日本語教育通信 授業のヒント
オンラインでの交流活動をもっと効果的に!

授業のヒント
このコーナーでは、海外の日本語教育の現場で、すぐに応用できる具体的な教え方のアイデア、ヒントを紹介します。

2022年12月
国際交流基金日本語国際センター

概要

目的
  • 日本語を使って、お互いのことを知り合う
  • 実際に日本語を使用する機会を持つことで、「できた」達成感を味わう
  • 教師やクラスメイト以外の人の日本語やさまざまな考えを聞く機会を持つ
対象者
どのレベルでもできるが、ブレイクアウトルームに分かれ、教師のサポートがない中で、自力でコミュニケーションを続ける必要があるため、ある程度自力で話ができるA2以上がよい
人数
多くても、自分のクラスと交流相手を合わせて20人程度がやりやすい
ひとつのグループは4人程度がよい。学習者2-3人、交流相手1-2人がちょうどいい
準備するもの
ある程度安定したインターネット環境、オンライン会議システム(ここではZoom)が使える機器(パソコン、タブレット、スマートフォン)、ヘッドセット等

交流活動とは

 「学んだ日本語を実際に使ってみたい」 日本語を勉強している多くの人がこんな思いを持っていると思います。日本人や日本語使用者との交流活動は、ビジターセッションなど実際に会って話をする活動や、メッセージの交換などさまざまな方法があります。特に、実際に話をする機会は、「日本語でできた!」という実感を得ることや、教師やクラスメイト以外の人の考えを聞く機会となり、学習のモチベーションを高める上でも大切なものです。

 「授業で日本人や日本語話者と交流活動をしたいけど、まわりに日本人がいない…」という海外の教師の声もありますが、ここ数年ICT環境はめまぐるしく発達し、オンラインでのリアルタイムの交流も身近になりました。ただ、「思ったように話が進まない」「雰囲気作りがうまくいかない」「音声やビデオのトラブルがある」などといった問題もよく聞かれます。今回は、海外の日本語教師対象の教師研修で実施した日本の高校生との交流会をもとに、オンラインでの交流活動を効果的に行うコツを紹介したいと思います。

活動の流れとポイント

 ここからは実際に行った交流会をもとに、活動の流れとポイントを説明します。例としてあげる交流会は、オンラインの教師研修の一環として行ったもので、世界各国にいる日本語教師と日本の高校生が約10名ずつ参加しました。参加した高校生は英語部に所属する生徒が中心だったため、交流会参加者が全員「外国語」に関心があるという共通点がありました。そこで、テーマを「外国語と自分」に設定し、日本語教師は「日本語を教えていて一番好きな時間」、高校生は「外国語を学んでいて良かったこと」について簡単なプレゼンテーションをしてもらい、「日本の高校生と、外国語を教えていてよかったことや楽しいことについて話し、外国語を学ぶことの楽しさや意義をふり返る」ことを目的としました。日本語の目標は、「写真を見せながら、日本語を教えていて一番好きな時間について話すことができる」としました。

 交流活動では自由におしゃべりをするというやり方もありますが、グループによっては思ったように話が進まないということもあります。今回の交流のようにプレゼンテーションの形式にすると、それぞれが役割を持って話すことができ、交流もスムーズになります。

オンラインでの交流活動で、参加者4人のブレイクアウトルームでプレゼンをしている様子の画像
ブレイクアウトルームでの交流の様子

1.交流の前に

(1)交流の目的や相手をよく理解して、話すモチベーションを高めよう!

 交流会を行う前に、交流会の目的や目標、交流相手について共有すると、交流会のイメージもわき、相手と話すのが楽しみになります。

 今回は、交流相手についてただ「高校生」であることだけを伝えても、具体的なイメージがわかないかもしれないと考え、日本の高校や高校生活についての簡単なクイズなどを行い、高校生が普段どんな生活をしているかイメージをしてもらいました。同様に交流先の高校生にも外国で日本語を教えている教師のことを親しみを持ってイメージできるように、日本語教師の自己紹介と自国で担当している日本語クラスの情報を送りました。自己紹介では「名前、出身の国、話せる言語、好きな日本語のことば、好きな日本の食べ物」、日本語クラスについては「教えている学校、対象者、人数、学習者が興味を持っている日本のもの」、さらに、高校生に聞いてみたい質問がある人はそれを加えました。具体的にイメージできると、交流相手と話したいこと、聞いてみたいことが出てきます。

(2)話すための準備をして、安心して交流会にのぞもう!

