ベトナム(2022年度)

日本語教育 国・地域別情報

2021年度日本語教育機関調査結果

機関数 教師数 学習者数※
629 5,644 169,582
※学習者数の内訳
教育機関の種別 人数 割合
初等教育 3,986 2.4%
中等教育 30,590 18.0%
高等教育 45,752 27.0%
学校教育以外 89,254 52.6%
合計 169,582 100%

(注) 2021年度日本語教育機関調査は、2021年9月~2022年6月に国際交流基金(JF)が実施した調査です。また、調査対象となった機関の中から、回答のあった機関の結果を取りまとめたものです。そのため、当ページの文中の数値とは異なる場合があります。

日本語教育の実施状況

全体的状況

沿革

 日本語教育は、初等、中等・高等教育機関、学校教育以外の教育機関(技能実習生 及び特定技能人材の送り出しを目的とした機関や一般の学習希望者を対象とした民間語学センター、従業員の企業内教育を行う企業など)で行われている。学校教育以外での教育機関の学習者が最も多く、次いで高等教育機関、中等教育機関の順となっており、小学校でも後述の「国家外国語プロジェクト」に基づく導入校だけでなく、自主的に課外活動として日本語授業を導入している地域や学校もある。
 高等教育においては、1961年にハノイ貿易大学、1973年にハノイ外国語大学(現ハノイ大学)で日本語教育が開始され、その後他の国立・私立の大学や短期大学でも日本語教育が開始されて、2021年日本語教育機関調査では88の高等教育機関で日本語教育が行われていることが確認されている。最近では、工科系・理科系の大学や介護福祉士・看護師としての訪日を目的とした医療・看護系の大学・短期大学における日本語教育開始が広がっている。その中で、当初は日本語クラスとして始まったものが、学科に、続いて学部に昇格し、大学院修士課程が設立されるなど動きも見られる。
 中等教育においては、2003年に、「中等教育における日本語教育試行プロジェクト」(以下、中等プロジェクト)が立ち上げられ、中学校や高校で第一外国語科目としての日本語教育が実施されることになった。
 2008年には「2008-2020年期国家教育システムにおける外国語教育・学習プロジェクト」(2020年期国家外国語プロジェクト※2018年に改称)が立ち上げられ、小学3年生から高校3年生(12年生)までの10年間の外国語教育強化の方向性が示され、2016年9月より、初等教育段階(小学3年生から5年生まで)の第一外国語としての日本語教育がハノイ市とホーチミン市の5校で実験的に開始された。その後、試行段階を踏まえて、2020年9月に小学校に入学した1年生が3年生になる2022年9月から、10年間の日本語教育が正式科目として実施されることになった。

背景

 1973年の日越外交関係樹立より、一時期の停滞期を超え、1993年3月のキエット首相訪日以後、日越両国は関係を発展させてきた。2006年10月にズン首相が訪日し、安倍総理との間で「アジアの平和と繁栄のための戦略的なパートナーシップに向けて」と題する、首脳間で初となる共同声明に合意、2009年に戦略的パートナーシップを確立したことを内外に明示。同年にベトナムにとって初めての二国間EPAとなる「日越経済連携協定」が発効し、日越間の貿易の拡大、経済関係全般の強化が図られた。2014年、サン国家主席が国賓として訪日した際、安倍総理との間で、両国関係を「アジアにおける平和と繁栄のための広範なパートナーシップ」という次元へ発展させることが合意され、以降、両国首脳を始め政府関係者の往来がより活発になっており、その都度その確認、発展が協議されている。  また、安倍政権(第2次)、菅政権と2代続けて総理大臣が就任後初の外遊先としてベトナムを訪問するなどベトナムを重視する姿勢を見せており、このような 政治・外交における良好な両国関係も背景となり、日系企業などのベトナムにおける事業展開が拡大し、国内での就職や職場での有利な待遇を得ることが動機となるケースや、日本への留学や就労を目的とした日本語学習者が増加している。さまざまな分野における両国関係が発展している中、ベトナム人一般の日本への親近感、日本の製品、サービス、システムへの関心や信頼が高く、また、若い世代を中心に、漫画・アニメなどのポップカルチャー、ファッションから芸術、文学まで、さまざまな関心を有する層が一定程度存在している。そうしたベトナムの人々の親日的な感情、日本への高い関心を背景に、日本語学習を始める層も相変わらず多い。また、2017年2月~3月の天皇皇后両陛下(現在の上皇上皇后陛下)によるハノイ、フエご訪問により両国の親善関係が一層深まることとなった。  このように両国関係の発展、親密な友好関係の醸成が、ベトナムでの日本語教育の拡大を強く後押ししている。  2008年3月にハノイにJFベトナム日本文化交流センターが開設されて以降、各種の文化交流事業も拡大してきた。さらに、2013年12月に東京で開催された日・ASEAN特別首脳会議を機に、日本とASEANを中心とするアジアとの文化交流を進めるための新しいアジア文化交流政策「文化のWA(和・環・輪)プロジェクト~知り合うアジア~」が開始され、ベトナムでも芸術・文化の双方向交流と日本語学習支援がさらに強化されている。

