日本語教育ニュース 日本語国際センター「海外日本語教師オンライン研修」が始まりました!

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このコーナーでは、国際交流基金の行う日本語教育事業の中から、海外の日本語教育関係者から関心の高いことがらについて最新情報を紹介します。

2021年10月
国際交流基金日本語国際センター

 国際交流基金日本語国際センターが今年度(2021年度)から開始した「海外日本語教師オンライン研修」についてご紹介します。

1.オンライン研修開始の経緯

 国際交流基金日本語国際センター(以下、NC)では、1989年の設立以来、海外の日本語教師を日本に招聘する教師研修(以下、訪日研修)を実施注1しており、毎年50か国以上から450名程度が参加しています。ところが、昨年度(2020年度)は世界的な新型コロナウイルス(Covid-19)感染拡大の影響ですべての訪日研修が中止になってしまったため、NCとして初めてオンラインで研修を実施することになりました。
昨年度オンラインで実施した研修は、中止された訪日研修の参加者(希望者)向けに、週1回のライブ授業を
1か月程度行うものがほとんどで、それぞれの研修の目標や特性に合わせて日本語や教授法を学ぶコースを企画・実施しました。オンラインによる研修はNCの多くの講師にとって初めての経験でしたが、コロナ禍において世界中の日本語教師が共に学ぶ機会を提供することができました。
また、一部の研修ではNCが新たに開発している独習用オンデマンド教材の試用も行いました注2。昨年度は6テーマの教材を開発し、それぞれ独習コースを実施したほか、3テーマはライブ授業付きコースも実施しました。
そして、これらの成果を踏まえて、今年度から「海外日本語教師オンライン研修」(以下、オンライン研修)を開始することになりました。

2.2021年度オンライン研修

 今年度のオンライン研修は、次の5つのテーマで開講しました。

テーマ 開講時期 参加条件
(1) JF日本語教育スタンダード 4月、7月 日本語教授歴2年以上。日本語能力試験(JLPTN3または旧JLPT 2級程度以上、JF日本語教育スタンダードB1レベル以上
(2)日本語教育と文化 5月、8月
(3)読解の教え方 6月、9月
(4)文法指導法再考 10月 日本語教授歴2年以上。JLPT N2または旧JLPT 2級程度以上、JF日本語教育スタンダードB2レベル以上
(5)ビジネス日本語の教え方
 ―ニーズを調べる
11月

 (1)~(3)は、昨年度試用したオンデマンド教材を使用するライブ授業付きコースで、教授法の各テーマについて理論と指導のための基礎知識を学ぶことができます。なるべく多くの教師に参加してもらえるように時期と時間帯を変えて、各テーマ2回ずつコースを開講することにしました。コースの詳しい説明は、次章の読解の例を参照してください。
(4)と(5)は、これまで訪日研修で実施していた「テーマ別研修」を昨年度オンラインに振り替えて実施した経験をもとに、今年度は新たにオンライン研修として開講することにしたものです。こちらは各1回のみの開講です。
各回の定員は15名で、日本語母語話者や日本国籍の教師を含め、海外からの参加が可能です。ライブ授業にはWebビデオ会議ツールのZoomを、その他の連絡用にチームコミュニケーションツールのSlackを使用しています。

3.オンライン研修の実際 ―「読解の教え方」

 以下、 (3)読解の教え方を例に、オンライン研修の実際をご紹介します。
参加者には、研修開始前に下のような参加者専用のWebページのURLが伝えられます。ここにはコースの説明があり、ここからオンデマンド教材にアクセスすることができます。

オンライン研修参加者用Webページ画像「日本語教師のためのオンラインコース(教授法)読解の教え方」 クリックすると拡大画像が表示されます。

オンライン研修参加者用Webページ

3.1 オンデマンド教材について

 オンデマンド教材は、オンラインで教授法の基礎知識をテーマ別に独習するための教材です。読解のオンデマンド教材は、国際交流基金日本語教授法シリーズ(7)『読むことを教える』(ひつじ書房、2006年)の内容に、JF日本語教育スタンダードと、読解指導の最新の知見や教材リソースを取り入れて、再構成したものです。この教材作成方針は他のテーマも同様で、オンデマンド教材には教授法シリーズ刊行後のNCの教師研修の蓄積が反映されています。

  • 国際交流基金日本語教授法シリーズ(7)「読むことを教える」表紙画像
  • JF日本語教育スタンダードの木(木の枝として表現されるコミュニケーション言語活動と、それを支える木の根となるコミュニケーション言語能力)の画像

国際交流基金日本語教授法シリーズとJF日本語教育スタンダードの木

 たとえば、具体的な読みの指導方法を紹介する際には、国際交流基金が開発した日本語教材『まるごと 日本のことばと文化』シリーズ(三修社)や、「JFS読解活動集(B1)」(『みんなの教材サイト』所収)、あるいはJLPTの読解問題などを例として取り上げています。

