日本語教育通信 授業のヒント “ドキドキ”体験・交流活動を通じて日本語を学ぶ

授業のヒント
このコーナーでは、海外の日本語教育の現場で、すぐに応用できる具体的な教え方のアイデア、ヒントを紹介します。

“ドキドキ”体験・交流活動を通じて日本語を学ぶ

概要
目的
  • 日本語でのコミュニケーションの楽しさを実感し、「日本語でできた」という自信をつける
学習者のタイプ
  • 初級後半~
クラスの人数
  • 40人

体験・交流活動を通じて日本語を総合的に学ぶ

 関西国際センター発行の『日本語ドキドキ体験交流活動集』(以下、『ドキドキ』)は、日本人との交流や体験を通して総合的な日本語学習ができるようデザインされていることが特徴です。海外では日本語を使う機会がないという声を聞きますが、「日本語でできた!」という実感は学習のモチベーションを高める上で大切なもの。日本であれ海外であれ、アイデア次第で日本人と交流したり体験したりすることは可能です。海外でのそのような実践例の1つが、日本人に出身地について聞く「ふるさとインタビュー」活動です。観光地で日本人に声をかける、日本と関係がある機関を訪問する、日本人にゲストとして教室に来てもらうなどのバリエーションがあります(西野 2012)が、今回はどの現場でも実践しやすい、日本人ゲストを教室に招くタイプをご紹介します。

準備→活動→まとめの3つのステップ

 この活動には3つのステップがあります。

まとめの3つのステップの表画像

インタビューシートの写真

【教室で準備する】

1.タスクの説明(15分)

 まず、タスクシートを配り、目的と流れを説明します。タスクは、①名前(またはニックネーム)、②ふるさと、③ふるさとの有名なところ(観光地)、④ふるさとの名物料理、⑤ふるさとのことば(方言)と意味、⑥ふるさとのいいところについて日本人から情報を得ることです。日本人と一緒に写真を撮るなどのタスクを加えることもできます。

2.「日本の地理」ガイド(30分)

 インタビューの前に、日本の地理や気候について基本的なことを学びます。例えば、都道府県の数や名前、山や海、川などバラエティ豊かな地形、日本の季節の特徴などについて写真を交えて紹介します(『ドキドキ』Nipponガイド「日本の地理」も利用できます)。このガイドを通じて、学習者は“インタビューする人のふるさとはどんなところだろう”というワクワクした気持ちになります。

3.語彙・場面会話の練習(45分)

 インタビューに必要な語彙や会話を練習します(『ドキドキ』内、「インタビューの練習をする」(p54-55)も利用できます)。練習ができたら、日本人の話が聞き取りにくい時はどう言うかなど確認しておくと学習者の不安も和らぎます。

インタビューの練習をするの写真1インタビューの練習をするの写真2

【体験・交流活動】(30分~1時間)

 準備ができればいよいよインタビュー活動です。日本人1人につき学習者5~6人のグループにするとバランスがいいです。活動の間、教師は少し離れて見守ります。学習者が自分たちの力でタスクが達成できたという実感を得ることが大切だからです。

【教室でまとめる】

1.別グループの人に口頭で報告(20分)

 インタビューが終わったら、別グループの人とペアになって結果を報告します(『ドキドキ』内「インタビューの結果を発表する」(p58)とWorksheet(p60)も利用できます)。

2.発表準備(50分)とグループ発表(50分)

 グループごとに結果を発表する準備をします。発表の内容を決めて、原稿を書いたり、インターネットの画像や写真を取り込んだスライドを補助資料として作成したりします。スライドは、教師がひな形を作っておき、そこに文字や写真を入れ込むだけにすると、短時間で完成できます。準備ができたらクラス内で発表です。視覚資料があるので聞いている側の興味が増し、質疑応答も活発になります。

3.体験報告の作文(宿題)

 最後に個人で体験報告の作文を書きます。これは、その一例です。

 私たちは○○さんにインタビューしました。○○さんのふるさとはあきたけんです。あきたけんで有名な所について聞きました。一番有名な所はたざわこ(みずうみ)です。また、あきたけんの名物料理は「きりたんぽなべ」と言う料理です。きりたんぽは、米から作られます。作り方はきりたんぽと野菜や肉をなべに入れて、おしょうゆあじにします。それから方言について聞きました。あきたけんに「んだ」と言う方言があります。これは「はい」と言う意味です。最後に、あきたけんのいいところを聞きました。緑が多いし、水もきれいだし、めずらしい植物や動物がたくさんいることです。インタビューはとてもいいけいけんでした。○○さんはゆっくりせつめいしてくれました。

 添削を通じて、教師は一人ひとりの日本語のレベルに合わせた適切な日本語を指導します。

体験・交流活動を取り入れるメリット

 この活動はどのレベルの人も「楽しい」のが特徴です。インタビューは主に事実について聞くものなので初級でも取り入れやすく、上級の場合は、教科書にない生の情報を詳しく得られることが多いです。学習している日本語を使い、交流相手を通じて日本について新しいことを知った喜びは、日本語でのコミュニケーションがもたらす楽しさの1つです。また、この活動は1人でもグループでもできますが、グループの場合は会話を始める度胸がある人、コンピューター操作が得意な人など、いろんな人が自分の強みを生かして活躍し、タスクを遂行できます。これは活動型のいいところです。

あるものを活用してやってみよう

 教師にとって、忙しい毎日の中でゼロから活動をデザインし、教材を作るのは大変です。関西国際センターが運営しているウェブサイト「KCクリップ」(https://kansai.jpf.go.jp/clip/)では、今回ご紹介したような『ドキドキ』のバリエーション教材(https://kansai.jpf.go.jp/clip/activity/fieldtrip.html)や発表スライド用のひな形(https://kansai.jpf.go.jp/clip/activity/fieldtrip.html)、実践報告(https://kansai.jpf.go.jp/clip/activity/related.html)などが多数紹介されていて、誰でもダウンロードして使うことができます。すでにあるものを活用して楽しい時間をデザインしてみませんか。

参考資料

  • 国際交流基金関西国際センター(2008)『日本語ドキドキ体験交流活動集』(凡人社)
  • 西野藍・川嶋恵子(2010)「国際交流基金レポート12 体験交流活動を通じた学習のデザイン」『日本語学』Vol.29、No.13、pp98~107、明治書院
  • 西野藍(2012)「タイにおける「体験交流活動型日本語学習」の実践と教師支援」『国際交流基金バンコク日本文化センター紀要』第9号、pp99~108

(西野 藍/関西国際センター日本語教育専門員)

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