーフが言語学習ストラテジーに与える影響を理解すること」が加わり、調査結果を、言語学習の適性、言語学習の難しさ、言語学習の本質、言語学習ストラテジーとコミュニケーションストラテジー、動機の5つに分けて考察しています。
 Horwitzはビリーフの学習ストラテジーへの影響に着目しましたが、Cotterall(1995)はAutonomy(自律性)ということばを用い、そうしたストラテジーを自ら使う能力に着目しました。Wenden(1987)では、英語上級クラスの学習者へのインタビュー調査を通じて、外国語学習に成功している学習者のビリーフを分析し、Wenden(1991)では、外国語学習を成功させるためには、学習者のビリーフの変容を促すような取り組みが必要であると述べています。Wendenは従来の質問票形式の調査ではなく、ある程度質問項目を規定したインタビュー形式の調査を用いています。
 2000年前後からビリーフ研究の対象、方法論は、めざましい広がりを見せます。Barcelos(2003)では、ビリーフ研究の方法が、Horwitzを始めとする質問票を用いた標準的アプローチ(normative approach)から、Wendenに代表されるある程度規定されたインタビューを用いたメタ認知的アプローチ(metacognitive approach)、そして現在では文脈的アプローチ(contextual approach)と言われる方法論へと変化していると述べられています。文脈的アプローチは、調査対象者の観察、インタビュー、日記分析などの調査方法をとり、ある特定の文脈におけるビリーフをよりよく理解することを目的とした、調査者の視点ではなく、調査対象者の視点を考慮した方法であるといわれます。標準的アプローチは量的研究、メタ認知的アプローチや文脈的アプローチは質的研究と言い換えることができます。Barcelos(2003)は、標準的アプローチ、メタ認知的アプローチが、ビリーフを精神的特性と考え、社会的な面を除外していることを指摘し、ビリーフが文脈に埋め込まれていることを忘れてはならないと述べています。そして今後の課題として、縦断的研究、ビリーフの変化、ビリーフが行動に与える影響について研究する必要性を指摘しています。2011年に出版された学術誌System(Vol.39、3)では、1999年以後2度目のビリーフの特集が組まれ、方法論や分析の新しい視点について示唆に富む論文が掲載されています。

4.ビリーフ研究の目的

 ビリーフの調査は、第一義的には、学習者や教師のビリーフの本質を知ることが目的とされてきました。つまり、学習者自身、教師自身が自らのビリーフを知り、自らの学習に対する姿勢や教授に対する姿勢を見直すきっかけとすることが目的となっていますが、課題の解明を目的とする場合、次の3つの目的で研究されることが多いです。
 一つ目は、カリキュラムや教材の開発、教授方法を考えるうえで必要な、学習者や教師のレディネスを知ることを目的に行われる研究です。特定のグループ(国、母語、地域、機関、学年など)の対象者のビリーフの特徴や傾向の解明、そのグループ間のビリーフの異同の把握などを目的として行われる研究です。図1のような、同じ質問項目に対して様々な地域の教師がどう考えるかを比較するような研究も含まれます。
 二つ目は、第二言語習得の観点から、そのメカニズムの要因を解明することを目的とする研究です。つまり、そのビリーフが、学習や教授行動のプロセスや、習得そのものとどう関係するのかを見ることが課題とされます。具体的には、学習者のビリーフは学習者の学習方法、学習ストラテジー、学習成果、習得の結果とどのような関係があるのか、そこには因果関係があるのか、効果的な学び方、学習ストラテジーがあるとすれば、そのような方法をとる学習者には共通したビリーフがあるのか、効果的な教授方法があるとすれば、そのような方法を選択する教師には共通したビリーフがあるのか、教師と学習者のビリーフが一致している場合、一致していない場合の学習過程や学習効果はどう違うのか、また一致していない場合、どのような問題が生じるのかといった課題です。
 三つ目は、ビリーフそのものの解明を目指すものです。ビリーフの実態やそのビリーフと習得との関係がわかったとしても、そのビリーフを形作る基になっているもの、要因は何か、またそのビリーフはいつ形づくられるのか、変化するのか、あるいは介入によって変化させることができるのかといったことを解明する必要があります。それが課題となります。

