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生活場面でのコミュニケーションに必要な言語能力を判定する 「国際交流基金日本語基礎テスト(JFT-Basic)」

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このコーナーでは、国際交流基金の行う日本語教育事業の中から、海外の日本語教育関係者から関心の高いことがらについて最新情報を紹介します。

2021年7月
国際交流基金関西国際センター

 国際交流基金日本語基礎テスト(Japan Foundation Test for Basic Japanese、以下、JFT-Basic)は、主として就労のために来日する外国人が遭遇する生活場面でのコミュニケーションに必要な言語能力を測定し、「ある程度日常会話ができ、生活に支障がない程度の能力」があるかどうかを判定することを目的としたテストです。今回は、JFT-Basicの概要と、2019年4月開始以降の実施状況や反響についてお知らせします。

JFT-Basicのサイトトップページ画像 クリックするとJFT-Basicサイトにリンクします。
JFT-Basicウェブサイト

在留資格「特定技能1号」の日本語能力判定にも活用

 このテストの対象は日本語を母語としない外国人です。その中でも、主として就労のために来日する外国人を対象としています。2019年4月1日から開始された在留資格「特定技能1号」を得るために必要な日本語能力水準に達しているかを判定するテストとしても活用されています。

CEFRJFSの考えに基づいて開発され、A2レベルを目安に判定

 このテストは、ヨーロッパ言語共通参照枠(Common European Framework of Reference for Languages: Learning, teaching, assessment、以下、CEFR)と、CEFRに沿って国際交流基金が開発した「JF日本語教育スタンダード」(以下、JFS)の考えに基づき、課題遂行において「何がどれだけできるか」を示した能力記述文(以下、Can-do)を参照して開発されました。「ある程度日常会話ができ、生活に支障がない程度の能力」の目安として、A2レベルの一定程度の日本語能力水準に達しているかを判定しています。

Can-doの6つのレベルを示したイメージ画像(A2レベルにフォーカス)
Can-doの6つのレベル

「文字と語彙」「会話と表現」「聴解」「読解」の4セクション

 このテストは、「生活場面でのコミュニケーションに必要な言語能力」を測定するため、「文字と語彙」「会話と表現」「聴解」「読解」の4つのセクションで構成されています。
 各セクションは、さらにいくつかのカテゴリーに分かれており、全体で約60問が出題されます。

テストの構成とねらい
セクション セクションのねらい カテゴリー カテゴリーのねらい
文字と語彙
約15問
生活場面で使用される日本語の文字が読めるか、基本的な語彙を持ち、使えるかを測る。 語の意味 語の意味を問う。
語の用法 語の用法を問う。
漢字の読み 漢字で書かれた語の読み方をひらがなで問う。
漢字の意味と用法 漢字で書かれた語の意味と用法を問う。
会話と表現
約15問
生活場面の会話に必要な文法や表現を使えるかを測る。 文法 会話の文脈に合った適切な文法が使えるかを問う。
表現 会話の文脈に合った適切な表現が使えるかを問う。
聴解
約15問
生活場面において、会話や指示などを聞いて、理解できるかを測る。 内容理解(社交的なやりとり) 情報交換や社交的なやりとりを聞いて、内容を理解できるかを問う。
内容理解(店や公共機関でのやりとり) 店や公共機関でのやりとりを聞いて、内容を理解できるかを問う。
内容理解(指示、アナウンス) 指示やアナウンス、音声メディア等を聞いて、内容を理解できるかを問う。
読解
約15問
生活場面において、手紙や掲示、説明などを読んで、理解できるかを測る。 内容理解 手紙やメッセージなどの短い簡単なテクストを読んで、内容を理解できるかを問う。
情報検索 日常の看板や掲示、資料などから必要な情報を探し出せるかを問う。

CEFRJFSのA1-A2レベルのCan-doに基づいた問題

 このテストでは、CEFRJFSのA1-A2レベルのCan-doに基づいた問題が出題されます。問題はセクション、カテゴリーごとに、A1、A2.1、A2.2の3つのレベルのCEFR Can-doを参照して、各レベルに合わせて作成されています。さらに、それぞれの問題は、JF Can-do一覧(A1、A2レベル)やJF生活日本語Can-do一覧の中から選ばれたCan-do例を基にして、具体的な場面やトピックが設定されています。

生活場面に絞った問題

 このテストの対象は、主として就労のために来日する外国人ですが、特定の職種によらない職場でのコミュニケーション場面や生活場面に絞った問題が出題されます。日本の生活における必要性という観点から、買い物や交通だけでなく、病院、防災などの場面・トピックも扱われています。また、素材についても、例えば「読解」セクションにおいて、手紙やメール、SNSなどのメッセージ、日常の看板、掲示、薬の説明など、生活上のテクストが読む対象とされています。そして、受験者が日本の生活で実際に日本語を使う場面を想定し、各Can-doで示された課題を遂行する立場となるよう設定されています。