 初めて会う日本人と話すとなると緊張もしますし、思ったように話が進まないこともあるかもしれません。そのため、事前に話すための準備をしておくと安心です。学習者が日本語での会話にあまり慣れていない場合は、テーマを決めて短いプレゼンテーションをする形にすると、事前に準備もでき、落ち着いて交流会にのぞめます。今回は、2回に分けて話すための準備をしました。

1回目:例を聞いて自分が話すことをイメージする

 1回目は、目標を立てたうえで、例をもとに内容の理解や新しい表現の学びを進めます。今回は、「日本語を教えていて一番好きな時間を聞いて理解できる」「自分の一番好きな時間を発表するイメージをつかむ」ことを目標にし、写真を見せながら一番好きな時間を紹介する例を見せました。学んだあとは、その表現を使いながら、自分の発表のための 内容を考えたりスクリプトを作成したりします。この作業には時間がかかるので宿題にしてもいいでしょう。

 写真のような視覚情報は理解を促すだけではなく、オンラインで起こりがちな音声トラブルへの対処としても役立ちます。音声が聞こえにくくても写真があれば理解しやすくなるので、発表は写真を見せながら行うことをおすすめします。

2回目:クラスメイトに向けて発表のリハーサルをする

 2回目は、1回目の後に自分で準備した内容を小グループに分かれて発表し合います。今回行った交流会では、「日本語を教えていて一番好きな時間について話すことができる」ことを目標にして行いました。一度発表をしてみて、うまく伝えられたこと、伝えられなかったこと、ほかの人の発表を聞いて改善したいと思ったことなどを基に改良を促します。時間があれば、グループを変えて複数回発表し合うといいでしょう。そのとき、一度交流会当日と同じグループで行っておくことをおすすめします。一度発表を聞いておくことで、当日、音声などのトラブルが起きた時にクラスメイト同士で助け合いがしやすくなります。また、このとき、写真の画面共有の仕方やブレイクアウトルームでのヘルプの呼び方など操作の確認もしておくと安心です。交流会の流れも詳しく説明しておきましょう。

 余裕があれば、「ほかの人の話をきいて、短くてかんたんなコメントが言える」という目標を加え、「おもしろいですね」など感想を伝えたり、「わたしもそう思います」など共感したりする簡単な表現を共有すると、交流会が盛り上がると思います。学習者のレベルに合わせて調整してみてください。加えて、自分の日本語に自信のない学習者は、事前に教師にスクリプトなどを提出し、日本語チェックを受けておくと交流会に安心して臨めると思います。

(3)しっかりした時間管理でメリハリをつけて交流する

 オンラインでの交流会は特に時間をしっかり管理してメリハリをつけた活動をすると、楽しく交流できます。事前に交流活動の流れやその活動にどのぐらいの時間をかけるか決めておきましょう。実際の交流会のプログラムを表のようにしました。90分の交流会の中で、はじめに挨拶やアイスブレイクを全体で行い、その後で3回のブレイクアウトセッションを行いました。ブレイクアウトの1回目と2回目はここまでで紹介した、外国語学習をテーマにした発表をお互いにする時間とし、3回目はテーマを決めず自由に話してもらう時間としました。すべてのセッションが終わった後で、ふり返りやお礼のあいさつ、記念撮影を行いました。

「今日の流れ」について(全体であいさつ・ウォームアップ。ブレイクアウト1・2 各15分 日本語の先生:日本語を教えている中で一番好きな時間・高校生:外国語を勉強していて楽しいこと、よかったこと、大変なこと。ブレイクアウト3 20分 フリートーク:質問したり質問に答えたりします。全体でふりかえり・あいさつ。)が書かれたスライドの画像
実際の交流会に使用したプログラム

