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日本語学習番組「ひきだすにほんご Activate Your Japanese!」ができました!
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- このコーナーでは、国際交流基金の行う日本語教育事業の中から、海外の日本語教育関係者から関心の高いことがらについて最新情報を紹介します。
2022年5月
国際交流基金日本語国際センター
国際交流基金は、NHKエデュケーショナルと共同で日本語学習番組「ひきだすにほんご」を制作しました。英語タイトルは「Activate Your Japanese!」です。
番組はNHKワールドJAPANで、2022年4月の第2週から、月曜日と火曜日に隔週で放送されています。放送時間(日本時間)は、月曜日(1)10時40分~10時55分、(2)15時40分~15時55分、(3)21時40分~21時55分、火曜日(4)2時40分~2時55分、(5)7時40分~7時55分の5回です。同じ週の(1)~(5)の時間帯はすべて同じ回の放送ですので、世界各地で都合の良い時間に視聴していただくことができます。詳しくはNHKワールドJAPANのホームページをご確認ください。
また、全24回が同ページにて無料でオンデマンド配信されており、いつでも番組を見ることができます。専用ウェブサイトの開設も予定しており、様々な方法で国内外の教育現場へお届けしていきます。
「ひきだすにほんご」のロゴ
別バージョンロゴ
目次
- 「ひきだすにほんご」ってどんな番組?
- 日本語でのコミュニケーション力アップを後押しします!
- 「ストラテジー」で自身の持つ“チカラ”をひきだします!
- 各コーナーの紹介
「ひきだすにほんご」ってどんな番組?
「ひきだすにほんご」は、日本で働きたい、日本で生活したいという人を主なターゲットとして制作した日本語学習番組です。
番組のメインは、日本のホテルで働くことになったベトナム人スアンの成長をつづるドラマ「スアン日本へ行く!」、気軽な日常会話ですぐ使えるオノマトペを紹介するミニコーナー「気持ちが伝わるオノマトペ」、日本の各地で活躍する“センパイ”たちを紹介するドキュメンタリー「津々浦々 日本のセンパイ」の3コーナーをぎゅっと詰め込んだ15分間注1、全24回です。
コーナーごとのオープニングタイトル
楽しみながら日本語を学べる、リアルな日本をたくさん見ることができる内容ですので、日本で働きたい、生活したいという人に限らず、実践的な日本語を学びたい、日本の社会・文化について知りたいという人にも広くご視聴いただけます。
日本語でのコミュニケーション力アップを後押しします!
日本で働きたい、生活したいという人にとって、日本語でのコミュニケーションは自分らしく、充実した生活を送るために大切です。「ひきだすにほんご」は、生活に必要な基礎的な日本語(「JF日本語教育スタンダード(JFS)注2」A2レベル)を学んだ人が、さらに自立的に日本語でのコミュニケーションに携われるようになる(「JFS」B1レベル)ための後押しをすることを目的としています。
「ひきだすにほんご」の主なレベル設定
国際交流基金では、2020年3月に日本語コースブック『いろどり 生活の日本語』初級1・2(A2)、2020年11月に同入門(A1)を公開、2021年5月に『いろどり 生活の日本語』を活用した「いろどり日本語オンラインコース」を開講し、日本で働きたい、生活したいと考える人が、日本での生活に必要な基礎的な日本語コミュニケーション力を身につけるための日本語教材やオンラインの学習コンテンツを提供しています注3。「ひきだすにほんご」は、それらの学習の後に、または、それらの学習と併せて実践的な日本語コミュニケーション力アップのために活用することができます。
「ストラテジー」で自身の持つ“チカラ”をひきだします!
「ひきだすにほんご」は、「ストラテジー」を軸に日本語でのコミュニケーション力の向上を目指す新しいアプローチの番組です。
日本語でコミュニケーションをするときに、「相手の言ったことが聞き取れなかった!」「自分の伝えたいことをうまく日本語で伝えられない!」「あの人と仲よくなりたいけど、うまく話しかけられない!」という経験がある人は少なくないと思います。こんなとき、自分が使える日本語や自分が持つさまざまな力を活かして、どうやったら乗り越えられるか、その方法を考えやってみる行為、これが、本番組が考えるストラテジーです。これは、近年日本語教育の領域でも参照されるようになったCEFR(Common European Framework of Reference for Languages)の考え方に基づいています。ストラテジーはコミュニケーションを行う際にとても大切なもので、JFSでもコミュニケーション言語活動とコミュニケーション言語能力をつなぐものとして、JFSの木の枝の付け根に表示されています。
本番組のメインコーナー「スアン日本へ行く!」では、日々の仕事や生活の中で出合うコミュニケーションの課題の数々を、主人公スアンがストラテジーを使って乗り越え、日本語話者として成長していく姿が描かれています。スアンが使用するストラテジーを日々のコミュニケーションに取り入れることで、日本語でのコミュニケーション力の向上が期待できます。
スアンがコミュニケーションの問題に出合うシーン
また、番組の冒頭では「あなたがスアンだったら?」という問いかけをしています。スアンがコミュニケーションの問題に出合うシーンを見ながら、私だったらこうできるんじゃないか、こんな方法もあるのでは?と一緒に考えてもらうための問いかけです。ストラテジーは一つの課題に一つではありません。スアンと一緒に考えることで、知っている日本語や持っている力を活かした別のストラテジーが考えられるかもしれません。その人が持っている“チカラ”をひきだし、活かすストラテジーが、日本語コミュニケーション力を向上させるカギの一つです。
各コーナーの紹介
そのほかにも「ひきだすにほんご」には、日本語、日本社会・文化への興味関心をひきだすしかけがいっぱいです。
スアン日本へ行く!/Xuan Tackles Japan!