特徴

 2021年度海外日本語教育機関調査 によると、学習者人口は約16万9千人で世界6位であった。前回2018年度調査と比較すると、全体としては機関数・教師数・学習者数ともに微減という結果だが、これは、ベトナムにおいて大きな割合を占める学校教育以外の日本語教育機関における数字の減少が影響している。日本での就労・留学を主な目的とした学習者を多く抱えることから、コロナ禍の影響で機関の廃止や教育の一時停止を行った機関が多かったことなどが原因であり、今後の動向については中長期的な観察を要する。一方、学校教育においてはいずれの数字も堅調な伸びがみられ、これは良好な日越関係を背景に、日本との経済交流、文化交流の拡大が続いていることが主な要因である。

最新動向

 2003年にはじまった中等教育への日本語科目の導入は、まだ全国的とは言えないが、都市部を中心に定着しつつある。初等教育では前述のとおり、2016年9月の新学期より「国家外国語プロジェクト」のもとで、小学3年生からの日本語教育がハノイ市・ホーチミン市計5校の小学校で試行導入され、2022年10月現在ではハノイ市3校の小学校で導入されているが、中学校進学時における学習継続をはじめ、課題は多い。2018年、2021年にそれぞれ第二外国語・第一外国語としての日本語カリキュラムがベトナム教育訓練省より発表され、それに即してベトナムの日本語教育専門家及びJFベトナム日本文化交流センターが教科書やワークブックの制作・改訂作業に取り組んでいるが、2023年1月現在、出版には至っていない。
 日本語能力試験はハノイ市、ダナン市、フエ市、ホーチミン市の4地域で年2回実施されている。ベトナムにおける2022年の受験者数は約5万2千人であった。
 日越EPA(経済連携協定)に基づく介護・看護分野における日本語教育が2012年12月よりハノイにおいて開始され、2022年12月より、第10期生が日本語学習を開始している。
 新型コロナウイルスの影響はあるが、日本の大学・高校が当地の大学・高校と連携する動きが盛んな傾向にある。中には、当地学校と提携し、卒業したら日本へ留学するプログラムを実施している日本の学校もあるなど留学が多様な形で実施されはじめてきている。
 2019年4月に日本政府により新たに創設された在留資格である特定技能制度により東南アジアを中心とした各国からの外国人材の受入れが拡大されることとなり、労働人材不足の状況にある日本の特定の業種において、ベトナムは労働人材の送出し国としてより注目が集まっている。ベトナム側でも特定技能による日本での就労を目指す層も拡大すると見込まれ、こうした状況を背景とした学習者の増加も見込まれる。

教育段階別の状況

初等教育

2003年から一部の小学校で選択科目として英語教育が開始されたが、2008年に「国家外国語プロジェクト」が立ち上げられ、小学3年生から高校3年生(12年生)までの10年間の外国語教育強化の方向性が示された。このプロジェクトのもとで、2016年9月からハノイ市の4校(チューヴァンアン小学校、コントゥオン小学校、グエンズー小学校、ゲートウェイ小学校)、ホーチミン市の1校(ベトナムオーストラリアインターナショナルスクール)の計5校において、第一外国語として小学3年生から日本語教育が試行導入された。3年間に及ぶ試行段階を経て、2019年9月から始まる新学年度より普及段階に移行することが承認され、上記4校のうち、ハノイ市の2校(チューヴァンアン小学校、コントゥオン小学校)で、日本語教育が継続して行われることになった。
   2022年9月、2020年-2021学年度から適用された新しい新カリキュラム(2018年発表「新普通教育カリキュラム」(第一外国語の履修が必須)、2021年発表「初中等教育における教育課程第一外国語の日本語カリキュラム」)のもとで学ぶ生徒が小学3年生に進学したのに伴い、ハノイ市の3校(上記の2校であるチューヴァンアン小学校、コントゥオン小学校に、新規にチューヴァンアンA小学校が加わる)で、第一外国語としての日本語学習が正規科目として承認された。なお、4年生、5年生に関しては、試行カリキュラムでの日本語教育が、チューヴァンアンA小学校を除く2校で、引き続き実施されている。
 第一外国語として、日本語が小学校に導入されたのは英語に次いで2番目となる。到達目標は、日本語学習開始時の小学3年生から5年生までの3年間(週40分×4コマ)で、ベトナム外国語能力フレームワーク(ベトナム語:Khung Năng Lực Ngoại Ngữ、入門から順にレベル1~6となっており、CEFR/ JF スタンダードのA1~C2に近い区分)のレベル1となっている。
 また、第一外国語としてではなく、課外活動として日本語教育が実施されている学校もある。

