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公開から12年「JF日本語教育スタンダード」をもっとご活用ください!

日本語教育ニュース
このコーナーでは、国際交流基金の行う日本語教育事業の中から、海外の日本語教育関係者から関心の高いことがらについて最新情報を紹介します。

2022年9月
国際交流基金日本語国際センター

 JF日本語教育スタンダード(以下、JFスタンダード)が2010年に公開され、12年が経ちました。この間、国際交流基金(以下、JF)ではJFスタンダード活用のためのウェブサイトやJFスタンダードに基づいた教材、評価ツールなどを開発してきました。また、それらを用いた日本語教育実践も行っています。本ニュースでは、JFスタンダードをさらに有効に活用していただくために、これまでに開発した教材等とそれらを用いた実践を、JFスタンダード活用の目的別にまとめてお伝えします。

JFスタンダードをくわしく知りたい

 JFスタンダードはヨーロッパの言語教育の基盤であるCEFR注1の考え方を基礎にしており、相互理解の日本語の理念のもと、日本語を使って何がどのようにできるかという課題遂行能力と、異文化理解能力の育成を重視しています。コースデザイン、授業設計、評価を考えるのに役立ち、目標から評価まで一貫性のある教育実践を行うことができます。
 JFスタンダードをもっと知りたい人のために「JF日本語教育スタンダード」のウェブサイトがあります。ウェブサイトには、JFスタンダードの基本的なツール(JFスタンダードの木、6つのレベル、Can-do、ポートフォリオ)とその使い方についての解説があります。また、JFスタンダードをよりくわしく知るための資料が集められています。JFスタンダードの活用のための『JF日本語教育スタンダード【新版】利用者のためのガイドブック』もこのサイトからダウンロードできます。

  • JF日本語教育スタンダードのウェブサイトトップページの画像
    JFスタンダードのサイトトップページ
  • JF日本語教育スタンダード 新版 利用者のためのガイドブックの画像
    JFスタンダードのガイドブック

Can-doを使いこなしたい

 JFスタンダードの中でも、授業の目標設定や評価などにCan-doを活用したいという方は多いのではないでしょうか。Can-doを使いこなすためのウェブサイトが「みんなのCan-doサイト」です。このウェブサイトでは、Can-doの検索はもちろん、自分が選んだCan-doをマイページ注2に保存したり、ガイドに沿ってMY Can-doを作ったりすることもできます。「みんなのCan-doサイト」の使い方については、同サイト内の「サイトの使い方」のページにくわしく説明しており、また、「日本語教育通信」でも取り上げています。

  • みんなのCan-doサイトのトップページの画像
    「みんなのCan-doサイト」トップページ
  • みんなのCan-doサイトのマイページの画像
    MY Can-doを作るためのガイドページ

JFスタンダードに基づいた教材を使いたい

 JFスタンダードに基づいたコースブック(テキスト)やそのほかの教材、それらを活用したオンラインコースを開講しています。これらの教材やオンラインコースを利用していただくことで、JFスタンダードの考え方に基づいた日本語教育実践を行うことができます。

(1)『まるごと 日本のことばと文化』(以下、『まるごと』)
 日本語を使ってコミュニケーションすることと、異文化を理解し、尊重することを重視して開発された課題遂行型の日本語のコースブックです。主に海外で日本語を学ぶ成人学習者を対象としています。2013年から2017年の間に入門(A1)、初級1・2(A2)、初中級(A2/B1)中級1・2(B1)が刊行されました。JFスタンダードのレベル表示(A1~C2)はCEFRと同じ世界共通の基準ですので、『まるごと』は他の日本語のテキストだけではなく、他言語のテキストとのレベルの比較も容易です。
 また、『まるごと』に関する情報や素材が集められた「まるごと」サイトでは、『まるごと』の音声データやサポート教材をダウンロードすることができます。そのほか、『まるごと』の内容に沿って日本語や日本文化が学べるサイト「まるごとプラス」や、『まるごと』の内容をオンラインコース化した「まるごと日本語オンラインコース」を日本語教育のプラットフォーム「JFにほんごeラーニング みなと」で2016年より開講し、『まるごと』を活用したさまざまなスタイルでの学習をサポートしています。なお、海外版、電子版やサポート教材の多言語対応などの情報は「日本語教育通信」にもまとめられていますので、興味のある方はご一読ください。

まるごと日本のことばと文化のコースブックと関連サイトの画像
『まるごと 日本のことばと文化』と関連サイト

(2)『いろどり 生活の日本語』
 『いろどり 生活の日本語』(以下、『いろどり』)は日本での生活や仕事を目指す学習者を主な対象として作られたコースブックで、2020年に初級1・2(A2)、2021年に入門(A1)を公開しました。トピックが『まるごと』とゆるやかに関連付けられているため、『まるごと』との併用も可能です。
 そして、『いろどり』のコースブックはウェブサイトの「いろどりサイト」からすべて無料でダウンロードできることが最大の特徴です。また、同サイトには音声データやサポート教材、『いろどり』を使った授業が見られる「教え方動画」も公開しています。そのほか『いろどり』をもとにした「いろどり日本語オンラインコース」を2021年より開講しています。

いろどり生活の日本語のコースブックと関連サイトの画像
『いろどり 生活の日本語』と関連サイト

(3)「みんなの教材サイト」JFS教材
 「みんなの教材サイト」は、世界の日本語教師のために授業や教材作成に使える素材、アイディアなどを提供したり、教師同士が情報を交換したりするためのサイトです注3。このサイトでも、2018年から2021年にかけて、JFスタンダードに基づいて開発された教材やそれを活用するための授業案を順次公開してきました。