 交流会ではアイスブレイクやふり返りは全体で行い、ほかの活動は、ブレイクアウトルームに分かれて少人数のグループで行うと、ひとりひとりが話す時間を作ることができます。分かれるときは、学習者2~3人、交流相手1~2人、全体で3~4人がちょうどいいと思います。2人だと話すのが苦手なペアになったときに負担がかかり、5人以上になると、ひとりひとりが話す時間がとれなくなってしまいます。1人の発表時間を5分として1回のブレイクアウトセッションは20分から25分が適当だと思います。

 この交流会のブレイクアウト3のように、発表以外にフリーで話す時間を作る場合は、場もあたたまり日本語でのやりとりに慣れてきた最後の時間がいいと思います。

2.交流会を始めよう

 交流会を時間通りに始めるために、開始の5分前までには全員が入室し、音声や名前表示の確認を済ませておきましょう。落ち着いて交流会を始めることができます。

(1)アイスブレイクでリラックス!話しやすい雰囲気を作ろう!

 アイスブレイクは交流会の雰囲気づくりのために欠かせないものです。初めて会う人とオンラインで話すのでみんな緊張しています。短い時間でもいいので必ず行い、話しやすい雰囲気を作るようにしましょう。そして、実はアイスブレイクにはもう一つ重要な役割があります。それは、Zoomに慣れていない人が必要最低限の操作を確認することです。音声が聞こえない、インターネットが不安定でZoomの接続が切れてしまうなどのトラブルはよくあります。あせらずリラックスすることを伝え、全体でアイスブレイクをしましょう。例えば次のような活動があります。

窓からこんにちは
 Zoomのビデオのオン・オフの切り替え方法の確認と共通点探しを混ぜた活動です。まず、全員ビデオをオフにして、画面を真っ暗にします。教師は「今朝、朝ごはんを食べましたか」など簡単な質問をして、それに当てはまる人は、ビデオをオンにして顔を見せます。すると、真っ暗な画面から、窓を開けて人が登場するように見えます。何人かに追加で「何を食べましたか」と質問をし、また全員画面オフにして、別の質問をしていきます。はじめは「今、自分の部屋にいますか」など答えやすい質問からはいり、そのあと、「音楽が好きな人」「スポーツが好きな人」など共通点を見つけられる質問をするといいと思います。交流会のテーマにつながる質問をしてもいいでしょう。
気持ちを表そう
 Zoomのリアクションボタンやチャット機能の使い方を確認しながら自分の気持ちを簡単に表現する活動です。「今の気持ちに近いものは?」などの質問をして、リアクションボタンを押してもらい、その理由を簡単に聞いたりします。全員に理由を聞くのが難しいときは、チャットで理由を書いてもらうこともできます。

「今の気持ちは?」のテーマで「心配、リラックス、わくわく、どきどき」の気持ちとリアクションマークを示したスライドの画像
気持ちを表すアイスブレイクで使用したスライド

 オンラインでは、直接同じ空間でやりとりしないため、本当に聞こえているのか、相手が自分の話に興味を持っているのか、対面のときよりも伝わりにくいと言われています。そのため、聞き手の大切な役割として、普段よりも大きなリアクションをとる必要があります。この活動を通してそのリアクションの練習ができると、ブレイクアウトルームに分かれたあとも、楽しい雰囲気になり、コミュニケーションがしやすくなります。リアクションボタンのほかに、ジェスチャーで行ってもいいと思います。クラスや交流相手の年齢や雰囲気に合わせて決めるといいでしょう。

(2)しっかりと指示を伝えることがグループ活動のポイント!

 ブレイクアウトルームに分かれる前に、グループ活動で何をするかしっかり伝えましょう。対面とちがい、ブレイクアウトに分かれると、教師はそれぞれのグループの様子はそのブレイクアウトルームに行かなければ見ることができません。何をするかきちんと伝えておく必要があります。また、時間が限られているので、話す順番などはこちらで決めておくと参加者は交流に集中することができます。

 問題が起きた場合は「ヘルプ」機能で合図を出してもらいましょう。心配な場合は画面をオフにして邪魔をしないようにブレイクアウトルームをのぞいてみてもいいですが、できるだけ参加者同士が交流を行えるようにそっと見守り、「自分(たち)でできた」という達成感につなげましょう。

(3)グループでそれぞれ学んだことを共有しよう!

