世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)コロナ禍でも「人・ことば・文化」をつなぐ

ベトナム日本文化交流センター
片桐準二、伊藤亜紀、遠藤かおり、武田素子、足立健治

2020年は新型コロナウイルスが世界中で蔓延した年でした。ベトナムは政府の的確かつ迅速な対応で、世界でも抑え込みに成功している国の一つに挙げられています。それでも市中感染の波が何度か起こったことで、対面で行う説明会や研修会を中止したり、出張を中止、延期したり、対面開催の場合も人数制限をし、検温、マスク着用の感染対策を取りながら実施したりしました。そんな状況の中でベトナム日本文化交流センター(以下、JFVN)が実施した事業の中から今回は3つの事業を紹介します。

中等教育におけるオンライン研修

通常対面で行う研修をオンライン研修として再構成し、2020年10月~12月に全国の教師を対象に実施しました。10月の1回目はベトナムの外国語能力フレームワーク(注)に基づいた中等教育の目標を扱った「外国語教育の目標」、11月の2回目は教科書の構成と流れ、各練習の目的と特徴を扱った「教科書の狙い」、12月の3回目は教科書の各練習を使っての授業の組み立て方を扱った「授業の流れ」。研修方法は、説明ビデオ(30~40分程度)を視聴(事前課題A)、ビデオ内容に関する質問に答えて提出(事前課題B)、そして、90分の同期セッションで参加者同士のディスカッションと講師からの解説という流れでした。オンライン研修は通常の対面研修に比べてビデオ作成等の課題の準備に多くの時間がかかりましたが、参加者からは「研修内容は幅広く具体的なものもあり、理論的な内容から実践まで学ぶことができた」「現在の自分の授業スタイルを検討、比較、確認し、次の授業のために他の教師の経験から学ぶことができた」「他の参加者から良いアドバイスやアイデアをもらい、一緒に冗談も交わすことができた」といった声があり、オンラインで研修内容を伝えることができただけでなく、参加者同士の学び合いの場も提供できたことが分かりました。

新規日本語教師育成講座の実習コース

2018年度よりスタートした日本語教師育成強化特別事業の中でこれから日本語教師を目指す人や経験の浅い現役教師を対象とした「新規日本語教師育成講座」の第4回が2020年8月~2021年1月に実施されました。基礎知識を学ぶ教授法コース120時間、実際に生徒に教える実習コース80時間の合計200時間を毎週土日に実施するコースです。ここでは後半の実習コースについて少しご紹介します。

受講生19名は2チームに分かれて、各チームが1クラスを担当しました。各クラスには別途生徒役として募集したN4、N5レベルの学習者がそれぞれ11名ずつ参加してくれました。午前中がこの生徒役への授業で、午後は受講生全員での振り返りの時間です。新型コロナウイルスの感染対策をしながらJFVNの教室で行いました。各チームは、毎回2、3人が授業を担当するようにスケジュールが組まれました。使った教科書は国際交流基金編著『いろどり 生活の日本語』(以下、『いろどり』)の初級1です。受講生全員がこれを使って教えるのは初めてでした。目標Can-doを確認し、音声教材を使って授業を展開させるので、特に現役教師は日頃の教え方と全く異なることから初めは大変苦労していました。午後の振り返りは全て日本語で行われるのですが、授業担当者の振り返りの発表、見学していた同じチームの受講生からのコメント、最後に講座を共催で実施しているハノイ国家大学外国語大学とハノイ大学の講師、JFVNの専門家からのコメントという流れでした。特に受講生同士でのコメントは詳細であり、また相互の議論も大変活発に行われ、皆さんがこの時間を大変楽しんでいるようでした。

受講生19名は誰一人欠けることなく全員が修了し、最後のアンケートのコメントには「コースは楽しく有益であり、熱心な先生方だけではなく、他の受講生からも多くのことを学べた」「知識及びスキルを多く学べたし、友達もできた」「色々勉強になった!しかし、土日全部なくなりましたのでストレスがあった(笑)」と、土日を全て捧げるという苦労をしながらも学び、良き仲間ができるという喜びを感じられたようでした。

実習コースの受講生による授業の様子の写真
実習コースの受講生による授業の様子

“『まるごと』先生Ơi!” スタート!

