日本語教育通信 日本語教育ニュース 国際交流基金関西国際センター25周年記念シンポジウム「外国人材の受け入れ・共生のための日本語教育支援―海外での支援から国内へ―」を開催しました。

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このコーナーでは、国際交流基金の行う日本語教育事業の中から、海外の日本語教育関係者から関心の高いことがらについて最新情報を紹介します。

2023年7月
国際交流基金関西国際センター

国際交流基金関西国際センター (以下、KC)は、2022年に25周年を迎えました。

関西国際センターの建物を写した画像
関西国際センター

KCでは、国際交流基金(以下、JF)の附属機関として、海外の外交官・公務員、研究者の方などを対象にそれぞれの仕事や研究に役立つ専門日本語の研修や、海外の日本語学習者を対象に体験交流型の研修を実施しています。また、ICTの発展による学習環境の変化、日本語学習者のニーズの多様化に応えるため、日本語オンラインコース、日本語学習サイトやアプリなどのeラーニング教材の開発を行っています。2019年度からは、JFの取り組みの一環として、「特定技能」外国人材向けの日本語教育支援の一翼を担っています。

関西国際センターが開発したeラーニング教材のイメージ画像

シンポジウム概要

KC開設25周年を記念して、2023年3月11日(土曜日)にシンポジウム「外国人材の受け入れ・共生のための日本語教育支援―海外での支援から国内へ―」をオンラインで開催しました。JFが2019年度から取り組んでいる海外における「特定技能」外国人材向けの日本語事業を紹介するとともに、これまでの成果や教材などのリソースを国内の外国人材受け入れ・共生のための日本語教育支援にどのように活用できるかについて参加者の皆さんと考える機会としました。

シンポジウムは、セッション1:国際交流基金外国人材向け日本語教育支援紹介、セッション2:ワークショップ「『いろどり』「いろどり日本語オンラインコース」の活用を考える」、セッション3:リソースデモンストレーション、セッション4:パネルディスカッション「海外の外国人材向け日本語教育支援から、国内の日本語教育への活用について考える」の流れで、4つの全てのセッションに参加することで、より理解が深まるような構成としました。

セッションの流れ(1 支援全体を知る、2 リソースの活用を考える、3 リソースの使い方を知る、4 国内支援への活用を考える)の画像
シンポジウム全体構成

当日は、国内の国際交流協会・地域日本語教室、日本語学校、大学、及び海外の日本語教育関係者など、各セッションに約200名がご参加くださいました。
(当日の動画、投影した資料、成果物は、こちら より閲覧、ダウンロードできます。)

各セッションについて

セッション1では、JF外国人材向けの日本語教育支援の全体概要 、その具体的な取り組みとして、「国際交流基金日本語基礎テスト(JFT-Basic 」、『いろどり 生活の日本語』、「いろどり日本語オンラインコース」、「現地日本語教師を対象とした研修 」、「海外での日本語教育活動支援」について各担当者・開発者が紹介しました。

セッション2では、『いろどり』「いろどり日本語オンラインコース」の活用を考えることをテーマにワークショップを行いました。参加者はグループに分かれ、特に国内の日本語教育の現場でこれらのリソースをどのように活用できるかについて話し合い、その内容をオンライン掲示板のPadletで全体に共有しました。

参加者グループごとのコメントが書き込まれた画面の画像
セッション2 ワークショップの成果物(画像をクリックすると書き込みが確認できます)

各グループからは「夏期の短期コースのテキストとして『いろどり』を使う」「教室外での発話量を増やすために「いろどり日本語オンラインコース」の会話練習を使う」などさまざまなアイデアが出ました。それに対し開発担当者から、開発のねらいや留意点、発展的な利用の方法についてコメントしました。

セッション3では、国内や地域の日本語教育において活用できる学習リソースのデモンストレーションを行いました。以下の表のように6つのルームを設定し、参加者がその中から興味や関心に合わせて3つのルームを選択し、参加できるようにしました。

ルーム名 紹介したリソース
文字 かなや漢字をインタラクティブに学習できるオンラインコースアプリ
継続学習 『いろどり』の次に学ぶ「まるごと日本語オンラインコース(A2B1)
ストラテジー コミュニケーションに役立つストラテジーを学ぶ「ひきだすにほんご Activate Your Japanese!
看護介護 看護や介護の仕事をする人たちを支援するサイト「日本語でケアナビ
ポータル 多様なニーズに合わせてリソースを選べるポータルサイト「JFにほんごeラーニング みなと 」「日本語学習ポータルサイト NIHONGO eな
文化庁 文化庁の日本語学習サイト「つながるひろがる にほんごでのくらし

各ルームでは、開発・運用担当者がリソースを見せながらデモンストレーションを行い、また他のリソースとの違いや制作の意図を説明したり、より具体的な使い方についての質問に答えたりするなど、参加者と直接意見交換をしました。

セッション4では、セッション1から3の海外における日本語教育支援や教材、リソースの紹介を踏まえ、「海外の外国人材向け日本語教育支援から、国内の日本語教育への活用について考える」をテーマに、パネルディスカッションを行いました。

まず、各外部パネリストの専門分野の観点から、文化庁国語課の圓入由美氏、北村祐人氏には国内の外国人受入れ関連の日本語教育施策、学習院大学の金田智子氏には地域の日本語教育支援、昭和女子大学の近藤彩氏には就労者の日本語教育支援について、現状や取り組み、課題をお話しいただきました。ディスカッションでは、「さまざまなリソースが出てきているが、多様な対象者に合わせて教師がどう活用するか」というポイントから、「リソース」「教師(支援者)」に関連した議論が行われ、その両軸の重要性を再確認することができました。海外と国内の日本語教育が円滑につながるよう、連携して取り組みを進める上で、多くの示唆が得られました。

パネリスト4名とパネラー2名の画像
セッション4 パネルディスカッションの様子

参加者の声

シンポジウム後のアンケートでは、シンポジウム全体について「多文化共生を意識して今後日本語学習を支援する際に役立つ内容が網羅されていたと感じる。」というコメントがあったほか、各セッションについては次のようなコメントが寄せられました。

  • JFの取り組みについて体系的に把握できた。外国と国内での日本語支援をつなげて考えることの重要性を確認できた。(セッション1)
  • ワークショップでは、ほかの参加者の方々との対話ができ刺激になった。Padletでさまざまな知見が共有され有意義だった。(セッション2)
  • リソースは知っていても、試せる機会がなかったので、デモンストレーションで敷居が下がった。(セッション3)
  • 地域日本語教育に関わる立場として各専門家の意見は大変参考になった。教材の理念なども含めたポイントを意識してから使いたいと考えさせられた。(セッション4)

今後の展開

KC25周年を記念するシンポジウムを開催し、JFが近年新たに取り組んできた外国人材向け日本語事業の取り組みや教材・リソースを紹介するとともに、国内外からの参加者や外部パネリストと海外の支援から国内への活用について考える貴重な機会となりました。

KCでは新たな展開として、日本語研修、eラーニング開発や運用のノウハウを生かし、国内の自治体や国際交流協会、ボランティア教室の要望に応じて、やさしい日本語、地域リソースを活用した活動、オンライン授業、『いろどり』や「いろどり日本語オンラインコース」、文化庁「つなひろ」などについての出講や協力、地域向けの研修企画にも取り組んでいます。今後も海外から来日する外国人が安心して生活や仕事ができる共生社会の実現に向けて、日本語教育の側面から支援していきたいと思います。

(戸田淑子・八嶋康裕・黒田亮子・熊野七絵/関西国際センター日本語教育専門員)

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