問題例

 問題例として、「聴解」セクション、「内容理解(指示、アナウンス)」カテゴリーの問題を紹介します。

CEFR Can-do:指示やアナウンスを聞く(A2)

「短い、はっきりとした、簡単なメッセージやアナウンスの要点は聞き取れる。」

Can-do例:JF生活日本語Can-do 303

「ゆっくりとはっきりと話されれば、地域の防災に関する簡単な説明を聞いて、パンフレットなどにあるイラストや写真を手がかりに、避難場所や避難時の注意事項などを理解することができる。」

「聴解」問題画面イメージ画像(英語による設問(1)、(2)の下に設問ごとに3つのイラスト選択肢が表示される) クリックすると拡大画像が表示されます。

では、これから、火事のときどうするかについてお話しします。火事を見たら、まず、大きい声で「火事だ!」と言って、周りの人に知らせてください。そのあと、もし火がまだ小さかったら、水をかけて火を消すようにしてください。でも、火が消せなかったり大きくなったりしたら、すぐに逃げてください。逃げるときはエレベーターを使わないで、階段を使います。玄関から外に出たら、あさひ公園に集まってください。会社の前の駐車場で他の人を待ったりしないで、できるだけ早く避難してください。私からの説明は以上です。

「聴解」問題例

 CEFR Can-doは「指示やアナウンスを聞く(A2)」を参照しました。Can-do例のように、職場の防災訓練で担当者が、火事が起こったときどうするかについて話しているのを聞き、「最初に何をするか」「どこに避難するか」を聞き取れるかを測っています。防災訓練など日本でよく行われる場面で、受験者が「聞く」立場で課題が遂行できるかを測る問題となっています。

CBT方式によるテスト

 このテストはComputer Based Testing(以下、CBT)方式で行われます。会場と実施期間は国ごとに決められており、テストは実施期間内の複数の実施日、時間帯において行われています。そのため、受験者は自身の都合のよい日にちや時間帯を選んで受験することができます。
 受験者は、テスト会場のブース内で、コンピュータの画面に表示される問題やヘッドフォンから流れる音声をもとに、画面上で解答します。「文字と語彙」「会話と表現」「聴解」「読解」のセクション順に受験しますが、セクションごとの解答時間はなく、60分の制限時間内に全セクションの問題を自分のペースで解答します。

ブース内でヘッドフォンを付けコンピュータに向かう男性画像
受験のイメージ

 コンピュータ画面上にテストの問題および選択枝が表示されます。設問は英語で表示され、問題画面の左上にある「Your Language」ボタンをクリックすると、9言語の現地語の設問が表示されます。受験者は、自分がわかる言語で設問を読み、場面、状況を理解した上で、解答することができます。

問題画面イメージ画像(設問の左下の「Your Language」ボタンをクリックするとポップアップで9言語の現地語の設問が表示される) クリックすると拡大画像が表示されます。
問題画面Your Language」ボタンをクリックした画面

 テスト結果は、テスト終了時に総合得点と判定結果が画面に表示されるので、受験者は受験後すぐに判定結果を確認できます。また、正式な判定結果通知書は受験後5営業日以内に予約ウェブサイト上で受験者本人が確認、印刷できるようになります。
 判定結果通知書では、受験者情報、受験情報、総合得点とそれに基づく判定結果がわかります。総合得点の得点範囲は10~250点で、総合得点が判定基準点(200点)以上のとき、「ある程度日常会話ができ、生活に支障がない程度の日本語能力水準に達している」と判定されます。

判定結果通知書イメージ画像(受験者情報、受験情報、総合得点、判定結果、セクションごとの正答率) クリックすると拡大画像が表示されます。
判定結果通知書イメージ

各国での実施状況と国内実施の開始

 JFT-Basicは2019年4月から実施を開始し、年6回実施されています。2021年3月現在まで、海外7か国(フィリピン、カンボジア、インドネシア、ネパール、モンゴル、ミャンマー、タイ)と、日本において、累計14回実施され、25,553人が受験しました。

各国での実施状況(受験者数)
実施時期 フィリピン カンボジア インドネシア ネパール モンゴル ミャンマー タイ 日本 合計
2019年度 4月 57               57
5月 110               110
6月 160               160
8月 133               133
9月 189               189
10-11月 642 91 340 497 60       1,630
1月 738 118 410 625         1,891
3月 928 166 841 701   1,165     3,801
2020年度 5月   92             92
7-8月 298 156 1,551 278         2,283
9月 468 79 448 282 84       1,361
11月 549 125 1,586 865 16   52   3,193
1月 651 169 1,682 507   275     3,284
3月 681 142 3,248 611 76   82 2,529 7,369
合計 5,604 1,138 10,106 4,366 236 1,440 134 2,529 25,553
実施都市 マニラ/セブ/ダバオ プノンペン ジャカルタ/スラバヤ/バンドン/ジョグジャカルタ/メダン カトマンズ ウランバートル ヤンゴン バンコク 47都道府県  