中等教育

 2003年に「中等プロジェクト」が立ち上げられ、当初は、ハノイ市のチューヴァンアン中学校で課外授業として日本語教育が開始された。このプロジェクトは、2005年から試行段階、2007年から普及段階に移行して、第一外国語科目としての中等教育での日本語教育が、ハノイ市、フエ市、ダナン市、ホーチミン市の計4地域の8中学校において開始されることになった。その後、2011年にビンズオン省、2012年にビンディン省(クイニョン市)、バリア・ブンタウ省が加わり、日本語教育実施地域は7地域に拡大した。2022年11月現在、中等教育機関(中学校、高校)における日本語教育の実施が確認されている地域は、上記にハイフォン市、ゲアン省、バグザン省を加えた計10地域である。
 なお、2021年の海外日本語教育機関調査結果によれば、中学校87 、高校45 校で日本語教育が行われている。
 中等教育の現場では、2003年の「中等プロジェクト」開始以来、6年生(中学1年生)~12年生(高校3年生)までの7年間の継続した外国語学習のことを「第一外国語」と呼び、それ以外のケース、たとえば、英語を第一外国語として履修している生徒が高校で新たに日本語を学ぶ場合は、これと区別するため「第二外国語」「課外活動」などと呼んできた。しかし、2008年に「国家外国語プロジェクト」が立ち上げられ初等教育に外国語教育が導入されたことにより、カリキュラム上、3年生~12年までの10年間の外国語学習を「第一外国語」と呼び、「中等プロジェクト」のもとで行われてきた6年生から始まる外国語教育は「第二外国語」という位置づけとなる。それに伴い「中等教育における日本語教育 中学校、高等学校の第二外国語の日本語カリキュラム」が2018年8月に教育訓練省から発表され、現在の中等教育はこのカリキュラムに準拠している。
 2018年カリキュラムにおいて、到達目標は、日本語学習開始時の6年生から12年生までの7年間(週45分×3コマ)で、ベトナム外国語能力フレームワークのレベル2(CEFR A2相当)となっている。
 なお、小学校3年生に外国語が正式科目として導入されたのは2022年9月からであり、そのため、初等教育段階での日本語履修者が中学校に進学して来るのは、2025年9月の予定となる。2025年9月以降、一部の地域(初等教育で日本語教育が実施されている地域)では、1つの中学校に、第一外国語としての日本語クラスと、第二外国語としての日本語クラスが並立して置かれることになるのか、中学校によって区分されるかなど、詳しいことはまだ明らかになっていない。
 日本語教育実施校は年々増加傾向にあるものの、日本語教師を採用・調達できず日本語授業が導入できていない地域・学校も少なからず存在し、他の教育段階と同じように日本語教師不足が大きな課題の一つとなっている。日本語教師の確保のためには、より安定的な待遇である正規教員(公務員)のポストが望ましいが、地域によっては公務員ポストが用意されていないことが少なくなく、そのため、とくにハノイ市においては、民間の語学センターからの派遣や学校との直接雇用の関係にある教師に頼らざるを得ない状況が長く続いている。

高等教育

 日本への就職機会が増えてきていることや日系企業が他の企業よりも良い条件・待遇で求職しているケースが増えてきていることを受けて、日本語を学習する学生が増えてきている。外国語系の大学では卒業時の目標や条件を日本語能力試験N2相当としているケースが多いが、中には訪日経験がなくとも在学中に日本語能力試験N1を取得する優秀な学習者もいる。
 従来、日本語教育が導入されている大学は外国語系であることが多かったが、2000年代前半以降、日本への留学や就労、現地の日系企業への就職を希望する学生を対象に、法科系、理工系、医療・福祉系、観光系の大学・短期大学においても日本語授業が導入されることが多くなってきている。また、ハノイ市やホーチミン市といった大都市だけでなく地方都市に所在する大学・短期大学でも日本語教育を導入する機関が増えてきており、地域的な広がりも見られる。日本語教育の導入にあたって、特に地方においては日本語教師の確保が課題になっている場合が多いが、日本の大学や企業、法人が共同・協力して日本語教師の派遣など行っているケースも見受けられる。また、日本語教師不足がベトナム日本語教育の大きな課題の一つとなっているなか、教員養成課程の新設を計画する大学が徐々に出てきており、例としては2017年のハノイ大学日本語学部師範コースの開設、ハイフォン公立大学外国語学部英語学科における英語日本語師範コースの開設が挙げられ、この動きは一部の私立大学でも確認されている。
更に、日本との経済的な結びつきが強い、または強化を掲げる地域を中心に、日本語学科の設立や日本語教育の開始・拡充を希望する動きもあり、例としてはハロン市大学における日本語学科、クイニョン大学における人文社会科学部日本語学科、ビンズオン大学アジア学院日本語学科が挙げられる。