先ほどご紹介したストラテジーを軸にした日本語学習ドラマです。主人公はベトナム人のスアンです。
物語はスアンが日本のホテルで働くために来日するところからスタートします。仕事や生活の中で出合うコミュニケーションの課題の数々を、ちょっとおせっかいなキーホルダー「やんす」との対話を通して考えたストラテジーで乗り越えます。
第1話は、空港から移動中の車内でのやりとりです。初めて会う職場の人との会話、相手はいろいろと話しかけてくれますが、日本語に自信がないスアンはうまく会話を続けることができません。会話が途切れてしまい、車内は気まずい空気になります。そこでスアンが使ったストラテジーは「質問をして相手に話してもらう」。自分でたくさん話すことができなくても、相手がよく知っていることを質問すれば、相手が話してくれて会話を続けることができます。
ほかにも、「相手の指示が聞き取れない」「会話を上手に終わらせたい」「話し合いで発言したい」など外国語を使って会話するときに出合うちょっとチャレンジングな状況で、スアンがいろいろなストラテジーを使います。
また、スアンを取り巻く魅力的な登場人物も必見です。スアンのよき理解者でホテルのマネージャー太田さん、関西弁を話すスアンの指導係すみれさんとのやりとりはもちろん、地域の人とのちょっとハラハラするやりとりも。ドラマの中で、日本での生活をいろどる、ちょっと素敵なコミュニケーションに出合うことができます。
ドラマの終わりには、謎のキャラクター「やんす」によるストラテジー解説で、スアンが使ったストラテジーをふり返ります。
NHKワールドJAPANの放送では、日本語を学習していない人でも楽しめるように、すべてのセリフに英語字幕がついています。また、スアンのセリフには日本語字幕も併記されており、より日本語学習に活用しやすいようになっています。
気持ちが伝わるオノマトペ/ONOMATOPOEIA- Share Feelings-
「わくわく」「ぴったり」など、日常のコミュニケーションでよく使われるオノマトペを紹介するミニコーナーです。世界の言語の中でも数が多いと言われる日本語のオノマトペの中から、特に、普段のちょっとしたおしゃべりの中で使うことで、お互いの気持ちが伝わるようなオノマトペを選びました。
前半はカラフルでかわいいアニメーションとオノマトペのイメージに合わせた音楽で、視覚的、感覚的にオノマトペの意味を伝えます。
後半はスキットで、オノマトペを使った実際のコミュニケーションを見ることができます。
オノマトペを使用したフレーズは「わくわくする!」「ぴったりだね!」など、短いものになっていますから、すぐに覚えられて、すぐに使うことができます。オノマトペで気持ちが伝わると、おしゃべりがもっと楽しくなります。
津々浦々 日本のセンパイ/Welcome to My Japan!
日本のさまざまな職場で活躍する“センパイ”たちを紹介しながら、全国津々浦々、日本の魅力を併せて発信するドキュメンタリーコーナーです。
北は北海道から南は沖縄まで、日本ではたくさんのセンパイたちが活躍しています。登場するセンパイたちの仕事はバラエティ豊かです!スアンと同じホテル勤務のセンパイから、介護施設で働くセンパイ、地域の企業で街おこしに携わるセンパイまで、日本で活躍するセンパイたちから、日本で働くため、暮らすためのヒントがもらえます。
言語情報
NHKワールドJAPANの放送では、以下の言語で番組をお届けします。
音声 | 字幕 | |
---|---|---|
スアン日本へ行く! | 日本語 | 英語(一部日本語字幕あり) |
気持ちが伝わるオノマトペ | 日本語 | 日本語 |
津々浦々 日本のセンパイ | 英語 | 一部英語と日本語の併記 |
国際交流基金では、これまでにも「ヤンさんと日本の人々」「続・ヤンさんと日本の人々」、中等教育の日本語学習者を対象とした「エリンが挑戦!にほんごできます。」、理系の大学生・大学院生を対象とした「にほんごにゅうもん(Nihongo Starter)」など、日本語学習のための映像教材を制作してきました。
今回「ひきだすにほんご」が加わり、映像教材のラインナップも一層ひろがりを見せています。日本で働きたい、日本で生活したい学習者を主な対象とした「ひきだすにほんご」もぜひご覧ください!
注:
- 1.第1回はドラマとドキュメンタリー、第24回はドラマとミニコーナーの2コーナーの構成となっています。それ以外は3コーナー構成です。
- 2.「JF日本語教育スタンダード」では、日本語のレベルをA1~C2の6段階で表しています。これは、欧州評議会CEFRのレベルと共通です。
- 3.『いろどり 生活の日本語』の開発については日本語教育通信2021年4月記事、「いろどり日本語オンラインコース」の開発については日本語教育通信2021年6月記事で詳しく取り上げています。
(菊岡由夏・本田雅美・石山友之/日本語国際センター専任講師)