「質問と読み方(初級の読解)」のスライド画像(3.ボトムアップの読み(2)文の構造・言い換え)クリックすると拡大画像が表示されます。

オンデマンド教材Unit2 Part1「質問と読み方(初級の読解)」のスライドの例

3.2 コースでの学び方

 読解コースでは、週1回(90分)×6回のライブ授業を行います。初回はオリエンテーションで、あとの5回がオンデマンド教材の5つのPartの内容に沿った授業になります。
このコースの学習の流れと学び方は、ライブ授業初回のオリエンテーションで説明しています。参加者はまず、オンデマンド教材を使って個別に学習し(各Partの学習所用時間は1時間程度)、ライブ授業に参加する準備をします。週1 回のライブ授業では講師の解説を聞いたり、他の参加者や講師と直接話をしたりして、ライブ授業の後でまた個別に学習を振り返ります。

ライブ授業初回オリエンテーション用スライド画像(2.このコースについて)クリックすると拡大画像が表示されます。

ライブ授業初回オリエンテーション用スライド1

ライブ授業初回オリエンテーション用スライド画像(3.このコースでの学び方)クリックすると拡大画像が表示されます。

ライブ授業初回オリエンテーション用スライド2

 NCのオンライン研修の特色は、様々な背景を持つ世界中の日本語教師がオンラインでつながって、教授法の一つのテーマについて共に考え、ディスカッションをしながら理解を深めていくことが挙げられます。そして、ライブ授業で直接話すだけではなく、授業の前や後にもSlackを利用して、他の参加者や講師とディスカッションや情報交換をすることもできます。

3.3 参加者と担当講師からのコメント

 最後に、(1)JF日本語教育スタンダードと(2) 日本語教育と文化も加えて、今年度4~6月に実施した3コースについて、修了アンケートの結果と、参加者および担当講師のコメントをご紹介します。

修了アンケート結果(参加者:13か国30名)

このコースに参加した理由(複数回答) テーマに興味があったから(24名) 自分の授業を教えるために必要だから(24名) 教師としての能力をのばすために必要だから(24名) 学習方法(オンライン学習、独習)に興味があったから(10名)
コースは有意義だったか 強くそう思う(23名)そう思う(7名)
テーマに関する知識を深め、自分の教え方について考え、振り返ることができたか 強くそう思う(21名)そう思う(9名)
このコースを他の人にすすめたいか 強くそう思う(26名)そう思う(4名)

 アンケートでは参加者から全体的に高い評価を得ることができましたが、具体的に以下のようなコメントがありました注3

「読解の教え方」参加者からのコメント

  • ライブ授業があることで、それまでに課題をこなしたり、独学のモチベーションになりました。また、他の学習者の意見を聞くことができ話し合う時間があったのでとても参考になりました。
  • 世界どこにいても気軽に参加できる研修は、また日本で同じ場を共有してできる研修とは違った良さがあると思います。今後もこのようなオンラインの研修も継続していただきたいです。
  • 現職教師にとって、今回の研修成果が職場に活かされる機会になったのは間違いありません。期間や方法などいろいろ検討された結果、今回のような研修の進め方に至ったと思います。講師の先生方やスタッフの方がたは研修がうまくいくようにいろいろ工夫をされたと察します。

 参加者からは、独習とライブ授業を組み合わせたコース設計や、世界中の教師がオンラインで共に学ぶ機会となったことが評価されたようです。そして、コースを担当した講師からも次のように、オンライン研修ならではの発見や意義の再確認、コース設計の評価がありました。

担当講師からのコメント

  • 参加者が各地の状況を尋ね合う雑談や、Zoomのチャット機能を使った助け合いなど、この時期ならではの、離れたところで、またそれぞれに難しい状況での教師の連帯感が感じられ、私たち講師も励まされました。
  • 通信状況のために、時折切断したり、カメラをオフにしていた人がたまに顔を見せたりするととてもうれしくなったり、画面の周りの様子や音などが感じられたり、オンラインならではのいろいろな発見がありました。
  • オンラインのライブ授業は対面型の授業とはまったく違いますが、参加者に学びたいという気持ちがあれば、良い学びの機会になると思いました。また、継続的に独習するのはたいへんなことですが、ライブ授業が独習のペースメーカーになっていたのではないかと思います。

4.NCオンライン研修の今後

 以上、今年度のオンライン研修についてご紹介してきましたが、NCでは今後もオンライン研修を継続して実施します。現在募集中の来年度(2022年度)のオンライン研修では、今年度開講した (1) JF日本語教育スタンダード、(2) 日本語教育と文化、(3) 読解の教え方、に加えて、新たに作成したオンデマンド教材を使用する(4)会話の教え方、(5)文法の教え方、(6)作文の教え方、の計6コースを開講する予定です。詳しくはNCWebサイト「海外日本語教師 オンライン研修」や国際交流基金の公募プログラムガイドラインをご覧ください。
「海外日本語教師オンライン研修」は、仕事や家庭の事情などで訪日が難しい人にも参加しやすいコースで、世界中の同じテーマに関心のある人とつながり、共に学ぶ機会ともなります。NCの教師研修の新しい形として、今後も世界中の日本語教師の皆さんの参加をお待ちしています。

注:

  1. 1.NCの教師研修については、日本語教育ニュース「日本語国際センターの30年―海外の日本語教育を支える基盤整備の歩み」をご参照ください。
  2. 2.NCでは、2018年度にオンライン研修に関する調査研究プロジェクトを実施し、オンライン研修の可能性について検討していました。
  3. 3.3コースの参加者からのコメントはNCWebサイト「研修参加者の声」でも公開されています。
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