学校教育以外

 他国と比べてもベトナムは日本での技能実習などの予備教育として日本語を学習する者が多いことが特徴として挙げられる。これは技能実習生として訪日する外国人の中でベトナム人が突出して多いことからもうかがえる。ハノイ市やホーチミン市といった大都市だけでなく、以前は日本語教育の実施が確認できなかった地方都市でも技能実習などの予備教育を行う機関もでてきており、ベトナムに戻ってきた元技能実習生や元留学生などが自身の地元で教育機関を設立したり、日本語教師として勤務したりしているケースも確認されている。
 また、技能実習生以外ではITエンジニアなど日本で人材不足といわれている分野において、日本語とベトナム語を含む複数言語を解するブリッジエンジニアと呼ばれる高度人材の雇用に取り組む日本の企業が増えてきているほか、また日系企業のベトナム進出がより加速していることに伴い、日本での就労機会や日系企業へ就職・転職する機会が急増している。そのため、日本語能力が給与などより待遇・条件の良い仕事を得るためのスキルの一つとなってきており、民間の語学センターやそれらと連携した大学などや企業内で日本語を学習する者がより増加している。
 民間の語学センターでは日本語能力に関する試験の合格を目標とするコースを設置していることが多く、日本・日系企業の側は日本語能力試験N2相当を雇用のひとつの目安とする場合が多い。しかし、最近では日本語人材の需要がより高くなってきており、N3取得者が積極的に雇用される事例も増えているようである。
 また、2019年4月より日本で新設された特定技能制度については、2022年時点ではベトナムにおいては開始されていないが、対象となる人材に求められる日本語水準としてA2レベル相当が定められており、該当する試験としては「国際交流基金日本語基礎テスト」や「日本語能力試験」(N4以上)が要件とされている。このことから、同制度を意識した予備教育を行う機関が増えることが想定される。

教育制度と外国語教育

教育制度

 5-4-3制。
 小学校は5年制(6~11歳)、中学校は4年制(11~15歳)、高校は3年制(15~18歳)。高等教育機関である短期大学は3年制、大学は4年制(医学部などは6年間)、大学院は4年制(修士課程2年間、博士課程2年間)。義務教育は小・中学校の9年間。その他、高校、高等教育段階に相当する職業教育・専門学校や職業訓練を主として行う教育機関もある。

教育行政

 初等・中等教育機関は、原則教育訓練省の管轄下にあり、学校の実務上の管理・監督は、各地方行政単位の教育訓練局であるが、職業訓練学校など教育訓練省の管轄ではない機関も一部存在する。ほとんどが公立(国立)学校であるが、私立学校もあり、その中には初等・中等一貫校も存在する。
 高等教育機関は教育訓練省の直接の管轄下にある大学が過半数を占めるが、財政省、司法省、建設省、交通運輸省、農業・農村開発省など各省庁が管轄する大学もある。教育訓練省はすべての大学に対して監督権を持ち、入学、大学定員、教科編成、単位認定、学位認定などの面での指導を行っているが、政府直轄の国家大学及び他省庁が管轄する大学については、政府や各省庁が財政を担い、管理運営している。

言語事情

 公用語はベトナム語。
 ベトナムは54の民族で構成され、人口の約86%はキン族が占める。その他の少数民族は、民族別または民族グループ別に独自の言語を有しており、教育の場では、ベトナム語が用いられるものの、日常生活では固有の言語を使っている場合も多い。

外国語教育

 ベトナムの若者が多言語、多文化的環境で勉学、就業できる機会の可能性を広げ、国家の工業化、近代化への貢献を図ることを目的に、「中等プロジェクト」や「国家外国語プロジェクト」に見られるように高等教育のみならず初等・中等教育においても外国語教育は重視されている。外国語専門高校を除き、中等学校では、英語以外の外国語を第一外国語として学習する生徒も、加えて英語を必須科目として学習している場合が多い。