5.日本語教育におけるビリーフ研究

 日本語教育の分野では、1990年代から盛んにビリーフの研究が行われるようになりました。研究対象は、その研究目的や課題によって、学習者、教師(母語話者、非母語話者)、あるいは学習者と教師の両者を対象としたもの、また教育実習生について研究したものもあります。さらに、対象者の学習・教授の場所も、海外のさまざまな地域(外国語環境)、日本(第二言語としての環境)、あるいはその両者を比較したものもあります(海野他2004、久保田2015に一部整理されています)。
 研究の目的は、先に述べた特定のグループのビリーフの傾向を把握するためのものが多いですが、学習全般に関するビリーフの解明を目指すだけでなく、漢字、文法・語彙、アクセント、聴解、作文、話す技能など、特定の項目や技能に関するビリーフの実態の解明を課題としているものもあります。
 第二言語習得の観点から、特定の項目や技能の学習や指導とビリーフとの関連性や、映像作品/映像素材を用いた指導/学習、ピア・レスポンス、協働活動、チームティーチング、ティーチャートークなど、特定の教授方法や教授現象とビリーフとの関係性を課題としているものもあります。また、学習動機、学習ストラテジー、自律的学習能力、学習スタイル、態度、不安など、他の個人差要因の課題解明を目指す中で、ビリーフを取り上げている研究もあります。
 さらに、ビリーフの形成要因や変化を研究課題としているものもあります。ビリーフのあり方そのものを学習者や教師の生き方や成長と関連づけて考察しているものもあります。
 研究の方法に関しては、初期のころは質問紙調査による標準的アプローチ、いわゆる量的な研究が盛んでしたが、現在では、質的な研究も多く行われています。量的研究では、先に述べたHorwitz(1985、1987)の調査票BALLIをそのまま利用、あるいは修正した調査票による調査研究が多く見られます。図1のように単に項目ごとにどのような回答があったかを見るだけでなく、因子分析など、統計的な処理をしているものもあります。
 しかし、BALLIは1980年代に作成されたものです。各研究で、様々な修正を加えるなど工夫をしてはいますが、新たな学習観、教育観に対応した調査をするためにはさらに検討する必要があります。前述のように特定の技能や項目に特化した調査の場合、独自の調査票を開発している場合もありますが、教師と学習者のそれぞれに特化した調査票など、さらに工夫する必要があるでしょう。
 質的研究では、半構造化インタビュー、ナラティブ、ライフストーリーなど、さまざまな調査が行われるようになりました。分析手法も、PAC分析注2や、GTA注3M-GTA注4SCAT注5など、様々な質的な分析手法がとられるようになってきました。前述のBALLIのような質問票を利用した量的調査では、対象者ひとりひとりの動的で複雑なビリーフの実態を把握し、その要因について分析することは難しく、このような質的な調査が今後も増えるものと考えます。
 しかし、量的な調査、質的な調査両者ともに、横断的な調査がほとんどで、ある教授法を実施するなど、介入の前後でのビリーフの変化を見たものはありますが、長期間縦断的な調査を行ったものはまだ少ないと言わざるを得ません。
 これらの研究の中には、海外の日本語教育を対象とした研究も多数あります。2015年以降に発表された論文だけでも、マレーシア(星2015;中等教育・NNT注6、量的)、韓国(星(佐々木)2016;中等教育・NNT、量的・2時期の比較/星2016;中等教育・NNT、質的)、中国(坪根他2015;高等教育・NNTPAC分析)、台湾(陳2015;高等教育・学習者、量的)、香港(宇田川他2015;小学生から大学院生、就労学習者まで、量的)、タイ(福永2015;中等教育・NNT、量的/坪根他2017、内田他2019;高等教育・NNTPAC分析・縦断)、エジプト(崖2020;高等教育NNT・教師・学習者、量的)、コスタリカ(松本2019;高等教育、一般等・NT&NNT、量的/松本2020;14歳~74歳の学習者、量的・他地域との比較)、中央アジア(久保田2019;一般・NNT、質的・縦断)、多国籍(久保田2017;初等~高等、一般まで・NNT、量的・2時期の比較)を対象とした研究などがあります(( )内:研究対象、調査方法)。海野他(2004)では学習者のビリーフ、久保田(2015)では学習者、教師のビリーフに関して、それまでの研究成果の一部がまとめられており、前述の国以外にも、多くの国で研究が行われてきたことがわかります。

