コラム:ハノイに全員集合

8月20日~8月30日にベトナムのハノイで約2週間のワークショップを行いました。以下ワークショップのレポートです。

8月20日(火曜日)

ワークショップの写真1

6月にタイで行われた第一回目のワークショップ(以下WS)以来、今回の第二回目WS地のベトナムに加え、カンボジア、ミャンマー、タイ、ラオス、ブルネイ、日本の演奏者とスタッフ陣が、全員ハノイに集合しました。それぞれの国からハノイ入りした楽器は、全部合わせると大小約30パッケージにも及び、空港到着後はトラックにてWS会場のハノイ国立音楽院の教室に運び入れられました。

8月21日(水曜日)

6月にタイで行われたWS以来、約二ヶ月ぶりに再会する演奏者。

始めに国際交流基金ハノイ事務所稲見所長と吉岡さんの挨拶があり、現地スタッフ、および10月からのツアーに同行の面々、通訳の皆さん等の紹介がありました。ベトナム、カンボジア、ミャンマー、タイ、ラオスの演奏者は通訳を通してのコミュニケーション。今回のプロジェクトの音楽監督・大島ミチルさんから、「今回のWSは前回の復習から新しい曲の練習、作曲作業などのクリエイション、そしてプログラムの構成、全体の流れや段取りなどを確認するリハーサル、最後の数日の通し稽古まで2週間で行います。大変ですが、がんばりましょう!」とのメッセージ。日本語から英語、英語から各国語と、二段階の通訳を経て、演奏者は今回の目的とゴールを確認しました。

顔合わせ後、まず最初に、演奏者は楽器の荷解き作業とセットアップ、チューニング、そしてスタッフ陣も同時進行でPAの音響機材セッティング。

大型の教室の一面に並べられた各国の民族楽器は、それぞれの国を代表する楽器の数々で、音を聞く以前に視覚のみでも十分に楽しめます。

WS初日の一曲目は”エンディング”。コンサートの一番最後に演奏される予定の楽曲です。様々な音色とリズムが重なり、タイWSでの稽古を思い返しながら、少し緊張しつつ楽曲へと集中していきます。

思わず口ずさんでしまう親しみやすいリズム。テンポをキープして、音をもっとシャープに、と大島さんからコメントがありました。

8月22日(木曜日)

今日は9時半に会場集合。午前中はミャンマーとベトナムの曲の合わせ、午後はベトナムとタイの歌もの、休憩を挟んでカンボジアの綿積みの歌、ラオスの楽曲稽古です。

トゥルンというベトナムの竹製の音階楽器のチューニングは、竹を少しずつ削って微調整、ラオスやカンボジアの太鼓は粘土のようなものを太鼓の皮に貼り付けて、ピッチを調整しています。これは本来米と灰を練ったものを使うそうですが、演奏者が各地に旅行するようになり温度、湿度の差が出るので、化学粘土のような安定性のある素材を使うようになったようです。

どの国の太鼓も共通して乾燥には弱く、湿度は高いベトナムとはいえ空調が効いた室内で、夜通しエアコンが付いているのか気にする演奏者もいました。

午後のラオス楽曲稽古の中で、歌の部分を新たに30小節を足すという変更が突然ラオスのセントン・ブッサディさんから提案され、他の演奏者は皆、練習してきた楽譜からの急な変更に戸惑い、一時、混乱が起こりました。

曲が長くなることでその曲の良さが発揮されなくなる、と大島さん。一方で、セントン・ブッサディさんはその新たに加えた歌の部分の歌詞がラオス人としてはとても重要で、それはどうしても組み込みたいと。

セントン・ブッサディさんの思いと全体のバランスを考え、大島さんは「足したい部分のメロディーをスコアで持ってきてもらい、それを今ある楽譜の中に何とか組み込みましょう」と、対応。後日、全体で合わせる前に打ち合わせをするということになりました。

8月23日(金曜日)

ワークショップの写真2

今朝は、カンボジアのトリオの曲の練習からで、この楽曲に参加していない演奏者は午後からの参加となりました。これまで、アンサンブルの稽古が続きましたが、小編成の楽曲は演奏者同士のコミュニケーションもスムースで、とても速いテンポで音作りが進みます。カンボジアの二人には通訳がついていますが、曲作りの最中は演奏者同士、コミュニケーションのツールは言葉でなく楽器。即興のライブ演奏で、楽譜のない楽曲ですが3人の呼吸や演奏の掛け合い部分など、ある程度の構成が約1時間程度でだいたい固まりました。