外国語の中での日本語の人気

 初等・中等教育で日本語を選択できる学校があるが、外国語として学ばれているのは英語が圧倒的な割合を占めている。ベトナム全国 の初等・中等教育機関数からみると日本語教育実施校は依然ごく一部に留まっているが、初等教育では、2023年9月に小学校3年生に進級した生徒から、第一外国語として日本語教育が正式に承認されており、また普及段階に移行し、中等教育では日本語教育を実施している地域や学校数が年々増加傾向にあるなど、英語以外の外国語では日本語の存在感が高まっていりつつある。
 高等教育では、外国語系の大学で英語を筆頭に、日本語の他、フランス語、ドイツ語、ロシア語、中国語、韓国語などの専攻を持つところが一般的である。大学によって、英語に次いで学生数が多いのが、ヨーロッパ言語である場合や日本語である場合、あるいは中国語である場合があるが、地元に進出企業が多い、歴史的関係が深いなどの理由が地域差となって表れているようである。近年の就職、留学、技能習得への関心の高まりを背景に、理工系や医療・看護系、観光系の大学や短期大学でも、日本語学習が広がっており、また、大都市だけでなく地方にある機関においても新たに日本語授業を開始したいとの希望が 多くなっている。
 アニメやマンガといったポップカルチャーをきっかけに日本語学習を始める若者や、就職や昇進のため試験合格を目指し熱心に日本語を学ぶ学生や社会人もいる。また、将来の就職やビジネスでの優位性を念頭に親が子どもに日本語学習を進めるケースも少なくない。日本への就労機会や日系企業の進出増加、技能実習生の増加や留学希望の拡大に伴い、民間の日本語学校においても、基調としては日本語学習者が増えている。

大学入試での日本語の扱い

 希望の大学に進学できるかどうかは、高校卒業試験(全国統一試験)の成績によって決まるが、理系・文系の別を問わず、外国語科目は必須科目になっている。外国語科目として、英語及び指定外国語での受験が認められており、日本語は、指定外国語科目のひとつになっている。

学習環境

教材

初等教育

 教育訓練省の認可を得た教科書『にほんご(3〜5年生)』が作成中であるが、まだ出版されていない。そのため、2022年9月の新学期から、正式に第一外国語として日本語教育を実施している小学校では、上記教科書の試行版が使われている。なお、正規科目ではなく課外活動として日本語教育を実施している学校もあり、市販の教科書や提携する民間の語学センターが作成した教材が利用されている場合もある。    

中等教育

 教育訓練省教科書審査委員会の認可を得た『にほんご(6~12年生)』を使用することが前提になっているが、課外活動扱いであったり、外国語専門学校や私立学校などでは、それ以外の教科書を使用している場合もある。たとえば、ハノイ国家大学外国語大学附属中学校では、『まるごと 日本のことばと文化』国際交流基金編著(ベトナム語版:First News社刊行)が、同附属専門高校においては、独自に開発した教科書を、上記『にほんご(6~12年生)』と並行して使っている。
 なお、中等教育においても、「国家外国語プロジェクト」の開始の伴い、第一外国語扱いの教科書『にほんご(6~12年生)』から第二外国語としての教科書『日本語(1巻—7巻)』(2018年「第二外国語の日本語カリキュラム」準拠)への改訂作業が進行中であるが、まだ出版段階には至っていない。

高等教育

 初級では、『みんなの日本語』スリーエーネットワーク(スリーエーネットワーク)と『初級日本語』東京外国語大学留学生日本語教育センター(凡人社)、中級では、『中級日本語』東京外国語大学留学生日本語教育センター(凡人社)、『テーマ別中級から学ぶ日本語』松田浩志ほか(研究社)、『ニューアプローチ中級日本語[基礎編]』小柳昇(日本語研究社)などが主に使用されている。また、独自の教材を使用している機関や、正規ベトナム語版が出版されたのをきっかけに国際交流基金編著の『まるごと 日本のことばと文化』国際交流基金編著(ベトナム語版:First News社刊行)や『NEJA New Approach to Elementary Japanese』西口光一(ホーチミン市師範大学出版社)を使用し始めた機関もある。また、国際交流基金編著の新教材『いろどり 生活の日本語』のベトナム語版についても、一部機関では使用され始めている。

学校教育以外

 初級レベルにおいては、日本への在留資格や日系企業への就職に関わるため、日本語能力試験対策として『みんなの日本語』を使用する機関が多いが、『まるごと 日本のことばと文化』を導入する機関も増えてきている。中級以上のレベルにおいては、初級レベルほど決まった教科書はなく、該当レベルの教科書を適宜使用しているようである。また、自主教材を使用している機関もある。その他、『いろどり 生活の日本語』のベトナム語を教材として導入している機関も多数存在している。

