世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)ホーチミンからこんにちは!

国際交流基金ベトナム日本文化交流センター(ホーチミン)
新井潤・五十嵐裕佳

2018年度海外日本語教育機関調査」によると、ベトナムの学習者数は約17万人と前回2015年度調査時の約6万人から約2.7倍となり、大きく増加しました。そして、その3割を占めるのがホーチミンをはじめとする南部地域の学習者です。その南部地域の日本語教育を支援するためにベトナム日本文化交流センターのホーチミン執務室には2名の日本語専門家(以下、専門家)が派遣され、現地講師と協力して業務にあたっています。

オンライン授業に挑戦!

ホーチミンJF講座でもオンラインクラスを開講しました。今回実施したクラスは、『まるごと』初中級(A2-B1)クラスです。受講生の様子をよく知る現地講師といろいろ相談した結果、多人数ではなく1対1で実施することにしました。受講生が待つ時間をなくして、話す時間を増やすためです。

一対一のオンライン授業の様子の写真
オンライン授業の様子

特徴は月曜日から日曜日までの朝9時から夜19時までの間、各受講生が好きな時間を選べることにしたことです(待機する講師はちょっと大変でしたが…)。予習してくることを前提にしたので、予習が終わった段階で日時を選ぶ受講生もいれば、仕事が休みである土日に集中して学習を進めたいという受講生もいました。特に集中した時間帯は土日の午前と平日の夜でした。

このクラスの様子はこちらでも報告していますので、ぜひ御覧ください。

修了後のアンケートでは、「先生と1対1だったので大変だったけど、たくさん話せたので、うまくなったと思う」とか、「教室まで移動しなくてよかったので、予習する時間をたくさん作れた」などの意見が寄せられました。

しかし、みんな一様に「やっぱりクラスメートと一緒に教室でわいわい話せるクラスが一番良い!」と。その後、再びクラスにみんなが集まれるようになったときは、とても嬉しそうでした。

教室で対面で授業を行っている様子の写真
再開(再会)後のクラスで

中等教育支援の基礎を支える「学校訪問」

私の業務はベトナムの中学・高校、つまり中等教育段階の日本語教育支援で、特に南部地域を担当しています。今回は支援の基礎を支える業務「学校訪問」について紹介します。実は、中等教育支援を担当するのは前派遣国であるインドネシアに続いて2度目なのですが、学校訪問に対する考え方が少々変化しました(前回はこちら)。

研修につながる情報収集

ベトナムは新型コロナウイルスの市中感染が抑えられていることもあり、2020年度(ベトナムのスクールカレンダーでは2020年9月から2021年5月まで)も基本的に対面授業が行われています。そこで、状況を見ながら学校訪問を実施し、授業見学をしています。ベトナムの中等日本語教育は地域ごとに多種多様であるため、研修や勉強会を実施するにも情報収集が必須です。第一外国語か第二外国語かといった位置づけの違い、中学校か高校かといった学習開始段階の違い、地域によるカリキュラムの違い、そして、教材や教室環境の違いもあります。

見学に訪れたある高校では、中学校で4年間日本語を学んだ生徒を対象に第一外国語の授業が開講されていました。そこでは、国定教科書である『にほんご』だけではなく、副教材として『まるごと 日本のことばと文化』(以下、『まるごと』)を使用して授業を実施していました。一方、別の地域では、高校入学後に第二外国語として日本語学習を始めるため、1年目は文字指導と挨拶が中心の授業が行われています。

教室でプロジェクターに教材を投影させて授業を行っている様子の写真
副教材は『まるごと』

教室でTVモニターに教材を投影させて授業を行っている様子の写真
長音を扱った授業

もちろんヒアリング等による教師からの情報収集も可能ではありますが、授業見学で得られる情報量には敵いません。特に、教室にて生徒の様子を間近で観察できることに意義を感じています。このように得た情報をもとに、その地域の教師が共通して抱える課題の解決につながるように、研修や勉強会を計画、実施することが業務の大きな流れとなっています。

成長につなげるふりかえり

授業見学後には30分から1時間ほどかけて授業を担当した先生と授業のふりかえりを実施しています。このふりかえりについて、以前は授業改善のためという意識が強かったのですが、今は教師の内面にアプローチすることにより自ら学べる教師となってもらうためと考えるようになりました。

ふりかえりの際には、まず「今日の授業の学習目標と生徒の達成度」や「授業の良かった点と改善点」を先生に尋ねて自由に話をしてもらっています。これは、ふりかえりの習慣を身につけることで、自律的に授業改善を進めることのできる自ら成長する教師になってもらいたいという意図からです。

また、授業見学の際にはその先生の教師としての強みやよいところをなるべく多く見つけ、それをふりかえりの際に丁寧に伝えるように心がけています。そもそも、ネイティブである専門家の前で日本語を使って授業をすること自体がプレッシャーだと思うのですが、どの先生も「よりよい教師になりたい」という思いから、積極的に見学を受け入れてくれます。

ですので、その先生の態度や心がけといった強み、そして、授業に見られる工夫などについて、こちらが言語化して伝えることで先生本人の自信を強化し、教師としての成長意欲につながるようにしています。成長意欲が増せば研修参加にもつながりますし、仲間と協力して学べる研修の場はさらなる意欲につながるのではないでしょうか。そこで、研修デザインの際には、教師間のネットワークの構築と強化が進むような活動を意識して取り入れています。

最後になりますが、専門家である私も教師間ネットワークの一員として、これからも担当地域の先生たちと一緒に「よい教師とはどんな教師か」について考え、お互いに切磋琢磨できる関係性を構築していきたいです。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation Center for Cultural Exchange in Vietnam
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
国際機関と連携し、ベトナムの日本語教育発展に携わる。初等・中等教育ではカリキュラム・教科書作成、教師研修や巡回指導等を行い、日本語パートナーズ事業日本語教師育成特別強化事業も展開。一般向けには教材『まるごと 日本のことばと文化』(以下、『まるごと』)使用講座を開講し、同教材の現地出版、普及を推進。また日本での就労希望者等を主な対象に、新教材『いろどり 生活の日本語』を用いた日本語教育基盤整備、教師に対する研修、助成等支援を実施。
ホーチミン派遣専門家は、ベトナム南部の初中等教育機関への巡回指導・各種研修、日本語講座、『まるごと』普及活動を中心としつつ、地域を超えた研修や全国規模の事業等も企画、実施。南部での日本関連イベント協力等も行う。
所在地 15, D5 Rd., Van Thanh Bac, Ward 25, Binh Thanh Dist., Ho Chi Minh City, Vietnam
(c/o Vietnam-Japan Human Resources Cooperation Center in Ho Chi Minh City)
国際交流基金からの派遣者数 専門家:2名
国際交流基金からの派遣開始年 2008年

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