続いてタイの小編成曲。

タイと日本の太鼓の掛け合いが見せ所で5人の編成による作品ですが、どうも楽曲の流れをリードするタイの太鼓、ポウン マーン コークの音がベースに埋もれてどうもしっくりこない様子。

タイのWSではもともと2人編成だったものを今回5人に再編成してみたけれど、結局、もとに戻すことに。いろいろ試して、音や小節を増やすのは簡単ですが、できたものやアイディアを思い切ってそぎ落としたときに生まれる本質を見極めるのもまた、曲作りの面白いところです。

午後は日本の「サイギ」の通称で親しまれている登山囃子を皆で合唱。タイWSから数ヶ月経った後でも、皆歌詞を覚えていて驚きました。

また、ベトナムのドラム主体のアンサンブル曲では、曲の聞こえ方について国ごとに意見が分かれる一面がありました。

日本ではいろいろな楽器が一斉にごちゃごちゃ聞こえると”うるさい”という印象ですが、他の国では混沌と音が鳴り響いている状態が普通、しっくりくる、とのこと。それぞれが心地よいと感じるポイントが違うなかで、お互い歩み寄り作り上げる楽曲の数々。完成が楽しみです。

8月24日(土曜日)

ルネイのユスリさんがもってきた楽曲の練習です。まず始めに曲のコンセプトが英語→各国語に通訳されやっと伝わります。その後も、スコアを追うのではなく基本的には口唱歌で、ユスリさんが歌う、みんなが真似する、という教え方で音程とリズムをとっていきました。音程はアラビアンな感じで、途中、振り付けも入りなかなか面白い曲に仕上がりそうな雰囲気です。

やってみて、ベースを刻む楽器が必要、とのことで急遽、次の稽古からラオスのプサヴォン・サクダさんが参加することになりました。足し算と引き算の繰り返しの稽古です。

続いて、ミャンマーからの楽曲稽古。演奏者の一人がリズムがつかめず、いつもいつも同じところで間違えます。すると、自然的に小楽器を演奏していて移動が大変でないメンバーがその演奏者の周りに集まってきて、一生懸命リズムを合わせようと力をあわせている風景が。

どうも、その国ではアーフタクトで入る音楽がなくて、つまり、”裏打ち/ダウンビート”に慣れていないとのこと。練習を繰り返しているうちに、今度は、さっきまで問題なくできていた人がつられてできなくなってしまったり、と、負のループに陥りそうになり、みんなで必死で正確なリズムを探るセッションが続きました

8月25日(日曜日)

ワークショップの写真3

午前中はカンボジアからのトリオの作品、小編成の楽曲の稽古からのスタート。いつもと違い、太鼓や金属楽器が教室一杯に鳴り響くのではなく、なんとも静かで和やかな空間が広がります。三人の呼吸は、演奏者同士言葉も多々語らず、リズムとニュアンスとを表情や身体で表現し伝え、答えて創作活動が進みます。

誰が主導するのでもなく、お互いできることを最大限に発揮して、ある程度即興の要素も含んだ、とても興味深い作品です。

続いて行われたタイのトサポーン・タサナさんが指揮をとる即興曲的な楽曲。

こちらも、5人編成からデュオの再編成され、アーティスト同士、一対一での勝負。お互い呼吸をあわせ、互いの魅力を引き出し合うアイディア出しとストイックな稽古が続きます。音楽には国境も言葉もいらない、魂と魂のコミュニケーション、ということをまじまじと感じる稽古風景です。

午後は歌ものの稽古があり、その後で再びラオスのタンバリンの曲の稽古。皆、振り付けのあわせには苦労していますが基本的には、とても楽しそうに創作活動/稽古に取り組んでいる様子です。その後、楽曲に変更を加えたラオスチームの楽曲の稽古がありました。どうしても歌いたいパートを大島さんが汲み取り、楽曲に反映。新しいパート譜が演奏者に配られ、ようやく楽曲の形が見え始めました。

[お問い合わせ]

国際交流基金(ジャパンファウンデーション)
文化事業部 アジア・大洋州チーム
担当 : 玄田・松永
電話 : 03-5369-6062

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