IT・視聴覚機材

 日本語教育においてIT設備が整った教室は増えつつある。

教師

資格要件

初等教育

 初等教育において正規教員として採用されるためには、 師範の資格を有していることが求められるが、正規教員としての日本語教師が採用されたケースは把握しておらず、日本語能力に関する要件は不明である。

中等教育

 ベトナム人教師の場合、中等教育において正規教員として採用されるためには、大学(中学校までなら短期大学でも可)で日本語を専攻し、さらに師範の資格を有していることが求められる。現在、ベトナムには中等教育の日本語教師の資格を取得でき、かつ日本語教育を行っている機関は4校しかなく、高校までの資格を得られるのは、ハノイ国家大学外国語大学1校、中学の資格が得られる学校は、フエ師範短期大学、バリア・ブンタウ師範大学、ハイフォン公立大学の3校である。左記大学以外で日本語を学んだ者で師範の資格を取得したい場合は、別途師範コースに通い資格を取得する必要がある。

高等教育

 正規の大学教員になるためには少なくとも修士の学位が必要とされる一方で、学部卒業と同時に自分の母校で日本語を教える新人教師も少なくない。
 学部、学科の維持のためには、一定の博士学位、修士学位の取得者が必要との規定が厳格化されており、学位取得のために所属機関を休職して、日本の修士課程、博士課程に現在留学中のベトナム人教師も多い。

学校教育以外

 特に定められた資格はない。日本語学校では4年制大学の日本語専攻の学生がアルバイトとして教える場合はある。技能実習生送り出し機関では、元技能実習生で帰国した者や日本への留学経験者が日本語教師を務めることが多い。

日本語教師養成機関(プログラム)

 ハノイ国家大学外国語大学日本言語文化学部には日本語教師養成課程があり、日本語教育分野のリーダーとなる人材育成を目的としている。またホーチミン市師範大学やハノイ大学など一部の大学では、日本語教師養成課程はないが、日本語教授法を教える授業が導入されつつある。日本語学科を有する師範短期大学(3年制)が現在、フエ市、バリア・ブンタウ省の2か所にあるが、その卒業生は中学の教員への採用に限定されている。ハイフォン公立大学では、2017年に英語日本語師範専攻を開設し、卒業時に中学の教員資格が得られることとなっている。
 今後、教員養成課程の新設を計画する大学が複数あることも確認している。

日本語のネイティブ教師(日本人教師)の雇用状況とその役割

 日本語教師の総数に対してネイティブ教師が占める割合は低く、全くいない機関も少なくない。大学においてはボランティアのネイティブ教師を独自採用する傾向がある。ネイティブ教師には中級以上の授業や作文、会話の授業を担当することを期待されていることが多いようである。
 中等教育機関を主な対象に、JFが2014年度より実施している日本語パートナーズ派遣事業により、正規の教師としてではないが、生徒が実際に日本人と触れ、交流できることで、日本語学習成果の向上や日本文化理解の促進に効果があると考えるベトナム側の教育関係者(教育訓練省、地方の教育訓練局、校長、日本語教師など)が増えている。

教師研修

 JFベトナム日本文化交流センターの専門家が中心となって、「中等プロジェクト」に参加する中学高校や「国家外国語プロジェクト」対象の小学校のベトナム人教師向けの研修を定期的に実施している。
 また、JFは、毎年数名の現職ベトナム人日本語教師に対し、訪日研修への参加機会を提供している

教師会

日本語教育関係のネットワークの状況

 2007年に発足したハノイ日本語教師会が、主として、日本人教師同士の勉強会、情報交換などを行っている。2016年にはハノイ日本語教育研究会が、2017年には後述のベトナム日本語・日本語教育学会が活動を開始した。  また、JFベトナム日本文化交流センターが、ベトナム人日本語教師や一般の日本語話者へのインタビュー記事などを定期的に配信し、さらに、ベトナム人日本語教師を対象としたSNSグループなどを通じて、情報交流に努めている。     

最新動向

 ベトナム言語学会傘下の組織として「ベトナム日本語・日本語教育学会」が2016年11月25日付で設立が認可され、翌2017年から活動を開始した。同学会はベトナムで初めて認可された日本語学、日本語教育学に関する学会である。ベトナムの日本語学、日本語教育、並びにその周辺領域分野の研究、教育の発展のためにベトナム全国の研究者、教育者との連携と協働を図り、また、日越間をはじめ、世界の日本語学・日本語教育に関するネットワークに参加していくことを目的としている。

日本語教師等派遣情報

国際交流基金からの派遣(2023年3月現在)