 ブレイクアウトの時間が終わったら、グループで話して印象に残ったことなどを簡単に共有してもらうといいでしょう。ブレイクアウトルームに分かれるとほかのグループの話を聞くことができません。共有の場を作ると、それぞれのグループで起きた出来事や学びを全体に広げることができます。グループであったことをもう一度思い出すことで改めて気が付くこともあるでしょう。もし、誰も言わない場合は指名するとスムーズです。最後に交流相手にお礼を伝えるといいでしょう。挨拶をする人はあらかじめ決めておきましょう。

3.交流会のあとに

 交流会が終わったら、それで終わり!ではなく、交流会を通して学んだことを授業でふり返るとさらに学びも深まります。日本語の学びだけでなく、テーマや交流相手とのやりとりから、普段の授業では気が付かない学びがたくさんあるでしょう。時間があれば、交流相手にお礼のメッセージを書く活動に発展させるとコミュニケーションの機会をふやすことができると思います。

 実際の交流会では「生徒と話せてうれしい。また話したい」「グループでお互いに助け合えた」などの感想、「日本の高校生がいろいろな外国語を勉強していることを知って驚いた」などの発見、そして「大変だけど日本語を教える仕事の楽しさを思い出した」「自分の生徒に教えたい」など今後の学習や仕事のモチベーションにつながる多くの学びが得られた様子でした。

 アイスブレイク前は、みんなガチガチに緊張していましたが、ブレイクアウトルームに分かれると、それぞれの発表を通して、海外での日本語学習の様子、日本の高校生の外国語経験に驚きながらも、共感しあう姿がありました。後半にいくにつれて気まずさも少しずつなくなり、質問し合う姿も増えていきました。また、ふり返りからは、日本語で交流できたことへの達成感はもちろん、高校生のリアルな話を聞くことができたことに対しても喜ぶ声が聞かれました。また、日本語を教えていて一番楽しい時間について話すことで、改めて自分の行っている教育や学習を見直す機会になったという感想もありました。うまくいったこともいかなかったことも、次への課題や目標になり、モチベーションアップにつながっていました。

交流会をよりスムーズに進めるための小さなヒント

 ここまで、実際の交流会を例に、流れを紹介しました。最後に、オンラインでの交流会をよりスムーズするための小さな注意点を紹介します。

名前をわかりやすく表示する
 参加者の名前表示をひらがなやカタカナで簡単に書いてもらえるといいと思います。交流相手側が2人以上で1台のパソコンを使って参加する場合は、大きめのネームカードを準備し、胸につけるなど画面に映るようにしてもらうと名前を忘れる心配がなくなります。
通信状況も考えてグループ分けをする
 ブレイクアウトルームでのグループ活動をスムーズに行うために、グループ全員がインターネットの調子が悪いという状況は、避けましょう。ルームの全員がZoomの接続が切れてしまって誰もいない状況になってしまったり、音声の調子が悪い人ばかりが集まって音声が聞こえなくなったりすると、スムーズに交流することができません。
役割を持たせると参加しやすくなる
 交流相手にタイムキーパーや司会などをお願いしてもいいでしょう。役割を持つことで、その場に参加しやすくなるかもしれません。
アシスタントがいるとやりやすい
 当日の進行とグループ分けなどをする裏方の仕事をひとりでするのは大変です。少なくとも1人はアシスタントの役割の人をお願いするといいでしょう。

 日本人や日本語話者が身近にいなくても、ビデオ通話などを使えば、教室にいながら、オンライン交流会ができます。交流活動のアイデアは、「日本語ドキドキ体験交流活動集」、「日本語教育通信」授業のヒント「インタビュー活動を通じて日本理解を深め、日本語を学ぶ」と「“ドキドキ”体験・交流活動を通じて日本語を学ぶ」でも紹介されています。

 話す準備やアイスブレイクなどで安心な場を作り、ちょっとした工夫を取り入れて、さらに楽しくコミュニケーションしてみてください。

(須摩 亜由子/日本語国際センター専任講師)

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