6.日本語教育におけるビリーフ研究の成果

 では、これらの研究によって、どのようなことが明らかになったのでしょうか。前述の通り、様々な研究が行われていますが、その成果は、それぞれの環境におけるビリーフの実態を様々な要因とともに解明するもので、一言で語ることはできません。本章では、ごく一部ですが、例として、研究の成果を紹介します。
 教師を研究対象とした久保田(2009)では、久保田(2007)を基に、次のような図を示しています(図2)。

「正確さ志向」「豊かさ志向」国別因子得点平均値。日本語ネイティブ教師の場合、正確さ3.08,豊かさ3.83。ノンネイティブ教師の場合、正確さ平均値3.68,豊かさ平均値4.16。
図2 「正確さ志向」「豊かさ志向」国別因子得点平均値 久保田(2009)より

 これは、非母語話者日本語教師のビリーフの調査結果を国別に比較し、さらに日本在住の日本語ネイティブ日本語教師の結果と比較したものです。10年以上前の調査結果ではありますが、「正確さ志向」注7の面では、ある程度、地域間、ネイティブ・ノンネイティブ間で違いが見られる一方で、「豊かさ志向」注8の面では地域間での違いは少なく、またノンネイティブのほうがネイティブよりも高い数値を示していることがわかります。この論文では、英語教育の分野の成果(Reves & Medgyes 1994)で示している「ネイティブ教師は目標言語の文化に関する情報を(ノンネイティブ教師)より多く提供している」という結果とは異なることを指摘しています。つまり、単純に比較することはできませんが、日本語を教えるノンネイティブ教師は、英語を教えるノンネイティブ教師とは異なり、豊かさ志向に含まれる文化を教えることへの意識がネイティブよりも高いことが予想されます。
 教師のビリーフは教授行動と強い結びつきがあります。また、新しい言語学習理念などに対してどのように向き合うのか、また教師研修などを受けてどのようにビリーフが変容するのかという問題を解明することは重要な課題です。このような課題の解明のためには、質的な研究が重要になります。星(2016)では、韓国の高校教師12名を対象にインタビュー調査を行い、その結果をM-GTAの手法を用いて分析しました。その結果、教育政策と教育実践、そして社会との関係性など、複雑な要因がビリーフに関係していることを論じています。前述の坪根他(2015)ではPAC分析という手法がとられました。新人教師5名を対象に、「いい日本語教師」に関する考えに対してPAC分析を行い、その解明を試みています。5名の個別の結果を説明するとともに、中国の「教学大綱」の内容との関係について論じています。たとえば、この大綱で述べられている異文化コミュニケーション能力に関しては、「社会・文化理解は実際に日本人とコミュニケーションをする際に直接役立てるためより、日本語を学ぶ動機づけとしてより強く意識されている様子がうかがえる。」としています。
 ビリーフの変容を見るためには縦断的な調査が重要になります。山田(2014)では、日本人教師2名に対して3年の間をあけてPAC分析を行い、その変容をみた結果から、ビリーフには、変化しにくいビリーフと変化しやすいビリーフがあるという考えを支持しています。内田他(2019)では、タイ人日本語教師について初任期から4年のビリーフの形成・変容の要因を分析しています。継続して現れるコアビリーフがあり、研修などの刺激を受けることで保持・強化される一方で、変化し得る可能性も示しています。また同様の調査の被験者である別の教師の結果を報告した坪根他(2017)の結果と比較し、教師による変容要因の異なりも示しています。このようなビリーフの本質を解明しようとする研究は、日本語教育の分野でも次第に行われるようになりました。久保田(2019)では、中央アジア地域の日本語教師1名に5年10か月の間に5回行ったインタビュー調査データを基に、そのビリーフの変化と教師の成長との関係について論じています。このように質的で縦断的な研究がこれからも積み重ねられることによって、日本語教師のビリーフの本質の解明が進むものと考えます。
 学習者を対象とした研究では、量的な研究が圧倒的に多いと言えます。前述の2015年以降の海外における研究にも、量的なものが多く見られました。これらの研究は、各国の日本語学習者の実態を把握するうえで重要な情報を提供しています。また、これらの研究を複数国で比較したものも見られます。阿部(2014)では、それまでの海外での日本語学習者を対象とした量的調査結果(14件、9カ国と日本)から文法学習に関する2項目の調査結果を取り上げて比較検討し、さらに久保田(2006)の各地域の教師の結果と比較し、その差異について論じています。
 しかし、学習者に対する研究では、質的な研究はまだ少ないと言わざるを得ません。おそらく、学習動機や態度など、学習者要因の別の側面に焦点を当て、ビリーフをその中で関係する要素として分析している場合が多いのではないかと思います。本稿では取り上げませんが、そうした分野との関係性をみることは重要なことであると考えます。