日本語上級専門家

 ベトナム日本文化交流センター 1名

日本語専門家

 ベトナム日本文化交流センター 6名
 ベトナム日本文化交流センター(ホーチミン) 2名

日本語指導助手

 ベトナム日本文化交流センター 1名
 ベトナム日本文化交流センター(ダナン) 1名

日本語パートナーズ

 2022年度 計27名(長期15名、大学連携12名)

国際協力機構(JICA)からの派遣(2022年10月現在)

JICA海外協力隊

ハノイ国家大学人文社会科学大学 1名
ハロン大学 1名
トゥアティエンフエ省師範短期大学 1名
ハノイ工業大学 1名
バリア・ブンタウ師範短期大学 1名
ホーチミン市オープン大学 1名
ハイフォン大学 1名

その他からの派遣

  • 民間日本語学校(日本語教師養成機関など)が提携機関へ派遣

シラバス・ガイドライン

初等教育

 小学校3年生からの外国語教育を義務付けた「国家外国語プロジェクト」が2008年に立ち上げられた。このプロジェクトに基づき、初等教育段階(小学校3年生~5年生)における第一外国語としての日本語カリキュラム「試行プロジェクト 初等教育における日本語カリキュラム ベトナム外国語能力6レベルのフレームワークに基づいて 」が2016年3月にベトナム教育訓練省から発表された。その後、2018 年に教育訓練省が「新普通教育カリキュラム」(小学3年生からの第一外国語の履修を必須とする内容を含む)を発表。2021年7月には、小学校教育段階を含む「第一外国語の日本語カリキュラム」が、教育訓練省から発表された。

中等教育

 「「国家外国語プロジェクト」のもと、第一外国語としての日本語教育が小学校3年生から開始され、初等教育段階から継続して実施される中等教育段階における第一外国語の日本語カリキュラム「試行プロジェクト 中等教育における日本語教育中学校、高等学校の第一外国語10年間の日本語カリキュラム」が2019年8月に教育訓練省から発表された。
 また、小学校3年生からの第一外国語としての日本語教育実施に伴い、2003年より中等プロジェクトのもとで行われてきた中学校6年生から始まる外国語教育は第二外国語という位置づけとなる。それに伴い「中等教育における日本語教育-中学校、高等学校の第二外国語の日本語カリキュラム」が2018年8月に教育訓練省から発表された。

高等教育

 統一シラバス、ガイドライン、カリキュラムはない。

学校教育以外

 統一シラバス、ガイドライン、カリキュラムはない。

評価・試験

 2015年より全国統一高校卒業試験として、高校卒業試験が大学入学試験と統合された。日本語は必修科目の外国語のひとつで、日本語を学習した生徒は英語か日本語のどちらかで受験することができる。