ハノイのJF講座では、「人・ことば・文化」をつなぐ業務を、まさに教科書の名の通り、“まるごと”担当しています。日本語のモデル授業、『まるごと 日本のことばと文化』(以下、『まるごと』)シリーズのベトナム版の翻訳と出版、JF日本語教育スタンダードや『まるごと』を知るための説明会の実施、そして日本文化体験講座の実施と様々な業務を行いながら、現場の先生方や学習者の皆さんの生の声を聞くよう心掛けています。

「『まるごと』についてもっと学びたい!」「もっと効果的に教えられるようになりたい!」という先生方からの声をもとに、2020年9月に新たに『まるごと』先生Ơi!(オンラインパイロットコース)初中級編(以下、『まるごと』先生Ơi!)を立ち上げました。1か月半続いた1回目を改良し、2021年2月~5月に、2回目を実施しています。

このコースは、『まるごと』初中級(A2/B1)を使って日本語を学習することに加え、講義や仲間とのディスカッションを通して、教えるために必要な知識やテクニックを学びます。日本語力を伸ばしながら、JF日本語教育スタンダードに則った方法で効果的に『まるごと』を教えることを学ぶ実践的なコースで、コースの最後には受講生自身が教師となるオンライン模擬授業もあります。

ベトナム全土にいる先生を対象にしたいということから、オンラインでの開講にしましたが、1回目、2回目とも定員の2倍の申し込みがあり、中にはベトナム国外から申し込んでくださる方もいて、多くの方に関心を寄せていただいていることがわかります。

受講生には、大学、日本語学校、送り出し機関で教えている方はもちろん、将来日本語の先生になりたいという日本語専攻の学生もいます。また、ベトナムにいながら、日本に滞在しているベトナム人にオンラインで日本語を教えている先生や日本で働いているけれど、ベトナムに戻ったら日本語教師として復帰したいという教師経験者もいます。彼らのバックグラウンドは様々ですが、「よりよい日本語教師になって、よりよい授業をしたい!」という熱い気持ちは変わりません。

“『まるごと』先生Ơi!”の「Ơi!(お~い)」はベトナム語では呼びかけに使われ、相手の注意を引くときに使われます。私達は現場の先生方に積極的に声をかけ、前向きに取り組む先生方に寄り添った活動を常にしていきたいと考えています。

オンライン授業を行っている先生の写真
『まるごと』先生Ơi!授業中

注:ベトナム語はKhung Năng Lực Ngoại Ngữ(KNLNN)The Common European Framework of Reference for Languages(CEFR)/JF日本語教育スタンダードのA1~C2に近い区分で、入門から順にレベル1~6の6段階で各レベルの目標が記述されている。今回の研修の中等教育ではレベル1~2が目標。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation Center for Cultural Exchange in Vietnam
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
関係機関と連携し、ベトナムの日本語教育発展に携わる。初等・中等教育ではカリキュラム・教科書作成、教師研修や巡回指導等を行い、日本語パートナーズ事業日本語教師育成特別強化事業も展開。一般向けには教材『まるごと』使用講座を開講し、同教材の現地出版、普及を推進。また日本での就労希望者等を主な対象に、新教材『いろどり』を用いた日本語教育基盤整備、教師に対する研修、助成等支援を実施。
ハノイではベトナム北部を中心とした巡回指導や勉強会を実施するほか、初中等教育のカリキュラム・教科書作成、日本語講座、全国規模の研修や説明会、助成等を通じ、ベトナム全土および北部の日本語教育の質の向上に取り組む。
所在地 27 Quang Trung, Hoan Kiem, Hanoi, Vietnam
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名、専門家:6名、生活日本語コーディネーター1名
国際交流基金からの派遣開始年 2008年

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