日本語教育ニュース JF日本語教育スタンダードサイトに「タスクと評価基準の例」ができました!

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このコーナーでは、国際交流基金の行う日本語教育事業の中から、海外の日本語教育関係者から関心の高いことがらについて最新情報を紹介します。

2025年6月
国際交流基金日本語国際センター

課題遂行能力の育成を重視した日本語教育が広まってきています。『まるごと 日本のことばと文化』や『いろどり 生活の日本語』など、Can-doで学習目標が設定された教科書を使ったことがあるという人も多いのではないでしょうか。一方で、学習者の課題遂行能力をどのように評価すればいいのかという声もよく聞かれます。そこで、そうした悩みへのヒントとなるよう、国際交流基金日本語国際センターでは、2024年12月に、「JF日本語教育スタンダードサイト」(以下、JFSサイト)で公開していた「レベル別サンプル」を「タスクと評価基準の例」としてリニューアルしました。

この「タスクと評価基準の例」は、JFSサイトのトップページの「活用方法」からアクセスできます(図1)。

JFSサイトのスクリーンショット。赤い枠線で「タスクと評価基準の例」のボタンを囲っている。(クリックすると拡大されます)
図1:JFSサイトの「タスクと評価基準の例」
(クリックすると拡大されます)

リニューアルのポイントは、次の2点です。

  1. (1)JFSの各レベルの特徴を具体的に示した音声や作文のサンプルに加え、各レベルの力を測るためのタスクと評価基準の例が見られるようになりました。パフォーマンス評価の参考にすることができます。
  2. (2)「話すこと(やりとり)」のA2、B1、B2の音声サンプルを計4本追加しました。特に、タスク達成の目安になる「〇」のサンプルが追加されたことで、各レベルの熟達度がより把握しやすくなりました。

今回は、課題遂行能力の評価を実施したり振り返ったりする上で、「タスクと評価基準の例」をどのように役立てることができるかを紹介します。

6つのレベルに基づく課題遂行能力の評価について

課題遂行能力とは、「レストランで注文する」「仕事でわからないことを質問する」「はじめて会った人と趣味について簡単に話す」など、現実の場面で必要となる課題(コミュニケーションの目的)が達成できる力のことです。授業実践では、具体的なCan-doで目標を立て、目標に沿った学習内容や評価方法を設計します。

CEFR注1やJF日本語教育スタンダード(以下、JFS)のA1、A2、B1、B2、C1、C2の6つのレベルは、課題遂行能力によってレベルが設定されています。図2では、「講演やプレゼンテーションをする」という言語活動の、A1~C2の熟達度がCan-do(日本語で何ができるかを書いた文)によって示されています。レベルが上がるにつれて、遂行できる課題の難易度が上がっていくことがわかります。

「講演やプレゼンテーションをする」という言語活動の熟練度であるA1、A2、B1、B2、C1、C2の6つのレベルを説明している図(クリックすると拡大されます)
図2:「講演やプレゼンテーションをする」のA1~C2の熟達度
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この6レベルに基づいて学習者の課題遂行能力を評価するためには、学習者に各レベルの課題を実際にやってもらい、どの程度できるかを評価します。このような評価の方法をパフォーマンス評価と言い、パフォーマンス評価で学習者に与える課題をパフォーマンスタスクと言います。パフォーマンス評価では、何がどの程度できるかを評価するため、学習者のパフォーマンスは評価基準(ルーブリック)に基づいて評価します注2。例えば、図3は、話すこと(やりとり)のA2レベルのパフォーマンスタスクと評価基準の例です。

「話すこと(やりとり)」のA2レベルのパフォーマンスタスクの画像と、日常生活に必要なやりとりができるかを評価する基準の表。(クリックすると拡大されます)
図3:話すこと(やりとり)のA2レベルのタスクと評価基準の例
(クリックすると拡大されます)

「タスクと評価基準の例」では、このようなA2、B1、B2、C1のパフォーマンスタスクと評価基準の例を提供しています。パフォーマンス評価を行うためには、どのようなタスクをすればよいのか、そして、そのパフォーマンスをどのような基準で評価すればよいのか、参考にすることができます。また、実際に評価基準に基づいて評価を行う際の目安として、「◎」「〇」「△」の評価のついたサンプル(音声や作文)も提供しています。

アクセスして内容を見てみよう

「タスクと評価基準の例」では、「話すこと(表現)」、「話すこと(やりとり)」、「書くこと」の3つの言語活動について、パフォーマンス評価の例を提供しています。「話すこと(表現)」は、一人である程度長く話す言語活動で、B1の例を提供しています。「話すこと(やりとり)」は、双方向の会話で、A1、B1、B2、C1の例を提供しています。また、「書くこと」では、A1、B1、B2の例を提供しています。

JFスタンダードサイトにある「タスクと評価基準の例」ページのスクリーンショット(クリックすると拡大されます)
図4:「タスクと評価基準の例」ページ
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図5は、「話すこと(やりとり)」のB1レベルの内容です。一番上に、B1レベルの力を測るためのタスクがあり、その下に評価基準があります。この評価基準では、タスクの達成度について「◎」「〇」「△」「×」の4つの段階を設けています。各段階には、それぞれの特徴が書かれており、学習者のパフォーマンスが、これら4つの段階のうち、どの特徴に当てはまるかによって評価をします。

「話すこと(やりとり)」のB1レベルのパフォーマンスタスクの画像と、日常生活に必要なやりとりができるかを評価する基準の表と、評価サンプルの一覧画像。(クリックすると拡大されます)
図5:「話すこと(やりとり)」B1レベルのタスクと評価基準の例
(クリックすると拡大されます)