JFS B2教材…そのまま授業で使えるコースブックスタイルのB2レベルの教材です。
JFS 読解活動集…A1、A2、B1の3つのレベルに対応した読解教材です。
JFS 授業案…A1、A2、B1レベルの授業の例を授業案にまとめています。

  • みんなの教材サイトのトップページの画像
    みんなの教材サイト 
  • JFS B2教材とJFS読解活動集の画像
    JFS教材

(4)その他
 その他、JFが制作、監修をした映像教材もJFスタンダードに基づいています。
 2022年2月からNHKワールドJAPANで放送を開始した「ひきだすにほんごActivate Your Japanese!」は、JFNHKエデュケーショナルが共同で開発した日本語学習番組です。A2からB1レベルの教材で、CEFRのストラテジーの考え方を取り入れ、JFスタンダードの方略(ストラテジー)Can-do注4を軸にした番組です。ほかにもNHKエデュケーショナルが制作し、JFが監修をした「やさしい日本語 Easy Japanese 会話編」もJFスタンダードに基づいて作られています。2018年10月よりテレビ番組として、2019年10月からはラジオ番組として、同じくNHKワールドJAPANで放送されています。

ひきだすにほんご Activate Your Japanese!のイメージ画像
ひきだすにほんご

JFスタンダードに基づいた教育実践を知りたい

 JFスタンダードに基づいた教育実践は「日本語教育通信」やJFスタンダードサイトの「活用レポート・論文」で確認することができます。例えば、マダガスカルの観光ガイド育成のための教材開発の事例や、日本国内の大学で『まるごと』を取り入れた事例など、世界各国の教育事情や対象者の特性を考慮した多様な取り組みが報告されています。また、日本語国際センター(浦和)関西国際センター(関西)で実施されている教師研修や、専門日本語研修の実践も「活用レポート・論文」や各センターのサイトに掲載されています。
 そして、JF海外拠点等ではJFスタンダードのモデル講座として、JF日本語講座が行われています(26カ国28カ所(2021年度実績))。「JF日本語教育スタンダード準拠コース事例集」で、JFスタンダードに基づいた日本語能力の捉え方、レベル・目標設定、評価方法や各拠点の工夫を確認することができます。

JFスタンダード 活用レポート・論文のウェブページの画像
JFスタンダードサイト内の「活用レポート・論文」

JFスタンダードに基づいた評価をしたい

 JFスタンダードでは、ポートフォリオによる評価を取り入れています。ポートフォリオとは、学習者が自分の学習をふり返るための資料を保管するツールです。自分の日本語能力を自己評価したり、文化やことばに対する気づきをまとめたりしながら、自分の学習過程や成果をふり返ります。ポートフォリオの効果や構成、実践例は「活用レポート・論文(ポートフォリオ)」やガイドブックで確認できます。

ポートフォリオの構成(評価表、言語的・文化体験的画像の記録、学習の成果)を図示した画像
JFスタンダードのポートフォリオの構成

 日本語の口頭能力を評価する際には、JFスタンダードのレベル基準を用いた「JF日本語教育スタンダード準拠ロールプレイテスト」(以下、JFロールプレイテスト)を使うことができます。JFロールプレイテストは、課題遂行能力を測るための15分程度のテストです。ロールカード(多言語対応)や音声サンプル、評価基準などは、ウェブサイト上でダウンロードすることが可能で、教育現場の教師が簡単に実施し学習者の口頭でのやりとりの能力を把握することができるようになっています。

JFスタンダード準拠 ロールプレイテスト テスター用マニュアルの画像
JFロールプレイテスト

 さらに、JFスタンダードのサイトでは「レベル別のサンプル」も公開しています。「レベル別サンプル」では、学習者の発話データや作文の事例をタスクとその評価とともに掲載しており、JFスタンダードの各レベル(A2~C1)で求められる言語活動がわかりやすくまとめられています。サンプルは話すこと(やりとり)注5、話すこと(表現)注6、書くことの三種類です。学習者の日本語能力を測る際には、JFロールプレイテストやレベル別サンプルをぜひご活用ください。

 公開から12年が経ち、JFスタンダードを取り巻く状況も大きく変化しています。最近では、2020年にレベルやCan-doに改定を加えたCEFR補遺版注7が発表されました。また、国内でも2021年に文化庁が、文化審議会国語分科会での審議を経て「日本語教育の参照枠」を公開しています。こうした流れの中で、今後さらに実際のコミュニケーションにつながる日本語教育・学習が重視され、JFスタンダード活用の可能性も広がっていくことと思います。みなさんのこれからの日本語教育の実践に、ぜひJFスタンダードをご活用ください。

注:

  1. 1.CEFRとは、Common European Framework of Reference for Languagesの略です。日本語では「ヨーロッパ言語共通参照枠」と訳されます。
  2. 2.「みんなのCan-doサイト」はユーザー登録なしでご利用いただけますが、「マイページ」をご活用の際には登録が必要となります。
  3. 3.「みんなの教材サイト」の教材をご活用いただくためには、事前のユーザー登録が必要です。
  4. 4.JFスタンダードの方略(ストラテジー)Can-doは、CEFRCan-doをそのまま取り入れており、共通です。
  5. 5.会話のサンプル「話すこと(やりとり)」はJFロールプレイテストの音声サンプルと同じです。
  6. 6.「話すこと(表現)」は例えば、スピーチやまとまった話をするなど、一人で長く話す言語活動を指します。
  7. 7.Council of Europe (2020) Common European Framework of Reference for Languages: Learning, Teaching, Assessment -Companion Volume.
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