日本語教育略史

1961年 ハノイ貿易大学にて日本語教育開始
1973年 ハノイ外国語大学(現ハノイ大学)にて日本語教育開始
1992年 ハノイ国家大学外国語大学、ホーチミン市国家大学人文社会科学大学にて日本語教育開始
1993年 ハノイ国家大学人文社会科学大学にて日本語教育開始
1996年 ハノイ市で「日本語能力試験」開始
2000年 ホーチミン市で「日本語能力試験」開始
2002年 ベトナム日本人材協力センター(現在はベトナム人材開発インスティテュート、VJCC)がハノイとホーチミンに開設され、日本語コース開始
2003年 「中等プロジェクト」として、ハノイ市のチューヴァンアン中学校で課外授業としての日本語教育開始
ハノイ工科大学が長岡技術科学大学と協力して実施する日本語のできる指導的技術者の育成を目標にしたツイニングプログラムを開始し同プログラムおける日本語教育が開始
2004年 ダナン大学ダナン外国語大学日本語・韓国語・タイ語学部に日本語専攻学科設置
カントー大学外国語センターで日本語コース開講
2005年 ハノイ国家大学外国語大学における「日本語教育師範(教職)課程」の開設
「中等プロジェクト」として、ハノイ市・ダナン市・フエ市・ホーチミン市のモデル中学校にて第一外国語科目としての日本語教育開始
2006年 ハノイ貿易大学が日本語学科を学部に昇格
ハノイ大学(旧ハノイ外国語大学)で日本語学部独立
ハノイ工科大学HEDSPIHigher Education Development Support Project on ICT)において日本語のできる高度IT人材養成事業が開始
ホーチミン市工科大学が長岡技術科学大学と協力して実施するツイニングプログラムを開始し同プログラムおける日本語教育が開始
フエ大学フエ外国語大学日本語・日本文化学部設立
2007年 ハノイ大学(旧ハノイ外国語大学)で日本語学部が独立
フエ師範短期大学外国語学部日本語学科設立
ダラット大学国際学部日本語学科設立
ハノイ法科大学が名古屋大学と共同で開設した日本法教育研究センターにおいて日本法研究のための日本語教育を開始
「中等プロジェクト」により課外授業として日本語を学習した生徒の進学に伴い、ハノイのモデル校のチュー・ヴァン・アン高校で日本語教育開始
ハノイ日本語教師会発足
2008年 JFベトナム日本文化交流センターがハノイに開設
ホーチミン市師範大学日本語学部設置
2009年 「中等プロジェクト」の第一外国語科目として日本語を学習した生徒の進学に伴い、ハノイ市・ダナン市・フエ市・ホーチミン市のモデル高校で日本語教育開始
ハノイ国家大学外国語大学、ベトナム初の日本語専攻修士課程を開設
ダナン市で「日本語能力試験」開始
2010年 ハノイ大学、日本語専攻修士課程を開設
2011年 「中等プロジェクト」として、ビンズオン省にて日本語教育開始
ハノイ貿易大学、国際シンポジウム「ベトナム日本語使用人材の実態・日本語教育促進」を開催
ハノイ大学が日本語教育シンポジウム「ベトナム学習者のための日本語教科書をめぐって」を開催
2012年 ホーチミン市法科大学が名古屋大学と共同で開設した日本法教育研究センターにおいて日本法研究のための日本語教育を開始
「中等プロジェクト」ビンディン省・バリア・ブンタウ省の高校で日本語教育開始
日越EPAに基づき看護・看護分野における日本語教育開始
「中等プロジェクト」の第一外国語科目として日本語を学習した生徒が大学に進学
2013年 タイビン医科薬科大学で看護師養成事業が開始され、そのための日本語教育が開始
バリア・ブンタウ師範短期大学外国語学部日本語学科設立
ハノイ国家大学外国語大学が国際シンポジウム「国際人材育成戦略における日本語・日本語教育及び日本学の研究」を開催
ハノイ大学が国際シンポジウム「ベトナムにおける日本語教育・日本研究―過去・現在・未来―」を開催
2014年 ベトナム政府がベトナム国家大学ハノイ校の7番目の大学として日越大学を設立することを決定
2015年 ホーチミン市師範大学が日本語教育国際シンポジウム「東アジアの日本語教育の役割~グローバル人材育成とつながるネットワーク」を開催
2016年 日越大学大学院修士課程が開講、共通科目として日本語教育が開始
ハノイ日本語教育研究会設立
「中等プロジェクト」の第一外国語科目として日本語を学習した第1期生の生徒が大学を卒業
「国家外国語プロジェクト」の第一外国語科目としてハノイ市4校、ホーチミン市1校の計5つの小学校で日本語教育試行開始
ハロン大学外国語学部内に日本語学科開設
ベトナム日本語・日本語教育学会(ベトナム言語学会傘下)認可
2017年 ハイフォン公立大学英語日本語専攻設置
ハノイ貿易大学が国際シンポジウム「ビジネス日本語教育及びグローバル人材育成」を開催
ベトナム日本語・日本語教育学会(ベトナム言語学会傘下)設立発表式典開催
フエ市で「日本語能力試験」開始
2018年 ベトナム教育訓練省より「中等教育における日本語教育 - 中学校、高等学校の第二外国語の日本語カリキュラム」発表
ハノイ大学が国際シンポジウム「グローバル化時代の日本語教育と日本研究」を開催
ベトナム日本語・日本語教育学会第1回ワークショップを開催(ホーチミン市)
クイニョン大学付属日本語・日本文化センター設置
2019年 「国家外国語プロジェクト」のもと試行導入されていた第一外国語としての初等日本語教育が正式に承認され普及段階に移行。同時に同プロジェクトのもと小学校で日本語を学習した生徒が中学に進学
ベトナム日本語・日本語教育学会第2回ワークショップを開催(フエ市)
ハノイ貿易大学が国際シンポジウム「アクティブ ラーニング(ビジネス日本語教育を中心に)」を開催
ホーチミン市師範大学が東南アジア日本語教師を対象に国際シンポジウム「グローバル時代における東南アジアの日本語教育—教育研究と教師能力開発—」を開催
2020年 日越大学日本学学部が新規設置、学部課程開講
2021年 ベトナム教育訓練省より「初中等教育における教育課程 第一外国語の日本語カリキュラム 」発表
ハノイ国家大学外国語大学日本言語文化学部・ハノイ大学日本語学部・ハノイ貿易大学日本語学部が合同で国際交流基金賞
2022年 ハノイ市の小学校3校で、第一外国語としての日本語学習が正規科目として承認
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