評価基準について、「文字で書かれた特徴を読むだけでは、それぞれの段階の具体的なパフォーマンスがイメージできない」という声がよく聞かれます。例えば、図5にある「〇」の「説明したことが聞き手にほぼ伝わる」とは、どの程度伝われば「ほぼ伝わる」と評価できるのか、これを読むだけではわかりにくいかもしれません。そのようなときのために、「◎」「〇」「△」の評価のついた音声サンプルを提供しています。音声サンプルには、「なぜ〇と評価できるのか」「どんな部分が◎の特徴なのか」などを説明した「解説」がついています(図6)。音声サンプルを聞き、解説を確認することで、評価基準に書かれた特徴を具体的に理解することができます。

「話すこと(表現)」と「書くこと」にもタスクと評価基準の例が示されており、「◎」「〇」「△」の評価がついた音声や作文のサンプルがあります。「話すこと(やりとり)」の評価基準は、タスクをどの程度達成できたかという観点のみから評価していますが、「話すこと(表現)」と「書くこと」の評価基準は、タスクの達成度のほか、「話すこと(表現)」であれば「正確さ」や「流暢さ」などの観点、「書くこと」であれば「構成」や「言語能力」「読み手意識」などの観点からも評価します(図7、図8)。言語能力など、タスクの達成度以外の観点からも学習者のパフォーマンスを評価したいときの参考にできます。

評価について振り返ってみよう

冒頭でも触れた通り、学習者が実際の場面で日本語を使ってコミュニケーションができるように、Can-doで授業目標を立て、授業実践を行う教育現場が増えてきています。その一方で、Can-doを出発点にした教え方をしているものの、評価では文法や語彙などの言語知識を問う筆記テストを行っている、あるいは、評価についてはあまり考えてこなかった、という人もいるのではないでしょうか。評価について振り返り、よりよい評価方法を考えるために、次に紹介するような方法で、ぜひ「タスクと評価基準の例」をご活用ください。

(1)課題遂行能力の評価の参考にする

学習者の日本語の熟達度をA1~C2のレベルで測りたいときに、評価方法の参考にすることができます。「タスクと評価基準の例」にあるタスクと評価基準をそのまま利用することはもちろん、学習者に合わせてタスクをアレンジすることも可能です。例えば、図5で紹介したB1レベルのタスク(料理の説明)では、学習者が料理に関心がない場合は、自分の国のお土産や人気のあるスポーツなどについて説明するタスクにアレンジすることができます注3

(2)課題遂行能力の評価について、教師の理解を深める

課題遂行能力の評価は、文法や語彙、漢字などの言語知識を測るテストとは、まったく異なるものです。文型や語彙などの正確さを評価するのではなく、タスクが達成できたかどうかが重要です。言語知識の習得を重視して授業や評価を行ってきた教師の中には、こうした考え方に対して戸惑いがある人も少なくないでしょう。課題遂行能力の評価について理解を深めるために、「タスクと評価基準の例」にある音声や作文のサンプルが役に立ちます。タスクとルーブリック、そしてサンプルと照らし合わせることで、何ができればタスク達成と言えるのか、そして、A1~C2の6つのレベルがそれぞれどのようなレベルなのかを理解しやすくなります。研修や勉強会などで、ほかの教師と音声や作文のサンプルを見ながら、6つのレベルのそれぞれの特徴を確認したり、課題遂行能力の評価方法について理解を深めたりすることもおすすめです。

終わりに

JFSでは、「タスクと評価基準の例」のほかにも、課題遂行能力の評価に役立つリソースを提供しています。「JFS準拠ロールプレイテスト」は、A1からC1までの口頭でのやりとりによる課題遂行能力を測ることができるテストです。特別なテスター資格は必要なく、教師が簡単に実施することができます。また、「みんなの教材サイト」で提供している「JFS授業案」は、Can-doを目標にした授業の進め方や、授業目標(Can-do)の達成度を評価するパフォーマンス評価の例を紹介しています。そして、評価について改めて学びたい、確認したいという人には、「教授法オンデマンド教材」の「学習を評価する」がおすすめです。学習の評価についてのポイントが、動画とテキストで解説されています。

課題遂行能力を育てる教育実践における目標設定、授業設計、そして評価についても、JFSをますますご活用ください。

注:

  1. 1.Common European Framework of Reference for Languages(「外国語の学習、教授、評価のためのヨーロッパ共通参照枠【PDF:10MB】」)の略。2001年に、ヨーロッパの言語教育・学習・評価の場で共有される枠組みとして発表されました。JF日本語教育スタンダードや「日本語教育の参照枠」は、CEFRを参考に開発されています。なお、2020年には、2001年版のCEFRの内容を更新した「言語の学習、教授、評価のためのヨーロッパ共通参照枠-新能力記述文を伴うCEFR随伴版【PDF:5.4MB】」が公開されています。
  2. 2.作文の評価のためのルーブリックについては、『日本語教育通信』で公開している「授業のヒント」の「作文の評価にルーブリックを使ってみませんか」が参考になります。
  3. 3.「話すこと(やりとり)」のタスクとルーブリックの詳細については、「JFS準拠ロールプレイテスト テスター用マニュアル【PDF:3MB】」を参照してください。タスクのアレンジについても、説明があります。

(伊藤由希子・夷石寿賀子/日本語国際センター日本語教育専門員)

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