世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)教師会と2020年春の印象

カレル大学
川島眞紀子

前回2019年度の記事では、主に私の派遣先であるカレル大学の日本語教育支援についてご紹介しました。今回はチェコ国内の日本語教育事情と日本語教師会についてご紹介します。さらに、2020年春に起きた在宅勤務について、少し書き残しておこうと思います。

教師会について

チェコ国内の教育機関で学ぶ日本語学習者数は1,246名(「2018年度海外日本語教育機関調査 」)、また、実施から10回目を迎えた日本語能力試験の受験者数も295名となり、2020年には300名を超える見込みです。
学習者数の内訳は、主に大学など高等教育機関で学ぶ学生数となっていますが、実際には民間の語学学校や日本語教室などで学習する人や、オンラインで学ぶ学習者も多く存在しています。そして、その年齢層も年少者から高齢の方まで幅広くなっています。こうした多様な学習者を支える背景には、日本語教育に携わる多くの先生の努力があり、それによってチェコ国内の学習者数は順調に増加してきたと言えます。

例えば、チェコでも毎年日本語弁論大会が開催されていて、2019年4月には、なんと、第43回を数えました。中東欧地域で最も歴史のある大会のひとつです。この弁論大会と毎年12月にブルノ市で行われる日本語能力試験は、チェコ日本語教師会の運営によって実施されています。初めてこの二つの行事をお手伝いしたとき、その進行には無駄がなくみごとに組織化されており、また学習者に対する細やかな配慮がすみずみまで行き届いていることに感動しました。けれども、準備万端に見えるこうしたオーガナイズの良さも、翻ってみれば、決して一朝一夕にできたわけではないのです。「毎年試行錯誤の繰り返しで、未だに完結したわけではない」と聞きました。

日本語教師会出版 『よんで』(初級読解教材)の写真
日本語教師会出版 『よんで』(初級読解教材)

チェコ日本語教師会は2007年に設立されて以来、これまでさまざまな学習教材を刊行してきました。2007年には「ひらがな教材」、2010年には「カタカナ教材」、2014年には「漢字教材」を出版し、2020年には満を持して初級読解教材『よんで』が出版されました。日本とチェコの文化や背景の違いをおもしろさとしてかわいらしいイラストとともに紹介し、楽しく勉強できるように工夫されています。実は、これまで出版されたこれらの〈教材〉は、日本語や日本の文化に初めて触れる日本語学習者以外の人々にも受け入れられてきたのです。今回出版された「初級読解教材」もこのシリーズの流れに位置しています。この教材を見ると、教師会の先生方が、チェコ人の特性やチェコの文化に細かく配慮して制作されたことが容易に想像できます。先生方が学習者に注がれている惜しみない愛情と、たゆまぬ努力の原動力になっているものは何だろうか、それは学習者の日本語能力の向上が、先生方にとっての代えがたい喜びになっているからなのだろうと考えさせられるのです。

何を越えていくのか

オンライン授業の風景の写真
オンライン授業の風景

ところで、チェコでは2020年3月12日に新型コロナウイルス(Covid-19)感染拡大による非常事態宣言が発令されました。直後に各商業施設は閉鎖、教育機関も閉鎖され、教室での授業ができなくなりました。大学の学事暦では2019年度の後期前半部でしたから、即オンラインによる授業提供の検討に入りました。カレル大の日本語教育科目は、翌週にはオンライン授業への切替えが完了していましたが、結局、年度末までの約3か月オンライン授業を継続したことになります。幸いにもほぼ当初のカリキュラム通りに終えることができましたが、授業の合間には日本や欧州内で急遽実施されることになったオンライン研修をあれこれ受講してみました。その後、研修で学んだことを自分の授業で試してみました。研修では役に立ったことも多かった一方、慣れない操作にドタバタして学生を待たせてしまったりするなど、技術面を含め、自分自身もさまざまなことを学びました。

現在の時点でわかっていることは、オンライン授業が教室授業に完全に取って代わるものではない、と考えたほうがうまく行くということです。大学が閉鎖された当初、私を含む大学の先生方は教室で行っている授業をオンラインでもできないだろうかと考えていました。しかし、三次元の世界が二次元になるのですから、本来、別のものなのです。それに合点がいくと、教材の準備や授業の進め方は、自ずと変化していきました。これまではデジタルスキルの利用方法を漠然と捉えていて、具体的な種類などもよくわからなかったのですが、今回の在宅勤務で思いがけずオンラインによる授業に直面することになり、むしろ今後の授業に可能性を感じています。現在は2020年10月に開講する来年度に向けて、同僚とともに意欲的にデジタル教材の開発に取り組み始めたところです。完成すれば、大学独自の教材となる予定です。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
Charles University
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
チェコにおいて日本語・日本研究専攻の学科を持つ3大学のうちの一つであり、同国の日本研究・日本語教育の中心的な役割を担っている。研究者養成を目標とし、日本語学・社会・経済・歴史・文学・思想史等についての授業が行われており、学生は卒業論文のテーマもこれらから選択する。日本語専門家は、日本語教授、カリキュラム・教材作成への助言を行うほか、日本語教師会を始め、他の教育機関の日本語教育支援や日本語弁論大会等日本語教育関連行事への協力、また日本語教育関係者のネットワーク作りを業務とする。
所在地 Nám. Jana Palacha 2, 116 38 Praha 1, Czech Republic
国際交流基金からの派遣者数 専門家:1名
日本語講座の所属学部、
学科名称
カレル大学哲学部東アジア研究学科日本学専攻(通称 日本研究学科)
日本語講座の概要
What We Do事業内容を知る