 2020年度に入ってからは 海外各国での新型コロナウィルス感染症の影響で、実施が中止となる会場もありますが、各国の会場で感染防止対策を取りながら、実施を続けています。そして、2021年3月はこれまでの実施回の中で、実施国、実施都市、受験者が最も多くなりました。
 2019年10月以降に実施している受験予約時のアンケート結果から、海外の受験者の傾向として20代が多く(全体の約6割)、男女はほぼ半々、訪日経験のある受験者は約3割(そのうち技能実習や研修での来日が約6割)ということがわかっています。
 2021年3月からは、日本での実施が始まり、47都道府県約120都市の会場で受験することができるようになりました。2021年3月試験の日本での受験者数は2,529人で、そのうち、ベトナム、ネパール、インドネシアの出身者が多くを占めました。

現地の先生方や受験者の声

 実施国の現地教師の訪日研修において、JFT-Basicを紹介した際に「テストのための準備が即日本での生活に役立ちそう、テストを受ける意味がある」「生活のCan-doベースなので、必要な日本語や社会や文化も含め、背景知識として何を教えればいいのかイメージできる」「課題達成型なので達成感がある」などの声がありました。このように、JFT-Basicは日本の生活場面でのコミュニケーションがイメージでき、受験の準備が来日後の生活に必要なことを学ぶ近道となるテストであると言えるでしょう。
 CBT方式については、現地教師から「クリックで解答でき、操作が楽である」「聴解が2回聞ける」「場面設定が母語でわかる」「結果がすぐわかる」「受験のチャンスが多い」など肯定的なコメントが聞かれました。また、受験者に対して実施したアンケートや聞き取り調査の結果でも、受験者がCBT形式で問題なく受験できることが確認され、「操作がわかりやすい」「設問が自分の言語なので、よく理解して解答できる」などの声がありました。

JFT-Basic受験準備に役立つ教材

 JFT-Basicの受験準備に役立つ教材を紹介します。全て無料ですので、ぜひ日本語学習に利用してください。
 日本語コースブック『いろどり 生活の日本語』(「日本語教育通信」4月号)は、外国の人が日本で生活や仕事をする際に必要となる、基礎的な日本語のコミュニケーション力を身につけるための教材です。対象レベルは、「入門」はA1、「初級1」「初級2」はA2レベルです。各国語版でも学べます (各国語版は、2021年5月現在、中国語、モンゴル語、インドネシア語、クメール語、タイ語、ベトナム語、ミャンマー語です)。

日本語コースブック『いろどり 生活の日本語』サイトバナー画像 クリックすると『いろどり 生活の日本語』サイトにリンクします。
日本語コースブック『いろどり 生活の日本語』

 「いろどり日本語オンラインコース」(「日本語教育通信」6月号)は、コースブック『いろどり 生活の日本語』をもとにした、総合的な日本語力を身につけるためのコースです。スマートフォン、パソコン、タブレットで、いつでも、どこでも日本語の学習をすることができます。2021年5月現在、初級1(A2)を開講しており、解説言語は日本語と英語です。初級2(A2)は2021年10月に開講予定です。今後、中国語、インドネシア語、クメール語、モンゴル語、ミャンマー語、ネパール語、タイ語、ベトナム語のコースを開講する予定です。

「いろどりオンラインコース」サイトバナー画像 クリックすると「いろどりオンラインコース」サイトにリンクします。
「いろどり日本語オンラインコース」

 JFT-Basicウェブサイトでは、JFT-Basic受験の準備に役立つ教材紹介のページ「学習のヒント」や、CBT画面や問題画面の説明を動画にした「操作動画」、実際のテスト画面に近い形式で全カテゴリーの問題を体験できる「サンプル問題」も掲載しています。JFT-Basicウェブサイトは現在のところ、日本語の他に8言語の中から選んで読むことができます。JFT-Basicをもっと知るためにご利用ください。

注:

  1. 1.JFT-Basicについて、詳しくは以下をご覧ください。
    熊野七絵・戸田淑子・安達祥子(2021)「『国際交流基金日本語基礎テスト』の開発-生活場面でのコミュニケーションに必要な言語能力(A2レベル)を判定するCBT-」『国際交流基金日本語教育紀要』第17号
  2. 2.実施結果の詳細はJFT-Basicウェブサイト「テスト実施報告」をご参照ください。

(戸田淑子・熊野七絵/関西国際センター日本語教育専門員)

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