7.ビリーフ研究の今後

 ビリーフというものが定義することが難しいものであることは先に述べました。学習者や教師の精神的、あるいは情意的な部分をどう捉えるかというのは最大の問題であると考えます。また、ビリーフは、個人個人がもつものです。そしてそれは、本来もっている静的な部分と、行動の文脈、社会との関係性に左右される動的な部分とがあると言われます。また、動的な部分も容易に変化するものと、なかなか変化しないものがあるかもしれません(Pajares1992)。そのような複雑さ故に、最近は、質的調査によって、個人個人の中にあるビリーフを丁寧に調べていくことが多くなりました。しかし、それは個別のケースの紹介にとどまる場合が多く、ビリーフと行動との関係性についてはまだ解明されていないことが多いと言わざるを得ません。さらに、調査の難しさから、縦断的に調査した研究もまだ数は少なく、ビリーフがどう変化するのか、変化しないのかという課題の解明も今後の課題となっています。しかし、学習行動や教授行動、言語習得のメカニズムにおいて、ビリーフが何等かの影響を与えていることは事実であり、この分野の解明は重要であると考えます。

  1. 1.小野田、篠ヶ谷(2014)は、リアクションペーパー(reaction papers)をどのようなツールとして捉えているかを「PR観」と呼んでいる。
  2. 2.PACPersonal Attitude Construct)分析。内藤哲雄(2002)『PAC分析実施法入門―「個」を科学する新技法への招待(改訂版)』ナカニシヤ出版を参照のこと。
  3. 3.GTAGrounded Theory Approach)。戈木クレイグヒル滋子(2016)『グラウンデッド・セオリー・アプローチ:理論を生み出すまで(改訂版)』新曜社を参照のこと。
  4. 4.M-GTAModified-Grounded Theory Approach:修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ)。木下康仁(2014)『グラウンデッド・セオリー論』弘文堂を参照のこと。
  5. 5.SCATSteps for Coding and Theorization)。大谷尚(2019)『質的研究の考え方―研究方法論からSCATによる分析まで』名古屋大学出版会を参照のこと。
  6. 6.本稿では日本語母語話者教師をNT、日本語非母語話者教師をNNTと表記する。ただし、研究によっては、NNTと筆者が表記した中に、日本語を母語とする現地教師、あるいはバイリンガルの教師を含む場合もある。
  7. 7.ことばの構造に関する指導や知識を重視し、「正確さ」を重視した志向性を指す。
  8. 8.学習者の精神面での充実を重視し、ことばの知識面だけでなく、「文化」「興味」「楽しさ」など、「豊かさ」の教授に関係する志向性を指す。

引用文献

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